小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 男を逃した快人達――そこに一本の電話が。


第3幕 追跡/残されたカード

  十二月十六日 深夜 海東市市内

 

 深夜の海東市内をゴルドルパンが爆走する。法定速度を完全に無視した無茶な運転で、ビルの壁に接触しかけ、車線を左に右にと他の車の間をすり抜け、赤信号の交差点を無理に曲がる。事故にならないのが不思議だ。

 これもアリスの卓越(たくえつ)したドライブテクニックのお陰だが、その隣で快人がガルウィングに取り付けられたアシストグリップを強く握り、左右に大きく体を車内にぶつけながら揺さぶられた。

「何があったの!」

 ある程度走ったところでアリスが現状を尋ねてきた。

「蟹丸巡査が撃たれた!」

 もう喋っていいのかと快人は簡潔に話す。

「銃は!」

 その質問に何を言っているのかという表情を浮かべた。

「はぁ⁉ 銃⁉ 今、そんなこと──!」

「いいから! 種類は!」

 アリスが怒鳴る。

「種類……?」

 あまりの勢いに気圧されながら思い返すために目を閉じる。

「……えっと、ゴールドメタリックで……細長い銃身……あの独特の形は、ワルサーか?」

「ワルサーP38」は第二次大戦時にも使われたドイツで製造されていた拳銃。快人はその独特な形状からそれを浮かべた。

「……ルガー」

 だがアリスは別の名前をつぶやく。

「えっ」

 彼女が言ったのは「ルガーP08」。同じくドイツ製だがワルサーP38より以前に作られた拳銃だ。

 アリスのハンドルを握る手に力が入る。

「……いや! そんなことよりパトカーはあっちに行ったぞ! 追わねえのか⁉」

 快人の言う通りパトカーの列は別の道へと進んでいる。

「イライザはこっちを指してるわ」

「え?」

 見ればカーラジオがある辺りに付けられたモニターには、イライザというゴルドルパン専用のAIが海東市の地図を出し、そこに赤い点と青い車を示していた。

 これは赤い点が男の位置、青の車がパトカーを表している──だが赤い点は時折、消えたり()いたりしていた。

「なんだ、どうなってる?」

「分からない。けど、警察が()かれるのは時間の問題ね」

 アリスが言った直後、青い車がだんだんと散開し始める。予想通り撒かれてしまったようだ。

 すると赤い点がある一点で止まった。こっちはこれを目印に追いかけていたのが幸いして、すぐ目的地に辿り着けた。そこは三十メートル程あるビルがいくつか建ち並ぶ内の一棟だった。

「ここは……」

 ゴルドルパンから降り、そのビルを見上げてつぶやく快人。そこに見覚えがあった。

「…………」

 同じく車を降りたアリスもそのビルを見上げる。そこはかつてゾルーク東条と、快人と海里が悲劇的な別れ方をすることになった建物だった。

 

「……なんの因果か、って感じだな」

 そう言って快人が非常階段から登ろうとするのをアリスが止める。

「階段だと時間が掛かりすぎるわ。『フックロー』を使いなさい」

 アリスの忠告に「そうだな」と快人は懐からルパンガンナーと鉤が付いた緑色のルパンビーグル「フックロー」を取り出し、ルパンガンナーの装填部分に入れた。

「チューン・ルパンフック」

 ルパンガンナーからガイダンス音が鳴る。快人は上に狙いを定め撃ち出す。

 銃弾の変わりにフックがワイヤーを伸ばしながら飛び出し、見る見る内に登っていくとフックの先が屋上の縁を越えた。快人は何度かワイヤーを強く引っ張り、強度を確かめる。外れて数十メートルの高さから落下するなどと考えたくもない。

「よし、多分大丈夫だ」

 快人がそう言った──アリスが快人に自身の体を(から)めると、一緒にルパンガンナーを握る。

「えっ、おい⁉」

「二人で行くわよ」

「おいおい、ちょ──!」

 文句を言い終わる前に、アリスがルパンガンナーの引き金を引く。二人はスムーズに上がっていき、ものの十数秒で屋上に着いた二人は縁を乗り越える。目の前は屋上階段用の部屋で(さえぎ)られて男の姿は見えない。

