まあ、この話ではコレって理屈付けているだけで、公式ではないっすよ
この世界に現れた来訪者に過ぎないゆえに知らなかったが、彼女は偶発的にもこの世界の法則……『禁忌』と呼ばれる、絶対不変のルール、それをすり抜けていた。
それは、『ウ・ドゥ』の手もあるだろうが、それ以外にも実は、彼女にだけ許された……というか、半ば裏ワザみたいな事を行っていたからである。
……具体的に、何をどうしたのか?
──それを知るにはまず、彼女が居るこの世界の禁忌を知る必要がある。
説明すると長くなるので省略するが、要は『火薬』、『蒸気の水車』、『燃える水の水車』、『雷の要素』、この四つ。
どうしてそうなっているのかは誰も知らないし分かっていないが、この四つに関わる事を研究したり開発したりしようとすると、神の怒りに触れるとされている。
その神の怒りとは、『モンスタースタンピード』。
周辺のモンスターがまるで一つの意志を持ったかのように、一斉にそれらの禁忌を犯した者や町、あるいは施設へと向かい、徹底的に破壊の限りを尽くすのだという。
実際、過去に何度か似たようなモノをこっそりと研究なり開発なりしようとして、モンスターの大群によって滅んでしまった町や王国があるらしく。
現在では、人間だけでなくファンタジー的な生き物……この世界では『亜人』と称されている者たちの間でも、絶対に破ってはいけない不変の原則として徹底されている。
ちなみに、万が一それが露見した場合、人間の国では一切の弁明なく死罪(一族含めて)というのだから、如何に怖れられているかが伺いしれるというものだろう。
……で、だ。
それを踏まえたうえで、どうして彼女の場合はソレをすり抜けられているのか……それは、彼女がどちらも研究&開発を行っていないからである。
そう、あらゆる種族の間で不変の原則であり原罪として怖れられている『禁忌』だが、実は、使用に関する禁忌は無いのだ。
意外と言えば意外かもしれないが、それは致し方ない。
何故なら、禁忌のどれもが、自然発生的には絶対に生まれない代物だからで、使うためには意図的に研究して作り出さなければならないからだ。
例外は『雷の要素』だが……実は、これこそが使用に関する禁忌がないのを証明していると言っても、過言ではない。
と、いうのも、実は雷……落雷というのは、世界中で発生し、毎日約400万回も発生しているとされている。
また、それだけではない。
雷、すなわち電気に関する事柄というのは、一般的に思うよりもはるかに日常的に、かつ意図せず起こり、分かっていなくとも使用している場合がある。
些か強引ではあるが、焚き火だって『雷の要素』の一員……限りなく0に近いが、当てはまるのだ。
もしも厳密に、使用した時点でスタンピードが起こるのならば、この世界はとっくの昔に、モンスターたちによる波状攻撃によって……人間も亜人も絶滅しているはずなのだ。
──ゆえに、彼女(KOS-MOSボディ)が使用する装備一式は、禁忌に当てはまらない。
何故なら、始めからそこにあるから。
開発したわけでも、研究したわけでもない。初めから何処かにある装備や弾薬を転送しているだけのことで、それがどこにあるのかは彼女すら知り得ていない。
ただ、感覚的に『弾数:∞』ということが分かるだけ。
しかし、それだけで彼女にとっては十分である。
何故なら、彼女は科学者ではない。ましてや、研究者でもない。
使えるから、使う。弾切れしないのなら、そういうものだと受け入れる。何故なら、考えたところで答えなど出せないから。
そして、この世界に対して愛着も常識も無い彼女にとって、迫りくるミノタウロスをミンチにすることに対して、特に忌避感は感じなかった。
それは──まさしく、一方的な蹂躙であった。
軽く射線を動かせば、その先に居るミノタウロスが死ぬ。避けようにも、銃口が向いた時にはもう撃たれた後なのだから、避けようがない。
ならば、数に任せた波状攻撃で……残念ながら、KOS-MOSの性能を甘く見てはいけない。
肩部に搭載し、小型ロケットを発射する『F-RSHOT』。背中から発射するマイクロミサイル『F-MSHOT』も合わされば、多少なり数が増えたとて無意味であった。
……とはいえ、それも致し方ないことだ。
彼女が片手に一つずつ持っている、三連式のガトリング砲だけでも、そうだ。
F・GSHOTと名付けられているこの武器の破壊力たるや、いくらファンタジー生物であろうと耐えられる威力ではない。
なにせ、一発でも当たれば衝撃で周辺の皮膚が抉れ、内蔵が飛び散り、突き抜けた際には広く大穴を開け、大男ですら動きを止めるほどのエネルギーを持っている。
身体が頑丈であればあるほど、より弾丸が持つエネルギーが留まって身体を破壊してしまう。
そう、ファンタジー生物にとって銃弾というのは、ある意味人間以上に天敵のような攻撃なのであった。
──ブモッ!? モォォ!!!
