2人に伝わればいいです。
照りつける太陽、茹だるような空気。
かすかに眼前の木の葉を揺らしている風も、自分の身体を冷やしてはくれない。
「あっちぃ...コンクリートジャングルとかいって街中の方が暑いーとかよく言うけど、全然自然も暑いじゃねぇか」
左右に並んでいる墓石を見て、これが氷だったらいいのにな。と考えながら歩みを進める。
耐えきれなくなり煽ったペットボトルの中身は、もうすっかりぬるくなってしまっていた。
手元にある水桶の中で波打つ水の冷たさを思い出して、つい「これを飲めば...」という考えが出てきてしまう。
「あいつらクーラーボックスとか持ってきてくれっかなぁ」
「まぁひろなら大丈夫か」
風で髪が揺れる。かすかに花の匂いがする。
それは周りからか、手元からかは分からない。
この花は、墓参りに何の花がいいだとか分からなかったから適当に選んだ。あいつらも持ってくるだろうからと思って少しだけ。なんか白いやつ。
動かし続けていた足を止める。目的地に着いた。
墓石には「草下」と彫られている。
灰色の花瓶には生暖かい液体だけが入っていた。
「よし、俺が1番乗りだな」
「時間よりずっと早く来たしな、ひろとかこの時間でも普通にいそうで怖かったけど」
「掃除とかは...しなくてもいっか、ひろがやるだろし」
「俺がなんかやっててもここが足りてねぇって後からやりそうだし、最初からやんないどこ」
墓石を正面にして、静かに手を合わせる。
心が静まっていく。深く、深く、沈んでいくように。
手を下ろし微笑みながら紡ぎ出す
「よぉ、調子どう?」
「墓の中にいるってどーいう感じなんだろ、墓の周りにいられるもんなのかな、離れられるもんなのかな」
「墓から離れられなかったら街まで出られねぇよな」
「新しい家になったようなもんなのかな」
他愛無いような事を語りながら、ふと視線を下げる。
「...あぁ、やっぱいねぇんだなぁ」
「あの卒業式の時、どっか変なとこに行った時、あの時確かにお前はいたよなぁ」
「だからふとこんな時にも見えたり聞こえたりしてくれてもいいのに」
「いや、またあんなような行くのも怖いか」
「まじであそこ不思議だったよなぁ、色々あった」
あの時の光景を見るために、目を閉じる。
「俺たち以外ゲームのNPCみたいに決まったことしか話さねぇし、校舎の外はまじの真っ暗で怖かったし」
「死んだはずのお前がいたし」
「びっくりしたよ」
「お前が死んだことを受け入れきれなかった時にあんな姿見たら、そりゃそうなるけどさ」
「まぁお前自身が1番受け入れられなかったんだろうな」
「あそこに閉じ込められたのはそれが原因だったっぽいし」
「でも、責めるつもりはねぇよ」
「むしろ俺はああなって良かったって思ってる」
「まぁ怖い思いしたし、めっちゃでけぇケガしたけど」
「何より、お前とちゃんとお別れできた」
「だから、ありがとう」
「この感謝は伝えてなかったからな」
「逆に俺何言ったんだっけ」
「えぇと...あ、見てろよって言ったんだ」
「ちゃんと見てっか、俺もあいつらも、お前を忘れたりしてねぇ」
「前向いて進んでる、お前に誓った通りにな」
「俺も、結局モデルやめてはまだないけど、カメラマンの勉強して色々始めてる」
「幸い、親からは反対されてねぇしな。周りはまだモデルに専念しろーとか言ってくっけど」
「いつか実力で黙らせてやんだ」
「んで顔のいいカメラマンみたいに売り出すんだ」
「写真の内容だけじゃなく俺自身でも売り出せるなんてそうそうないだろ?」
「めっちゃいいと思うんだよな」
「まじでこれからが俺の物語の良いとこになるからよ」
「ちゃんと見てろよ」
目を開ける。太陽に負けて数回瞬きをする。
そこには何も変わらない墓石が佇んでいた。
「まぁ、そんな都合のいい事もないか」
近くの木陰に向かう。あの忌まわしい太陽からなるべく逃げたい。
木陰に入ると吹いた風が少し涼しく感じる。
「ふぅ」
「さてと、暇でも潰してるかね」
首から下げていたカメラを手に取る。
そして揺れる木の葉と山を背景に写真を撮る。
パシャ
小気味いい音と共に景色が保存される。
「いやぁ、天気いいと撮りがいあるねぇ」
「でも暑いのだけ勘弁」
そうしていくつか角度や被写体を変えて写真を撮っていると遠くから人影がこちらへ向かってくる。
その人影は肩に何やら大きな箱を提げている。
側にもう一人いるようで、その人物は手をこちらへ振っている。
「おっ来たな」
「おーい、ひろ!ばち!」
返すように手を振る。
二人が近くに来るなりこちらから近寄り手を伸ばす。
「ひろー、コーラある?」
「お前...あるよ、ほら」
「あんがとー、まじで暑くてキツかったんよ」
差し出された冷えたペットボトルを受け取るや否や開けて口をつける。
「っはー!」
「生きてるー!」
「お前、おじさんみたいだぞ」
「というか、お前が1番なんてどうしたんだ」
「そーだよ、ひろが1番ならともかく最が1番なんて珍しい」
「いやぁ、最近の課題が景色の撮り方でさぁ?」
「ここらへんの景色撮ってたら練習なるかと思って早めに来たんよ」
「でも暑すぎてあの木陰から出らんなくなってた」
「夏真っ只中なんだからちゃんと対策してこい」
「こんなとこで倒れてる最見つけるのなんてヤだよー」
正論を突きつけられてバツが悪くなったまま、話題を変えようと声を張る。
「あーそれより、ちゃんと持ってきてくれたか、ひろ!」
「腹減ってしゃーないんだ、はよ食おうぜ」
「飯の前にちゃんと墓参りを済ませてからだ」
「お前自分の持ってきた花すらそこに放置で供えてないだろ」
「え、最、それはさすがにないんじゃない」
「だって俺がなんかやってもひろがここが出来てないー、とかここちゃんとしろーとか言ってくると思って」
「あー、確かに言いそう」
「お前ら」
「ちゃんとしてれば俺だって言ったりしない」
そうして言い合いながらも墓参りを行っていく。
その後には、ひろが作ってきた弁当やお菓子を食べながら、最近の出来事について話し合った。
広げたブルーシートの上には、食器が4つ。
4つ目にはひろが、弁当の中身やお菓子などをこまめに変えていた。
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そうしている内にあんなに燦々としていた太陽が落ち着いてきていた。
ひろが口を開く。
「そろそろお開きにするか」
ばちが不満そうに返す。
「えー、もう?」
「まだいたいよー」
「まぁそう言うなって、また来ればいいだろ」
「誰かの近況報告にさ、なんかある度にここ来てやろうぜ」
俺がしたり顔をしながらそう言うと、二人も笑う。
片付けはすぐ終わった。
荷物をまとめた後、3人で墓前に立つ。
力無い太陽が、オレンジ色の光を墓石へ照らしていた。
光の色が変わるだけでこんなにも哀愁を感じるのは不思議だ。
いや、光のせいだけではないのだろう。
あんなにいい顔をしてばちへ言っておきながら、格好つかない。
でも、別に今生の別れじゃない。
『またな』
打ち合わせた訳でもないのに、3人揃ったことがおかしくて、どこか嬉しくて、今日1番笑った気がする。
3人で笑っていると、どこかうるさい風が大きく吹いた。