「……ったく、無茶するぜ」

 快人は壁に背中を預けながらルパンガンナーからフックローを引き抜く。

 アリスはそれを無視して、左太もものホルスターから白い銃「エックスマグナム」を抜く。

「時間を掛けてられなかったから」

 銃を構えながら、快人は右、アリスは左の壁の角に体を置いて覗き込む。男の姿があった。盗んだ大黒真珠を見て、口元には笑みを見せている。

 快人がアリスにアイコンタクトした──アリスが頷く。それを合図に先に快人が飛び出すと、男の足元に向けてルパンガンナーを放ち、地面で光弾が弾けた。

「やっと追いついたぜ。この『偽物』野郎……!」

 絢がやられたこともあって怒り心頭に発した快人が建物の陰から出る。

「ほう、今日中に追いかけてこられるとは思わなかった」

 男は馬鹿にしたようにパチパチと拍手をする。

「バカにすんなって言っただろ……! よくも巡査を!」

 今度は快人が銃口を男に向ける。

「お前いったい誰なんだ!」

「怪盗アルティメット──」

「ふざけんな!」

 正体を分かっている快人が一喝する。

「ならば……『黄金仮面』とでも名乗ればいいか?」

 付けている仮面を模して、そう名乗った男だが快人の怒りが収まらない。

「……答える気がねぇなら、その仮面引き剝がしてやる!」

 快人が男に向かって走る。

「ふん」

 男は嘲笑(ちょうしょう)すると、変身用のガイスト眼魂を快人に向けた。

「これは私達の世界では眼魂と呼ぶ」

「アイコン……? えっ、なんだ──うわぁ⁉」

 快人の腕が何かに押さえつけられるように開くと体が宙に浮き、壁に叩きつけられる。

「いって! ……なんだこれ⁉ どうなってんだ⁉」

 訳が分からないまま壁に(はりつけ)にされてしまった。

「ふん、ゴーストすら見えないとは……」

 あからさまな落胆を見せる男。開いている手で銃を抜く。

「仕方ない、力不足のお前の幕を今ここで下ろすのも、また一(きょう)か」

 快人にトドメを刺そうとする──男の腕に光弾が(かす)った。

「ぐっ」

 痛みで男が後退る。その間も無数とも言える光弾が男目掛けて放たれる。

小賢(こざか)しい……誰だ」

 男の言葉に、暗がりからアリスが顔に怒りを滲ませつつエックスマグナムを構えながら現れた。

「女……? ふん。余計な真似を」

「アリス!」

 危ういところでの登場に安心する快人。

「『アリス』? 待て。その顔、まさか……」

 しかし、アリスはどちらの声にも(こた)えることなく、ひたすらに男に向かって撃ち続ける。男はそれを事もなげに避ける。磔にされた快人に代わってアリスが男と対峙した。

「なんの用だ。お前を招待したつもりなどない──」

「黙れ!」

 アリスが普段見せないほど激昂(げきこう)して叫んだ。

「何が目的だ!」

「目的? 私はルパンだぞ? 盗みに決まっているだろう」

「てめぇ。じいちゃんの──!」

「ゾルークの名前を(けが)すな‼」

 快人以上の激しい怒りを見せるアリス──快人が余りの勢いから思わず口ごもる。

「はぁ……」

 男はやれやれと被りを振った。

「まったく、今夜は興が()めた。子倅、お前の命日はまた別の日だ。その時こそゾルーク東条への復讐を果たす」

「は? どういう意味だ!」

「……次会った時は、今度こそ完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰すという意味だ」

 男はカードを取り出し投げた。快人の首元──寸でのところに刺さる。

「うっ⁉」

「お前への予告状だ。来るなら本気で来い。くれぐれも失望させてくれるなよ。では、さらばだ」

 男はマントで自分の姿を隠して後ろに下がると、一瞬にして闇夜に消えた。

「おわっ⁉」

 それと同時に拘束が解かれて快人が地面に落ちる。

「痛てて……くそ」

 悪態をつきながら立ち上がると壁のカードを引き抜き、男が立っていた所を見る。

「何が予告状だ……。『じいちゃんへの復讐』? どういう意味だ?」

 快人は頭をガシガシと掻く。まったく心当たりがなかった。

「あぁ、もう! くっそ、誰だよアイツ! じいちゃんからその辺の話は聞いたこともねえし! アリスはどうだ……アリス?」

 アリスは男が立っていた一点を見つめるだけで、声を掛けた快人には見向きもしない。ただその顔の怒りは収まっていなかった。

「……ったく、誰か昔のじいちゃんのことを知ってる奴はいないか……あっ」

 予告状を見た快人の動きが止まる。文字は無く燃え(さか)る人魂らしき紋様だけが描かれていた。

(待てよ。このマーク……どこかで……)

