小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 これは、ほんのささやかな謎解き。


第10幕 白虎/二つ重ねの謎解き

  同日 夕方 白虎荘 食堂

 

 白虎荘。快人達が連日、滞在してきた邸宅。白虎は大道を(つかさど)ると言われる。この場合はゴルドルパンで通ってきた道路がそれを指すのだろう。

 

 アリスと霞が世間話をしながら、謎を解いているだろう快人を待っている。ふと霞が話を切り上げ、食堂の入り口に目を向けた。

「時間が……かかっておられようですわ」

 霞が不安そうな声で言った。

「そうね」

 アリスもドアを見る。そろそろ快人がタイムリミットにしていた夕飯の時間だ。もう少しすればメイド達がいつも通り運んでくるだろう。

「きっと、大丈夫よ」

「はい……」

 霞が浮かない顔をする。

 どうしたのか、と声を掛ける前にドアが開く。そこには快人が立っていた。

 こちらもどこか浮かない顔しながら、何か右手に握りしめている。

 ともかく快人が現れたことでアリスが席を立つ。霞も立ちはしないが肘置きに手を突き、前のめりになった。

「見つけたの?」

 アリスの質問に答えず、快人は黙って右手に持っていた物をテーブルに置いた。

 

  数時間前 白虎荘 寝室

 

 快人は自分が使っている寝室に戻ってくると、早速、部屋中を調べ始めた。

 改めて部屋を見ると、他の部屋と比べて小さいのも相まっていくらか質素に見える。唯一、ベッドが豪華なくらいだ。邸宅を作った頃のクラリスが幼かったのもあるのだろうが。

 反対側の壁際には勉強机、その隣には幅三メートルほどの本棚が置いてある。収められた本のタイトルを見てみれば、主にイギリスの名探偵や、フランスの怪盗紳士の小説が多い。どうやらクラリスは所謂(いわゆる)探偵小説が好きだったようだ。

「ばあちゃんは小さかったんだから、そんな難しい仕掛けじゃないはずだ……」

 快人がブツブツと推測を立てながら部屋を調べていく。

 ドサッ──何かが落下する音がした。

「ん?」

 音で振り向くと床に本が落ちてあるのが目に入った。本棚から落ちたのか、若干古ぼけた本──だが、快人はこれに見覚えがあった。

「……あれ? これって書庫にあった本じゃないか?」

 快人の記憶では書庫に置いてきたはずの本に首を傾げつつ手に取る。英語で『クラリス』と書かれている。

「……ばあちゃんの日記、か?」

 突如として現れたように見える日記に釈然としないながらも、ページを捲る。見つけた時とは違い、普通に開くことが出来た。

 それなりに分厚いそれは幼い頃に買え与えられた物で、初めの頃のページは(つたな)い字で書かれている。日本語なのが幸いだった。

 初代の本とは違い日頃の何気ない話ばかりで、子供らしい内容が続く。途中からある程度読み飛ばすと、(しおり)が挟まっているページが出てきた。これもまた古ぼけた栞で快人は何気なくひっくり返す。

「えっ?」

 快人が驚きの声を上げた。

 それは栞ではなく写真だった。両辺が切り取られ細長い形になっているため栞に見えたのだ。

 そして、そこには今朝寝ぼけながら見た、あの女性が写っていた。

「ばあちゃん……?」

 実は快人は祖母であるクラリスの顔をはっきりと見たことがなかった。来蔵の話に聞くだけで、快人達が誕生するよりも前に病死していたからだ。

「綺麗な人だな……じいちゃんも惚れるわけだ」

 初めて見る祖母の顔に少し頬を緩めつつ、挟まっていたページに目を向ける。

「……『きょう、くらうどお兄さまがきて、ひみつのおへやのことをきかれた。おとうさまからはひみつにしなさいといわれていたけれど、お兄さまがだれにもいわないというから、くらりすはひもをおたんじょうびのかず、ひきます。とこたえました』。紐……?」

 快人は今朝の夢で見たことを思い出す。女性──クラリスは呼び出し用の紐を指さしていた。

 日記から目を離して紐を見た。席を立つとベッドの横まで行く。

 必要が無かったので、今まで使わなかった呼び出し様の二本の紐。その一方の紐を握る快人。

 クラリスの誕生日は十二月八日と書かれていた。一、二、八回と引くのか。十二、八回と引くのかは分からないが、たった二択。迷う必要はない。どちらも試せばいい。

 快人は試しに一、ニ、八、と間を開けて引いてみた。小さく機械音が鳴り響く──あっさりと本棚が横にズレていき、隠れていた部屋が姿を現す。当たりだった。

「……サンキューばあちゃん」

 今までと比べればあまりにもあっさりした謎解きに拍子抜けしつつも、ヒントをくれた祖母に感謝しながら部屋を覗く。

 中にはたくさんのおもちゃが入った箱に、十数体のぬいぐるみ、綺麗な石等があっちこっちに置かれている。クラリスにとって、ここは遊び場兼宝物置き場だったようだ。だが目に見える範囲に肝心の宝箱はない。

