小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 光よ届け。遥か彼方へ。


第8幕 玄武/星よ輝け山を越えて

 時計の針が二時を過ぎた頃。電灯は一切無く静まり返った屋敷の中、ドアが開く音が響いた。そこからガウンを羽織ったアリスが部屋から出てきた。寝惚けた目で周りを見ている。

「……うーん……トイレ……は……」

 まだ完全には覚醒しておらず、薄暗がりの中をフラフラとトイレがある方向を目指す。転ばないように壁に手をつけながら目的地へと進んでいき、どうにか辿り着いた。

「あった……」

『────』

「っ⁉」

 そこで一気に覚醒して振り返る。今、確かに快人以外誰もいないはずの白虎荘の中で、微かに声が聞こえた気がした。職業柄、数分ほど息を殺して周囲を探ったが、それ以降は何も聞こえなかった。

「……気のせい、ね……」

 そう言い聞かせるように言ってアリスがトイレの中に入る。

 十分程して出てくると、さっきよりは目を覚ました様子で部屋の前まで戻り、ドアノブに手をかける──再びアリスが緊張した面持ちで横を向き、目線を屋敷の奥の渡り廊下に続く曲がり(かど)に向けた。

 そこを凝視しながらドアを素早く開け、最後までその角を見ながら閉める。

 実はこの一連の行動と感覚は決して気のせいなどではない。ドアを閉めた途端、それを確認したように二つの薄い影が現れ、ユラユラとアリスの部屋の前に着く。だがその影は特に何もせず、すぐに搔き消えてしまった──いや、今はまだ何もできなかったと言うべきか。

 

「──と……さん……」

「……うーん……」

 一方、快人は相変わらず眠り込んでいる。寒かったのか少し(うな)されたように表情を変える時はあったが、それ以降は昨日と同じく朝まで眠っていた。

 

  十二月十九日 朝 白虎荘 滞在三日目

 

 朝。団藤邸に滞在して三日目。環境に慣れたのか、余裕のある顔で快人が部屋から出てくる。ところが、アリスが出てきていない。そのまま部屋まで行きドアをノックする。

「……はーい」

 気だるげな声がした。

「俺だ。食堂行こうぜ」

「ちょっと待って……」

 中からカサゴトと音がして数分後、アリスが部屋から出てきた。髪型は整えられているが、昨日よりさらに化粧が厚いように見える。

「なんかあったか?」

 観察眼が鋭い快人はその機微を見逃さない。

「いえ、ただ、なんとなく疲れが取れてないだけ」

 そう言って、手で口を隠して大きく欠伸(あくび)をした。

「大丈夫か? 今日は休むか?」

「大丈夫よ。ありがとう。早く行きましょう。彼女を待たせちゃうわ」

 アリスが気にするなと手を振るため、快人は「なら、いいんだけどさ」と納得しかねた様子で食堂へ向かった。

 

 食堂ではすでに霞が上座に座り──背後にはいつもの執事──待ち構えていた。

「おはようございます」

 霞が溌剌(はつらつ)とした声で挨拶をしてくる。

「おはよう、ねぇさん」

「おはよう」

 返事をすると、ほとんど指定席になった椅子に座った。タイミングを見計らったようにドアが開くとメイド達が朝食を運んでくる。彼女達も血色が良い。

「ありがとう」

 前に置かれた朝食に快人が何気なく感謝を述べる。

「……ぃぃぇ」

 快人に配膳をしたメイドはか細い声で返してきた。人見知りする性格なのだろうか。

 そのまま何気なく眺めているとメイドは、できる限り顔を見せないようにしながら他のメイドと共にそそくさと去っていった。ドアが閉まると快人は不思議そうに首を傾げて朝食に向き直る。

