ふかふかダンジョン in KOS-MOSもどき   作:葛城

1 / 11
続かないよ?


『人語を介する魔物とか、罪悪感っぱないっす』

 

 

 

 フッと、眠りから覚める瞬間、それを想像出来るだろうか。

 

 

 彼は正しくその瞬間、そんな感覚と共に覚醒した。

 

 眠気は全く無い。ただ、ものすごく気持ちよく眠っていたという感覚は残っており、同時に、とても清々しい目覚めだということも分かった。

 

 

 それから、『はて、目が覚めた?』と彼は首を傾げた。

 

 

 彼が記憶している最後の記憶は、喫茶店でアイスコーヒーを頼んだあたり。そう、通勤の間にある、何度も利用している喫茶店だ。

 

 そこで、今日はちょっと蒸し暑いからなのと、気分転換がてら、いつもなら頼まないクリームソーダを注文した……そこまでは、覚えている。

 

 

 ……言い換えれば、だ。

 

 

 そこから先の記憶が、全く無い。

 

 店を出た時の記憶もなければ、注文したクリームソーダを飲んだ記憶も無い。

 

 注文して、そこで──まるで、ブツリとリセットボタンを押されてしまったかのように、記憶が途切れている。

 

 

 ──そもそも、だ。

 

 

 当たりを見回した彼は、見覚えの無い光景に言葉を失くす。

 

 そこは、見慣れた喫茶店ではなかった。

 

 見たままを語るなら、白いドームだろうか。

 

 床はツルツルのタイル、遠くの方に見える壁も、グルリと頭上を覆っている天井も、全て真っ白。

 

 白い半球体の建物の中……そんな感じの部屋の中央に、彼は居た。どこを見ても人の気配はおろか何も無くて、音すらも無く──っと、その時であった。

 

 

「ワイ、『ウ・ドゥ』。よろしくニキーッwwww」

 

 ──はっ? 

 

 

 背後から声を掛けられたので、反射的に振り返った彼は、あまりにも想定外な光景に絶句した。

 

 何故ならば──そこに在ったのは、白いモヤだったからだ。

 

 辛うじて、人の形をしているのは分かる。しかし、それだけだ。

 

 大きいのか、小さいのか。いや、本当に人の形をしているのか、やはり人の形なのか、何一つコレはという確証を得られない。

 

 

 ……自分はいったい、何を目撃しているのだろうか? 

 

 

 己に対するそんな不安すら、彼はその時感じたぐらいに……眼前のソレがなんなのかが分からなかった。

 

 

「とくさんか?」

 

 

 が、そんな彼の混乱も。

 

 

「あんた、とくさんか?」

 

 

 畳みかけられた言葉に、拍車が掛かってしまった。

 

 

「岡山の県木の土手の下で、盛り合おうやwww」

 

 

 いや、もう、本当に意味が分からなさ過ぎて、日本語で話しかけられているのに、日本語を聞いている感覚にはなれなかった。

 

 直後、彼はなんとかそう返事をするだけで、それ以上の言葉を完全に失くしてしまった。もはや、声一つ出せないぐらいに混乱しきっていた。

 

 

「許してや、許してクレメンスwwww なんかおるわって眺めたら死んじゃったから、新しい身体をプレゼントやでwwww」

 

 ──えっ? 

 

「ほな、ワイはこれで……遠くから見とるから、頑張るんやで……消えるで、ほなまた(スゥゥー)」

 

 ──はっ? 

 

 

 それでも、なんとか理解出来る言葉が出たかと思ったら、なにやらスゥゥーっと効果音を口で言ったかと思えば、本当にモヤが彼の視界から消えてしまった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………え、なに? 

 

 

 あまりの展開の早さに、呆然とするしかない彼……っと、その時であった。

 

 

(あ、あれ、なんか視界が黒く……え、これ、もしかして気絶──)

 

 

 目覚めた時が唐突ならば、意識を失う時もまた唐突で──フウッと、彼の意識は暗闇の向こうへと消え去ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………で、次に目覚めた時、彼はどうなったかと言うと。

 

 

「……え、ここ、どこ?」

 

 

 まず、見慣れぬ森の中であった。

 

 

「夢……じゃない、よな?」

 

 

 もちろん、見慣れぬというだけあって、本当に知らない。直前まで都会の喫茶店で茶をシバいていたのに、なんか気付けばそんな場所にいるのだ。

 

