小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 時間と川はどこか似ている。


第6幕 青龍/歴史の源流を探せ

「──さん……」

「んっ……」

 ベッドで眠りにつく快人は身(じろ)ぎする。誰かに呼ばれた気がした。

 だがそれ以降は特に何もなかったようで、そのまま朝まで深い眠りへと落ちていった。

 

『お前何をしている!』

 警備員の格好をした西洋人の男性が黄金の仮面をつけた男に銃を向ける。

『邪魔するな』

 仮面の男が「日本語」で言うと警備員の男に躊躇(ためら)いなく銃を向けた──バン!

「ハッ!」

 見ていた夢のせいでアリスは目を覚ました。冬にも関わらず体中汗だくで、額の汗を拭うと深呼吸をして息を整える。

「……また、あの夢。最近は見てなかったのに……」

 そうつぶやくと窓の外を見た。まだ太陽は出ておらず暗く、日の出まではまだ時間あった。アリスは諦めた様子で首を振ると、無理やり眠るために再び枕に頭を(うず)めた。

  

  十二月十八日 朝 白虎荘 滞在二日目

 

 快人が部屋から出てくる。目覚めが良くぐっすりと眠れた。

 それと、同じタイミングでアリスも部屋から出てくる。

「おう、おはよう」

「……おはよう」

 だが、アリスの方は対照的に疲れた顔をしていた。

「……大丈夫か?」

「えぇ……ちょっと悪夢を見ただけよ」

 そう言うアリスのメイクが昨日に比べていくらか厚く見えた。

「……そりゃ、災難だったな」

「お二人とも、おはようございます」

 そこで車椅子に乗った霞が、ハンドリムをゆっくりと回しながら現れる。

「おはよう! 霞ねぇさん」

「おはよう」

 溌剌(はつらつ)と挨拶をする快人と、疲労を見せないよう差し障りのない挨拶を返すアリス。

「早速ですが、朝食を準備いたしましたので、食堂へ参りましょうか」

「え……」

 少し慌てだした二人に、霞はキョトンとする。

「あら、どうかされました?」

「あ、いやその……」

 快人が冷や汗をかきながらアリスをチラッと見る。その目は──断れと言っていた。

 すぐに視線を戻すと、相変わらず霞は不思議そうな表情をしている。顔には出さないものの、四面楚歌になった快人の決断は。

「……うん、もらうよ」

 その言葉に霞の顔がパッと晴れる。

「よかった! また召し上がられないのではと心配しておりましたの! あっ、もちろん断っていただいても結構でしたのよ」

 えっ、という顔の快人に霞は嬉々としてハンドルを握り、二人の前を進み出す。快人達はそのまま後ろをついて歩く。快人の横にアリスが立つと(ささや)いた。

「知らないわよ。私」

「ねぇさんの前じゃ断れねえだろ……。昨日が酷かっただけだよ。きっと」

「まったく、ゾルークといい……男って馬鹿ね」

「……言ってろ」

 一気にテンションが下がった二人に気付くこともなく、霞は食堂に入ると定位置についた。二人も昨日と同じ席に座る。

「さて、それでは本日はどちらを探しましょうか」

「そういえば、そうだな……どうしようか」

「私は別の場所を探すほうがいいと思うわ」

「そうだな……例えば初代の部屋とか」

「あぁ……」

 その提案に霞は複雑な表情をする。

「ん? どうしたんだ?」

「いえ、それが……その初代の部屋は、あるにはあるらしいのですが……」

 何か煮え切らない様子だ。

「えっ、当主の部屋ってことは、今は霞ねぇさんの部屋じゃないのか?」

「どうやら初代は寝室とは別に専用の部屋を作っていたらしいのです……が、今の今までどこにあるのか、分かっていないのです」

「なんだって?」

「父も探したようですが、ついには見つけられなかったようです……。祖父もその話題は言葉を(にご)して──そう言えば!」

 何かを思い出した霞が声を上げる。

「酔っていた祖父が『父が書庫に入ったと思って何時間も出てこなくて、入ったら中はもぬけの殻だった。でも時間が経ったらまた書庫から出てきた』と言っていた気がしますわ!」

「ってことはあの書庫には、秘密の通路みたいな物があるってことか?」

「そうかもしれません」

 鼻息荒く語る霞の話に快人がアリスの顔色を見る。

「えぇ、もう一度探してみましょうか」

 

