小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 さあ、決着をつけようか。


第17幕 決戦/ルパン対ファントム

  同日 夜 団藤邸 中庭

 

 目の前で爆炎が上がった時、ファントムは仕留めたと思った。

 この爆炎が消えれば、憎き仇敵(きゅうてき)の代わりは死んでいるだろう、と。

 だが違和感があった──手応えがなかったのだ。

 

(あり得ない。あの状態で逃げられるはずがない!)

 

 そう考えた直後、背後に懐かしい感覚がした。

 互いに背中を預け合ったのは一度や二度ではない。忘れ難い気配に、誰なのかは見なくとも見当がつく。

 その想像通り、ファントムの後ろで片膝をついていた快人が立ち上がる。

 ところが顔は快人なのだが、一つ奇妙な点があった。その服装が変わっていたのだ。

 ついさっきまでの現代相応の服ではなく、シルクハットを被り、マントを羽織る──怪盗アルティメット・ルパンの恰好だった。

 

「お兄ちゃん……?」

「ルパン……」

「快人……」

 

 爆発の直後に変装したように見える、快人の一瞬の変わり身に驚く三人。

 そして、快人とファントムの両者が同時に振り向いた。

 明らかに普段と違う雰囲気を放つ快人は、ファントムに対して不敵に笑う。

 

「やあ。久しぶりだな。ジャック」

「ゾルーク……!──っ⁉」

 

 ファントムの変身が()けた。

 理由は簡単だ。ガンガンシザースに()められていた眼魂が()られていたからである。

 

「貴様ぁ……! まさか……!」

「ご明察。お前と同じ手を使わせてもらった」

 

 来蔵は快人が首を切られる寸前に眼魂に吸収し攻撃を避け、爆発が起こった後に、眼魂の世界から飛び出させるとその体に憑依したのだ。

 

「同じ血を持つ者同士、体がよく馴染(なじ)む。それに若いのはいいなぁ! やっぱり人の体が一番だ」

 

 以前、自分のボディとしていたサイバロイドZZZ(スリーゼット)の件も含めて、嬉しそうに何時かの眼魔世界のアバター体との違いについて反論した。

 

「ちっ……。だが、計画が狂った訳ではない! むしろやりやすくなった! 貴様をこの手で始末出来るのだからな!」

 

 ジャックの言葉に来蔵は鼻を鳴らす。

 

「他人に成り代わる名人だった『ジャック・ザ・ファントム』が、今じゃ他人の体を借りなきゃまともに動けないとは皮肉だな」

「黙れ! 今日こそが、貴様の命日だ‼」

 

 怒髪衝天(どうはつしょうてん)したジャックはガイスト眼魂を取り出し、メガドライダーに装填する。

 

「来るぞ。快人、やれるな?」

 

 その言葉で一瞬(うつむ)くと顔を上げる。元の快人の雰囲気に戻っている。

 

「あぁ! 俺たちの……ルパンの本気、見せてやるぜ!」

 

 祖父、来蔵の力が(こも)った眼魂を突きつけると横のスイッチを押した。「L」の字が浮かぶ。

 メガドライダーとルパン眼魂から真紅のパーカーゴーストが現れ、激しくぶつかり合う。

 数度の激突の末、互いに力を与える戦士の頭上に位置取る。

 この時、ルパンゴーストが決めポーズを取った──隣で仮面ライダールパンの幻影が現れた気がした。

 

「変身!」

「変、身!」

 

 二人の戦士の掛け声が重なった。

 ジャックはメガドライダーを操作する。

 快人はルパンガンナーの銃口を押し込む。いつもと違いスクリーンが空高く伸びていくと、快人がルパンに変身する最中(さなか)、スクリーンにルパンゴーストが入り込む。

 

「ルパン!」

「チョウテンガン! ガイスト! メガドライダー! アイ・キャン・ビー・オール!」

 

 ガイストは素体状態のファントムに。ルパンはスクリーンを流れるように緑色のルパンに、覆い被さる。

 新緑の地味だったルパンが、宝石が散りばめられた真紅のルパンへと姿を変える。かつて祖父が変身していた姿そのものだった。

 

「仮面ライダールパン、ここに参上」

 

 ルパンが口上と共にルパンガンナーを振るうと、背中からマントが現れてはためく。

 数十年の時を超え、仮面ライダーファントムと本来の力を取り戻した仮面ライダールパンが対峙した。

 