 これには当然、彼は困惑した。だが、その困惑はすぐさま治まり──それ以上の困惑が、彼を襲っていた。

 

 

「え……ちょ、これ、なに!? え、おっぱい!? これ、俺の──こ、声もだ!? あれ!? なんか声が高くない!?」

 

 

 それは、己の身体の変化。

 

 誓って言うが、彼は男であった。

 

 学生時代はスポーツをやっていたので引き締まっていたが、今は昔のこと。

 

 社会人生活20年以上ともなれば、腹は出て来るし、変に毛深くなってくるし、体力の衰えだって自覚するようになった。

 

 

 それが──まるで、女のように細い腕だ。

 

 

 いや、女のように、ではない。

 

 彼が見る限り、それは間違いなく女の腕。

 

 産毛一つ無い細く白い肌、足元を完全に隠してしまっている、大きく実った胸。反射的に両手をあてがえば、己の胸を触っているという感覚と共に、確かな弾力を彼は知覚した。

 

 

 ……見たことがない、『服装』だ。

 

 

 いや、これを服装と判断したら良いのか、それは彼には分からない。とりあえず、身体を捻ったり屈んだりして、変わってしまった己の身体を確認する。

 

 

 ──なんというか、前衛的なレオタード(?)、あるいはワンピース型の水着(?)、というやつなのだろうか。

 

 

 基本的にレオタードでもワンピースでも多少なり胸が潰れるはずなのに、この服は身体に合わせて設計されているようで、体形がそのまま確認出来る状態になっている。

 

 お洒落なのかは知らないが、両の二の腕まである、色違いのアームカバー(?)。腹部は胸が邪魔をして確認出来ないが、丸みのある凸凹が並んでいるのが分かる。

 

 腰の辺りには……これまたお洒落なのか、金属のナニカが腰の両側に取り付けられており、左右の足のはどうやら色も形も長さも違うタイツを履いている。

 

 

 ……そう、視線を下げれば、大きい胸が邪魔をしているが、とりあえずは裸ではないのは分かる。

 

 

 素材がなんなのかは分からないが、腕も足もお腹も、妙に手触りが良い。鏡があればちゃんと確認出来るのだが、目に見える範囲だと……セクシー系だろうか。

 

 手を胸から下に降ろせば、男だった時(若い頃を含めて)には絶対になかった腰のクビレが分かる。

 

 実際に己の腰がそうなっていることに、彼はある意味胸を掴んだ時以上にビクッと肩を震わせた。

 

 そして……感覚的に色々と察してはいたけど、淡い願いを込めて、その手を更に下へと下げれば……その指先は、何も掴まなかった。

 

 

 スカート(?)の上からでも、分かる。

 

 直前まであったはずの棒と玉が、無い。

 

 

 遮る物が何もないその指先はスルリとお尻の方までノンストップ。無言のままに間で指先を止めれば、下着越しに……体内へと通じる、排泄口とは違う穴があるのを自覚した。

 

 

 ……ガニ股で股をまさぐる女という、傍から見ればアレにしか見えない恰好をしているが、彼は……いや、彼女になった彼は、超真剣であった。

 

 

 だって、冷静に考えてみてほしい。

 

 見覚えの無い森に何故か居るという時点で、『誘拐』の二文字が出てくる。その前後の記憶が無いからこそ、恐怖以上に困惑が前に出てくる。

 

 資産家の息子や家族であるならばともかく、彼自身は誰かに誘拐されるような資産など持っていないし、繋がりも無い。

 

 両親は……まあ、存命ではある。ただし、出来の良い兄弟のおかげで子供の頃から存在感が無く、正直なところ……な感じだ。

 

 

 ──そう、己に誘拐される価値など無いと思っていたからこそ、彼は……いや、彼女は、困惑するしかなかった。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、ネグレクトの手前だろうか。

 

 こちらに迷惑さえ掛けなければ、好きにすれば良い。兄弟の時間を奪うような事さえしなければ、それでいい。

 

 それが、幼い頃から……己に向けられ続けていた親からの要求だった。

 

 一見、それは放任主義に見えるだろうが……実体は、ただの無関心である。

 

 どこでくたばろうが、誰と結婚しようが、如何なる大病を患おうが、一切感知しない。

 

