小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 快人達は霧に包まれた屋敷へと向かう。


第4幕 再会/五代目当主、団藤霞

  十二月十七日 朝 海東市波来不(なみこなず)町 郊外

 

 海が広がる市内から離れた山岳地帯に入ると、景色が山深い森へと(さま)変わりした。快人達が居住するアルセーヌ城も周辺が森で囲まれているが、この辺りはそれとは段違いで危険だ。

 毎年、数名が行方不明になるほどの濃霧(のうむ)が毎日のようにかかり、昼間でさえ車のヘッドライトが無ければ前が見えない。さらに雰囲気もどこかおどろおどろしく、肝試しをするような人物ならいざ知らず、地元市民で好き(この)んでここまで来る者は少ない。

 海東市が水に関する地名が多い中、波来不という地名もその陰鬱(いんうつ)としたイメージを後押ししているのだろう。

 

 木々や雑草が伸び放題の舗装(とそう)されているとは言い難い、崩れたコンクリート造りの道路をゴルドルパンが危なげなく進む。

 快人が運転し、助手席にはアリスが不機嫌そうに座る。車内は外の雰囲気と同じくらいどんよりとしていた。

「……これじゃあ、この前と逆だな」

 快人がハンドルを握りながら話しかけるが、反応が返ってこなかった。

 現在の状況は、以前の事件がきっかけで来蔵のことを嫌って(かたく)なだった快人の様子に似ている。

「いい加減、話してくれてもいいんじゃねえか?」

「……何を?」

 アリスはドアウィンドウのフレームにひじを掛けつつ外の景色を見ながら、ポツリと言う。

「知ってることだよ」

「……あの男は、ゾルークじゃない」

「それは、見りゃ分かる」

 アリスはため息を吐いてやれやれと首を振った。

「……名前はジャック。ゾルークの初めての相棒よ」

「えっ⁉ 『相棒』⁉」

 聞いたことがない話に驚いてアリスをバッと見る。

「……ちょっと、前向きなさいよ。危ないでしょ」

「あっ、ああ、悪い……」

 前方不注意を注意しながら話を続ける。

「……私と組む前だったらしいし、詳しくは知らないけど」

「そうか。でも、じいちゃんに相棒がいたなんて聞いたこと無かったな」

「……あの時のことは、ゾルークも話したくなかったでしょうからね」

 アリスの意味深な言葉に快人は眉をひそめるだけに留まる。

「……あの男がまだ生きてたなんて……。見た目からも声からも、(おとろ)えた様子は無かった……」

 アリスの言葉通り、あの晩の動きを見ると、男は年齢を感じさせずに機敏(きびん)に動いていた──どころか人とは思えない動きだった。

「ってことは、なおさらあの男、絶対に何かあるな」

「ええ、そして、そのヒントは……」

「団藤家にあるはず、って訳だ」

 

 ゴルドルパンは鬱蒼(うっそう)とする森の奥深くへと入っていく。霧はまだ晴れる様子は無い。この辺りの噂は聞いているため、細心の注意を払いながら運転する快人──ヘッドライトに照らされて、白いドレスを着た髪の長い人影が映った。

「っ⁉」

 目の前の光景に快人は慌ててハンドルを切ってブレーキを踏みこんだ。ゴルドルパンが対向車線に乗り出して、十数メートルほど進んでから停車する。

 快人はブレーキを踏み入んだためシートに体を押し付けていたが、アリスは慣性の法則で前のめりになって、頭をぶつけそうになった。

「ちょっと! 何するのよ!」

「えっ、いや、今、人が──!」

 慌ててドアを開けて外に出る。辺りを見渡すが霧が深いこともあり、何も見つけられなかった。しばらくして切り上げると首を傾げながら座席に戻る。

「おっかしいな……」

「ちょっと何よ」

 アリスが薄気味悪そうに尋ねてきた。

「いや。今、人影があったんだよ……」

「えっ? イライザ、生命反応はあった?」

「いえ、確認できませんでした」

 ゴルドルパンに搭載された高性能AI、イライザでさえ確認できなかったようだ。

 その答えに納得いっていない快人は頭を掻く。確かにぶつかった衝撃も無かった。今のところは、気のせいだったということにしておくべきだろう。

「もう、やめてよね。鞭打ちになるんだから」

「……悪かった」

 快人は再びアクセルを踏むと、ゴルドルパンは道を戻り再び進み始めた。

 

