小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 街を変えた企業の裏の顔。


第5幕 Pavilion/パビリオンとはどんな企業なのか

  海東湾沖 鉄鋼企業パビリオン本社ビル

 

 時は第一次グローバル・フリーズ発生から十カ月が経った冬の頃。

 海東市から南約五キロに位置する孤島にそびえ立つ──高さ五十メートル・直径一キロ──六角形の建物がパビリオンの本社ビルだ。

 その地下深くに建設された研究施設に繋がる廊下を特殊部隊のような恰好の男達が二つの物体を運ぶ。一つは縦二メートル・幅一メートル・高さ一・五メートルの箱型の物体。蓋の部分には円形の鏡に似たものがあり、箱の側面には水色の配線を張り巡らせたように見える紋様が刻まれている。

 もう一つ──正確には「一人」は男達が運ぶストレッチャーの上に横たわっていた。

 見た目を表すなら「神秘」。その一言に尽きた。可憐(かれん)で美しく、(あや)しげな雰囲気を(ただよ)わせ、純白のワンピースを着た、身長は小学一年生程の背に届きそうなほど長い銀髪の少女。

 それらが研究施設奥の堅牢(けんろう)なドアに近づくと物々しい雰囲気で開く。

 中は多種多様な検査装置の他に二人の女が椅子に座っていた。

 

 一人は両手に黒の手袋を付け、黒いスーツに黒いネクタイという、シャツ以外が黒一色の()で立ち。右目は黒い前髪に隠れ、左目は眼光鋭く高圧的な印象を与えるパビリオンの女社長、皇神(おうかみ)天地(あまち)

 彼女は元々、国際兵器企業「財団(エックス)」で広報として勤め、最終的に幹部階級にまで上り詰めた人物だ。

 そんな彼女が独立したきっかけは、財団内の上下関係での裏切り、同僚同士の蹴落とし合いやアイデアの奪い合い──果ては殺人に身の危険を感じたからだ。加えて幹部になったものの扱いが(ないがし)ろにされていくことに対して、憤懣(ふんまん)やるかたなくなったこともある。ついに我慢の限界に達した彼女は財団を辞職すると、自身を使い潰し、こき()ろした財団を見返すため、パビリオンを立ち上げた。

 その皇神の隣に座るのが、ダークグリーンのインナーとベージュのスカートを履き、茶髪のボブパーマに一部緑のメッシュを入れ、白衣を着た、パビリオンの幹部役員兼開発部門統括(とうかつ)、ドクター・エスメラルダ。

 財団時代からの皇神の友人で、皇神が財団を抜ける際について行った唯一の人物だ。ちなみに彼女は日本人で「エスメラルダ」とは皇神が付けたあだ名である。

 

 二人の前に男達が運んできた箱と少女が大きな作業台の上に移される。

「……まさか本当に子供がいたとはな。何かの間違いだと思っていたが」

「……『メガヘクス』に関連する存在と見て間違いなさそうね」

 機械生命体メガヘクス。かつて地球に侵略し機械化しようとした人型の地球外生命体だ。

 機械の体を持つ彼は「すべての生き物は『個』という脆弱(ぜいじゃく)な存在であり、完全な大いなる思考の元に統一されるべき」という(ゆが)んだ思想を持っていた。またメガヘクスには人型の個体とは別に本体が存在し、それは一つの巨大な星「惑星メガヘクス」だった。

 以前、地球で猛威(もうい)を振るった植物「ヘルヘイム」──驚異的な繫殖(はんしょく)力で地球程度の惑星ならば十数年で文明を崩壊させられる──の侵食を受けたメガヘクスは、惑星を含むすべてを機械化するという荒技で植物化を乗り切った。

 しかし、このメガヘクスですら地球を完全に機械化することは叶わなかった。

 人々を守るために立ち上がった仮面ライダー達に本星を破壊され敗れたからだ。

 ところが本体が消滅した際、地球内で起動停止した一機の残存個体が日本近海に墜落した。偶然その地点に近かったパビリオンが回収に成功すると精査を開始した。

 結果、外装の大半は未知の地球外の鉱物が使われていたが、一部に地球で作られたサイバロイドZZZのデータが取り込まれていたことが判明する。皇神はこのZZZのボディに関して十分に生産が可能だと判断し、新兵器としての量産化に踏み切った。