「何か粗相(そそう)がありましたか?」

 その様子を見守っていた霞が少し不安そうに尋ねてきた。

「……いや、なんでもないよ」

「そうですか、何かありましたら遠慮なくお申し付けくださいまし。では、いただきます」

 霞の号令に二人も続くと食事に手をつけていく。もう抵抗は無く、三十分程で全員が完食すると、いつも通りメイド達が片付けていく。

「ありがとう」

 快人がメイドに感謝の言葉を言えば「ぃぃぇ」とまたメイドがか細い声で返した。

 そして、すべてが片付きメイドが食堂を出ると、霞が執事に「下がってよろしい」と指示を出す。

「……かしこまりました」

 執事も食堂を出て、ドアを閉める。

 それを確認した霞が「さて」と話を始めた。どうやらここにいる三人以外に具体的な内容を聞かせる気はないらしい。霞も霞なりに警戒していた。

「今日は玄武荘のクラウス様の部屋を調べるということで、よろしかったですわね?」

「あぁ、早速行こうか?」

「はい。参りましょう」

 霞はハンドリムを器用に操作し食堂の前まで移動する。

「ねぇさん、随分元気になったな」

 快人が嬉しそうに言った。

「引きこもるより人と会うことで、力も気力も出るものなのかも知れませんわ」

 そう笑みを見せる霞。

「かもな!」

 身内が元気になったことに機嫌をよくした快人がドアを開けて霞を出す──まだ椅子に座ったままのアリスに向き直る。

「おい、アリス行くぞ?」

「……えぇ」

 アリスは目線を一瞬泳がせると立ち上がり二人の後に続いた。

 

  同日 朝 玄武荘

 

 青龍荘の書庫に向かうために何度か通った場所だが、改めて見てみると装飾のほとんどが黒い壁紙や絨毯で囲まれている。玄武は黒を象徴とするからだ。また外を見れば切り立った崖がある。おそらく玄武が守護すると言われる山の代わりなのだろう。

「こちらですわね」

 霞が渡り廊下からすぐ傍のドアの前に車椅子を位置付ける。

 手が届かない霞の代わりに快人がドアを開けると、そこには二階に上がる螺旋階段があった。

 それを確認して快人が慣れたように霞を抱き抱え、霞の方もされるがままだ。アリスも黙って車椅子を畳み、三人は二階に上がっていく。

 階段を上がるとそこも通路で反対側にも螺旋階段がある。利便性からどちらからでも通れる構造になっている。その通路の真ん中に亀の紋章が彫り込まれた両開きのドア。この向こう側が次兄、クラウスの部屋なのだろう。

 霞を車椅子に下ろすと、そのまま昨日見つけた玄武の鍵を挿し込み、回す。

 ガチャリ──引っかかりもなく錠前が開いた。

 快人がドアノブに手を掛ける。昨日の隠し部屋のこともあるため、念のため二人に目配せをした。頷くのを見て意を決してドアを開けた──部屋はカーテンが閉め切られ真っ暗だった。

「電気のスイッチは……あった」

 ドアの傍の壁に手を置きスイッチを探る。パチンと小気味いい音が鳴り、電灯が何度か明滅すると明かりが灯った。

 その時、三人が部屋の全貌を見て、口から出てきたのは感嘆だった。

 太陽を模したような独特な形状の照明が照らし、七十年近く放置されて埃だらけの部屋には、二メートルはある二本の支柱と半円状の軸に固定された木製の天体儀が設置されていた。

 素人目で見ても高価な品であることは一目瞭然だ。

「うぉ……すげぇ」

「……立派な物ですわ」

「本当に星が好きだったのね……」

 (おの)々が感想を言う中、快人が一足先に天体議に近づいて物珍しそうに眺める。

「男のロマンって感じだぜ──おっと?」

 球体部分に触ると少し動いた。「もしかして」と快人が嬉々として上下左右と自由自在に回転させれば、それに合わせて軸も──こちらは上下だけ──動く。ちなみに天体儀は上部に星の模様があるだけで、下部には何も描かれていなかった。