 そこで食堂の扉が開きメイド達が入ってきた。昨日と同じく三人の前に洋風の朝食が配膳された。食器が置かれるたびに二人の顔が一気に曇っていく。

「どうぞ、お召し上がりになって」

 再び快人はアリスを見た。自業自得だと言わんばかりの表情に快人は苦笑いするしかなかった。

「……いただきます」

 意を決した様子で、スプーンでスープを(すく)い口に入れた。

「ん?」

 快人がおやっという顔をした。もう一口入れる。

「いかがですか?」

「昨日よりマシ──じゃなくて! う、美味いよ。うん」

 快人の言葉に、喜ぶ霞とアリスは「嘘でしょ」とかぶりを振っている。

「いや、マジで。食ってみろよ」

 その言葉にアリスは霞の顔を見た。キラキラした瞳で見てきている。断われる状況ではない。覚悟を決めた顔でスプーンを握った。

「いただきます……」

 戦々恐々とスプーンを掬い、口に運ぶ──少し驚いた顔をした。

「美味しい……わ」

「よかったですわ! お口に合って!」

 霞が喜ぶのを横目で見ながら、二人はそのまま不思議そうに食べ続ける。

「ごちそうさまでした」

 霞が食べ終わったところで三人は合掌した。結局、二人は昨日とは別人のように出されていたすべてを(たい)らげてしまった。

 

「では、早速参りましょうか?」

「霞ねぇさんがいいなら」

「ええ、良いわよ」

 朝食を終え、食堂を出た三人は意気揚々としている霞を先頭に青龍荘の書庫へと向かった。

 その途中、快人が霞から少し距離を取りアリスに小声で尋ねる。

「……どうだった?」

「美味しい、とまでは言えないけれど。昨日に比べたら断然マシだったわ」

「だよな。シェフが変わったのか?」

「それか私達が慣れたのかもね」

「いや、慣れるにしても早すぎだろ。まだ二回目だぞ」

「それくらいお腹が空いてたってことかしら?」

「絶対、シェフが変わったんだって」

 そう二人で囁き合っている内に「開きましたわ」と書庫の鍵を開けた霞が手を振って、快人達を呼ぶ。

「あぁ、今行く」

 呼ばれた快人が霞の元に駆け寄る中、アリスはその場で二人を眺める。

「……それにしてもあの()、随分と元気になったわね……」

 目線を霞に向けながらそう(ひと)()ちた。

 

  同日 朝 青龍荘 書庫

 