 その上、この個体は微弱な電波を発しておりそれを追ったところ、最初に地球を侵略した際に襲撃した沢芽(ざわめ)市にてメガヘクスが機械化した跡地から、箱型の物体とその上に寝かされるように横たわった少女が発見された──それが今、この研究所に運び込まれた。

 

「すぐに、解析に回せ」

 皇神の指示で男達が箱を乗せた作業台をスーパーコンピューターの傍まで動かし、配線を繫げていく。

「そっちの娘にもだ」

 少女にも指示通り体中に配線が繋がれた。

「ねぇ……もうちょっと、優しくしてあげてもいいんじゃない……?」

「何を言っている? あの娘も所詮(しょせん)、人外の存在。感情移入するような相手か。気色の悪い」

 痛ましそうな表情を見せるエスメラルダに、皇神は吐き捨てた。

 するとエスメラルダは顔を(そむ)け、前髪のメッシュを弄り始める。彼女がこれをするのは心配事や不安な時にやってしまう癖だ。

「なんだ、何か言いたいことでもあるのか」

 長年の付き合いでそのことを知っている皇神が棘のある口調で尋ねる。

「別にそういうわけじゃ……」

「なら、さっさと解析の準備をしろ。今回の件は独自の兵器開発のためにも、何がなんでも我が社で独占する」

 そう言い切るなり皇神は足早に部屋から出ていった。

 それを横目にエスメラルダは諦めたようにため息をつき、気が進まない様子で椅子に座ると検査用の装置の電源を入れた。

 

 一カ月に及ぶ解析によっていくつかのことが判明した。

 箱型の物体の内部には、正体不明の莫大(ばくだい)なエネルギーを持った物質が収められていた。皇神はそこから「モーセの十戒(じゅっかい)」を連想して「アーク」と名付ける。だが、数万年単位のエネルギー事情を解消可能なエネルギー体を取り出すには、箱になんらかの「鍵」にあたる物質を差し込むことで解錠される仕組みだった。

 そこでアークの件がひと段落し、次に謎の少女についての調べが進められた。

 なんと彼女はメガヘクスが敗れた際に偶発的に生成された──機械であるにも関わらず──感情を(つかさど)るデータが人型化したものであり、さらに惑星メガヘクスの全データの緊急用バックアップの側面も持つアンドロイドだった。

 そのため彼女のデータ領域には、最新式のスーパーコンピューター数十台でさえ時間が掛かる無数とも言えるデータが存在したが、多くがメガへクスの消滅時の余波を受けて破損していた。

 わずかに破損を(まぬが)れたデータを解析すると、地球侵略時に手に入れた「ロックシード」──「アーマードライダー」と呼ばれる戦士達が使用する果物を(かたど)ったアイテム──のデータ。並びにZZZのボディを融合させたことにより手に入れた「バイラルコア」──ロイミュードが本体を持つためのアイテム──のデータ。これらから着想したと思われる、錠前に宝石に似たコアを()め込まれた物質「ロックオーツ」の設計図が見つかった。

 メガヘクスは本来これに緊急用のバックアップデータを保存しようとしたが、その前に倒されたことで計画は頓挫(とんざ)したものの誤作動もしくはバグによって少女が誕生したらしい。

 ともかく皇神はロックオーツを使用することでアークが開くと仮定し、エスメラルダもそれには肯定した。しかしデータが破損しているため、ロックオーツが一体どんな物質でできているのか、それがどこにあるのかは見当がつかなかった。

 ZZZ関連の開発・改良に関しては(とどこお)りなく進むものの、ロックオーツ関連は足掛かりになるものがなく遅々として進まずにいた。

 

 ところが発見から二カ月が経ったある日。状況を一変させる出来事が起こった。

 皇神達の前に「珍客」が現れたのだ。

 白いシルクハット、白いスーツを身に(まと)い、顔全体を覆う仮面を付け、その身に羽織る黒いマント以外、全身白一色の怪盗紳士──アルティメットルパンである。

 ルパンはかつて自身が使用していたZZZの改良型が量産されているという情報を聞きつけ、それを破壊するためにパビリオンに潜入した。目当ての物はすぐに見つけたものの傍にあった装置に(はりつけ)のようにされていた少女にルパンは目を奪われた。