それを、ミノタウロスたちも感じ取ったのだろう。
まあ、感じ取って当たり前だ。
なにせ、近寄れない。数に任せて突撃しようにも、それ以上の破壊力で押し返される。相手が疲れるのを待つにしても、それよりも早くこっちが全滅するのは考えるまでもない。
──結果、ミノタウロスたちが選んだのは──逃走であった。
「──索敵範囲の敵の殲滅を確認──一部索敵外への逃走を確認──追走します」
けれども、彼女は逃さない。
両手のガトリングを絶えず発射しながら、その後を追いかけた。
いったいどうして──それは、ミノタウロスの目である。
逃走しようとした時に、一瞬ばかり目が合った。その目に、彼女は覚えがあった。
アレは──恨みの目だ。絶対に復讐を遂げるのだという、強い決意の目だ。
彼女(の、中身の話)はかつて、そういう目をした者を見たことがある。たまたま路上ですれ違っただけだが、あの時に見た目と同じ色をしている。
……その結果を、彼女は覚えている。
相手を殺して、自殺した。
後のニュース等で知ったが、あらゆる媒体を使って徹底的に相手の情報を調べ上げ、確実に殺せるタイミングを見計らって行動に移したらしい。
それと、同じ目だ。同じ目で、己を見ていた。
ならば、逃してはならない。絶対に、一匹たりとも。
──ここで放置すれば、必ずどこかであいつらが復讐を遂げに来る。
どうしても、そう思わずにはいられなかった。
マルチタスク的な思考の中で、冷静にその判断を下した彼女は──見た目からは信じられない速度で、ミノタウロスたちを追いかけるのであった。
……。
……。
…………ちなみにだが、彼女の危惧は実のところ的中していた。
と、いうのも、彼女は知らないことなのだが、実は彼女がミノタウロスと呼んだ生き物の特徴にこそある。
それは──徹底的な同害復讐。
すなわち、1人殺されたら、1人殺すというもの。
その執念は凄まじく、長い期間を掛けて山をぶち抜いて現れたり、何週間何カ月にも渡って獲物を追いかけ続けるといった感じで、復讐を遂げるまでは絶対に諦めない。
しかも、性質の悪いことにミノタウロスは10以上の数を数えられないため、仲間が10人以上殺された場合は、上限の無い殲滅戦になる。
文字通り、どちらかの最後の1人が息絶えて絶滅するまで終わらない泥沼戦を強いられるため、ミノタウロスの生態を知る者からは例外なく怖れられているのであった。
で、そんな事など知る由の無い彼女が、追いかけ続けた結果はというと。
「──二度としません」
その言葉と共に無表情で、彼女はミノタウロスがねぐらにしていた地下空洞より、のっそりと姿を見せたのであった。
彼女がどうして、そんな事を呟いたのか。
それはひとえに、思っていた以上にミノタウロスの数が多かったのと、ミノタウロスの恨みの視線が変わらなかったからである。
弾数無制限の調整修理不要の魔改造KOS-MOSボディでなければ、危なかった。
とにかく、次から次に出て来るのだ。
幸いにも、様々なセンサーが搭載されているKOS-MOSボディのおかげで、暗所でも全く問題なく動くことが出来た。
おかげで、どこに隠れようが見つけ出せるし、不意打ちも全て防ぐことが出来たが……それでも、向こうが諦めてくれるまで、全体の6割強を殺す必要があったのだから、大変である。
……仮に、だ。
事情を知る第三者が、ミノタウロスが復讐を諦めたという話を聞いたら……それはもう、驚愕のあまりしばらく言葉を失くすぐらいに驚いたことだろう。
実際、それぐらいにあり得ない事なのだ。
単体ではミノタウロスより格上の亜人やモンスターですら、基本的にはミノタウロスとの戦闘は避けるとすら言われているのだ。
どうしてかって、戦っても得る者が無いどころか、よほど差が無ければマイナスにしかならないからだ。
だからこそ、ミノタウロスを知る者ほど、ミノタウロスを怖れるわけなのだが……けれども、だ。
そんなミノタウロスが、どうして彼女への復讐を止める……すなわち、その目から復讐心が消えるような事態になったのか。
それは──ミノタウロスたちが、種族的な特徴とまで言われた復讐心よりも、迫りくる彼女を恐れたからだ。