 快人は目を閉じると記憶を辿る。

『快人様』

 聞こえてくるのは、ある少女の声。

「団藤……」

 快人がその名をつぶやく。このマークは海東市に名を遺すある一族──団藤家の家紋だった。

 

 一方、姿を消した仮面の男はとある山中を歩いていた。明かりもない森の中を進んだ先は開けた場所。そこは切り立った崖で眼下には古ぼけた屋敷が建っている。

 そして、男は大黒真珠を屋敷に向かって突きつけた。深夜で静まり返っている屋敷を取り囲むように黒い渦が巻き始める。その勢いは次第に雷鳴を(とどろ)かせる嵐のようだった。

 

  同日 早朝 海東市 海東市立病院

 

 仮面の男と対峙した後、何も語らないアリスを置いて、快人は絢の容態を確かめるため病院に向かった。

 付き添うように頼んでいた海里は、事情聴取が済み数人の警察官に遠巻きに囲まれて手術室前のベンチに座っていた。その表情は暗く、服には絢の血が点々と付いている。

 快人がそこに歩み寄る──一人の警官が気づいて声を掛ける。

「失礼ですが、あなたは?」

「蟹丸巡査の友人で、そこにいる付添人の兄です」

「そうでしたか。迅速なご対応ありがとうございます」

「いいえ。少し妹と話をしてもいいですか?」

「えぇ。必要なお話は伺えたと思います。どうぞ」

「ありがとうございます」

 警察官達の横を抜けて海里の所に行く。

「……巡査の容態は?」

 あまり感情を出さずに尋ねる。

「……銃弾が防弾ベストを貫通した、って……」

「……そうか」

 そこで手術室のランプが消え、中から医師が出てくる──表情に余裕があった。

「先生。巡査……蟹丸さんはどうなりましたか?」

 後ろの警官達を気にしつつ快人が尋ねた。

「安心してください。ベストは貫通していましたが……彼女は運がいいですね。警察手帳にも当たって、肋骨(ろっこつ)で弾丸が止まっていました。肌に弾痕(だんこん)が残るでしょうが……。それ以外は肋骨が折れていただけです。目を覚ますには少し時間が掛かるでしょうが、命に別条はないと思います。では」

 医師は安心させるために笑みを浮かべながら言って去った。

「……よかったぁあああああ」

 海里が大きく息を吐く。警官達もいくらか安堵していた。そこに手術室から担架に乗せられ、口に酸素マスクを付けられた絢が出てくる。

「カニ……! ちゃん──」

 声を掛けようとした海里の肩を快人が摑み、首を振る。

「今は、休んでもらおうぜ」

「……うん」

 今の二人にできることは命拾いした絢を見送ることだけだった。

 

「……結局、何があったの?」

 病院の中庭に出たところで海里が尋ねてきた。

「俺にもよく分かんねえ」

「えっ?」

「そのまま言えば、あの金ピカ仮面に妙なマジックで壁に磔にされて、殺されそうになった」

「えぇっ……何それ……?」

「アイツが何者かは知らねぇが。だからこそじいちゃんをコケにして、巡査を撃ったのは……許さねえ」

 快人は(かたき)を取ると決意を固めた顔で言う。

「……で、これからどうするの?」

 海里の問いに対してあのカードを見せる。

「何これ? 炎のマ──―⁉」

 一目見ただけで何のマークか気づいた海里の顔色が青ざめる。

「海里。明日、空いてるか……って、おいどうした?」

「…………」

「おい海里」

「……えっ、何……?」

 正気に戻ったようだが、まだ怯えている。

「いや、だから明日空いてる……大丈夫かお前?」

「……何する気……?」

「えっ、いや、団藤家の屋敷に──」

「絶対、嫌!」

 人目を(はばか)らず海里が叫んだ。中庭にいた看護師や患者達が一斉に、こっちに視線を向けてきた。

「は……⁉ いやいやいや……お前叫ぶほどじゃ……!」

 快人が引いてしまった人目を気にする中、海里はカードを押し返すように渡してくる。

「行くなら一人で行って!」

「はい? おい、ちょっと……」

 弁解の余地もなく快人を放って駐車場へ駆けていく。

「……なんだよ。どうしたんだアイツ? ったく」

 訳が分からないまま後を追った。

 