 そして、それまで身動き一つしなかった少女は目を覚ますと自身のことを「ディア」と名乗る。

 そこでルパンは何を思ったのか彼女を「盗む」と予告する。

 地球の常識を知らないディアは、ルパンの言動に対して興味を持ち、ついて行こうとするが最終的に皇神の邪魔が入ったことで失敗。結局、ルパンは本来の目的も果たせずにその場を後にすることになった。

 だが失敗してからも、ルパンは(たび)々ビルに潜入してはディアの下へ向かい密会を重ねた。残念ながら中に入るのは簡単だったが、ディアを外に出すのは難しかった。

 その代わりに自身の英雄(たん)や家族のことなど、自分のことをディアに事細かに話し続けた。その様子はまるでディアに気に入られたいようにも見えた。

 一方でディアも話を聞く度に出てくる新しい言葉や簡単には表せない「人」という存在に強い関心を持ち始める。

 その上でルパンに感化されたのか──メガヘクスの感情データであったこともある──感情を表現できるまで時間は掛からなかった。ぎこちないながらも笑顔が作れ、喋り方も機械的から人に近いところまで上達していった。

 

 だが、そんな二人の蜜月(みつげつ)は長くは続かなかった。

 皇神がプロジェクトが進まないことに加え──皇神達は理由を知らない──ディアが人に近づくことに苛立(いらだ)ちを隠せずにいた。

 そんな皇神をエスメラルダがひたすらに宥めていたが、ある日、皇神が検査を強行した。

 長期に亘る検査でアンドロイドといえどディアは疲弊(ひへい)し、徐々に覚醒している時間が短くなった。

 拷問に近い日々が半年程経ち、それでもルパンと会う時の彼女は心配を掛けまいと「また会いに来てほしい」と笑い続けた──いつからか、ルパンは彼女にとっての「希望」になっていた。

 ところが、いつの日からだろうか、想い人が来なくなった。

 

 その日もディアに配線を繋げられ、ロックオーツのデータの修復及び新たなデータの収集が行なわれていたが成果を出せずにいた。

「くそ! なぜ上手(うま)くいかない! 何が足りん⁉」

 皇神はテーブルにあった物を摑むと力任せに地面に叩きつける。

 ここ最近、皇神はエスメラルダでも抑えられないほど荒れることが多くなった。

「天地! 暴れるなら出ていって!」

 エスメラルダは他の研究員の人目もはばらずに叫ぶ。

「黙れッ!」

 皇神は怒声を浴びせると装置に磔にされ目を閉じて項垂(うなだ)れるディアの肩を摑み、大きく揺さぶった。

「教えろ! どうすればアークが開く⁉」

 虐待にしか見えない行動を取る皇神をエスメラルダが引き(はが)す。

「やめて! この子はデータのバックアップでしかないの! 復元はできないのよっ!」

「黙ってろ! 誰であろうと私の計画の邪魔はさせん! 二度と奴らに笑われるものか!」

 結果を優先しすぎるがあまり、周りを見ないまま怒号を上げて再びディアに摑み掛かろうとしたところで、ディアが大きく目を開けたかと思うと「ルパン‼」と叫んだ。

 二人はなぜその名前を叫んだのかは分からなかったが、ディアはルパンが消滅したことを機械的な直感で感じ取っていた。愛する者の消滅()という経験したことがない未知の感覚に、ディアの感情を司る回路がオーバーロードを起こし、パンクした。

 ディアの瞳から一筋の涙が流れる。

(涙……だと?)

