時計の針が二時を指す頃。アリスが客室から出てきた。またトイレに行くつもりだった。ふと快人の部屋を見ると明かりがついている。少しだけドアを開いて覗くと、まだ日記を読んでいた。
アリスはその
『……アデレード』
だが、背後から地を這う様な男の声がした瞬間、その場で固まり目を見開く。それもそのはず。その呼び名はもう誰も使っていなかった。「当人」であるアリスでさえ。
『アデレード……』
聞き間違えではない、確実に聞こえてくるその声にだんだんと体を震わせ、顔が恐怖で引き
『アデレード……どうして、お前だけが……』
フランス語で話し掛けてくる声に震える自分の体を抱きしめる。
『う、うそ、そんな……そんなこと……ありえない』
母国語でつぶやくと歯をガチガチと鳴らし、なんとか震えを止めようとするが意味をなさない。
『どうして。なぜ、あなただけが……』
今度は女の声が耳に届いた。その声にアリスはハッとして思わず振り返る──振り返ってしまった。
そして、そこには。血
『のうのうと生きている……!?」
その姿を見たアリスはつんざくような叫び声をあげ、糸が切れたように床に倒れた。
しばらくしてアリスが目を開くと、目の前に誰かがいる。彼女にとって大切な人物に瓜二つだったのか「ゾ、ルーク……?」とつぶやく。
だが、目の前に立つ人物は、「じいちゃんじゃねぇよ」と一蹴し、金髪が揺れる顔を近づけてくる。
まだ意識がボンヤリとしている中で、「かい、と……?」と寝ぼけたように言った。
「そうだよ。大丈夫か?」
快人は用意したブランデーが入ったマグカップを手渡す。
ゆっくりと体を起こしたアリスがそれを受け取り、一口、二口と口をつける。
「……おいしい」
「そりゃよかった」
マグカップを手元で遊ばせながら、だんだんと意識が覚醒し始めようで、ゆっくりと周りを見ると体には掛け布団、さらには快人のジャケットが掛けられていることに気づいた。
そして、自分がいるのは意識を失った廊下ではなく自身にあてがわれた部屋のベッドの中だった。
「……夢?」
「違ぇよ。倒れてたよ。さっきは大変だったんだぞ」
話を聞ける状態になったと、快人は何があったのかを話し始めた。
祖母の日記を読み終えた快人が寝巻に着替えようと席を立った瞬間、屋敷に悲鳴が響いた。慌てて廊下に出ると、そこにアリスが倒れていた。
「! おい、大丈夫か! もしもし! アリス⁉」
すぐさま駆け寄り、肩を叩いて声をかける。
余談だが、もし倒れている相手がいたら頭を揺さぶるような形で激しく動かしてはならない。肩を優しく叩き、声を掛けるのが正解だ。
そこにパタパタと足音がして、寝巻きを着た執事とメイドが数人、悲鳴を聞きつけ駆け寄ってくる。
「お加減は?」
執事が冷静に尋ねてきた。
「完全にノビちまってるな……。すみません、気付け薬か何かありませんか?」
「気付け薬……」
数人が頭を悩ませる中、メイドがつぶやいた。
「ブランデーなら……」
「えっ」
「
確かにブランデーは古くは十三世紀から気付け薬として使われている。悪くないアイデアだった。
「悪いけど、それ持ってきてくれないか。俺達はアリスを部屋に運ぶから」
「分かりました」
そのメイドが急いでキッチンへ向かって走っていった。
「よし。じゃあ俺は体を持つから、悪いけど足持ってくれ」
「承知いたしました」
快人が脇から腕を通して抱えるように持ち、執事の一人が足を持った。
「……つ、め、た、い……」
抱え上げたアリスがうわ言を言う。
「そりゃこんな所で倒れてたらな……!」
意識が無い人間は重い。深夜二時に人命救助をすることになった快人が顔を歪めて返すが、誰かが気付かなければ、例え屋内でも気温が低かった場合、低体温症を引き起こす可能性がある。最悪、命に関わる状況だった。早急に見つけられたのは不幸中の幸いだ。