 団藤家。大正時代から続く海東市随一の名家。

 初代当主は団藤霊璽。彼は時の日本政府にも顔が利くほどの権力と資産を持った華族だった。彼は国際貿易で財を成し、当時としては珍しい国際結婚でフランス人のアンリエットと四人の子供達を儲けた。

 だが妻が結核で病死してからというもの、彼の人生が狂い始めたと言われている。

 団藤は明治時代からオカルトブームの(とりこ)で、妻の死をきっかけに拍車(はくしゃ)が掛かり、湯水の如く怪しげな物品を買い求めてはついに第二次世界大戦前には独学で死者蘇生や幽霊の研究に(いそ)しんでいたと噂され、当時の日本政府から危険視されるようになった。そして大戦後、突如として消息を絶って以後一切の音沙汰が無いという曰く付きの人物だ。

 残された団藤一族は初代の狂気じみた行動や、一九四七年に日本を統治していたアメリカを主とした連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって発布された「貴族制度の禁止」による華族制度の廃止・財閥の解体によって多くの私財を没収されて没落する。

 それから時が経ち、現代では団藤家はなんとか細々と血を繋ぎ、資産もほとんどなくやっとのことで日々の生活が(いとな)める状態だった。

 

 その一族と快人達がどのような関係があるのかといえば、実は快人と海里の祖母が団藤家の人間だった。その名は、クラリス東条。旧姓、団藤。団藤霊璽とアンリエッタの末娘で、彼女と祖父の来蔵が結婚したことで快人達へ血が繋がっていく──ところが身内のはずの快人達も今は団藤家とは断絶状態にあった。

 快人の記憶の限りでは、幼稚園児まで来蔵に連れられて団藤家が所有する屋敷に行っていたはずだが、それ以降の覚えがない。だから、今の今まですっかり忘れていたわけだが、カードを見てそれが団藤家の家紋であることを思い出した。

 ならば男が狙っているのは団藤家に関連する物で間違いないはず。

 さらに古い一族のため、もしかしたらあの仮面の男のことを知っている人物や、手掛かりが見つかるかもしれない。

 そう考えた快人がある人物と連絡を取ろうとした──アルセーヌ城の置き電話が鳴る。電話にはいくつかライトがついており、外来用が点滅していた。

(依頼だったら断らねぇと)

「もしもし」

『いきなりのお電話、失礼致します。東条快人様はおられますでしょうか?』

 若い女性からの電話だった。声の印象は快人達と同世代に聞こえる。

「はい。自分がそうですけど」

 そう答えると受話器から鈴のような笑い声が聞こえてきた。快人はその声に困惑する。

『わたくし、(かすみ)と申します。覚えはございませんか?』

「かすみ……? えっ、霞ねぇさん⁉」

『はい。霞でございますわ』

 電話の相手は団藤霞。丁度、快人が電話を掛けようと思っていた相手で、彼女は団藤霊璽の直系の子孫だ。快人達とは続柄では「はとこ」に当たる。ちなみに快人は彼女を「霞ねぇさん」と呼んでいるが、彼女の方が二歳ほど年上である。

「久しぶりだなぁ!」

『お久しぶりです』

 久々の再会に喜びを隠さない快人に、霞からも電話口ではあるが嬉しさが伝わってくる。

 そこから互いの近況報告をした後、快人から本題を切り出した。

「で、どうしたんだ?」

『いえ、実は、その……』

 霞の声のトーンが落ちる。

「ん?」

『……先日、海東海洋自然博物館で盗難事件がありましたでしょう?』

「……あぁ」

 相手からは見えないが、少し苦い顔をしながら返す。

『実は盗まれたあの真珠はわたくし共、団藤家から紛失していた宝物(ほうもつ)だったのです』

「えっ、そうだったのか?」

『その上、屋敷に不審な手紙が届きましたの。それは……怪盗アルティメットルパンからの予告状でした』

「なんだって⁉」

『もちろん、わたくし共も快人様のお爺様──来蔵様が少し前に亡くなったと伺っております。身内であるわたくし共の屋敷に盗みに入る理由もございません。ですから、家の者はイタズラだと言うのですが……』

