ふかふかダンジョン in KOS-MOSもどき   作:葛城

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残虐なシーン有り


第九話: やっぱり、駄目だったよ……

 

 

 

 

 ──前線『7530・マイナス5780木像基地』

 

 

 

 冒険者や連合国軍の居住、補給や休息、避難などに使用する軍事施設であり、連合国軍が管理している城塞都市である。

 

 まだ石造りになっていない建設中の基地だが、その機能は石造りの古い基地には劣らない。

 

 それ故に、居るのは軍人か冒険者のみ。

 

 人類の生存競争の最前線であるため、その練度は高い。

 

 高い者を集めているからなのか、低い者は必然的に死んだ結果なのかはさておき、未熟な者はほとんどいない。

 

 なにせ、これまで幾度となく亜人たちの襲撃が行われたが、一度として突破されたことはなく……正しく、堅牢と称するに相応しい基地であった。

 

 

 ──だが、その日の夕方時、何時もとは違う事が発生していた。

 

 

 まず、上空から謎の道具に乗った女と、その道具に縛られて括りつけられた2人の男が降りてきた事から始まる。

 

 この世界には、おおよそ飛行機に当たる(類似する物を含めて)物が存在していない。理由としては、羽の無い者が空を飛ぶという発想自体が無いからだ。

 

 ゆえに、最初は新種の亜人が攻めてきたのかと思われ、中には弓を構える者すら居た。

 

 

 しかし、だ。

 

 

 道具に括りつけられた2人のうちの、1人。

 

 前線基地には、ティーチの顔を覚えていた者がおり、幸いにも問答無用で攻撃されるような事態にはならなかった。

 

 ただし、今にも倒れそうなぐらいに蒼褪め、震える足取りでバイクから少し離れたかと思えば、おろろろ、とゲロを吐く姿を見て、本当にティーチかと首を傾げられたけれども。

 

 

「……それは、本当なのか?」

「ああ、そうだ」

 

 

 なんとか落ち着いたティーチからの説明。張り詰めた空気の中、前線基地の代表者の問い掛けに、ティーチは青ざめた顔で頷いた。

 

 普通ならば、失笑と共に蹴り出されるような妄言である。

 

 だが、この場に居るのは幾度となく亜人との殺し合いを戦い抜いてきた猛者だ。

 

 妄言と一言で切り捨てるには、状況が状況だ。仮に事実だとすれば、前線基地は明日の朝を迎える事が出来ないまま壊滅することになる。

 

 加えて、ギルド幹部の一人であるティーチのことは、前線基地でも知られている。

 

 こんなくだらない妄言を伝えるために、わざわざ危険を覚悟して前線まで出てくるかと言えば……自然と、誰もがティーチの言葉を信じた。

 

 というより、それ以前の話だが。

 

 ここは暗黒大陸であり、人間は後から来た存在だ。

 

 心配や警戒し過ぎて、し過ぎる事はない。むしろ、それを怠った結果、殺されたり食われたりするのが当たり前な場所である。

 

 極論を言えば、この大陸では、本当の意味で安全な場所などどこにもない。ただ、一定の安全が確保されているだけで、それも何時どうなるか分からない……というのが真実である。

 

 

「……ところで、聞きそびれている事なのだが」

 

 

 ただ、それでも、代表者たちは首を傾げながら、ティーチではなく……見知らぬ道具に乗ってきた彼女を見やる。

 

 

『あ、あの、帰りの時、帰りの時なら乗ってみてもいいですか!?』

『操縦に慣れていないと危険ですので、許可できません』

『じゃ、じゃあ、アイギスを出てすぐの広場とか、そういう場所ならどう!?』

『それならば可能です。速度は出さず、低速ならば許可します』

『──イヨッシャぁあああ!!!!』

 

 

 あと、なにを話しているのかは知らないが、その女に向かって両手を合わせ、一生懸命ナニカのお願い事をしている男。

 

 女の名は、モッコス。

 

 男の名は、ジャン。

 

 先ほど軽く自己紹介をしたので、名前は分かる。あと、ジャンの方は立ち振る舞いや恰好からして、冒険者であるのも分かる。

 

 分からないのは、女の……モッコスの方だ。

 

 服装からして冒険者ではないし、かといって、娼婦あるいは後方職の類にも見えない。

 

 

(……なんだ、あの女? あんな変な靴を履いていて、重心が中心から全くブレていないぞ……本当に、何者なんだ?)