 三人は再び(ほこり)まみれの部屋へと進んでいく。(おの)々、昨日とほとんど変わらない位置に着くと、快人が本棚の本を適当に押し始める。

「何をしてらっしゃるのですか?」

「いや、映画とかだとこういうのってさ『本を押したらそれが偽物で鍵になってる』とかよくあるから」

 そう言って至る所を押し続けるが、特に反応は無かった。

「っかしいなぁ……宛てが外れたか?」

「じゃあ、本を抜いたらそこにスイッチがあるとか、かしら?」

 アリスの提案に快人が渋い顔をする。

「ええっ。じゃあこの棚の本、全部抜くのか?」

「じゃあ、他に案はある──そう言えば……」

 アリスが本棚の隣にある漢数字が書かれた柱を指す。

「その柱には何が書いてあるの? 昨日から気にはなっていたんだけれど」

「えっ? あぁ、数字だよ。昔の漢数字」

 流石に海外で育ったアリスには旧字はあまり馴染みがないため、「ふーん」と柱の数を数える。

「あら? 数字がいくつか足りないわね」

「あぁ、四と九が抜けてるんだ」

「どうして?」

「日本での験担(げんかつ)ぎ。まぁ、ジンクスだよ。四は死、つまり『デス』と掛かってる」

「九は苦、『ペイン』と掛かっているのですわ」

 快人と霞で交互に日本の文化を解説する。

「簡単に言えば『死と苦がありませんように』ってこった。昔の人ならなおさら、今だって駐車場の番号やホテルの部屋番号に四と九が無い所だって少なくないんだぜ」

 解説に感心したアリスが「へぇ」と声を上げるのを見て、快人は誇らしかったのか何気なく柱の数字の部分に手を置いた──ズーッ……。

「おわあっ⁉」

 何が起こったのかと快人が慌てて見ると、数字の部分が四角く切り取られた形で押し込まれていた。

「えっ……?」

 戦々恐々と手を引くとそれに合わせて戻ってくる。どうやら数字の部分がパネル式で、バネ仕掛けのような物が仕込まれているらしい。

「……まさか、この柱か?」

 物は試しと隣の柱の数字を押せば同じように押し込まれて、戻ってくる。快人は驚きつつも「つまりこれを何かの順番通りに押せば……」と考えをまとめた。

「秘密の部屋に通じているということでしょうか?」

「多分ね」

「でもヒントが少なすぎるわ。せめて何桁かさえ分かれば、いくらか絞れるけれど」

「そうだなぁ……一回適当に押してみるか?」

「えっ。大丈夫なの?」

「分かんねぇよ。もう二回押しちまってるし」

 快人は少し考えこむ。

「仕方ねぇ。二人は部屋から離れてくれ、何が動くか分からねぇからな」

「えっ、大丈夫なのですか?」

 罠の可能性に霞が心配した表情で尋ねてくる。

「さあね。でもやってみないと。アリス、ねぇさんを頼む」

「分かったわ。気を付けてよ」

「あぁ、分かってる」

 二人を部屋の外の通路まで避難させた快人は適当な数字の柱の前に立つ。手を握ったり締めたりしながら、慎重に手を置く。

「ふぅ……。手が無くなりませんように……」

 嫌な予感が(よぎ)りながらも、意を決して押した──反応は無い。

 通路側の二人が固唾(かたず)を飲んで見守る中、もう一度同じ数字を押す。やはり反応は無い──パタパタパタパタ……。

「ん?」

 どこからか回転する音が聞こえた。

「どうしたのー?」

 アリスが声を掛ける。

「何か聞こえた! どこだ、どこからだ……?」

 快人が上や下を見回す。

「ん?」

 何かに気づき下に()りてテーブルがある床を調べ出した。見ればキッチリと敷かれていたはずの絨毯(じゅうたん)が少し引っ張られている。

「もしかして……」

 快人はテーブルや椅子を退かすと絨毯の隙間に指を入れ(まく)り上げた。

「おっと……」

 そこにはからくり仕掛けという(おもむき)の、四つに区切られた大きなソラリー式──パタパタと紙が回転して数字などが切り替わる──の装置。そして、

「あったぜ。四と九が」

 その下部分に「肆」と「玖」のパネルがあった。

「素晴らしいですわ! 快人様!」

「やるじゃない」

 二人が快人を称賛しながら部屋に戻ってくる。

「それほどでも」

 快人は頭に手を置きながら照れくさそうに返事した。

 