「お兄ちゃん!」

「ん?」

 

 戦いが始まろうとしたところで、三人が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫⁉︎」

「おっ、海里か。久しぶりだな」

「えっ、おじいちゃん⁉︎」

「そうだぞ」

 

 ルパンが海里の頭を()でる。

 どうやら今は来蔵が体の主導権を握っているようだ。そして、三人を見渡すと頷いた。

 

「感動の再会、と言いたいところだが。奴を止めてからでも遅くないだろう」

 

 その言葉に三人が頷く。

 カルサイトは地面に突き刺さったままだったクレイオーアを引き抜く。そこでアリスから「これ」とロックオーツを投げ渡され、キャッチする。

 そのままアリスとカルサイトがルパンの両隣に──海里はその後ろに隠れる──並び立った。

 

「愚かな! 今更、何をしようがもう遅い!」

 

 対してファントムは懐から大黒真珠と四つの石版を組み合わせる──一つの大きな眼魂になった。

 

「見せてやろう! 団藤霊璽が心血を(そそ)ぎ作り上げた巨大眼魂の力を!」

 

 ファントムが空高く(かか)げると、空でグルグルと渦を巻いていた数多(あまた)の霊魂が眼魔ファントムに姿を変え、屋敷の至る所に降り立ち埋め尽くす。

 

「うひゃあ⁉ いっぱい出たぁ⁉」

 

 アリスがエックスマグナム、カルサイトがクレイオーアを構える──それをルパンが(せい)する。

 

「待て。あれは本命じゃない」

「その通り、ここからが本番だ!」

 

 ファントムは巨大眼魂の側面のスイッチを押すと天高く投げた。

 巨大眼魂は黒いオーラを(まと)うと、それにまとわりつくように地上にいるすべての眼魔ファントムが融合していく。

 そして、身長が九メートルはあろうかという、規格外の青銅の鎧と鉄塔のような槍を持つ怪物「巨人眼魔」へと変貌した。

 

「うわわ! 嘘でしょ⁉」

「……ゾルーク。あの巨人は私たちに任せて」

 

 アリスがルパンに声を掛ける。

 

「いいのか?」

「えぇ。両親との遺恨(いこん)は快人が振り払ってくれた。今度は私が借りを返す番。『例のアレ』を使うわ」

「完成させてたのか?」

「もちろん。私を誰だと思ってるの? 怪盗アルティメット・ルパン専属のエンジニアよ。だからゾルークは思う存分、アイツとのケリをつけて」

 

 ルパンはかつてとは違うアリスの力強い言葉に──仮面越しではっきりとは分からない──嬉しそうに頷いた。

 

「流石、俺の一番弟子だ。頼んだぞ」

「えぇ。イライザ、こっちよ!」

 

 アリスが呼ぶと、ゴルドルパンが渡り廊下の屋根を飛び越えて、四人の前に停車する。

 

「……ねぇ、今、この車ジャンプしなかった……?」

「はいはい。乗って乗って」

「えっ……私も行くのぉ⁉︎」

 

 まさか自分も戦うことになるとは思わなかったのだろう、嫌がる海里を助手席に押し込む。

 その間にカルサイトがクレイオーアにロックオーツに嵌める。

 

「オープン・ロック・カルサイト」

「剣成」

 

 カルサイト・カースジュエリーに姿を変えた。

 

「どこか懐かしい景色だな」

 

 仮面ライダーではない戦士に、仮面ライダー専用の車両。これらの景色に見覚えがあったのだろう、ルパンが懐かしんでいる。

 

「グオォオオオオ!」

「ふんっ」

 

 カルサイトは巨人眼魔が持つ槍による強烈な突きを弾きながら、腕や足を数度切りつける。

 だが平然としているのを確認するとゴルドルパンのルーフに軽々と飛び乗り、拳でコンコンと叩く。

 

「私の攻撃が効かない。だが、車の守りなら任せろ」

「OK! 飛ばすわよ!」

「噓でしょおぉぉぉ……!」

 

 ゴルドルパンは巨人眼魔をルパンとファントムから引き剥がすために、再び渡り廊下の屋根を越える。

 巨人眼魔は思惑通りそちらに狙いを定めたらしく、槍を突き刺しながら追いかけていく。

 

 中庭にいるルパン達からは渡り廊下の窓越しに、後部の八連装のガトリングを出したゴルドルパンが巨人眼魔目掛けて弾丸を放つのが見える。

 