 ゴルドルパンを静かに停まった。目の前に錆びた開きっぱなしの門がある。その門には、あの燃え盛る人魂のような家紋が刻まれていた。

「……行くか」

 快人が恐る恐るアクセルを踏むとゆっくり敷地内へ入っていく。門を抜けてからも森林は続いた。しばらくしてようやく森の間に切れ目が見え、そこを抜けると荘厳(そうごん)な存在感を放つ洋風の屋敷が現れた。

 アルセーヌ城と比べると高さは比べるべくも無いが、屋敷は渡り廊下で繋がる二階建ての四つの邸宅に分かれており、敷地面積に関してはいい勝負だ。ただ、駐車場が見当たらなかった。

「どこに停めりゃいいんだ?」

「あそこはどう?」

 アリスが指差した先には、玄関へ続く階段の隣に数台が駐車している。

「一旦、そこに停めるか。間違ってたら動かせばいいだろうし」

 そう言って、ある一台の隣にゴルドルパンを停め、二人はガルウィングを開けて車から降りた。

「……えらい年代物の車だな」

 駐車してある車を見て快人が言った。確かに駐車場には、所有者の趣味か五十年代から六十年代のレトロ車が並んでいる。それを言えばゴルドルパンのベースになったデロリアンも八十年代の車で決して新しい車とは言えないが。

「寒いわ……」

 アリスは着ている黒いコートを体ごとギュッと抱きしめる。エアコンで温められていた車内と比べ、早朝であることもあり外気温はかなり寒い。

「さっさと、中に入ろう」

 二人は五段程の階段を上りながら、物珍さから視線を彷徨(さまよ)わせる。遠目から見た外観とは裏腹に、近くで見ると手すりや柵はボロボロでお世辞にも手入れされているとは言えない──維持に回す費用も無いようだ。

 階段を上った二人は両開きのドアの前に立つ。ドアの上には塗装が剥げた「白い虎」の紋様が刻まれている。

 一応の身なりを整え、快人がドアを叩いた。

「……はい」

 向こうからなんとも不愛想(ぶあいそう)な声がした。

「すいません。本日、伺う予定をしている東条快人と──」

 バン!──言い終わる前にドアが開く。そこには典型的な執事という格好の壮年の男性が立っていた。

「東条快人様……お話は伺っております、どうぞお入りください」

 (いか)めしいと言うべきか、不機嫌と言うべきか、どちらしろ良くは取れそうにない表情をした執事が(てのひら)を邸内に向ける。

 二人は無言で顔を見合わせて中に入る──背後で執事がドアを閉じた。

 

  同日 朝 団藤邸 白虎(びゃっこ)

 

「ふぅ……暖かいわ」

 中は暖房がきいており暖かく、寒さには悩まされず過ごせそうだった。

「……当主は間もなく来られます、少々お待ちください」

 そう言うなり執事は足早に去った。

「……ずいぶんと愛想(あいそ)が無い執事ね」

「実は歓迎されてないのかもな……」

 屋内なので二人は上着を脱ぐ。そのまま手持ち無沙汰(ぶさた)になって周りを見回す。エントランスはどこかの劇場のような形で、床には白い絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアが吊るされているところを見ると、電球よりも蝋燭(ろうそく)の方が多いように見える。その上はガラス張りのドームになっていた。

 二人がそれを見ていると、どこからか電動音が聞こえてくる。

「ん?」と快人が音の方へ向いた。

「快人様」

 嬉しそうに女性が名前を呼んできた。どうやら待ち人が現れたようだ。

「霞ね──え、さん……?」

 渡り廊下の暗がりから現れた姿に、笑顔で声を掛ける快人の顔が唖然(あぜん)とする。

「お久しぶりですわ。快人様」

 声を掛けてきた相手は、見るからに高価なドレスに身を包み、腰に届くほどの髪を伸ばし、顔には少々(うれ)いを()びた妙齢の女性、団藤霞。

 まさに元名家のご令嬢という言葉が相応(ふさわ)しい彼女は、膝にブランケットを置き、電動車椅子の背凭れに力なく凭れ、肘掛けの位置に付けられた操作レバーを握りながら、快人達の前に登場した。