 

 

 しかし、代表者は……いや、代表者だけではない。

 

 前線基地の中でも特に鋭い者は、モッコスと名乗った女が乗って来た道具よりも、その異様な部分にこそ注目していた。

 

 ティーチから、『白面金毛を単独で仕留めた女だ』と言われた時は、性質の悪い冗談かと一瞬ばかり思ったが……見ていると、それが真実なのだろうと思えてくる。

 

 

 ……と、なれば、だ。

 

 

 静かに、気持ちを切り替えるために首を横に振った後。

 

 

「貴重な情報を感謝する。と、なれば、最悪はこの基地に火を放った後、アイギスまで撤退する事を考えねばならんな」

「隊長、それを判断するにはまだ早すぎるのでは……」

「いや、遅いくらいだ」

 

 

 この場においては好奇心でしかない事よりも、今夜にでも襲撃が掛けられるという現実的な危機に、彼らは目を向けた。

 

 

「ティーチさんたちの話が全て確定した未来ならば、既に我々は完全に絡め取られた状態だ。違いは、絡め取られている事に気付いているか、気付いていないかぐらいだろう」

「しかし、ここを失えば、人類の勢力圏が一気に後退し……それこそ、数十年掛けたようやく築いたのに……」

「だからといって、ここで防衛線を敷いたところで無駄死にするだけだ。おまえも分かるだろう、城攻めを行う、その意味を」

「それはそうですが、相手は……城塞などは築けても城の攻め方という発想すらない、亜人どもですよ?」

「馬鹿者、それは先ほどまでの話だ。我々は、相手を軽く見過ぎていた」

「え?」

「既に、向こうは城の攻め方が分かっている。そして、その為の攻城兵器や、それに準ずる道具を用意していると考えるべきだ」

 

 

 その中で、防衛線を張るべきだと主張する部下を、隊長と呼ばれた上官は一言で切り捨てた。

 

 これは、上官の方が客観的には正しい。

 

 よほどの馬鹿でない限り、あるいは、単騎で制圧出来てしまうぐらいの実力差が無い限りは、城や基地を攻める事はしない。

 

 それは、人間も亜人も変わらない。

 

 守りを固めたそれらの突破が難しいかを知っているし、最初から最後まで向こうが有利な状況で戦いが続く。

 

 そこまでは、部下の主張が正しい……が、それはあくまでも、正常に有利性を保てていた場合に限る。

 

 言い換えれば、それを分かったうえで攻めてくるという時点で、だ。

 

 最低でも勝率50%以上の確信がある、あるいは、リスクを取るだけのダメージを与えられる……その計画を立てて動いているというわけだ。

 

 

「……しかし、ティーチさん。危険を承知で来てくれたのは本当に嬉しいのだが、どうしてわざわざ……自殺をしに来たようなものではないですか」

「ん? まあ、普通はそうだが……あいにく、俺は自殺志願者じゃねえよ。まあ、命を賭けてはいるけどな」

「それは、いったいどういう……」

「まあ、見てろ。これで死んだら、俺はただのマヌケだったってだけだし、ジャンのやつも騙されたマヌケだったってだけの事だ」

 

 

 そう零したティーチだけでなく、集まっていた基地の者たちの視線が……自然と、助走もせず数メートルの高さがある木の柵を飛び越え……苦も無く拒馬槍(きょばそう)の向こうに着地した、モッコスへと向けられた。

 

 

 

 

 

 ──さて、まずは勧告しとこうか。

 

 

 背後から向けられる視線を認識しつつ、彼女は堀や落とし穴に落ちないよう位置を確認しつつ、冷静にセンサーにて周囲を探知する。

 

 彼女が立っている地点、基地の前方は傾斜がきつく、切り立った崖と言えるぐらいだ。

 

 言うなればそれは、天然の防壁。オークのように巨体で身体が重い者には、まさしく天敵のような防壁だろう。

 

 ここを登れるのは、ゴブリンやレッドキャップといった身軽な者たちだ。まあ、それも色々と対策が施されているし、足場が悪い。

 

 それゆえに、普通は正面側から攻めない。

 

 木々が邪魔をして崖下から弓矢で狙えないし、開けた場所も直線距離にして弓矢では遠すぎる。大型弩砲(バリスタ)ならばまだしも、それを展開しようとすれば、とっくにバレている。

 

 だからこそ、そんな兆候など全く見られなかったので、基地の人達は気付けなかったわけなのだが……まあ、それも、気付いてしまえば大した意味にはならない。

 

 

(……やはり、攻城兵器が用意されている。こっちを警戒して、枝葉などで隠してはいますね)

 

 

 何故なら、既に彼女のセンサーは、亜人たちが設置した様々な準備を捉え、その位置を完全に捕捉していたからだ。

 