「さて、数字は全部見つけて、四桁ってことまでは分かった。じゃあ肝心の番号は?」

 快人の問いに誰からも答えは返ってこない。

「……まぁ、多分、昔の人だから今みたいにパスワードは複雑じゃないと思うけれど」

「記念日とかか?」

「そこらへんが妥当でしょうね」

「じゃあ手始めに、誕生日かな。霞ねぇさん、初代さんの誕生日は?」

「あっ、はい。それは──」

 そこから誕生日から始まり、思いつく限りの記念日を押していくがソラリー式のパネルの数字が回転するだけで、どれ一つとして引っかかるものは無かった。

「くっそー」

 快人が苛立ちで頭を掻きむしる。

「んーじゃあ、年か?」

「記念の年……?」

 数十分、数字を言い連ねていたからか、疲れた様子の霞がひざ掛けで頬杖をする。

「そういえば……これも祖父から聞いた話ですが、時折、初代は『あの年のことは忘れられない』と言っていたとか」

「あの年?」

「えぇ。『私の人生を変えた年。あの出会いと地震によって私は変われた』と」

「地震? なんのこと?」

 日本の歴史に明るくないアリスが尋ねる。

「当時の地震と言えば、有名なのだと……『関東大震災』か?」

「おそらく、そうだと思いますわ」

「関東大震災?」

「関東一帯にデカい被害を出した大地震だよ。当時は大変だったらしいぜ」

「ですが、関東大震災がいつ起きたかはわたくしも存じ上げ──」

「『一九二三年』でございます」

「⁉」

 快人とアリスが慌てて振り返ると、書庫に続くドアの傍にあの老執事が立っていた。ところで今日はいくらか顔の血色が良い。体調が戻ったのだろうか。

「まったく……」

 霞が呆れた様子で車椅子を動かして執事と向き合う。

「客人を驚かせるような声の掛け方は止めなさいと、注意しているでしょう」

「……失礼いたしました。昼食をいかがされるかと思いまして」

「えっ?」

 快人がつけていた腕時計を見る。確かに、針が十二時前を指していた。

「もうそんなに時間が経ったのか……」

 それを聞いて霞がふぅと息を吐くと「いかがされますか?」と尋ねる。

「じゃあ……」

 快人はアリスを一(べつ)し頷くのを見て「一旦、休憩入れるか」と三人は書庫を離れた。

 

 昼食も特に異変もなく平らげた三人は、再び書庫へと戻ってきた。早速、快人が「壱」の柱に立つ。

「じゃあ行くぜ?」

 少し離れている二人が頷いた。

「壱」のパネルを押す。ソラリー式の表示の一桁目に「壱」と出る。続けて床の「玖」、廊下に戻り「弐」と「参」を押した。パネルに「壱玖弐参」と現れる。

 ガタガタ‼──書庫全体が音を立て、「C」字の廊下に上がる内の真ん中のステップが落ちていき(くだ)りの階段になると、薄暗い地下への入り口が現れた。

 三人が下を覗き込む。階段は螺旋(らせん)状らしく左曲りの踊り場がある。地理的に書庫の下を(もぐ)るような形だ。

「ワオ……」

「これは……またすごいな」

 だが感動もそこそこに、二人は腕で鼻を抑える。長年放置されたことによる、カビの匂いが鼻を突いたのだ。

「お見事ですわ! 快人様!」

 一方で霞が心底感心した目で快人を見て、「参りましょう!」と車椅子を進めようとした。

「ちょ、ちょっと! ねぇさん! 階段だぞ⁉ 落ちちまうぞ!」

 勇ましくも先陣を切ろうとする霞を、快人が慌てて止めた。

「あっ、失礼いたしました。わたくしとしたことがお恥ずかしい真似を……」

 顔を赤らめて逸らす。

「行きたいのか?」

「……はい」

「分かった。なら」

 快人は霞をお姫様抱っこで軽々と抱え上げる。

「きゃっ⁉ か、快人様⁉」

「アリスは車椅子を頼むな」

 アリスは赤面する霞の反応に、何とも思っていなさそうな快人の態度にやれやれといった様子で、「分かったわ」と車椅子を折り畳む。

「軽いな。霞ねぇさん」

「……はぃ」

 少し寂しそうに言った快人に、手で顔を隠した霞が小さく返す。

「ねぇさん、悪い。その体勢だと落ちるかも。首に腕を回してくれ」

「えっ、はぃ……」

 霞は恥ずかしがりつつも言われた通りにすると、その肩に顔を埋める。

「よし」

 快人が睨むような目線を向けてくるアリスに対して頷くと、階段の一段目に足を踏み出した。

 

 三人はスマホのライトを頼りに薄暗い階段を降り始める。階段の側面には等間隔に小さな横穴があり、そこには蠟燭立てがあったようで、溶けて用をなさなくなった蠟が残っていた。

 予想に反して階段は螺旋では無くそのまま半回転するだけで、そこからひたすら下へ続く階段が続いた。それなりの段数を下りると、カビで黒くなった絨毯が敷かれた廊下に辿り着く。その一番奥には団藤家の家紋が彫られた重厚な両開きの扉が待ち構えていた。

「これが、秘密の部屋?」

「おそらく……」

「そっか。アリス、車椅子」

「OK」

 快人の指示でアリスは車椅子を元に戻すと、霞を優しく下ろす。

「よいしょっと。大丈夫か?」

「……ありがとうございます」

 感謝しつつも、まだ顔の火が引いていない様子の霞だった。

「気にすんなって」

 それに対して、快人は屈託(くったく)のない笑みを見せ、「さて」と扉へと向き直る。左右の丸形のドアノブを摑み、押し込むと錆びた金属音を立てて簡単に開いた。

 部屋の中を覗く──全員が一斉に唖然とした表情になる。

「…………」

 中の有様に言葉が出ない三人。

 それもそのはず、二十(じょう)ほどの石(だたみ)で出来た内部は──まるで拷問室だった。

 研究室のような内装で、壁に取り付けられた黒板には何かよく分からない文字の羅列(られつ)に、読めないほどボロボロのメモが貼られ、床や机の至る所にガラス管や何が入っていたのか割れたガラス瓶から流れた液体の跡が残っていた。他にも棚には何かの壺や根っこ、小さな石などが乱雑に置かれている。

