小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 勝者は、簡単には決まらない。


第12幕 混戦/混乱の果てに

  同日 昼 団藤邸 中庭

 

 カルサイトがクレイオーアを跳ね上げてシザースを弾いた。

「むっ」

 さしものファントムも油断ならない相手と判断して、一旦距離を取る。

「大丈夫か」

 カルサイトがファントムに剣先を突きつけながら快人に声を掛けた。

「えっ、なんで、お前ここに……?」

 予想外の人物が現れたことに対して状況が飲み込めていない。

「私がここまで連れてきたのよ!」

 声がした方を見ると、そこには渡り廊下で肩で荒く息をする海里がいた。

 余談だが彼らはゴルドルパンの他に一台、普段使い用の車を所持している。それに乗ってやってきたのだ。

「海里、なんで……?」

「『なんで?』じゃないわよっ! まる五日(いつか)も連絡寄越さなかったら、心配するに決まってんでしょうが‼」

「『連絡』? ……あっ」

『あっちに着いたら定期的に連絡してよね』

『はいはい。分かった』

 城を離れる前、そんな風に話していたことを今更思い出す。

「悪い! 謎解きに夢中ですっかり忘れてた」

「はぁー……バカ‼」

 呆れ交じりの海里の怒号が飛ぶ中、カルサイトが快人の前に立つ。

「ルパン、ここは私に、任せてもらう」

 快人は壁に手を突きながら立ち上がり頷く。体調が万全ではない以上、ここはカルサイトが任せた方が得策だった。

「あぁ、頼む」

 承諾を得たカルサイトはクレイオーアを地面に突き刺し、コートのポケットから宝石が()めこまれた錠前「ロックオーツ」を取り出した。

「オープン」

 カルサイトはその錠前を逆さになっている大剣の窪みに嵌め、ロックオーツの掛け金の部分を閉じる。

「ロック・カルサイト」

剣成(けんせい)

 体を縦横二メートルの大きな正方形の白い岩が包む。その岩にひびが入り、最後には内側から爆発するように破片が散れば、中から重厚な白色の西洋甲冑姿の剣士「カルサイト・ジュエラー」が現れた。

「カルサイト……見参」

 口上を述べたカルサイトは剣を地面から引き抜いて構える。

「……仕方ない。時間が無いが、少しだけ相手をしてやろう」

 その言葉を気にすることなくカルサイトが力強い足取りでジャックに迫り、大剣を振るう。ファントムはそれに対し素早い剣(さば)きで対応する。

 まだ自らの実力が及ばない戦いを横目に快人はジャケットを探った。その顔に焦燥が浮かぶ。ここでパーツを失くしたことに気づいた。

「ヤバイ、どこだ……」

 慌てて辺りを見回す。

「何してんの……⁉」

 状況がまったく分からない海里が心配して尋ねるが、すぐさま静かにするようにハンドサインを送る。動きを悟られるのはマズかった。

 

 カルサイト対ファントムは苛烈を極めた。どちらも実力者であることもあり、力関係は拮抗(きっこう)していた。

 カルサイトの重い一撃を(かわ)し、ファントムが突きを出すがシザースのリーチがあと一歩届かない。

 絶妙なパワーバランス。それはなんらかの不測の事態が起これば、途端にバランスが崩れることを意味する。

 一旦、二人が距離を取った──ファントムの眼前を光弾が(かす)める。

「くっ……⁉」

 初めて焦ったような声を出した。あのファントムが完全に隙をつかれたからだ。

 この場にいた全員が光弾が飛んできた方向を見る。渡り廊下に、急いだため服を着崩し万全の状態とは言えないものの、顔には怒りの表情を浮かべてエックスマグナムを構えるアリスがいた。

「アリス⁉」

「貴様ぁ‼」

 ところがアリスは完全に頭に血が(のぼ)っており、ファントムに駆け寄りながらマグナムを乱射する。しかし、今はそれが良い陽動になり、ファントムの意識がそちらに向いていた。パーツを探すならば今がチャンスだ。

「……あった!」

 快人が離れた場所に雑草に紛れていた石板を見つける。散らばった拍子に勝手に組み合わさったらしかった。

「くっ、とんだ邪魔を……! ならば……」

 ファントムは懐から大黒真珠を取り出す。すると大黒真珠は黒く輝き、それに合わせて四人の周囲に、(もや)が人の形になったような怪人が取り囲む。

「なっ⁉」

「ギャー! オバケぇ‼」

「行け! 我が配下『眼魔ファントム』!」

 眼魔ファントムはまるでゾンビの様な動きをしながら四人に迫っていく。

 