「頼もしい仲間たちだな。快人」

「あぁ。そうだな」

「ゾルーク!」

「おっと、忘れるところだったよ。ジャック。それじゃあ俺たちも始めるか」

「あぁ。待たせたな。真打ち登場だぜ!」

 

 意気込むルパンに対してファントムはガンガンシザースを取り出し、二刀流で構える。

 

「ズタズタに引き裂いてくれる!」

「そいつは、無理だな」

「チューン・ルパンフック」

 

 緑色の(かぎ)付きのルパンビーグル「フックロー」をルパンガンナーに装填し撃ち出すと、ガンガンシザースに巻きつけると遠くへ投げ飛ばす。

 

「なっ⁉」

「快人。相手に攻撃することだけを考えるのではなく、攻撃手段、方法を奪うことも考えろ」

「小(しゃく)な!」

 

 武器がなくなったためインファイトに切り替えたファントムの攻撃をルパンは事もなげに避ける。

 

「チューン・ルパンフラッシュ」

 

 その最中に黄色の「フラッシュパーク」に変えてつまみを(いじ)ると、ファントムの顔めがけて強烈なフラッシュを焚いた。

 

「ぐわぁ⁉」

「電撃だけじゃなく、目くらましも十分な攻撃だ。さらに」

「チューン・ルパンスモーク」

 

 桃色の「モクモスモーク」に変え、顔面に黒煙をぶちまける。

 

「ぶはっ⁉ 前が、見えん⁉」

「波状攻撃は相手を混乱させられる。次は強烈だぞ」

「チューン・ルパンオープナー」

 

 赤色の「ロックオープナー」のドリル攻撃を腹部に叩き込まれ吹き飛ばされる。

 

「ぐうぅぅうあああぁぁっ⁉」

「まあ、これは言わずもがな、だな」

「チューン・ルパンミラー」

 

 青色の「ミラーマジシャン」をあえて自分に向けて引き金を引く。続けてばら撒くように撃ち出すとファントムの周囲に数体のルパンが現れた。

 

「これを使えば自分を複製できる。さて、どれが本物か分かるかな?」

 

 すべてのルパンが同じ声色で話す。覚束ない状態のファントムは目についたルパンに攻撃するが、どれもハズレだった。

 

「何処だ! 何処だ! ゾルーク‼」

「ここだよ」

 

 呼びかけにファントムは上を見ると、青龍荘の窓枠に座るルパンの姿があった。

 

「ゾルークぅぅ‼」

「クラッシュ! チョウダイテンガン! ガイスト! オメガドライド!」

 

 ファントムは雄叫(おたけ)びを上げながら、メガドライダーを操作し眼魂へと姿を変え、ルパン目掛けて突貫する。ファントムが得意とする瞬間移動による攻撃だ。

 

「小さい相手や見えない相手の時には」

「チューン・ルパンスコープ」

 

 だがルパンは落ち着いた様子で、白色の「スペシャルスコープ」のスコープ部分を覗く。眼魂の軌跡がハッキリと映った。

 

「そこだ」

 

 引き金を引くと見事に眼魂に弾丸が直撃し、ファントムは地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅわぁっ⁉︎」

「どうかな? これがルパンの戦い方の一つだ。参考になればこれ幸い」

「すげぇ……。じいちゃん、よくアイツら(ルパンビーグル)を扱えるな」

「当然だ。誰のために作ったと思ってる。よっと」

 

 ルパンが音を立てずに地面に降り立つのに対して、ファントムが這いずりながら(うな)る。

 

「何故だ……何故! 私は、お前に勝てない⁉」

 

 快人の時には一方的だったにも関わらず、それを歯牙(しが)にも掛けない強さに、ファントムが地面を殴って怒りを(あらわ)にする。

 

「知りたいなら教えてやろう。それはお前が人間の、そして怪盗の力を(あなど)ったからだ」

 

 ルパンは冷静に言い放つ。

 

「だ、だが、特製の眼魂を使った巨人眼魔は違うはずだ……! 貴様の矮小(わいしょう)な仲間など、簡単にひねり潰すだろう……!」

「どうかな? 向こうも佳境のようだが?」

「な、何?」

 

 ルパンの言葉にファントムはそちらの様子を見ると、驚きの光景が広がっていた。

 

 ガトリングを撃ちまくるゴルドルパンの横スレスレを槍が刺さる。

 

「うひゃあ⁉︎ 刺さる刺さるぅ‼」

「まだ、大丈夫!」

 

