小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 戻ってくるのは災厄だけとは限らない。



第18幕 復活/戻ってきた男

  十二月二十二日 深夜 団藤邸 中庭

 

 激しい戦いの末、時刻は気づけば草木も眠る(うし)三つ時に迫っていた。

 古来から幽霊や物の怪が活発になる時間とは言うが、本当にそうなるとは誰も想像出来なかっただろう。

 しかも相手が失踪したはずの人物とあれば尚更だ。

 

「団藤、霊璽……!」

「何⁉︎」

「度重なる実験の末、ついに完成した眼魂に自らが取り込まれた時は絶望した。だが、天は私を見放さなかった! 私を現世へと送り戻したのだ!」

 

 演説のように語る団藤は笑いながら、時折目を押さえている。目を(またた)かせるところを見ると、本調子ではないようだ。

 

「くっ……(なが)常世(とこよ)に居たせいか。目がよく見えない……。ここは……ここはどこだ……屋敷の、庭か? ははは! いいぞ、ますます都合がいい! 私の眼魂の力を発現せし時だ!」

「おい、アンタ何する気だ⁉︎」

 

 だがルパンの言葉は耳に入っていないらしく、団藤はたどたどしい手つきでアイコンドライバーIの横のボタンを押した。

 その瞬間、まだ吸収されていなかった霊魂が植物園の桜を中心にして、竜巻のような渦を作りながら続々とドライバーに入っていく。

 

「いいぞ! 霊力によって生命力が(みなぎ)るのを感じる! 私の構想通りだ! これで私は生と死を(つかさど)る存在となるのだ!」

「なんだ――ってぇぇ⁉︎」

「マズイ! 俺まで……!」

 

 来蔵が危機を感じた時には遅かった。

 ルパンの体からルパンゴーストが無理矢理引き剥がされた挙句、変身と憑依が()けた──元の快人に戻る。

 この時、被っていたシルクハットが風で巻き上げられ、どこかに飛んでいく。

 

「じいちゃん!」

 

 快人が咄嗟に手を伸ばすが届くはずもなく、ルパンゴーストはそのまま渦に巻き込まれていった。

 

「どうすれば──イッテェ!」

 

 屋敷から剥がれた瓦礫(がれき)や地面の石(つぶて)が体に叩きつけられ、地面を転がる快人。

 

「いいぞ……! 目に光が戻ってきた……!」

 

 一方、その間も渦の中心にいる団藤は愉悦に浸りながら、体に五感が戻るのを感じていた。

 

「そうだ、鍵は……鍵はどこだ?」

(鍵? あっ、四神の鍵! そういえばどこやった⁉︎)

 

 団藤の言葉に快人は慌ててポケットの中を探るが見当たらない。

 麒麟の箱を開けて以来、どうなったかは不明だ。

 

「まあいい。私に超常の力が(そな)わったのであれば……」

 

 団藤は何もなしに空中に浮き上がると植物園のガラスの上──桜の真上──に降り立った。

 

「やはり! 空中浮遊が可能ならば、念力もまた可能のはず! さあ、四神の鍵よ来たれ!」

 

 団藤の声に呼応するように、行方不明だった麒麟の鍵があっさりと現れ、その手に収まる。感触を確かめるように触ると首を傾げた。

 

「ん? なぜ麒麟の鍵になっている? 四つに分けていたはずだが……。まあいい! 今こそ、屋敷に仕掛けた巨大からくりを稼働させる時だ!」

「『巨大からくり』……⁉︎」

 

 快人が石や破片にぶつからないように伏せている中、団藤が意気揚々と鍵を投げると空を飛び、青龍荘二階の窓から書斎に入ると自身の自画像に取り付けられていた鍵穴に挿さり、鍵が回った。

 どこからともなく地響きのような音が聞こえてくる。

 

(地震……⁉ いや、違う……これは歯車の音か?)