「……泣いているの……?」

 その涙が顔から離れた瞬間、驚くべきことが起こった。涙が輝いたかと思うとロックオーツへと変化して床に落ちる。

 今起こった現象に対して、二人に驚愕の表情が浮ぶ。しばらくして心ここにあらずといった様子で皇神がそれに歩み寄っていく。

(まさか……これは……)

 皇神はその物体を割れ物を扱うように慎重に手に取った。鍵のような形状で中央にはダイヤモンドに似た物質が嵌っている。設計図で見た通りだ。

 皇神はそれを持って吸い寄せられるようにアークへと向かう。蓋に開いた鍵穴の一つに差し込むと蓋の鏡の部分が光った。一瞬の間を置き、そこから大小様々な色とりどりの宝石群が、天井の照明に照らされて輝きながら火山が噴火したように飛び出していく。

(なんと、美しい……!)

 その光景に皇神は目を奪われた。宝石の煌びやかな輝きを見たからか、彼女の求める力が降り注いでいるように見えたためかは本人にしか分からない。

 一方で、後ろで立ち尽くしながら同じ光景を見ていたエスメラルダは焦りと恐怖の感情が出ていた。プロジェクトの本格的な始動を意味することを彼女が一番理解していたからだ。

 

 今回のディアの慟哭(どうこく)によって生み出されたロックオーツを鍵として、アークから飛び出した宝石群は「カースジュエリー」と名付けられる。

 カースジュエリーには一つひとつに様々なデータが封入されていた。皇神はこれらは宝石で例えるならば原石で、どれかがロックオーツに変化するという考えだったが、何をもって変化するのかは不明だった。

 一方で思わぬ収穫もあった。現在のパビリオンの目玉商品であるガイアメモリと相性が良く、組み合わせると従来の十倍以上の性能を引き出せることが分かった。

 ところでガイアメモリを製造していたミュージアムはすでに壊滅した。どうしてメモリ関連のデータを皇神が持っているのかという疑問だが。ミュージアムと財団Xはスポンサー契約を結んでおり、見返りとして財団はメモリの技術を得ていた。

 そこに当時のミュージアムの担当エージェント、加頭(かず)(じゅん)の死亡によって、ガイアメモリに関する投資が打ち切られて(ちゅう)に浮いた。

 好機と見た皇神が財団の兵器開発部門の開発員でガイアメモリにも(たずさ)わっていた友人のエスメラルダを抱き込み、メモリに関するあらゆるデータを持ち出して模造品を作成、パビリオンの資金作りに利用していた。

 さて、ガイアメモリとカースジュエリーを組み合わせたことで性能は上がったが、その分の副作用はすさまじいものとなった。非合法な人体実験で被験者は一回の使用、それも十数分で毒素によって死亡した。排出されたメモリも全壊するなど、とても使い物にはならなかった。

 試行錯誤の末、人間が(かろ)うじて正気を(たも)てる四倍程度までに性能を引き下げた。それでもメモリの破損は免れず数回の使用で壊れてしまったが、それに関しては麻薬と同様、依存性から逆にリピーターが増えると考えることで決してデメリットにはならなかった。

 だが、この他にもミュージアムから回収できなかった財団のデータに無いメモリや、別組織の粗悪品の裏取引など、市場を独占するための問題点は決して少なくない。

 ともかくパビリオンは新型ガイアメモリ「(ティー)(エックス)」商品化の目途(めど)が立ち、ロックオーツにサイバロイドZZZの改良型など、兵器開発や性能向上に関して皇神の予想を上回る成果を生んだ。

 皇神にとってこれまでになく順風満帆に進む──その裏で予想外の事態が起きていた。

 

 その日、研究所ではエスメラルダがコーヒーを片手に、全く進捗(しんちょく)が無いカースジュエリーの解析をしていた。その顔には明らかな疲労の色が窺える。

 ところで、彼女は物を作ることが好きだった。それまで一般企業の技術者に過ぎなかった彼女の腕を見込んだ財団からのスカウトを受けて、自分の作った兵器が人を傷つけていることには見て見ぬ振りをしてきた。だが、皇神に引き抜かれて付き合いを続ける内に、いずれ恐ろしい結果を生み出すことを考えると良心(りょうしん)呵責(かしゃく)に耐えられなくなっていた。

 また彼女にとって自分の作る物がいつも何かの応用で完成させていたことがコンプレックスだった。自分だけのオリジナルが作れない。それもまた彼女のプライドを傷つける。

 エスメラルダはそんな悩みを誰にも相談できず、引き返せないところまで来たことに苦悩していた。

 ゴトン──何かが落ちる音でエスメラルダは我に返った。

 気づけば手が髪に入れたメッシュを弄り、持っていたはずのカップが無くなっている。悩みに気を取られたのか、長時間の作業で意識が遠くなったのか、無意識に手を離してしまった。

 足元を見れば白い床がコーヒーで、白地のキャンパスに茶色のペンキをぶちまけたようになっている。彼女が履いているパンプスにも点々と染みがあった。

(……もう)

 ため息交じりに席を立ち、傍にあった適当な布で乱雑に床を拭く。

(ん?)