 アリスは見事なハンドル(さば)きで、次々と降り注ぐ槍を避け続ける。

 すると巨人眼魔が業を煮やしたのか、空高くジャンプし目の前に着地した。

 

「うわぁ! 足ぃ⁉」

「ちっ!」

 

 流石に避けきれずに激突し、停まってしまう。

 そこを待ってましたと言わんばかりに、巨人眼魔が両手で槍を持ち振りかぶった。

 

「いやあぁ‼ 来るぅ!」

「カルサイト・ロッキング」

「ふん!」

 

 間一髪のところでルーフにいたカルサイトが必殺技を放ち、攻撃地点をわずかにずらした。

 その隙にアリスが急いでアクセルを踏み込み、急発進させる。

 

「……流石に、これが続けば厳しい。何か手はないか」

 

 カルサイトが座席の二人に声を掛けると、アリスが笑った。

 

「あるわよ! とっておきが! イライザやるわよ!」

「命令を承認しました。制限解除」

 

 アリスはモニターを操作し「HUMANMODE」と書かれた画面をタッチする。

 

「えっ……なになになに⁉」

 

 ゴルドルパンの運転席が分離し反転して胴体に。後部が立ち上がると分割(ぶんかつ)し足に変形。前輪部分が胴体部と合体してそこから腕が現れると、右手にガトリングが装着される。最後にシルクハットを被ったような頭が運転席の上部に形成される──五メートルほどの大きさの人型ロボット「ゴルドルパン・ヒューマンモード」に変形した。

 

「ロボットになったぁ!……うわぁ、コックピットみたい……」

「スピードでは劣るけど、機動性ならこっちが上よ。海里ちゃん、ガトリングの操作を頼める?」

 

 海里の目の前に──ターンシグナルスイッチとワイパースイッチが合体した──照準器付きの操縦(かん)が出てくる。

 恐る恐るそれを握る海里。

 

「えっ、私が撃つんですか……?」

「大丈夫、イライザが狙ってくれるから、後は……恐いものをぶっ飛ばしちゃいなさい!」

「は、はいっ!」

 

 海里は言われるがまま操縦桿のスイッチを押し続ける。

 ガトリングが巨人眼魔の鎧を少しずつ削り取る──化けていた眼魔ファントム達がボロボロと落ちるのを、カルサイトが次々と斬り捨て消滅させていく。

 

「あっ、結構楽しいかも! それに意外と(もろ)い?」

「いえ、ちょっと待って。あれを見て」

 

 鎧の欠けた部分に別の眼魔ファントムが張り付くと、鎧を復元してしまった。

 

「巨大怪人は自己修復が可能な模様です。体を構成する本体を破壊、もしくは摘出しない限り、撃破は困難でしょう」

 

 イライザの的確な解説に海里が困り果てた顔をする。

 

「えぇ、修復しちゃう、ってどうすればいいの。大体、本体って何処よぉ?」

「お待ちください……。巨大怪人の頭部辺りに強大なエネルギーの発生源を探知しました」

「ホント⁉」

「頭目掛けて攻撃すればなんとかなるかもしれないわ」

 

 試しに巨人眼魔の周囲を周りながらガトリングで頭を狙ってみるが、兜に邪魔され破壊してもすぐに修復してしまう。

 

「どうしようやっぱり直っちゃう!」

「なら……私をあの巨人の頭の近くまで、送ってくれないか」

「えっ。ルカ様、どういうことですか?」

「近づけさえすれば私に搭載された解析機能で正確な地点を割り出せば、本体へ攻撃出来るはずだ」

 

 カルサイトの提案に海里は驚きつつ、アリスは運転しながら思考を巡らせている。

 

「でも、どうすればあそこまで届くんだろう……」

「……イライザ、ガトリングの弾をエネルギーに変換して射出出来る?」

「はい。ゴルドルパンの動力源である電力を使用すれば可能です」

「嘘! やったぁ!」

「ですが、ヒューマンモードの維持に電力を大幅に使用しているため、このまま射出しても計算上届きません」

「えぇ、そんなぁ……」

 

 あと一歩の所で計画が上手くいかないことに肩を落とす海里。

 

「ちょっと待って」

 

 そこでアリスがハッとした表情を浮かべる。

 