 生活するうえで(勉強道具など)必要となる物は用意するが、それ以外は一切金も手間も掛けない。

 

 それが、家を出るまで一貫していた両親の態度であった。

 

 だから、天涯孤独……法的には違うのだろうが、実家を含めて親戚とはすっかり疎遠となり、実質的には天涯孤独も……話を戻そう。

 

 

「……本当に何もねえ。穴はちゃんとある……女の子の感覚って、こんな感じなのか……」

 

 

 ──とりあえず、改めて事実を受け止めよう。

 

 

 1人孤独に混乱したところで、事態は何も動かない。ひとまず、己の身に起こっている事実だけを整理してゆくことにする。

 

 まず、現在位置が分からない。

 

 誘拐されたのか、しこたま酒を飲んで前後不覚に陥った後なのか、それは分からないが、とにかく、己は実質的には遭難状態にある。

 

 そして、性別が変わっている。

 

 これが夢ではなく、己の身体を触って変化を確認したから、分かる。間違いなく、今の己は男から女に変わっている。

 

 服装に関しては、こんな状況にした何者かの趣味というか、おそらくは……ん、あれ、ちょっと待て? 

 

 

(そういえば、さっきのアレって夢じゃない?)

 

 

 ふと、脳裏を過ったのは先ほどの出来事。

 

 あまりに唐突過ぎたうえに、今の状況が状況なのですっかり思考の外に追いやっていたが……あれ、ちょっと待て(Part.2)? 

 

 

(……アイツ、なんか『遠くから見てる』とか言っていなかったか──っ!?)

 

 

 なんとなく──本当に何気なく、彼女となった彼は視線を頭上へと向けた──瞬間、ビクッと総身を震わせた。

 

 

 

(<●> <●>)

 

 

 

 なんか、目が合った。

 

 奥の雲が透けて見えるが、確かに目が合った。とんでもなく巨大な双眼が、己を見下ろしていた──っと。

 

 

 

 Σ(<●> <●>)

 

 

 

(あ、向こうも気付いた)

 

 

 

 あまりにも言葉が出ない状況に、彼女はどこか呆けた頭でそんなことを思った──が、しかし。

 

 

 

(=^ω^=)っっっ

 

 

 

(いや、なに照れてんねん!!!)

 

 

 

 さすがに、その反応はツッコまずにはいられなかった。

 

 関西人でもないのに関西語が出てくるあたり、そういう意味でも不意打ちだったのだろう──っと。

 

 

 

 ひゅう~~~っ、と。

 

 

 

 空の彼方にきらめきが走ったかと思えば、それは軽やかな音と共に彼女の前に降り立った。

 

 それは、鏡であった。彼女の身長よりも高く、全身を映すには十分すぎるサイズの……で、だ。

 

 

「──な、なんか何処かで見たことある顔──っていうか、これ、アレだ!!」

 

 

 どういうわけか、何処かで見た覚えがある顔。

 

 

「お、思い出した、この顔は──」

 

 

 ──というか、姿になっていることを、この時初めて知った彼女は──思わず、叫んでいた。

 

 

「──モッコスだ! たしか、邪神モッコス! そんな名前のやつ!!!」

 

 

 けれども、声高々に叫んだ彼女は──それが、間違いである事とに気付いていなかった。

 

 

 ……邪神・モッコス。

 

 

 それは、とあるゲームに登場するキャラクターフィギュア(限定版特典)に対して、ファンたちが名付けた名称であり、ネタキャラとして名付けられた愛称でもある。

 

 本来はゲーム内人気不動の1位に君臨した美しい風貌をしており、全盛期はヲタクたちの同人誌にこれでもかと出演し、他のゲームにもゲスト出演したりもしたキャラクター。

 

 

 本当の名は、『KOS-MOS』。

 

 

 ゼノサーガ・シリーズに登場する女性型戦闘アンドロイドであり、何年にも渡りファンを生み出し続けた……根強い人気を持っていたキャラクターである。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 モッコスと彼女は勘違いしていたが、その顔はネタにされた『邪神・モッコス』ではなく。

 

 人気投票不動の1位に君臨し続けた、『KOS-MOS(ep.1)』なのだが、やはり、うろ覚えな彼女はまったく気付けなかった。

 

 

 

 




誰か続き書いてや、夏の暑さに頭が狂っただけやから
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。