その後、アリスをベッドに寝かせた快人は着ていたジャケットを被せ、その上に布団を掛けた。ジャケットは体温がこもっているので、しばらく防寒具として役割を果たせる。
そこにブランデーが入った瓶とブランデーを入れたマグカップを持ったメイドが入ってきて快人に渡す。
「こちらを」
「ありがとう。悪いな。あとは俺がなんとかするから。もし、ねぇさん──霞さんが出てきてたら、気にしないでくれって伝えてくれ」
「承知いたしました」
指示に従った執事達は深々と頭を下げて部屋から出ていく。
「さてと……」
まず瓶を鼻に近づけ匂いを嗅がせる。
「おーい、起きろ、アリス」
「……ん……ん……ゾ、ルーク……?」
ブランデーが効いたようでアリスが覚醒した。
ここまでが起こったことだった。短時間に処置ができたのは大きかっただろう。今では普通に受け答えができている。
「何があったんだ?」
「あれは……」
アリスは見た物を言う──かぶりを振った。
「いえ……きっと見間違い、ね」
自分に言い聞かせるように言う。
「……疲れてたんだと思うわ」
「疲れて悲鳴を出すような幻覚を見るなら、病院に行った方がいいけどな。どうする?」
快人なりの元気づけとして、皮肉混じりの正論にアリスは再び首を振った。
「んん。大丈夫」
いつもと違い、少ししおらしい様子。
「……なら、いいけど。無理すんなよ。明日、ってか今日は休んどけ」
「分かったの?」
「ああ、バッチリ。今日、ケリつけるさ」
笑いながらそう言って、部屋を出ようとするとアリスが「あっ」と小さい声を出す。
それが聞こえた快人が振り返る──そして、悪戯ぽく笑った。
「……あっ、もしかして一緒に寝てほしい?」
「へっ?」
その言葉を聞いたアリスの顔がだんだんと赤くなると、被せられていたジャケットを力の限りに投げつける。
「うおっ!」
快人は顔に当たる直前にジャケットを摑む。
「そこまで子供じゃないわよ! バカ!」
「わりい、わりい! じゃあ、おやすみ!」
そそくさと部屋から退散した。それを見送ったアリスは渡されたブランデーを一気に飲み干す。開いたマグカップを適当な場所に置き、枕に頭を
「もう……バカ」
顔の
十二月二十一日 朝 白虎荘 滞在五日目
朝。準備を終えた快人が部屋を出てくる。
食堂に行く、ついでにアリスの部屋のドアをノック──止める。今朝の今日だ、そっとしておいた方がいいと思った。
快人はそのまま食堂に向かってドアを開けた。霞と執事が既にいる。もう見慣れた光景だ。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を交わし、快人が霞に頭を下げる。
「ごめん。ねぇさん昨日とか今朝とか、いろいろとさ」
「いえ、お気になさらず。何かあったのですか?」
「いや、アリスが……」
そこで言葉に詰まる。なんと言えばいいのか迷った。
「『アリス様が』?」
「あっ、えっと、その、ゴキブリ……」
目を泳がせながら口から出まかせを言った。
「えっ、ゴキブリ?」
「その、壁に……そう! 壁紙の染みがゴキブリに見えたらしくてさ! それで驚いたらしくてさ! いやぁ参っちまうよな!」
強引にもほどがある言い訳を押し通すために、無理矢理笑いながら頭を掻く。
「……そ、それは大変でしたわね」
対して霞が若干引いている。例え嘘であったとしても、少なくとも朝食前に言う内容では無かった。
「……ごめん、なさい」
それに気づいた快人は笑うのを止めて、気まずそうに謝る。
結局、その日の朝食はなんとも重苦しい雰囲気となった。原因は十中八九、快人の作り話のせいだ。
「ごちそうさまでした」