「海里ちゃんはダビデっていう偉人を知ってる?」

「『ダビデ』? 聞いたことはあるような」

「詳細は省くけど、羊飼いだったダビデは敵軍にいた大男のゴリアテを倒したの」

「その話……今の状況とそっくり!」

「そう。そして、方法は投石器。簡単に言えばパチンコね」

「じゃあ当てはめると、投石器はガトリングで。その石は……」

「あの子ね」

 

 コックピットの二人から目線を送られたカルサイトは、意図を汲み無言でロックオーツを操作する。

 

「カルサイト・ロッキング」

 

 灰色のオーラを全身に纏いながらガトリング部分にぶら下がった。

 

「さあ、チャンスはきっと一度きり。準備はいい?」

「うん。OKです!」

 

 掛け声と共にゴルドルパンは光を集中させるガトリングを構えながら、腰の駆動部分で回転を始めた。

 

 人型になったゴルドルパンの行動にファントムが狼狽(うろた)える。

 

「なんだアレは……⁉ な、何をする気だ⁉︎」

「人は弱くない。相手が巨人だろうが、強敵だろうが、諦めず知恵を出せば、どんな苦境も乗り越えられるのさ。さあ俺たちも終わらせるぞ」

「チューン・ルパンブレード」

 

 ルパンブレードバイラルコアを装填し、銃口を押し込もうとした。

 

「ま、待て! 私を倒せば、この娘もタダでは済まんぞ!」

 

 体から依代(よりしろ)にしていた霞を取り出すように見せる。

 その行動にルパンは焦って動きを止めてしまう。

 

「じいちゃん……! ねぇさんが!」

「落ち着け快人。自分の可能性を信じろ。こんな場面はこれからいくらでも来る。その時、道具が必ず手元にあるとは限らない。最後に信じられるのは自分自身だ」

 

 来蔵の言う通り、常に万全である保証はない。問題はそれをどう切り抜けるか。

 

「イメージしろ。今回なら囚われた宝を救い出すイメージを、な」

「……分かった。やってみる」

 

 来蔵の言葉に、快人は素直に従うと目を閉じて考える。霞を取り戻すための方法を。

 

(『囚われた宝』。そうだルパンには強みがある。何にも変えられない強みが)

「……見えたぜ」

「何をごちゃごちゃと! なっ⁉︎ ぐっ⁉︎」

 

 迫ってくるファントムに、ルパンは静かに右手でボディから生成したスクリーンを展開し、その体を拘束する。

 

「さあ、この長くなりすぎたショーの幕を引くとしようか!」

 

 ゴルドルパンは巨人眼魔の槍攻撃を潜り抜けつつ、狙い撃てる場所を探しながら腰の駆動部分の回転速度を上げていく。

 

「目が、目が回りそう……!」

「頑張って! 海里ちゃんは照準器だけを見ていて!」

 

 アリスも滅茶苦茶な状況で運転しているため肉体的に限界が近い。

 外ではガトリングに摑まるカルサイトの体が遠心力によって浮き上がる。

 

「電力の低下、ガトリング部分の異常重量を検知」

「お願い()って!」

 

 アリスは左手をガトリングに添えるように操作し、どうにか角度を保つ。

 ピッ──照準器に一瞬反応が出た。

 

「あっ」

 

 その後も反応が出始める。後はそのタイミングで撃つだけだ。

 海里は操縦桿を握る手に力を込める。

 

(大丈夫……上手くいく。上手くいく。私なら出来る。私なら出来る!)

 

 自己暗示を掛けながら海里は叫んだ。

 

「ルカ様! カウントダウンしたら撃ちます!」

 

 振り回されながらも声は届いたのかカルサイトが海里を見た。

 ハッキリとは見えずとも、どことなく通じ合う二人は発射準備に掛かる。

 

「ルパンの真骨頂を見せてやる!」

 

 ルパンガンナーの銃口を押し込む。

 

「アルティメット!」

 

 ルパンが半月を背に空高く舞うと、ファントムを拘束するスクリーンもそれに追随(ついずい)する――横から見ればルパンをスクリーンに投影しているような形だ。

 

「盗み出すのは」

「俺たち怪盗の」

「専売特許だ! はぁあああああぁぁぁぁ!!」

 

 二人は息を合わせ、右手でマントを広げながら──上から見れば「L」の字を書き──ファントム目掛けて左足の飛び蹴りを繰り出した。

 

「ルパンストラッシュ!」

 

 海里が自分の感覚を信じて秒読みを開始する。

 

「……三、二、一──ゼロ!」

 