「あぁ、くそ! どけ、邪魔だ!」

 快人は石板を取りに行くため、邪魔する眼魔ファントムをルパンガンナーで撃ち抜く。体はかなり(もろ)いようで一発で霧散した。

 

「いやー! こっち来ないでぇ‼」

 海里は完全に追いかけっこだ。

 

「ハッ!」

 カルサイトは苦もなく眼魔ファントムを一掃し、ファントムに突貫する。

 

「……嘘、いや、止めて!」

 一人、アリスだけは様子がおかしかった。さっきまでの威勢はどこへか、二体の眼魔ファントムを相手にした途端、膝から崩れ落ちると耳を手で塞ぎ、体を震わせていた。

 それは石板を取りに向かう快人も見ていた。

 中庭は大混乱の様相を呈する。

 

「ハァ!」

 眼魔軍団を切り抜けたカルサイトがファントムに切りかかる。

「くっ!」

 ファントムも片手に大黒真珠を持ってでは、上手く戦えず押され始めた。

「カルサイト! 今だ! 一気に決めろ!」

 その様子を見た快人が激励した。ファントムさえ倒せば、この状況は収まる。そう判断したのだ。

「カルサイト・ロッキング」

 カルサイトがカースジュエリーの錠前を閉じる。

「キャーッ! 助けてぇ!」

 必殺技を放とうとした瞬間、海里の悲鳴が聞こえ、快人とカルサイトの動きが一瞬止まった。

 見れば、海里が眼魔ファントムによって壁際に追い詰められてしまった。

「海里!」

 二人の意識が海里に向く──敵前で隙を見せた。それに気付いたカルサイトが瞬時に目前の相手を見た。

 ファントムがガンガンシザースのスロット部分にガイスト眼魂を装填していた。

「ダイカイガン! オメガスライス!」

 ガンガンシザースから赤黒いオーラの刀身が伸び、カルサイトを吹っ飛ばす。

「ぐっ……⁉」

 カルサイトは衝撃でクレイオーアを手放すと、海里の傍まで吹き飛ばされて元の姿に戻る。

「カルサイト!」

「ルカ様ぁ!」

 快人が心配し、海里が悲鳴に近い声を上げた。なぜならカルサイトにとって快人との一戦以来の強制変身解除だ。なんとか起き上がろうとするところで眼魔ファントムが次々に現れ、体を抑え込み始める。

「ちょ、ちょっと! ルカ様から離れなさいよぉ!」

 海里が勇気を振り絞ってカルサイトから引き剝がそうとするが、多勢に無勢だ。

「あっ! 離して! 離してってばぁ!」

 続いて海里も捕まってしまった。

 一方、持ち主の手から離れたクレイオーアは地面に突き刺さると、弾みでカースジュエリーが吹き飛んでロックが閉じる。それによって内部に充填されていたエネルギーが周囲に放射された──その光は偶然アリスの前の二体を消し去り、膝元に転がる。

「…………」

 アリスは顔を上げるが、まだ呆然としていた。

「あぁ、たっく!」

 その状況を見た快人が悪態をついて再び走り出す。

 今、動けるのは快人しかいない。完成した石板がファントムの手に渡れば終わりだ。眼魔ファントムの拘束を躱し、蹴り飛ばし、撃ち抜き、ひたすら石板に向かって走る。

「させるか!」

 そこでファントムも狙いに気付き眼魂の姿になると、眼魔ファントムを経由して稲妻のように迫る。

 二人の石板までの距離が残り、五メートル、四メートル、三、二、一──。

「うおおおおおおおッ!」

 快人が手を伸ばす。石板は快人──ではなく実体化したファントムの手が先に触れた。

「取った!」

 石板を手に入れたファントムが再び眼魂に変化する。

「!」

 そこで快人がワンテンポ遅れて石板を摑んだ。眼魂が石板を取り込むように変形したことで、快人は眼魂を摑むような恰好になった。眼魂が空に舞い上がると、それと一緒に快人も引っ張られる。

「うわああぁあぁあぁ⁉」

 振り落とすために中庭を縦横無尽に飛ばれ、快人は滅茶苦茶に振り回される。だが、決して手を放さない。逃がさないようにしっかりと握り締める。ここで手を離したら、これまでの苦労がすべて水の泡だ。