 

 それに合わせて窓ガラスが割れる音がする。

 見れば、なんと屋敷が渡り廊下を収納しながら、四つの邸宅が合体するために地面を擦りながら迫ってくる。

 

「嘘だろ⁉︎ 屋敷が動いてる──うわあっ⁉︎」

 

 立ち上がって逃げようとしたところで、さらに勢いを増していた渦が直撃し、快人は邸宅の壁に叩きつけられる。

 その(はず)みでルパンガンナーが手から弾き飛ばされ、渡り廊下を越えて屋敷の外側に落ちた。

 

「……いや、それはマズイって! 待て! 閉まるな!」

 

 だが無情にも快人の目の前で、唯一開いていた窓が壁となった邸宅によって閉ざされた。

 

「一体どうすりゃ──っ!」

 

 さらに危機は続く。振り返れば植物園のガラス壁がすぐそこにあった。このままでは押し潰されてしまう。

 

「ああっ! ちくしょう! フン! ハッ!」

 

 快人は素早い身のこなしで壁蹴りをして──ガラス窓を突き破り──植物園の中に入る。ともかく間一髪で挟まれずに済んだ。

 一方で組み合わさった団藤邸は、上から見るとアイコンドライバーIを拡大したような形になった。元々、こうなるように設計していたようである。

 

(危ねぇ……)

 

 快人は一息つくと服に付いたガラス片を払いながら立ち上がる。

 

(そういえば霞ねぇさんは?)

 

 寝かせていた辺りを見るが見当たらない。騒ぎの最中に気がついて逃げたのだろうか。

 

(無事だといいけどな……)

 

 それよりも今は自分の心配をしなければならない。完全に植物園に閉じ込められてしまった。頭上では団藤が計画の成功に高笑いを上げている。

 

「一体、どうすりゃ……ん?」

 

 ポケットに入れていた電話が震える。画面を見れば海里からの動画通話だ。

 

「もしもし?」

『お兄ちゃん⁉︎ 大丈夫⁉︎』

「生きてる、って意味ならな」

『今、そっちはどうなってるの?」

「さあな。生き返ったご先祖様が頭の上で笑ってるよ」

『そうなの⁉︎』

「そっちからは見えないのか?」

『なんていうか……ものすごく高い黒い風の壁みたいなのが出来ちゃってて。アリスさんとルカ様がなんとかしようとしてるけど……』

 

 画面を切り替える。二人の前には霊体の渦が立ち塞がっている。

 どうやら渦は完全に屋敷を(おお)っているようだ。

 

『カルサイト・ロッキング』

『ボム・マキシマムドライブ!』

 

 二人が攻撃を仕掛けるが穴が開く気配もない。この様子では援軍は期待出来ないだろう。

 

「はぁ。俺がなんとかするしかないか」

『そうみたい──ところでお兄ちゃん。後ろのそれ何?』

「何って、桜だろ?」

 

 そこにはこの状況でも変わらずに咲き乱れる桜があった。

 

『そうだけど……中に何か金属みたいなの見えない?』

「えっ?」

 

 海里の指摘でよく桜を見てみると、先の戦いで傷が入ったのか中身が見えた──中は空洞になっていたのだ。

 

「なんだこれ……?」

 

 不思議に思った快人が試しに一枝折ってみると、枝から花まですべてナイロンで出来ていた。

 

「……コイツは桜じゃない、丸々一本の造花(ぞうか)だ」

『えっ、作り物ってこと⁉︎』

「だから一年中枯れずに咲き続けてた訳だ。でもなんのために──ん?」

 

 そして問題の金属物は木の中心を通すように建てられた真っ直ぐな一本柱だった。

 

『なんだか避雷針みたい』

「避雷針……ここら一帯の幽霊を引っ張り出したのはコイツか。……避雷針の周りに何か書いてある。こいつは曼荼羅(まんだら)か?」

『……なんだろうね」

 

 再び海里の顔に画面が切り替わる。

 

『それはともかく。お兄ちゃんに渡──』

 

 携帯の液晶がブラックアウトした。

 

「おい、海里どうした。なんで──充電切れ?」

 

 画面に充電マークが表示され、電源がつかなくなっていた。

 

「お兄ちゃん? えっ、充電切れ⁉︎ 嘘! 今日満タンに、してきた、はず……あれ、なんだか、からだ、が……」

 

 海里も異変に気がついたようだが、気を失うように倒れる。

 海里だけではない、アリスもカルサイトも苦しそうな表情で倒れ伏す。

 

「気づかなかった、だけで、私たちも、生命力を、吸われていたのね……」

「私も、エネルギーぎれ、だ……」

 

 三人が次々に倒れていく中、何故か平然としている快人は足元に違和感を感じた──何かぶつかっている。

 

「なんだこれ?」

 

 拾い上げると、それは黒色のフォーミュラカーだった。ウィング部分に名前が書かれていた。

 