「えっ、えっ……」

 久しぶりの再会にも関わず言葉が出てこない快人。その目が霞と電動車椅子を交互に(せわ)しなく動く。

 アリスもその様子に少し気まずそうな表情を見せている。

 対して、二人の様子を察した霞は奇異な目で見られることに慣れているとばかりに、クスッと微笑んだ。

「『筋ジストロフィー』ですわ」

「筋ジストロフィー……⁉」

 筋ジストロフィー。筋肉の細胞が破壊され、次第に体中の筋肉が動かなくなり、最後には死に至る。現代でさえ治療法が存在しない難病だ。多くは子供の頃から前兆が現れ、大体十歳辺りで車椅子生活になると言われており、彼女もまたその症状が出てしまったのだ。

「あっ、えっ……と」

 まだ快人が言葉に詰まっている。

「……そういえば、そちらの方は?」

 病気の話より、紹介してほしいと霞がアリスに弱々しく掌を向けた。

「あっ、ああ……この人は、アリス……えっと、じいちゃんの知り合い」

「まあ、来蔵様のお知り合い。初めまして、団藤霞と申します」

 霞がアリスに車椅子を向けると、血が通っているのか怪しいほど、細く白い手を差し出した。

「アリス・クリスティーナよ。こちらこそよろしく」

 アリスがその手を握った──すぐに霞の手を見る。

「大丈夫? あなたの手、とても冷たいけれど」

 霞は手を離すと指をゆっくりと(さす)った。

「……お恥ずかしながら、昔からの冷え(しょう)で。屋敷がこのような森の中で、さらに冬でございますでしょ? お気になさらないでくださいまし」

「そう、ならいいけれど……」

 アリスは悪いことをした、と気まずそうな表情を浮かべる。

 霞が一瞬、目線を下げたがすぐに笑みを浮かべ車椅子のレバーを握った。

「こんな所で立ち話もなんですから、よろしければ朝食を召しあがりませんこと? そこで、いろいろとお話ができればと思いますわ」

「あぁ、そうだな」

「いただくわ」

 了承した二人は霞に案内されて──途中で快人が車椅子を押しながら食堂へと向かった。

 

 食堂の内観もアルセーヌ城と負けないほどの豪華だった。中に置かれた大きいテーブルには、いくつもの椅子が収まっている。しかし、はたしてここに座る人間は何人いるのか。彼女が普段、この広い空間でたった一人で食事を取っている姿がありありと想像できた。

「どうぞお好きな席にお座りください」

 二人は勧められるままに隣同士で席に座る。霞は一番奥の上座に車椅子を移動すると車輪を固定した。後ろにはあの執事が待機していた。

「朝食が運ばれるまで時間もございますし、改めて自己紹介を。わたくしの名前は団藤霞。現団藤家当主ですわ」

「えっ、現当主?」

 快人が驚くのも無理はなかった。彼女はまだ二十二、三歳のはず。快人も人のことを言えないが、当主の立場になるには早すぎる。

「はい。父の雷吾(らいご)は十二歳の時に。母の雪女(ゆきめ)二十歳(はたち)の時に病で亡くなりました」

「……ということは、数年前から当主を(つと)めているという訳ね」

「ええ。元々団藤家は不幸な死に方をする者が多く、快人様のように別姓を名乗られた方を除けば、きっとわたくしが団藤を名乗る最後の一人となるでしょう」

 霞が冗談のように言うが、二人は気まずさのあまり苦笑もできなかった。

「そういえば、妹様は?」

「あぁ、海里は……」

 快人はあごに手を置き、目を泳がせた。海里の嫌がる様を思い出していた。

「……用事があって、来れなかったんだ」

 海里の名誉のためか、霞にショックを与えないためか、事実は言わずに誤魔化すことにした。

「そうですか、お会いできれば良かったのですが……」

 霞が残念がっていると、食堂のドアが開きメイド服を着た女性数人が現れた。その中で一番若そうなメイドが朝食が置かれたワゴンを押している。

「食事が届きましたわね」

 どことなく顔色が悪いメイド達は三人の席にパンやスープなど西洋風の朝食を置いていく。感謝を述べるが返事は返さなかった。すべて出し終わると足取り重く下がっていった。

「では、いただきましょう」

「……じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 どこか様子がおかしいと思いつつも霞の合図に合わせて、二人は一口、口に運ぶ──途端に二人が同時に口に手を当てた。