食事を終えて手を合わせ、いつものように霞が執事を下がらせる。食堂に二人きりとなった。
「では、快人様。如何でしたか?」
「……そうだな。じゃあ、散歩がてら話そうか」
「散歩? あまり時間は無いのでは……?」
「いいから、いいから」
そそくさと車椅子の後ろに回ってハンドルを握る。手慣れたように食堂を出ると、廊下を歩きながら説明を始めた。
「さて、どっから話そうかな。そうだな、まずは昨日のクリプテックスから話すか」
快人は渡り廊下の適当な場所で車椅子を止めると、ポケットから中身が開いたクリプテックスを見せた。
「開いたのですね!」
「ああ、全部この日記に書いてあった」
続けてクラリスの日記をジャケットから取り出す。
「日記によると。これはじいちゃんが、ばあちゃんと結婚する直前に送った物らしい。そして、ばあちゃんは暗号を解いた。それは二人にとって大切な言葉だった」
「『大切な言葉』?」
はい、と快人から渡されると、それは「
「ルパン……」
「じいちゃんの怪盗名である『アルティメットルパン』は、怪盗としての活動を知った、ばあちゃんが付けたものだったんだ。探偵小説で特に好きな怪盗紳士を超えられるくらいに、ってね。そして……その中に入っていたのが、これだ」
古ぼけた紙を渡す。そこには「あの思い出の木の下で」と小さく書かれており、その裏にはシルクハットを被った東条来蔵、もといゾルーク東条が写っていた。
快人はそれと日記に挟まっていた祖母の写真を合わせる──ピッタリと合った。
「ばあちゃんは大切な写真を、本来の使い方をする暗号機に入れて、本来の使い方をする宝箱の中に入れたんだ」
「では、この言葉は? 『あの思い出の木の下で』というのはパーツのヒントですか?」
「うーん、半分当たり。半分外れ、かな」
「と言うと?」
「『本来ヒントじゃなかったけど、ヒントになった』って言えばいいのかな。この言葉を見た時、俺はある可能性を考えた」
快人が霞の前に立って窓の外を見る。
「実は宝箱は五つあったんじゃないか、ってね」
「五つ?」
「そう。この屋敷は風水に則って四神相応に対応してる。そして、四神にはもう一体神獣がいる」
「
「あぁ。もしクラウドさんがそれに合わせて五つ箱を用意したなら、疑問がすべて解決するんだ」
快人は日記のあるページを開く。
「ばあちゃんはある日、クラウドさんが宝箱にパーツを隠しているところに出くわした。それが丁度、白虎の箱に鍵を掛けるところで、屋敷にいたじいちゃんから呼び出されて鍵を閉めずに挿しっぱなしで部屋を出た。そこをばあちゃんが入って、白虎の宝箱を開けた。中にはよく分からないパーツ。他の宝箱にも同じようなパーツ。ただ一つ、麒麟の箱にだけあの大黒真珠が入っていた。そこでばあちゃんにちょっとした悪戯心が出た」
「……つまり、その時に」
「あぁ、クラウドさんが知らない内に、ばあちゃんが中身が入れ替えたんだ。きっと白虎の箱は自分に渡されると思っただろうから。入れ替えて、箱を閉める。そこにクラウドさんが帰ってきた。勝手に触ってたから少し叱られたらしいけど、とにかくタイミングは良かったから、クラウドさんは鍵を閉め忘れたことに気づかずに宝箱を渡した」
「一方、他の宝箱と鍵は封印された、ということですね」
「ああ。この推理が正しければ雷吾さんが大黒真珠を持ってたのも説明がつく。ばあちゃんは病死する前に、この屋敷で療養することになった。その時も屋敷は財政が切迫していた。ばあちゃんが見かねて宝箱に隠していた大黒真珠を渡した。少しでも
「……だから手に入れられた」
「そういうこと」
「それなら麒麟の箱は今どこに?」
霞の質問に快人は再び窓から外を見る。そこにはガラス造りの植物園があった。満開の桜が咲き誇っている。