「『ボイストランサー』? 海里が言いかけてたのって、これのことか?」

「よろしい! もう十分に霊力は集まっただろう! 時は来たれり! 人が神の(いき)に達するのだ!」

「あっ、マズイ! 忘れてた!」

 

 快人達がいろんなことに気を取られている間に、団藤の準備が完了したらしい。

 

「超、越!」

 

 団藤が口上を述べると再びアイコンドライバーIのボタンを押し込んだ。

 

「タンカイガン!」

 

 快人の傍にある地面の曼荼羅を中心に団藤家の家紋の形で光の筋が浮かび上がる。

 

「これは……目の紋章?」

 

 するとその光が避雷針に集まり、まばゆい光が桜を貫き──アイコンドライバーIの眼球部分を模した植物園の天窓から──一気に空に向かって放たれた。

 外側で倒れている海里達にも空に伸びる一筋の光を目撃した。それは夜空を照らすと、空中にも似通った曼荼羅が現れた──そこから六枚の羽が生えた目が姿を見せる。

 

「なに、あれ……羽が、生えた、目……?」

「おお! あれこそが眼魔世界に君臨せし神、グレートアイかっ!」

「グレート、アイ……?」

 

 唯一、眼魔世界について精通している団藤が喜びを(あらわ)にする。

 ところがグレートアイは一目見ただけで気が済んだのか元の紋章から戻っていく。変わりにその曼荼羅にも目の紋章が付け足されるように浮かび上がった。

 天と地に目が開いたのだ。

 途端に快人の足元にある紋章が入った地面が大きく揺れ始める。

 

「なんだか嫌な予感がする……! おぅわぁ⁉︎」

 

 突然、地面に大きな穴が開き快人は──誰かの手に引っ張られるような恰好で──落ちた。

 その瞬間、天と地の紋章が互いに引き寄せられていく。

 

「くははは! 眼魔世界の神よ! 私に更なる力を!」

 

 団藤はそれを躊躇(ためら)いなく迎え入れる──団藤の体が二つの目に挟まれた時、そこには真鍮(しんちゅう)のような肉体に無数の目のマークが入った、顔の無い怪人が顕現(けんげん)した。そして仕上げとばかりに胸が裂け、顔ではなくそこに血走ったような真紅の単眼が開き、ギョロギョロと見回す。

 

「モノアイザー!」

 

 神とも怪人とも区別のつかない名が読み上げられた瞬間、モノアイザーから衝撃波が発生し屋敷全体が吹き飛び、そこにあったすべてが瓦礫の山と化す。

 地球の人間の手によって眼魔世界由来の魔神が誕生してしまったのだ。

 

「……イテテ。ヤバいぞ……」

 

 どうやら大穴が秘密の地下室に通じていたらしく、上手く落下していた快人が今の状況に焦りを見せる。

 ドスン!──その時、壁の瓦礫がすぐ目の前に落ちた。そのまま快人目掛けて倒れてくる。

 

「ヤベっ!」

 

 咄嗟に手を伸ばし押し戻そうとするが流石に重いのだろう、退()かすどころか支えるだけで精一杯だ。それでもなんとか隙間を作って抜け出そうとする。

 

『なんだ? あの小僧は? 私の屋敷に無断で入るとは不届き者め! 目(ざわ)りだ、消え失せるがいい!』

 

 四苦八苦している快人を侵入者と判断したモノアイザーの手から眼魂の形をした光弾が現れ、容赦なく快人目掛けて放った。

 

「ヤバい……!──うっ⁉」

 

 どうにか隙間から抜け出せた快人の目の前に光弾が迫る──瞬間、誰かに体当たりされて地面に倒れ込んだ。何事かと快人が振り返ると、そこには。

 

「アンタ……」

「霊璽……見損なったぞ。クラリスと……ゾルークの孫にまで手を掛けようとするとはな……」

 

 快人の窮地(きゅうち)を救ったのは、敗れてボロボロの姿のままのジャックだった。光弾によって胸に空洞が開き、そこから本体である眼魂が見えた。至る所にヒビが入っており、限界が近いことが分かった。

 

『見たか! 下郎め! 私の屋敷に足を踏み入れた罰だ!』

「……友である私のことも分からないとは……。七十年前から、もう正気ではないか……」

 