 気に入ったのか快人は、若干呆れた目つきの二人を気にせずグルグルと回し続ける。

「ちょっとー?」

 アリスがいい加減にしろと声を掛けた。

「……えっ?」

 快人がハッとして手を止める。やっと我に返ったようだ。

「私達はほったらかし?」

 そう言われて快人が小恥ずかしそうに「いやー」と頭を掻く。

「悪い、悪い。つい……」

「……それではクラウス様の隠し部屋の謎解きと参りましょうか」

「そうだな──ん?」

 快人が天体議に再び手を掛ける。

「ちょっと、快人。いい加減に──」

「いや、違うんだって。蓋があるんだよ」

 (とが)めようとしたアリスだったが、確かに本来、底にあった蓋が動かしたことで姿を見せていた。

「本当ですわ。なんの蓋でしょう?」

「待ってくれ……外れそうだ」

 霞の疑問に答えるように蓋を回して開けてみた。中には固定された蝋燭立てがあった。

 それを見てしばらく何かを考えていた快人が周囲を見回す。部屋は遮光カーテンに遮られている。その内の一つの窓から少し離れた所に、日記に書かれた物と同一と思われる天体望遠鏡が三脚で支えられ、レンズ側が天井に向けて置かれていた。

 特徴的なところはそれぐらいで、他にはベッドと机と棚、壁に固定された埃でくすんだ鏡があるくらいだ。

 一通り見回した快人は(おもむろ)に棚や机の引き出しを引っ張り出すと中を探る。

「な、何をしてらっしゃるのですか?」

 流石に快人の行動が少し不気味に映ったようで霞が恐々として尋ねた。

「いや、ちょっとね。俺の予想が当たればこういう所に……あった」

 引き出しから取り出したのは、一本の蝋燭。中を見れば大量にある。どうやら戦争から帰ってきた時のことを考えて、クラウスのために蝋燭を買い溜めしていたらしい。残念なことに、この部屋同様に使われることは無かったようだが。

 快人はそれを天体儀の蝋燭立てに刺し、自分のジャケットを叩く。着火できる物を持っていなかった。すると無言でアリスに向かって手を出した。

「……何よ?」

「ライター貸してくれ」

 アリスはその言葉にギョッとする。

「……なんの話?」

(とぼ)けんなって。海里に隠れて煙草(たばこ)を吸ってることくらい知ってるよ」

 顔をニヤケさせる快人の指摘通り、拠点であるアルセーヌ城は大の煙草嫌いである海里によって全面禁煙になっていた。それからと言うもの、喫煙者だったアリスは人目を忍んで(たしな)むことになった。

「……なんで分かったのよ?」

 アリスは胸ポケットからジッポライターを取り出すと、それを投げ渡す。快人は見ずとも器用にキャッチし、手慣れた様子で中の蝋燭に火を灯す。

「訓練で時々、外に出るのを見てたからな。戻る度に香水が強くなって帰ってきたら、煙草を吸ってるってすぐに分かったよ。ほら」

 蓋を締めるとライターをアリスに投げ返した。

「思ったより目(ざと)いのね……」

 弟子の観察眼に驚きつつ、戻ってきたライターを再び胸ポケットに戻す。

「あと鼻が()いて、勘が鋭いのも追加な。電気消してくれ」

 快人の指示でアリスが電気を消す。すると上部分が横になっているため壁から床にかけて、部屋に無数の穴を通して蝋燭で照らされた星の光──傍には惑星や星座の英語名──が投影される。