どうして恐れたのか……それは、ミノタウロスが一定の知能を有していて、迫りくる彼女を……これまで戦ったことのない、全くの異質な存在として認識したからで。
攻撃を受けながら、ミノタウロスたちは思ったのだ。
『こいつは、なんだ?』、と。
なぜならば、こいつの目には何も無い。
死への恐怖も、戦う高揚も、痛みへの忌避感も、何も無い。
必死さが感じられないとか、そんなものではない。全く、何も、食欲や敵意すら感じ取れないのだ。
こんなことは、初めてであった。
どんな相手ですら、なにかしらの感情を見せる。
相手が如何なる言葉を発せないにしても、何かしらの意志を感じ取ることは出来る。
それが、コイツからは全く感じ取れない。
こちらを殺す時も、何一つ変えない。まるで身体が石で出来ているかのように、淡々と容赦なく殺し続ける。
赤い、生き物とは思えない無機質な目が、こちらを見つめている。
そうだ、これではまるで、生きていないナニカを相手にしているかのような……そう、ミノタウロスたちが思った瞬間。
『こいつは、生き物ではないのか?』
奇しくも、ミノタウロスたちは同時に思った──考えてしまったからこそ──納得してしまった。
何故ならば、ミノタウロスたちの誰もが、どうやって仲間たちを殺しているのかが分からなかったからだ。
持っているナニカが原因なのは、なんとか理解出来た。
だが、それ以上が分からない。
その未知が──ミノタウロスたちの脳裏に、理解を超えた怖れと恐怖を生み出した。
『俺たちが戦っている相手は、生き物ではない?』
それは、一定以上の知性を持つがゆえの本能的な恐怖……未知に対する根源的な恐怖であり──想像してしまった以上はもう、誰も抑えることができなかった。
『殺しても死なない相手だ』
そう思ってしまった以上はもう、ミノタウロスたちの脳裏から……戦う意思が、復讐心が、潰えてしまったのであった。
……。
……。
…………そうして、だ。
まさかの、ミノタウロスから怖れられた結果戦闘が終了したという、知る者が知れば絶句するような偉業を成したというのに、全くそんな事を知らない彼女はというと……さらに、暗黒大陸の奥地へと足を踏み入れていた。
……おまえ、開拓城壁都市『アイギス』に向かうつもりではなかったのか……だって?
もちろん、向かうつもりではある。
しかし、ミノタウロスとの戦闘によって、当初よりかなり距離が離れてしまった。
このまま再びアイギスへ向かうのも良いが、不可抗力とはいえ、せっかく奥地に入ったのだ。
センサーによって、一定範囲の特定条件にあてはまる生物を確認出来ている。
どうせアイギスに向かったところで再び外に出るだろうし、先に外を見て回っても良いだろう……と、彼女は思ったわけである。
幸いにも、KOS-MOSボディになった彼女は疲れ知らずで、虫とかそういうのに身体が触れても一切嫌悪感を覚えないし、毒とかも全く効かない。
だって、いくら人に似せているとはいえ、中身はアンドロイドだし。
なので、特に怖れや不安を感じることもなく、彼女はすいすいと休みなく森の奥へと突き進みのが可能なのであった。
「……遭遇しない」
だが、当初に想定していたモノとは違い、人の気配がまるで感じられない森の中で……不思議なぐらいに、ファンタジー生物と遭遇しなかった。
いちおう、存在はセンサーにて確認出来ているのだ。
しかし、どいつもこいつも、彼女が少しばかり距離を詰めようとすると、あっという間に逃げ去ってゆく。
ファンタジー生物とはいえ、野生動物。警戒心が高いのは分かっていたが、別に彼女は動物を害するつもりはない。
ただ、遠くから眺めたいだけである。
こう、ドラゴンとか、そういう生き物を遠くから眺めたり、ファンタジー的な……そう、エルフとか居るなら会ってみたいし、もしも魔法とかあるなら見てみたい……そんな、軽い気持ちであった。
「──私に、何か御用ですか?」
だから、日が暮れて、真っ暗闇(KOS-MOS基準だと、昼間と変わらない)になった森の中で。
「武器の携帯を確認──敵対の意志を確認します。貴方たちは、敵ですか?」
頭に真っ赤な帽子を被った、小柄なファンタジー生物が息を潜めながら近づいて来るのを見て、彼女はちょっと期待に興奮しながら立ち止まったのであった。