「いかがですか? 我が家の専属シェフに腕によりをかけるように言って作らせましたの。この程度でしか、皆様をおもてなしできませんから」

 霞は執事の手でスープをスプーンで少しずつ口に入れる。

「うん、本日も美味しいわ」

「はい」

 霞が食べ続ける一方、快人とアリスは互いに見合わせる──スプーンを置いた。

「あら、どうかされました?」

「あの……美味(うま)かったよ。うん、でも、ごめん、実は朝飯食ってて、今は腹一杯だった」

 苦し紛れに笑いながら早口でそう言った。

「……私も、せっかく用意してくれたから、悪いと思ってしまって。ごめんなさい」

 アリスも申し訳なさそうに頭を下げた。

「あら。でしたら、仰ってくださればよろしかったのに」

 その後は、霞が食べ終わるまで待ち続けることになった。

「ご馳走様でした。下げてよろしい」

「はい」

 霞の言葉で再びメイド達が食堂に現れると、三人の前の食器──快人とアリスに至っては大半の食事──をワゴンに乗せて片づけていった。

「ん。ありがとう、お前も下がりなさい」

 執事に口を(ぬぐ)ってもらうと外に出す。霞は一呼吸置いて、「さて、本題ですわ」とゆブランケットの下から一枚のカードを取り出した。

「申し訳ありません。快人様、こちらに来てくださいますか?」

「ああ」

 快人が歩み寄るとそれを渡される。

「これが数日前に屋敷に届いた、(くだん)の予告状ですわ」

 早速、快人が内容を読み上げた。

「『団藤家当主殿。貴女(あなた)方一族の先祖、団藤霊璽所縁(ゆかり)の逸品である、秘蔵の石板を頂戴する。近日参上、怪盗アルティメット・ルパン』……」

 読み終えた快人がアリスにもカードを見せる。そこには、ルパンの署名とマークが付けられていた。アリスの表情が再び厳しくなる。

「どこから一族の秘宝について知ったのか……。まさか、本当に来蔵様が送られたとは、わたくしも考えてはおりませんが……」

「絶対に偽者だよ。くそ、あの野郎いったい何がしたいんだ」

「『あの野郎』とは?」

「あぁ、ジャックっていう男で、昔はじいちゃんの相棒だったらしい」

「ジャック……」

 その名前を聞いた霞が黙って考え込むのを見て、アリスが尋ねる。

「何か知ってる?」

「ううん……どこかで聞いたことがあるような……」

「本当か⁉」

 手掛かりが分かるかもしれないと二人が身を乗り出した。

「んん……駄目ですわ。思い出せません」

「……そうか」

 二人が残念そうに椅子に座った。霞が意気消沈した様子で頭を下げる。

「……申し訳ございません。お力になれなくて……」

「いやいや! 気にしないでくれ! ともかく、この予告状を送ってきたってことは、コイツは盗む気だ。その石板ってのはどこに?」

「そのことなのですが……。実はわたくしも酔った祖父から聞いただけで、実物はお目にかかったことが無いのです。なにしろ所持していたのが初代で、行方知れずになってからはどこにあるのか……」