 まだそれだけなら学校の理科準備室と変わりは無いだろうが、部屋の奥に壁から()れる鎖付きの手錠や、なぜか置かれている手術台に残る赤黒い染みに関しては弁解のしようが無かった。確実に何かがあったことを物語っていた。

 凄惨(せいさん)な光景に恐る恐る中に足を踏み入れる三人。それぞれ、この惨憺(さんさん)たる状況を目にして顔色が悪い。

「……この様子だと本気で不老不死を目指してたみたいだな……」

 快人が苦い顔をしながら口を開いた。

 また、あまりの光景にショックを受けた霞が顔を背けている。

「……大丈夫? 外に出る?」

 アリスが心配して声を掛ける。

「……いえ。当主として見届けなければなりません……」

「無理すんなよ。霞ねぇさん」

 快人も顔色が悪いが優しく忠告し再び辺りを見回す。

「ん?」

 置かれてある黒板に歩み寄る。そこに貼られていた、(かろ)うじて原形を留めたメモを外す。中央部分にガラスの蓋が嵌めた羅針盤のような設計図が描かれている。

「これが例の石板か?」

 外したメモを二人にも見せる。霞が一通り目を通すと頷く。

「……おそらく、そうだと思いますわ」

 隠されていた宝の存在が現実味を帯びてきたところで、アリスが黒板と反対の位置に置かれた机を指した。

「アレ、何かしら?」

 二人が顔を向けると、机の上に背表紙が厚い本と箱が置かれていた。

 快人が率先(そっせん)して手に持って確認してみる。蓋の部分に龍の紋章が施され、目の部分に青い宝石が嵌まっている。側面には龍の口を模した鍵穴があった。

「……ねぇさん、青龍の鍵を貸してくれないか?」

「えぇ」

 霞から鍵を受け取って挿し込むが、鍵穴に合わない。

「あっ? 合わないぞ?」

 鍵先が隙間があるとガチャガチャと音を立てる。そもそもの大きさが違った。

「鍵が違うのでしょうか? しかし、これ以外、鍵があるとは聞いておりませんが……」

「うーん……」

 快人は一旦引き抜くと鍵を観察した。持ち手側が頭部で細長く上下に蛇行した龍の形になっていた──長さは丁度鍵先と同じくらいだ。

(もしかして……)

 (ひらめ)いた快人は持ち手部分を前にして鍵穴に挿し込んだ──ピッタリと嵌る。

 快人は息を飲むと鍵穴を回した。ガチャリ──音を立てて錠が開いた。

「開いたわ……」

「なんということでしょう……!」

 二人が快人の機転に感心する中、当の本人はゆっくりと蓋を開ける。

「これは……?」

 両手を入れて中から物を取り出す。左手には持ち手が亀と蛇の鍵。右手には設計図に描かれていた石板の一角と思われる部品があった。

「……お見事です! まさか無くなっていた『玄武の鍵』と石板が発見されるなんて!」

「でも、見た感じ、一部分みたいね」

 アリスの言う通り、これだけでは意味をなさないだろう。つまりそれを意味することは。

「大きさから見て、あと三つ、パーツがあるはずだ」

 快人は部品を手の中で()ねさせながら、二本の鍵を霞に返す。

「はい、霞ねぇさん」

「ありがとうございます」

「こっちは俺が預かっていいか?」

「そうですね。快人様が持っておられた方が安全でしょう。よろしくお願いいたします」

「よし──次はあの本だな」

 快人は箱の横に置かれていた本を手に取る。長年放置されていたため、黒ずんでボロボロになった表紙には辛うじて「日記」という文字が読み取れた。

「おそらく初代さんのものでしょうね」

「あぁ。何かしらのヒントが残ってて欲しいぜ」

 期待を込めつつ、湿気でクタクタになっている紙を破かないよう慎重に本を開いた。

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