 敵味方の判別も出来ないほど狂ってしまった団藤の様子に、ジャックは呆れたように笑うと倒れる。それを快人が抱きとめると、攻撃が当たらないところまで引きずっていく。

 地下室の隅に座らせると、安全を確認して声を掛けた。

 

「アンタ、なんで……」

「……私の目的はただ一つ……。クラリスを幸せにする、それだけだ……。霊璽め、クラリスの復活に使えると思っていたのに、あんなものを仕込でいたとはな……。よく考えたものだ……ガンマホールから眼魔世界の力と、地球にある無数の魂を吸収し、眼魂システムを再現するとは……」

 

 そこからジャックは壁に(もた)れながら、何を思ったのかポツポツと昔話を語り始める。

 

「……私は眼魔世界から、地球がどんな状況になっているのか調査するために送り込まれた。転送装置がまともに作動しなかった頃だ。私以外にも何人か送られたが……無事に戻れたのは私だけだった。皆からは英雄として迎えられながら、大帝アドニスに報告するなり、アドニスは地球を更なる完璧な世界へと導くための準備を始めた……」

「脱却? 眼魂システムは完璧じゃなかったのか?」

「私もそう思っていた。だが、時が経てば、物は壊れる……。眼魂より先に肉体がもたなかったのだ。ゾルークに撃たれた時に私は代替えの眼魂を要求したが断られ、傷ついた眼魂のままで活動するしかなかったことでその秘密を知り、眼魔世界の者達の時間が長くないことを悟った……」

 

 あの「時間がない」という言葉には、自らの運命を悟った上での言葉も含んでいたようだ。

 

「アドニスは『グレートアイから啓示(けいじ)を受けてのこと』、と言っていたが、嘘だ。奴はおそらく永い間、グレートアイとの交信は出来ていないはずだ。出来ていれば、そもそも地球に干渉する必要などない。ガンマの民の滅亡への焦りからの侵略だ。奴の言い訳を耳にして何度も『侵略』から『共存』への提言をしたが、聞き入れられなかった」

 

 マスクから見える口が悔しそうに歯を食いしばっている。

 

「己の無力さを恨みながら、せめてもう一度だけ、あの一族に会いたいと思った私はこちらに来た」

「なんでそんなにご先祖様たちのことを気にかけたんだ?」

「久しぶりに温かい感情に触れて、情にほだされたのだ……言わせるな。そこでクラリスと出会った。まだ生まれたばかりの赤子だったが、実に美しかった。永く感じていなかった感情と生命の尊さを思い出した。私には宝に見えたのだ。絶対に守り抜きたいと思った結果、まだ眼魂システムが完璧だと信じて疑わなかった私は『団藤家に眼魂を使いガンマの民にすれば救えるのではないか』と考えた。眼魔世界に戻り準備に取り掛かったが……私では上手くいかず、せめてもと眼魂の情報を持ち出した時には手遅れだった。生きていたのは霊璽とクラウドとクラリスのみ。唯一の救いはクラリスが生きていたことだ」

 

 クラリスの話題の時だけ穏やかな表情を浮かべるジャック。

 

(そこまで、ばあちゃんのことを……)

「彼女は幼い頃から私によく(なつ)いてくれた。こんなことを言うのは、ゾルークのようで不愉快だが。男は美人に弱いものだ……。生まれた頃から知っていれば、尚更な。だからクラリスがゾルークと好き合っているのを見た時は、率直(そっちょく)に言って悔しかった」

 

 来蔵と同じことを言ったジャックに、快人はなんとも言えない顔をする。

 

「そこから霊璽はあの巨大眼魂を作るのに躍起(やっき)になると……すぐに姿を消した。この時は、実験が失敗したのだと直感で思った。次にクラウドが当主になると、ゾルークが戻ってくるまでクラリスを守ってほしいと頼まれた。嬉しかった反面、その瞳には私ではなくゾルークが映っていた。諦めは簡単についた。彼女と私では住む世界が違うと分かっていたからだ。そしてゾルークがルパンとして活動を始めると、クラリスの一生を守るのであろう奴の護衛と、万が一、眼魔世界の戦士たちが現れた時のことを考えての戦闘訓練をしつつ、世界を見て回った。ある日、十分に鍛えたと考えた私は、今一度、アドニス一族に再考するよう嘆願(たんがん)のために眼魔世界に戻った」

 

 ジャックは一呼吸を置くと、(けわ)しい顔つきになる。嫌な記憶を思い返しているようだ。

 