「すげぇ……人工のプラネタリウムだ」

「綺麗、ですわ」

「でも、所々切れてるのが残念ね」

 アリスが言う通り、土台や軸に邪魔されて星が上手く映されていない所があった。

「あっ、そうか。俺が触る前の状態が元々の状態か」

 元の位置に戻そうとして「あれ?」と何かに気づいたようだ。

「どうかされたのですか?」

「いや、この軸の裏側に矢印と文字が彫られてるんだ」

 軸には矢印と文字が刻まれている。矢印は形が綺麗なため定位置を示すものだが、文字はナイフか何かで無理に軸に彫られていた。

「……なんと書いてあるのでしょう?」

 文字はアルファベットで書かれてはいるが英語ではない。

「これは……フランス語か?」

 快人の見立てでは、どうやらフランス語で書かれていた。

「そう言えば、ひいばあちゃんはフランス人だっけ。知ってても不思議じゃないか……。でも流石にフランス語は専門外だ」

「わたくしもですわ」

 二人がどうしようかと手をこまねく。

「『(まじ)わらぬ二つの名の一つ星が共に輝く時、道は開かれん』ね……」

 快人達の間から覗いたアリスがいとも簡単に読み解いてしまった。二人がポカンとした顔でアリスを見る。

「何よ?」

「アリス……フランス語、読めたのか?」

「あら。私は元々フランス出身よ。言わなかった?」

 アリスは師匠としての威厳が保てたことが嬉しかったのか、少し胸を張る。

「そう言えば、どこの出身かは聞いてなかったな……」

「日本語お上手ですわ」

「ありがとう──それで、『交わらぬ二つの名の一つ星が共に輝く時、道は開かれん』ね。交わらないのに一緒に輝くってどういう意味かしら?」

「『二つの名』ね……」

 