「そうか──いや、待てよ? つまり、あっちはあるか分からない物を欲しがってんだろ? 隠したままの方が安全じゃないか?」

 快人の言う通り、所在を知っている人物が消息不明である以上、表に出すのは返って危険が伴う。

「ですが、文面に直接的に書いている以上、そのジャックという方、もしかするとどこにあるのか大方の見当が付いてるのかも知れませんわ……」

 霞の言っていることも、可能性で言えば決してありえないとも言い切れない。

「じゃあ、結局、奴が現れる前にその宝物を確保した方がいいってことか……」

 でも、どこにあるんだ、と頭を悩ませる快人を見た霞が少し考えると手を叩いた。

「そうですわ。もしかしたら書庫に手掛かりがあるかも知れません」

「『書庫』?」

「はい。その前にこの屋敷について少し説明しなければなりませんね。この団藤邸は四つの棟に分かれており、それぞれ青龍(せいりゅう)・白虎・玄武(げんぶ)朱雀(すざく)荘と名がついております。風水にも見識があった初代は子供である四兄妹(きょうだい)に一つずつ屋敷を与えました。代々の当主──霊璽、クラウド、雷吾と雪女、わたくしは青龍荘。次男のクラウス様は玄武荘。長女のクララ様は朱雀荘。次女、快人様のおばあ様であるクラリス様はここ白虎荘があてがわれておりました。そして我が一族が長年に(わた)蒐集(しゅうしゅう)した本が置かれた書庫は青龍荘にございます」

「子供一人に屋敷を一つずつか……」

 話を聞いて快人は団藤家の持っていた財力の凄まじさを思い知らされる。

「でも確かにそこなら手掛かりがあるかもしれないわ」

「日記帳とかあれば、案外書いてあったりしてな」

「でも、わたくしが言うのもなんですが、かなりの所蔵量です」

「えぇ。マジか……」

「でも何もしないよりかはいくらかマシよ」

「……やるしかねぇか」

 四の五の言っても仕方がないと苦笑を浮かべる。

 

「ところで、あの野郎はなんだって石板なんか欲しがってんだ?」

 動機に関してはまだ不透明なままだ。

「……電話でもお伝えしておりましたが、あの大黒真珠は元々、我が一族の秘宝の一つでした」

「そう言っていたわね。どうしてそのお宝が博物館に?」

「……それを話すには我が家の汚点を話さねばなりませんわ」

「えっ」

「汚点?」

 どういう意味だ、とキョトンとする。

「屋敷の有様はご覧になられましたでしょう?」

 二人は屋敷の外見を思い返す。確かに屋敷の中はまだしも外は手入れがほとんどされていなかった。

「もはや、団藤家は風前の灯火(ともしび)……。祖父のクラウドは初代ほどの才は無かったのか資産を残さず……今では団藤家のお金も残りわずか。フフッ、少々のお金のために父が見るからに貴重な真珠を博物館に寄贈して、見返りのお金をもらうのも分かりますでしょ?」

 霞は自嘲気味に言った。二人はなんとも言えない表情を浮かべるだけだ。

「……話が()れてしまいましたわね。初代がつぶやいた内容を聞いた祖父からの伝聞では『ある石板に真珠を()めると真価を発揮し──死者に命を与えることも、操ることすらもできる』と言っていたというのです」

「なんだって?」

「わたくしもそのような話を信じているわけではありません。しかし、初代が超自然的な力に傾倒(けいとう)していたことはご存知ですか?」

「そうなの?」

 団藤家について知らないアリスが快人に尋ねる。

「……らしい。市の歴史本かなんかで見たことはある」

「えぇ。初代が莫大な財産と地位を手に入れて、もっとも恐れたことはなんだと思われます?」

「……死ぬこと?」

 アリスに答えに霞は深く頷いた。

「その通りですわ」

「世の権力者が行きつく先は大体そういうものなのね……」

「つまり不老不死、ってことか?」

「『死者に命を与える』……。どこまでが事実かは分かりませんけれど」

 話を聞いて快人があごに手を当てた。

「だとすると、アイツは不老不死の体を欲しがってるのか?」

「ゾルークみたいに……」

「えっ?」

 アリスのつぶやきに霞が不思議そうな顔で見てくる。

「あっ、いや! なんでもない! 気にしないでくれ」

「? そうですか」

「とにかく、奴より先にその──板、だっけ? を探して隠しちまおうぜ!」

「そうね、今はそれが最優先だと思うわ」

「ならば善は急げです。早速書庫に案内いたします。ついていらしてください」

 こうして三人は手がかりを探すため、青龍荘にあるという書庫へ向かうことになった。

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