「話をしようとしたところで、アドニスが息子である三男のアランを地球に派遣すると聞かされた。好戦的な兄二人ではなく、世間知らずのアイツだったのはまだ良かったが、父親に心酔している以上、下手に何かを言えばすぐに侵攻開始だ。それを聞いて『このままではクラリスが死ぬ』と思った。すぐに戻って結婚した直後のゾルークにも言ったが……『その時が来たら考える』と言ってそのままだった」

 

 推測するに来蔵としても、その時に起こらなければどうしようもなかったのだろう。

 ここでジャックの体に少しずつノイズが走り始める。眼魂の限界が迫っているようだ。

 それを快人は寂し気な表情で見つめる。

 

「……私はこちらの世界に来てから眼魔世界のすべてに不信感を持った。それまで妄信してきたアドニスの一族にも。不完全な眼魂システムにも。だが、どうであれ着々と準備は整えられていた。一度(ひとたび)、侵略が始まれば、地球人はひとたまりもない。その上、知らない内に(やまい)()していたクラリスを救うには、眼魂を使うしかないと思った。どうにかブランクの完全品を手に入れられたものの、ゾルークがそれを阻止した。理解出来なかった……許せなかった。クラリスを見殺しにするような真似をしたことも、復讐に失敗したことも、先にゾルークが死んだことも……」

「……じいちゃんもアンタもばあちゃんを大切に思ってたんだな。それがすれ違っちまったんだ」

「……私にとって宝であるクラリスの命以外、なんの興味もない。ただ奪うばかりで……結局、誰一人救えなかった」

「いや、最後に俺を救ってくれたさ」

 

 その言葉にジャックは仮面越しに快人を見る。

 

「ハッ……これを持っていけ」

 

 ジャックは鼻で笑うと懐からルガーP08を取り出して、快人の胸に無理矢理押し付けるように渡す。

 

「これって……」

「……ゾルークの銃だ」

「なんで……?」

「ゾルーク東条の相棒であった『ジャック・ザ・ファントム』の名において、ここに、お前を『怪盗アルティメット・ルパン』の正式な後継者であることを認め、共にお前に返す。……まかり間違っても私たちと同じ(てつ)は踏むなよ」

 

 疑問をよそにジャックは早口で言い切ると後継者としての公認をした。

 それに対して、快人は複雑そうな顔をしながら頷く。

 

「……分かった。これからは俺が『ゾルーク東条』として生きていく」

「聞け。霊璽は……奴は不死身じゃない。姿形は違えど根本は私と同じだ……。そいつで不老不死に狂った人生を終わらせてやれ……友である私からの頼みだ」

 

 ジャックの願いに快人が再び力強く頷いた。

 

「最後に一つだけ聞かせてくれ、アンタはその気になれば、最初からあの眼魂を手に入れられたんじゃないのか? なんでこんな回りくどい真似をしたんだ?」

「ゾルークを見返してやりたかったのもあるが、お前がどれだけ出来るか試したかった。なんの因果かルパンを名乗り始めた、二人の──私にとっての英雄の孫が、まさか期待外れではないことを期待して……」

 

 そこまで言ったところで、次第にジャックは力が入らないのかグッタリとして、虚空を向きながらうわ言のように話を続ける。

 

「この世界に来る度に間に合わなかった。団藤家の者たちが死んだ時も。クラリスが死んだ時も。ゾルークが死んだ時も。二人が結婚した時も……。だが、今度はお前たちの宝を助けに戻れたぞ。ハハハ……ゾルーク……。お前だけを英雄にさせて、たまる、か……」

 

 笑いながら残った力を振り絞り最後に人差し指を立ててクルリと回す──ジャックの体が消滅し、眼魂が砕け散る。

 最後の最後に、人を助けるために戻ってきた男の最期だった。

 その場に付けていた金色の仮面と、眼魂に刺さっていたホローポイント弾の弾頭が(のこ)された。

 快人はその二つを手にする。

 

「……約束する。『怪盗アルティメット・ルパン』の名に恥じぬヒーローとして世界を救ってみせる」

 

 弾頭をジャケットの内ポケットに入れると、英雄たちの数多くの形見を握りしめ、意を決したように安全地帯から飛び出す。

 ゾルーク東条。怪盗アルティメット・ルパン。この二つの名を取り戻した男である快人は、すべての終止符を打つための戦いに挑む。

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