 そこで霞が言葉を切った。

「……『ですが』?」

『その宝物について知る者は……我が一族において他にはおりませんでした。イタズラで済めばいいのですが、わたくしは何か胸騒ぎがするのです。お願いいたします。快人様、一度わたくし共の屋敷にお越しいただけませんか? 何もなければ、ただ親睦(しんぼく)を深めさせていただくだけでも結構なのです』

「……分かった。安心してくれ、行くよ」

 願ってもいない依頼に快人は了承した。

『本来なら、こちらからお伺いしなければならないのですが……少々込み入った理由がありまして……』

「そんなの気にすんなって。霞ねぇさん」

『ありがとうございます』

「それにしても不思議だな。実は俺も連絡しようと思ってたんだ」

『あら、そうなのですか? 虫の知らせかも知れないですわね』

「かもな。あっ、そうだ住所教えてくれないか? 会ってたのって幼稚園くらいだろ? 全然覚えてなくてさ」

『無理もありませんわ。今、申し上げます』

 霞から教えられた住所をメモしてペンを置く。

「ありがとう。じゃあ、明日にでも行くよ」

『お願いいたします。お越しになるのを楽しみにしておりますわ』

 そう言って、霞からの電話は切れる。受話器を置いた快人は、早速、団藤家での泊まり支度を始めた。

 

「──という訳で。明日、団藤家の屋敷に行くことになった」

 夜。食堂に海里とカルサイトを集めた快人は電話の件を伝えた。

「そう」

 その経緯を聞いた海里が目を逸らしている。見るからに不機嫌だ。

「おい本当に行かないのか? 霞ねぇさんに久々に会えるんだぞ」

「……嫌。行くなら、お兄ちゃん一人で行ってきて。私は病気で休むことにして」

 頑として行かないと珍しく(かたく)なな海里。

「お前なぁ……霞ねぇさんのこと嫌いだったのか?」

「そういうことじゃないの!」

 海里は席を立つと背中を向けて、「お兄ちゃんは鈍感だから分かんないのよ……」とつぶやく。

「は?」

「もういい! 行きましょうルカ様!」

 海里の反応がよく分かっていないカルサイトの腕を取ると食堂から出て行った。

「はぁー……なんだよアイツ……」

 ため息をつき椅子に(もた)れて、どうしたものかと上を向く。

「まぁ、絶対に連れて行かないといけない訳じゃないし、一人で──」

「私がついて行くわ」

 一人だと思っていた食堂の中にアリスの声が響く。

「えっ、アリス?」

 快人が姿勢を正せば、食堂のドアにアリスが凭れていた。

「いつの間に帰ってきたんだ?」

 アリスはその問いには答えず傍まで寄ってくると、「私が行く。それでいいんでしょ?」と腰に手を当てて言った。

「えっ……あぁ、まあ、誰と行くとかは言ってねぇし……」

「じゃあ決まり。明日ね。準備しておくわ」

 あっという間に会話を切り上げ、アリスも食堂をそそくさと出て行く。

 それを快人はどうなっているのか、という顔で見送る。

「出しゃばりの海里が行かないって言って、出不精のアリスが良くって言いだす? いったいどうなってんだか……」

 それからしばらく快人は食堂で頭を悩ませることになった。

 

 翌日の早朝。

「よいしょっと……」

 ゴルドルパンのボンネットを開け──エンジン類が後部に収まっているので、ここが荷物用の空きスペース──に二人分の荷物を詰め込み、快人は城の玄関を見た。

 留守番の二人が見送りに出ているが、海里はカルサイトの後ろに隠れている。カルサイトはゆっくりと手を振っている。

「海里のことは、私に、任せろ」

「……あぁ、頼む」

 チラッと海里を見るがほとんど目を合わせない。快人はため息を吐けば白い息が空に上がった。

「じゃあ、行ってくる」

「……気をつけて。電話してよ」

「はいはい」

 適当に相槌を打つと運転席に座る。アリスは先に暖房が効いた車内で助手席に座っている。シートベルトを締めるとハンドルを握った。

「よし、じゃあ、行くか」

「……えぇ」

 快人はいつもと違う状況に一(まつ)の不穏を感じつつ、二人に見送られてアルセーヌ城を出発した。

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