 中身は平々凡々な男だが、マルチタスクによる強制的な並列思考は、どんな状況下であろうと彼女の思考を平静に保ってくれる。

 

 

「──勧告します! 現時刻より直ちに撤退しない場合、宣戦布告と判断します! 勧告します、直ちに撤退してください!」

 

 

 なので、中身のままだったら声が震えてまともに言葉にすらならない、崖向こうまで届く、大声による勧告も平然と行えた。

 

 

(……まあ、動きませんか。確かに、このために用意をしたわけだしね)

 

 

 そして、そんな亜人たちに対して、彼女は欠片の同情も憐憫も抱かなかった。

 

 なにせ、亜人たちは人間を皆殺しに来ているのだ。彼女にとって、そこに理由など必要ではない。

 

 己の心が人間で、相手は人間を殺しに来る。

 

 それだけで、彼女が……その身体に搭載された武装を使う事に、一切の躊躇は無くなるのだ。

 

 まるで動かない亜人たちに対して、無表情のままにガトリングガンを2丁転送し、両腕で持って構えると。

 

 

安全装置(オートセーフティ)解除、これより全ターゲットを破壊します」

 

 

 F・GSHOTの銃身が──シャリリリ、と軽やかに回転を始めると。

 

 毎分3000発、毎秒50発。

 

 それが二つなので、毎秒100発の弾丸が、バリスタですら弓なりに打たなければ届かない距離より。

 

 わずか、コンマ何秒という猶予しか与えず──亜人たちを蹂躙し始めたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そもそも、ガトリングガンとは本来、戦闘機や戦闘車両、あるいは地面などに直接設置したり取り付けたりして使用する重機である。

 

 重さは平均して100kg前後。

 

 平均して毎分3000発の弾丸を発射する。それは、1発が仮に100gだとしても、一分間分の弾丸だけで300kgの重量となる。

 

 それを5分発射し続けるとなれば、重さは1500kg。つまり、本体と合わせて、5分間使用するだけで1600kgもの重量となるわけだ。

 

 とてもではないが、人力で運べる代物ではない。

 

 発射するたびに発生する衝撃は凄まじく、映画やアニメのように格好よく構えて撃とうものなら、反動で両腕どころか全身にダメージを負うような代物で。

 

 一発でも当たれば、痛みを感じる間もなく即死するというとんでもない威力から、『無痛ガン』とも呼ばれることもある……そんな兵器なのである。

 

 

 ──さて、前置きはこれぐらいにして、だ。

 

 

 KOS-MOSボディである彼女は、その例外であり──相手をすることになった亜人たちからすれば、それは確定した『死』であった。

 

 両腕を合わせて、毎秒100発近く叩き込まれる無痛の死。

 

 何かが光ったと思った時にはもう弾丸は亜人たちの身体を貫き、粉砕し、己が死んだことすら気付かせないまま、その身体をミンチに変えていった。

 

 そう、時には数十発の矢を受けても突進してくる、生きた肉壁である分厚いオークの身体でも、ガトリングガンの前では何の意味もなかった。

 

 そして、オークにとって、ガトリングガンは天敵そのもの、武器の形をした天敵であった。

 

 なにせ、オークは足が遅い。そして、身体が大きい。つまり、他の亜人よりもはるかに命中しやすい。

 

 腕に当たれば腕が吹っ飛び、肩に当たれば肩口から丸ごと無くなり、腹部に当たれば腕が入るほどの穴が空き、頭に当たれば落としたスイカのように弾ける。

 

 悲しいぐらいに、ガトリングガンの前では的でしかなく……傍に設置されていた大型弩砲も、まとめて粉々に薙ぎ払われた。

 

 

 ……なら、他の亜人たちは大丈夫かって? 

 

 ……答えは、そんなわけがない、である。

 

 

 確かに、的が小さければ小さい程、当たり難い。

 

 どれだけ貫通力や威力があろうとも、当たりさえしなければ……しかし、言い換えれば、当たった時点で結果は同じなのだ。

 

 そう、ここで、彼女の反則技……弾数無制限が猛威を振るう。

 

 圧倒的なまでの制圧力を誇るガトリングガンの弱点は、その重量。そして、何万発という弾丸を数分で使い切るという、パフォーマンスの悪さだ。

 

 言い換えれば、ガトリングガンはとにかく弾切れが早く、また、その連射性ゆえに砲身が焼け付いてしまい、連続使用が出来なくなるというどうにも出来ない弱点があった。

 

 

 ──それが、KOS-MOSのF・GSHOTには無い。

 

 