 カウントゼロと同時に引き金を引く。合わせてカルサイトが発射口に飛び乗った。

 ガトリングからカルサイトを乗せた光線が放たれる。

 黄色と鈍色、二色の光は一直線に巨人眼魔の額へと伸びていく。

 

「いっけぇえええええええ!」

 

 アリスと海里の想いが詰まった声が辺りに響き渡る。

 

 時間にして一秒もなかったかもしれない。スクリーンを早回しするようにして、ルパンの強烈なキックがファントムの胸に突き刺さる。

 ガトリングの電気光線は途中で消えたものの、勢いそのままの鈍色に輝く岩石となったカルサイトが巨人眼魔の額を打ち抜く。

 

 キックが当たった瞬間、ルパンの視界が純白の精神世界に切り替わる。

 快人の想いにルパンに新たな能力──本体を盗み出す力──が開花したのだ。

 そして、そこには一人で(うずく)まる霞の姿が見えた。

 

「霞ねぇさん!」

 

 ルパンが声を掛けると、霞はハッとした様子でルパンを見る。

 

「快人様……?」

「手を伸ばせ!」

「……快人様!」

 

 ルパンが手を伸ばすと、霞はその手を摑む──ファントムをすり抜けるようにして、ルパンが依代になっていた霞を抱えて現実世界に戻ってきた。

 

「宝は確かにいただいた」

 

 ガツン!──兜を形作っていた眼魔ファントム達を弾き飛ばすと、その中央から黒いオーラに守られた巨大眼魂が姿を見せた。

 

「はぁっ!」

 

 カルサイトがすかさずクレイオーアを大きく振りかぶり、巨大眼魂に叩きつけた。

 

「だぁっ!」

 

 そのまま振り抜くと、巨大眼魂の黒いオーラが砕け、隕石の如く中庭の地面に墜落する。

 本体を失った眼魔ファントム達は急速に力を失うと再び霊魂へと戻ると、空を漂い始めた。

 そして大役を勤めきったカルサイトは地面に──深さ三メートルほどのクレーターを作り──着地した。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 霧散していく巨人眼魔を横目にファントムは崩れ落ちると、爆散した。

 

「やったな。じいちゃん」

「あぁ、やっと……終わったな」

 

 二人が勝利を確信していると、団藤邸の外側から三人の──主に海里の──歓声が響いてきた。

 

「あの三人もよく頑張ってくれた」

 

 ルパンが(ねぎら)う中、爆炎が消え去るとボロボロになったジャックが倒れている。

 

「かはっ……! わ、たしに、は……じ、かんが……」

 

 そこまで言ったところでグッタリとして力尽きた。

 

「……アイツ、よくあのセリフを言うけど……どういう意味なんだ?」

 

 救い出したものの気を失ったままの霞を植物園の中に寝かせながら、快人が尋ねる。

 

「そいつは……きっと──」

 

 来蔵が答えようとして、突然黙り込んだ。

 

「ん? じいちゃん、どうしたんだ?」

「なんだこの気配は……?」

 

 そこでふと周りを見ていた快人が先に異変に気づく。

 

「っ⁉︎ じいちゃん! あれ!」

「……なんだ、一体どうなってる……?」

 

 ルパンの目線の先には、巨大眼魂が一人でに地面から離れ浮かび上がり、次々に空に漂っていた霊魂を取り込む――巨大眼魂を中心に人型を形成していく。

 

「どういうことだ……? ジャックはアレを使って、確実にクラリスを復活させる気だったんじゃないのか?」

「じゃあ、あれは、ばあちゃん……?」

「違う、眼魂になった今の俺なら分かる。あれはクラリスの気配なんかじゃない。あの異様な気配は……」

 

 二人が話し合う間にも、巨大眼魂は速度を上げて霊魂を吸収していく。その度にシルエットが濃くなる。そして顔がハッキリと形作られた時、来蔵は驚きを隠せなかった。

 

「まさか……あり得ない……あの()は……!」

 

 その男は眩しそうに目を開くと、続けて自身の体をゆっくりと見回す。そして、頭を抱えながら狂ったように笑い出した。

 

「くっ……くははは! ついに、ついにやったぞぉ! 私はやり遂げた‼︎ 死を超越したのだ‼︎」

 

 その人物とは腰に巨大眼魂型ベルト「アイコンドライバー(アイ)」を巻いた──七十年近く前に失踪したはずの団藤霊璽だった。

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