「『あの思い出の木の下』。ばあちゃんはただの写真を撮った場所のメモとして書いたんだろうけど。偶然ヒントになったんだ」
「……なるほど。あっ、では麒麟の鍵はどちらに?」
快人が膝をかがめて霞と目線を合わせる。
「もう鍵なら揃ってる」
「えっ?」
「ねぇさん、全部の鍵を貸してくれるか?」
「あっ、はい」
霞から鍵を受け取った快人は、四つの鍵を組み合わせていく。
「麒麟は四神を
四つの鍵がカチカチと音を立てて組み合わさっていく。青龍の頭、白虎の足、玄武の体、朱雀の翼、そのすべてが合体した一本の「麒麟の鍵」が完成した。
「……これが麒麟の鍵」
「なんということ……!」
「じゃあ、探しに行ってくる」
「えっ、ではわたくしも……!」
「いや、いいよ。外寒いし俺一人で。見つかったら持ってくるからさ」
「……分かり、ました」
残念そうな霞を置いて、快人は廊下の中庭に続くドアを開いた。
「うお、さびい……」
吹き
「さーて、どこだ?」
不自然なところがないか桜を一周する──一箇所何故か小石が積まれた場所があった。快人はそこから小石を取り除いていく。ある程度掘り出したところで、
「……あった」
目に黄色の石が嵌められた、埋められていたことでボロボロの麒麟の宝箱が出てきた。早速、鍵の柄を挿し回す。開けた中には予想通り、最後のパーツが入っていた。
「全部見つかった」
快人が安堵の笑みを浮かべ宝箱を閉じる──蓋の麒麟の黄色の目に鋭い刃先が映った。
「!」
異変を察知し、横飛びして避ける快人。目の前にあった箱に刃が貫通する。素晴らしい装飾が施されていた宝箱が見る影もない。
「……やっぱりな。こういうタイミングで狙ってくると思ったよ」
快人は素早く体勢を立て直す。
「そうか?」
どこから現れたのか、あの黄金の仮面の男、ジャックは手に持っていたナイフを引き抜くと懐に仕舞う。そして人差し指を立てクルリと回し、快人が持つパーツを指す。
「それじゃあ、それを渡してもらおうか」
「渡すと思うか?」
快人はチラリと渡り廊下の様子を窺う。霞がいなくなっていた。
「……?」
「ならば力強くで手にするまでだ」
迫ってくるジャックに、快人はジャケットからルパンガンナーを取り出し銃口を向ける。
「ほう?」
それを見てジャックがわざとらしく手を挙げた。
「甘く見るなよ。俺は仮面ライダーだ」
「『仮面ライダー』か……」
その言葉を聞いて「ククク」と笑い始める。
「何がおかしい!」
「おかしいさ。やはりお前は『仮面ライダー』と名乗ることしか、資格の無い男。そう思っただけだ。それだけで私の優位に立ったと思っているお前が、おかしくて仕方がない」
ケタケタと
「は?」
「私には時間が無いが……いいだろう。お前が特別だと思っている力は、普遍的で取るに足らない力だと、思い知らせてやる」
ジャックはマントを
「それは……?」
さらにガイスト眼魂を取り出しスイッチを押す。「GE」と文字が浮かぶ。それを手を離すとそれが意志を持つように動き、自らメガドライダーに収まった。
「イエスマイロード」
メガドライダーのガイダンス音が響き、ジャックは垂直に展開し人差し指を快人目掛けて突き出し、その指を目薬の形をしたスイッチに置いた。
「変、身!」
スイッチを押す。一滴の赤い液体が落ち、赤い瞳に染み渡る。
「チョウテンガン! ガイスト! メガドライダー! アイ・キャン・ビー・オール!」
ジャックの全身が黒く染まり、顔がのっぺらぼうのようになった。
メガドライダーからシルクハットを被りマントを羽織る深紅のパーカーゴーストが現れる。ゴーストはジャックの身体に上から覆いかぶさると、のっぺらぼうだった部分に赤く歪んだ笑顔をイメージした顔が現れた。