「ううぅぅ──っ!」

 今にも落とされそうな快人の目にあるものが映る。眼魂に食い込むように刺さる、一発の弾頭。

 なぜそのような状況になっているのかは分からないが、もし眼魂が本体とするならば。

「くっ……うう……ぉぉおりゃああぁ‼」

 快人は弾頭を指で強く押し込んだ。

「ぐっう……⁉」

 眼魂から苦しむ声がすると、あからさまに動きが(にぶ)った。快人はその反応を見逃さず全体重を掛けて思いっきり引っ張る。

「うおおおおおッ‼」

 下手をすれば九メートルはある高さから落下するかもしれない、無謀で力任せの行動だった。

 そして、散々振り回し、振り回された二人の目の前に迫るのは、窓ガラス。

 ガシャーン!──大きな音と共に、二人が青龍荘の二階の窓を突き破った。

 

 快人は突っ込んだ勢いのままに眼魂を投げ飛ばすと、床をスライディングしながら止まる。対して投げ飛ばされたジャックは人の姿に戻り部屋の壁に叩きつけられた。

「……イテテ……」

 快人がフラフラと立ち上がると、飛び込んだ部屋を見回す。筆記机に大型ベッド、見たところ書斎(しょさい)兼寝室だ。その中で一際目を引くのが、机の後ろに置かれた大きな額縁に入った人物画。そこには快人達の顔とも面影がある人物が描かれていた──団藤霊璽の自画像だった。

 その他、豪華な装飾が施されている室内だが、長年放置された結果、埃だらけで今では見る影もない。

(この人が……団藤、霊璽……か)

 快人が息を整えつつ、先祖である自画像を見る。

 すると意識が戻ったのか、ジャックが壁に手を突きながら立ち上がった。胸の部分を抑え、その口元は怒りで歪んでいる。

「貴様……!」

 快人は黙って仮面越しに睨んでいるであろうジャックを見る。

「……少し手こずったが、貴様の負けだ。今やすべてが我が手中にある」

 薄ら笑いを浮かべると、両手に持った大黒真珠と石板を組み合わせるように見せつける。

「私は勝ったのだ……! ゾルークにも、その子倅である貴様にもな! なんの才も持たぬ貴様に、ルパンの名は(あたい)するまい! 目の前で自分の無力を嘆くがいい! さあ、私の悲願の成就の時だ!」

 ジャックはそう高らかに叫び、二つを合わせた。

 

 時間は少し戻る。快人とジャックがガラスを突き破った直後。

 アリスは呆然としながら雑草だらけの中庭に座り込んでいた。遠目で海里とカルサイトが奮闘している様子が見えるが、完全に上の空のアリスには助けに行くどころか動けそうにもない。

『パパ……ママ……』

 中庭が混沌の極みと化している中、数体の眼魔ファントムがゾンビのような動きでアリスに迫ってくる。

 パン!──その混乱に歯止めを掛けるように一発の破裂音が響いた。辺りを一瞬の静寂が包む。

 その音にアリスは聞き覚えがあった。かつて耳にした音。彼女が少女だった頃、一度聞いた、二度と聞きたくなかった音だ。

 アリスは音が聞こえた青龍荘の窓を虚ろな目で見た。そこには快人の背中が見える──よろめいて窓から落下した。

 状況を推測すれば、何が起こったのかはすぐに分かる。

「お兄ちゃん……いやああああっ‼」

 海里から悲鳴が上がる。

「ルパン!」

 カルサイトが聞いたこともない大きな声を出す。

「……かい、と……? ──っ! 快人‼」

 その光景を見て、我に返ったアリスがバッと立ち上がる。快人はまるでプールの飛び込み台からの飛び込みを失敗したように回転しながら、青龍荘を通る川へ水柱を立てた。

「快人!」

 アリスは傍にあった咄嗟にカースジュエリーを右手で摑むと、左手で迫りくる眼魔ファントムをエックスマグナムで撃退する。

 川に向かいながら海里達を見るが、大量の眼魔ファントムに囲まれて状況が把握できない。どちらにせよ今の状態では救助は不可能だ。

 唇を嚙み締めながら頭を振ると、とにかく前を塞ぐ眼魔ファントムを撃ち抜く。そして、快人のため身を切るような冷たさであろう川の流れに躊躇(ためら)うことなく飛び込んだ。

「お兄ちゃん! お兄ちゃぁん!」

「ぐっ……!」

 海里とカルサイトは眼魔ファントムに押さえつけられ、地面に沈み込みこんでいった。すると、目標がいなくなった眼魔ファントムは一斉に煙のように姿を消す。あれほど混乱していた中庭が一転、静けさに包まれる。

 残ったのは割れた窓から、どこか悔しそうに流れる川を覗き見るジャック一人だけだった。

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