 弾丸数は実質∞、弾丸が詰まって故障することもない。

 

 砲身が焼けても、ガトリングガンそのものを新しく転送すれば解決。

 

 そもそも、F・GSHOTは現代のソレとは違い、本当に長時間使い続けないと焼け付かない。

 

 つまり……身軽な亜人たちも、F・GSHOTの射程距離外か、あるいは角度的に当たらない位置にまで避難しない限り、延々と狙われ続けるわけで。

 

 

「──種族名オーク。攻城兵器に相当する装置の完全破壊を確認、それに伴い、装置の傍に控えていた個体の殲滅を完了」

 

 まず、ガトリングガンの前では的でしかないオークが、例外なく蜂の巣にされた。

 

 攻城兵器の陰に隠れようとした者は、それごと全身穴だらけにされ、ぐちゃぐちゃにされて即死した。

 

 中には木々の陰に隠れようとしたが、その木々ごと撃ち抜かれ、そのまま何も出来ずに死亡した。

 

 

「──種族名ゴブリン。全ターゲット、殲滅完了」

 

 次に、身体が小さく隠れることに慣れているゴブリン。

 

 ゴブリンはその身体の小ささを活かし、己を自然の中にカモフラージュして隠れ、やり過ごそうとした。

 

 だが、相手が悪かった。

 

 あらゆるセンサーによって、育まれたゴブリンの技術は一瞬にして丸裸にされ、丁寧に一体も残さずミンチにされた。

 

 

「──種族名レッドキャップ。全ターゲット、殲滅完了」

 

 そして、次に殲滅したのは、この場に来ていた亜人の中で一番種族的にも機動力があったレッドキャップであった。

 

 彼らはとにかく素早く、ガトリングガンの射線上から逃れようと右に左に動き回り、すばしっこかった。

 

 なので──彼女は、『F-MSHOT』を発射する。

 

 すなわち、レッドキャップよりも速く、確実にレッドキャップを即死させるマイクロミサイルだ。

 

 これには、さすがのレッドキャップも逃げ切れなかった。

 

 あっという間に数を減らしていき、ものの3分程度で全滅。

 

 

 後に残されたのは比較的後方に居た、おそらくは指揮官に当たるオークが一体と、従者と思われるゴブリンが二体であった。

 

 

 ……指揮官なだけあって、判断が早い。

 

 他の亜人たちを全滅させる際に、『F・GSHOT』と『F-MSHOT』の特性を理解したのか、絶妙な位置に隠れてしまった。

 

 そこは角度的にガトリングガンの射線に入らず、また、周囲の樹木などが邪魔をしてマイクロミサイルが当たらないような……なら、アレだ。

 

 

「『F・RSHOT』」

 

 

 それは、肩部に搭載し、小型ロケットを発射する兵器。

 

 ガトリングのような連射は出来ないが、その破壊力は先の二つよりも格段に上である。

 

 なので、隠れている辺りに打ち込めば、その衝撃で転がるように射線上に吹っ飛ばされた──ので。

 

 

「『F-RSHOT』」

 

 

 続いて、2発目を撃てば──巨大な剣を盾にしようとしていたオークの身体は爆散し、爆炎と共に臓腑を周囲に飛び散らせ──二体のゴブリンは、一発目の際に死亡を確認。

 

 

「……全ターゲットの殲滅を確認。戦闘を終了します」

 

 

 時間にして、約15分程度。

 

 それだけで、前線基地を壊滅させるための、亜人たちの計画は完全に破壊され……実行部隊たちも、殲滅を完了したのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………後に残されたのは、だ。

 

 

「     」

 

「     」

 

「     」

 

 

 とんでもない事を行ったのに、無表情のまま平然としている彼女の後姿と、亜人たちだったモノを遠目にて確認し、完全に言葉を失くしてしまった者たちと。

 

 

(うぉぉぉ……さ、さすがはガトリングガン……歩兵同士がまず殴り合い撃ち合う戦争を根本から変えた銃なだけあるわ……)

 

 

 ただ一人だけ、こうなるだろうなあと察し、生で見る重火器の破壊力に、ちょっと少年のドキドキ感を思い出していたジャンだけであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、これより30分後。

 

 

 彼女の状況説明に耳を澄ませていたジャンだが。

 

 

「約3m近い大剣を盾にしようとしていたオークを最後に殲滅致しました。おそらく、あの場における指揮官だと思われます」

 

 

 彼女のその言葉を聞いて……非常に、それはもう、心の底から……複雑な気分になったのであった。

 

 

 

 




おい、主要キャラがもう二体も死んだぞ、どうするんだ?
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