 デスクの奥まったところに何か光る物が見えた。

(これは……)

 一粒の緑色のカースジュエリーが自分の居場所を知らせるように輝いていた。

 例の噴火が起きた際、床に散乱したカースジュエリーは作業員によって無造作にバットやトレーに入れられていた。目の前にあるそれは、その時に回収し損ねた物らしい。

(他にもどこかに挟まってるかもしれないわね……)

 面倒だと思いつつエスメラルダが手を伸ばしカースジュエリーを摑んだ──パソコンがけたたましく鳴った。

「えっ、何──痛い!」

 デスクにぶつけた頭を(さす)りながらエスメラルダはディスプレイを見る。アークが今までにない反応を示していた。

「えっ、どうして……? っ⁉」

 エスメラルダの疑問をよそに手に持つカースジュエリーが自ら輝きだすと光を強めていく。

「うっ……⁉」

 眩い閃光に思わず腕で目を塞ぐ。

 そして、カースジュエリーがエスメラルダの体を粒子に変化させて中に取り込んだ。

 

「……えっ⁉」

 目を開くと周囲を凄まじい勢いでビジョンが駆け巡っていた。

 様々な変遷(へんせん)の末、最後に映し出されていたのは十二個のロックオーツが嵌ったプレートを胸に付けた怪人によって世界が支配され、青く美しかった地球が(まが)々しい赤に変色し、その中で人類は奴隷として扱われている、という衝撃的な内容だった。

 そこでビジョンが消え、エスメラルダが気がついた時はそこは普段と変わらない研究室の中。

「今のは……?」

 今起きた状況に困惑しながら手の中に異変を感じた。何か硬い物を握っている。大きさからしてもカースジュエリーではない。

 エスメラルダは恐る恐る(てのひら)を返した。

「噓……」

 その手には緑色の宝石、エメラルドが嵌ったロックオーツが握られていた。

《このままだとこの星は、今見せた運命を辿ることになる》

「っ⁉ ディア⁉」

 エスメラルダが装置に磔にされたディアを見た。当の本人は目を閉じており、どうやらテレパシーのような能力で話し掛けているようだが、エスメラルダには──ルパンが来た時以来の──二度目の経験だったため驚きは少なかった。

《エスメラルダ。あなたは選ばれた。使命を果たさなければならない。さもなければ、世界はあの未来になる》

「……まさか、そんなこと……」

《よく分かっているはず》

 否定しようとするがディアの言葉に俯いて黙る。心当たりが多すぎた。

《使命を果たせば、世界を救える。罪の無い命が傷つくことは起こらない》

「救える……? 私が?」

 エスメラルダが頭を上げた。それは兵器を作っていた彼女の心に「贖罪(しょくざい)の機会」という、か細くも一筋の光が射したからに違いない。

 エスメラルダは(すが)るような目でディアを見た。

「……どうすればいいの?」

 それを肯定と受け取ったディアはエスメラルダと「打倒皇神」の密約を交わした。

 

 それからのエスメラルダは皇神の目を盗みつつディアに指示された物を作り続けた。それらもまた兵器に近かったが、これで世界が救えるならばと迷いを振り切った。

 なぜ彼女がディアに対して、ここまで盲目(もうもく)的な行動を取るのかは彼女自身だけが知ることだ。

 ただ間違いなく言えることは、その時の彼女が今までで一番生き生きとしていたことは間違いない。

 時々、地下に降りては様子を確認に来る皇神にもそう映っただろう。

 そして、エスメラルダはそれらをがむしゃらに作る中で自らの祈りを込めた。

 きっと世界を救ってくれますように、と。

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