 中に入って辺りを見る。子供が大切な物を隠しておくならば、どこに置いておくか。

 快人は一点を見て、そこに向かう──おもちゃ箱からおもちゃを取り出していく。

「……あった」

 予想通り、おもちゃに守られるような形で底の辺りに白い目の白虎の宝石箱があった。大切な物は一番奥に隠す。実に初歩的かつ子供らしい発想だ。

 取り出した箱を床に置くと、挿しこみやすくするために鍵穴を上にして白虎の口に柄を挿す──前に、勝手に蓋が開いた。

「えっ?」

 何故か鍵は掛かっていなかったらしい。そして、中に入っていたのは──。

 

 数時間後。快人はアリスと霞に見せるために食堂のテーブルに、宝箱から持ってきた「それ」を置いた。

「えっ……?」

 二人が同時に疑問の声を上げて、それを発見した快人と同じように目を丸くする──そこにあったのは、五桁の二十六文字のアルファベットが刻まれた、太い金属の筒状の物体だった。

「あの……こちらは?」

 霞が訳が分からないと快人に尋ねる。

「……コイツが宝箱の中に入ってたんだ」

「ちょっと待って……これクリプテックスじゃないの?」

 正体を知っていたアリスがその名前を口に出す。

「ああ、多分そうだと思う」

 快人も同意した。

「『クリプテックス』……?」

「クリプテックスはイタリアの発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチが作ったとされる暗号器のことよ」

「えっ……!」

 偉人が作ったとされた物と聞いて、霞が目を丸くする。

「もちろん本人が作った物じゃないでしょうけど……。でもどうしてこれが?」

「分かんねぇ」

「もう開けられたのですか?」

「いや、まだ触ってない。ある映画だと、こいつの中に酢入りの瓶があって、無理矢理開けるとその瓶に穴が開いて、中の紙を溶かしちまう、っていうシーンがあったんだよな……」

「これもそれと同じ仕掛けだと?」

「いや、そうとは限らないけど、あり得ないとも言えねえよな……」

「それに関してのヒントは?」

「無い……いや、でも」

 快人が懐からいつの間にか置かれていた祖母の日記を取り出す。

「それは?」

「ばあちゃんの日記……」

 日記を快人はジッと見続ける。

「もしかしたら、これにヒントが書いてあるかも……」

「初代さんと同じように?」

 だが流石に確信は無いため快人は自信なさげに頷くと日記を握りしめる──二人に向かって頭を下げた。

「悪い、時間をくれ! きっと何か書いてあるはずだ! 入ってたはずの部品がなんで無いのかとか、コイツの解き方とか!」

 二人は快人の必死な形相(ぎょうそう)にキョトンとして目を合わせる。

「えっ、ええ……」

「……好きにしなさい。どうせ止めても聞かないでしょ?」

「ああ、悪い。霞ねぇさん、今日、晩飯いらないから!」

 快人は引ったくるようにテーブルのクリプテックスを摑むと、足早に食堂を出て行った。

「ど、どうして、あんなに必死なのでしょうか? 敵に宝物を渡したくないから?」

「……きっと、ワクワクしているのよ。おばあさんからの挑戦状だとか、なんとかってね。まtったく、まだまだ子供ね」

 アリスは呆れたように微笑んだ。

 

 夕飯を抜いた快人は分厚い日記を、風呂にも入らず、夜が()けるのも気にせず、夢中で読み続けた。一文字一文字丁寧に重要な文面を読み飛ばさないよう。

 ここまでする快人には言葉にはできない自信があった。この突如として現れた日記は、絶対に意味があって姿を見せたに違いない。そう確信していた──そして、その予感は見事に的中した。

 すべてのページを読み終えた時、快人は祖母の残していた想いをすべてを知った。最後の部品が何故白虎の宝箱に入っていなかったのか。入っていないとすれば、今どこにあるのか。

 そして、クリプテックスの答えも──その他の謎もひっくるめて快人の中で繋がる。

 手始めに手元に置いたクリプテックスを手に取り、暗号器の文字を動かし、ある五文字にする──蓋が開いた。中身を取り出してそれを見た。休み無く読んで疲れているのもあって力なく笑う。

「なるほどね……じいちゃんもばあちゃんも似た者同士だな。ホント」

 そう言って時計に目をやる。二時を過ぎていた。

 明日──今日の朝には良い報告を伝えられ、そしてすべてが終わる。

 快人は大きく欠伸(あくび)をすると、腕を伸ばす。

「さぁて、寝るか……」

 寝巻きに着替えようと席を立つ──絹を裂くようなアリスの悲鳴が屋敷に響いた。

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