 快人がそのキーワードをつぶやきながら無茶苦茶に動かした天体儀を記憶を辿りつつ元に戻そうと四苦八苦する。

 それを横目に霞が車椅子を動かし、天体望遠鏡に近づくと覗き口を覗き込んだ。

「何か見える?」

「……いえ、残念ながら。もしかしたら、何かヒントがあるかと思ったのですが。天井にある太陽の照明がぼやけて見えるだけですわ」

 霞は落胆した様子で返す。そんな二人の会話を聞いていた天体儀を直すのに必死の快人は「そりゃ、その角度じゃ星は見えない」とそこまで言って天体儀を戻す手が止まった。

「霞ねぇさん、今なんて言った?」

「えっ? 『太陽の照明が見える』と」

 快人が目を泳がせると、「霞ねぇさん。俺にも見せてくれ」と天体望遠鏡に近づく。

「えぇ、どうぞ」

 よく分かっていない霞は言われた通りにその場から退(しりぞ)いた。

 覗き込むと確かに天井の太陽の照明が見える。目を離し振り返ると、そこには鏡がある──笑みを浮かべた。

「なあ、おかしいと思わないか? コイツは天体望遠鏡なんだ。こんな風に天井に向けてたら意味無いだろ? ということは?」

 意味ありげに霞に視線を送った。

「えっ……えっと、誰かが動かしたということでしょうか」

 自信なく言った答えに対し、快人は笑みを浮かべ大きく頷き、「それで?」と続きを(うなが)す。

「クラウス様……はありえないとするならば……」

 思い当たった霞がハッとした表情になる。

「仕掛けを解いた、わたくしの祖父が動かしたのですね!」

「そう! じゃあ、あの太陽が見えるように角度が調節してあったってことは?」

「……えっ、えっと」

 その質問には答えが出てこないのか、霞が難しい顔をして考え込む。だが、快人のその余裕ぶりから答えが分かったらしい。

「えっ、もしかして、分かったの?」

 同じく分かっていないアリスが尋ねた。

「多分ね。俺の推理では、この天体望遠鏡が太陽の照明を映してるのは『朝』を連想させたいんだと思う」

 天井を指すと続けて「そして月、つまり『夜』を連想させるのは──それだ」と壁に掛けられた鏡を示す。

「じゃあ、ここでナゾナゾだ。『朝と夜で二つの名前を持つ星』はなーんだ?」

 茶目っ気を出した快人がそこまで言うと霞も気づき、「……金星」と小さくつぶやく。

「えっ? 金星?」

 答えを言われてもアリスはまだ分かっていない。しかし、これに関してはフランス人の彼女には難解な問題だった。

「実はな、アリス。日本語では金星には二つの異名があるんだ」

「『明けの明星(みょうじょう)』と『(よい)の明星』ですわね」

「あけの──何?」

「簡単に言ったら『朝方に見える星』と『夕方に見える星』って意味だ」

「金星は時期で位置が変わるので絶対に同時には見えません。つまり『交わらない』ということですわね」

「ってことは、だ」

 快人は今度は自信を持って天体儀を回転させる。

「えっと、ビーナス、ビーナス……」

 金星を探し始めた。二人もそれに加わると三方向から目当ての星を探す。

「それにしても、よくそれだって分かったわね」

「『二つの名』の時点でなんとなく当たりがついた。そして『太陽と月』で確信に変わっただけだよ」

 事もなげに答える快人に、アリスは圧巻を通り越して苦笑いした。

「なるほどね。あっ、あったわ」

 アリスが金星を見つけた。よく見ると他の星より穴が少し大きく開けてあり、区別できるようにしてある。

「よし、じゃあ」

 快人は軸を摑み、裏に書かれている矢印を天体望遠鏡に向ける。

「こうして、っと」

 次に金星の明かりを回転させ矢印に合わせた──快人の腹部に光が指す。

「アリス悪い。その鏡、できるだけ綺麗にしてくれ」

「分かったわ」

 アリスは手近にあったベッドスプレッドを摑んで鏡を拭う。ある程度、綺麗になった。

「さて、俺の勘が正しければ……俺が体を退かすことで『光は共に輝く』はずだ!」

 快人は光から体を素早く退けた──矢印の方向に進んだ金星の光は、天体望遠鏡の覗き口を通り、レンズ側からサーチライトのような光に拡大され、天井の太陽の照明を照らした。さらに照明の一部に反射板が仕込んであり、そこで反射して鏡へと照射される。鏡は特別製らしく光を反射せず吸収していく。どこからか歯車の音を立て始めた。鏡が掛けてあった壁が観音開きで開き、暗闇だった隠し部屋に光が射し込んだ。

 そこには台の上に玄武の目に黒い宝石がはめられた箱が、舞台でスポットライトに照らされるように置いてあった。

 快人が早速部屋に入り、玄武を模した口に鍵の持ち手を差し込み箱を開けると、中には予想通り部品と羽ばたく鳥が彫刻された鍵が入っていた。

「『朱雀の鍵』ですわ。ありがとうございます」

 これで玄武荘でするべきことは済んだため、火を消し部屋を元に戻す。

 そして、遮光カーテンで分からなかったようだが、また時間があっという間に過ぎていたらしく、クラウスの部屋から夕食を取るために食堂に戻ってきた三人。

 早速、今日の成果の確認と明日の計画を練り合う。

「パーツも残り二つですわね……」

「この調子なら数日中には全部揃いそうね」

「なら明日は順当に朱雀荘でクララさんの謎解きだな」

「期待してるわよ。快人」

「よろしくお願いいたしますわ」

「おう、任せとけ!」

 そう意気込む快人は、いつも通りメイド達に配膳された夕食をガツガツと口に入れていった。

 

 夜。快人は眠るまでのルーティンをこなして寝室に戻ってくる。部屋に置かれた、女性向けのデザインが施された机の椅子を引いて腰掛けると、ジャケットのポケットから部品を取り出す。

(さてと、全部見つけたら隠さねえと……)

 何気なく二つの部品を机に置いた──カチン!

「うおっ⁉」

 なんと部品同士が勝手にくっついた。どうやら磁石が仕込まれているようだった。だが、所詮は磁石のため取り外しも力ずくなら案外簡単にできた。

(……ふーん、磁石仕掛けなのか。いざという時、覚えておいた方がいいな)

 部品を別々にジャケットに戻し、椅子の背もたれに(もた)れながら背伸びと欠伸をして窓の外を見る。

 すでに真っ暗だが、数十メートル離れた所に建てられたガラスに囲まれた植物園では、桜が満開に咲き誇っているのが(かろ)うじて見えた。

 その後、眠りにつくまで、しばらく物思いに(ふけ)た様子でその景色をずっと眺めていた。

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