「アンタ……⁉」
快人は眼魔世界の戦士に驚きを隠せなかった。
「では、名乗らせてもらおうか。我が名はジャック。『真の』怪盗アルティメットルパンにして──『仮面ライダーファントム』だ」
「ガンガンシザース!」
ファントムの手に黄色のラインが入った大きなハサミのような武器、ガンガンシザースが握られる。
「マジかよ……」
相手が変身したことに驚愕する快人に、ファントムがシザースの刃先を向けた。
「さあ、かかってこい」
「……いいぜ、上等だ」
挑発されるがまま快人はルパンガンナーを取り出し銃口を押し込んだ。豪華な変身音が流れ、快人の周囲を映画のスクリーンが舞う。それに流れてくるようにルパンの姿が映った。
「変身!」
「ルパン!」
ルパンガンナーが自らの名を叫ぶ。快人は大きく「L」字を書くように腕を動かした。スクリーンが体に巻き付けば、そこに緑色を基調にした仮面ライダールパンが現れる。
ここに別世界の仮面ライダーが対峙することになった。
「仮面ライダールパン、ここに参上! ……行くぜ!」
ルパンがルパンガンナーを構えて殴りかかる──ファントムはシザースであっさりとそれをいなしてしまった。その後も、ルパンがルパンガンナーで果敢にインファイトで挑むが、ファントムがそれをいなす光景が続く。
「ちっ、おちょくってんのかよ!」
「お前程度に本気を出すほどもないだけだ」
「言うじゃねぇか! 来いブレード!」
ルパンがそう叫ぶとスクリーンの形をした道路を敷きながら後部に刃先が付いた、「ルパンブレードバイラルコア」が手元に来た。それをガンナーの装填部分に挿す。
「チューン・ルパンブレード」
ルパンガンナーをブレードモードに切り替え、振るう。
ルパンはこれまで便利屋での依頼や偶然の遭遇などで、十体近くの怪人達を相手取りいずれも打ち倒してきた。
初めて変身した頃に比べて彼も成長し、決して半端者ではない──はずだが、今回に限っては一撃も与えられていない。どころか相手は積極的に攻撃してこず、大げさに避けて余裕をみせる。一方でルパンの動きもどこかぎこちない。
「なんか、動きずらいな……。くっそ、舐めんなよ!」
痺れを切らしたルパンがガンナーの銃口を強く押し込む。必殺技を放つ気だ。
「アルティメット! ルパンストラッシュ!」
ガイダンス音でブレードに紫色のオーラを纏う。ルパンガンナーを振り下ろした。
「食らえッ!」
紫色の刃がライダー目掛けて一直線に迫り、ファントムがシザースを構えると、いとも簡単に弾き飛ばす。弾かれた紫の刃は桜の
「なっ⁉」
あっさりと必殺技を防がれ、
「思ったよりいい攻撃だった。お返しだ……!」
「クラッシュ! チョウダイテンガン! ガイスト! オメガドライド!」
ファントムは目薬に似たスイッチを押すと、シザースを分離させて二刀流で必殺技を放った。二本の赤黒い煙じみた刃がルパンに直撃した。
「うがぁっ!」
ルパンの体が刃に押されて浮き上がると、植物園のガラスを破り、十数メートル離れた壁に激突する。その衝撃で快人の変身が解け、集めたパーツが地面に散乱した。
「くうっ……!」
快人はどうにか取り返そうと草を千切らんばかりに握りながら、地面を這いずる。対してファントムはシザースを
「なっ⁉」
「さあ、これで仕舞いだ!」
ファントムが生身の快人にシザースを振り上げて、下ろした。
「っ!」
快人は思わず腕でかばって目を閉じる。
ガギン!──甲高い金属音が中庭に響いた。
「……?」
目を開ける。顔の前にはシザースの太刀筋を防ぐ、人丈ほどある大剣の刃。そのまま視線を上げれば、その目に灰色のコートを着て、灰色の長髪を
「……カルサイト⁉」
それはアルセーヌ城にいるはずの灰色の剣士、カルサイトだった。