ふかふかダンジョン in KOS-MOSもどき   作:葛城

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第三話: やだ、この大陸……殺意高すぎない?

 

 

 ──レッドキャップ。

 

 

 それが、彼女の傍まで近寄って来ていた者たちの種族名……というより、人間が名付けた名前である。

 

 その由来は、その名の通り、レッドキャップたちが被っている赤い帽子。人間の血で染められているらしく、畏れを込めてその名が付いたとされている。

 

 

 どうして、人の血を使うのか? 

 

 それは、人間たちには分かっていない。

 

 

 分かっているのは、人の血を使うのはあくまで染めるためだけであり、食料としては絶対に使わないということ。

 

 そして、人間を強く敵視しており、機会さえ巡れば積極的に殺そうとしてくる……というわけだ。

 

 いちおう正解を言うなれば、彼らは人間と同程度の知能を有していると言われており、独自の宗教的な思想の下に、社会を形成している。

 

 つまり、彼らが持つ独自宗教によって、人の血で帽子を染めるわけだ。おそらく、人間を食べないというのも、そこに理由があるとされている。

 

 

 で、そんなレッドキャップの姿だが、お察しの通り人間ではない。

 

 

 人間の上半身に鹿の下半身を付けたような容姿をしており、蹄の付いた足で二足歩行をする。

 

 それゆえの独特の足音と足跡から、比較的人間側からは察知しやすい存在とされている。

 

 身長は、一般的な人間に比べてやや小柄で華奢であり、少年or少女のようだと形容される。

 

 

 だが、身体能力は人間をはるかに上回るとされている。

 

 

 時速70kmで走り、ヤリ等のしなりを利用して10mの障害を飛び越え、数十mの落下にも無傷という……生まれ持っての恐るべきハンターである。

 

 

 ……加えて、レッドキャップが怖れられているのは、種族的な特徴とも言える、暗視能力だ。

 

 

 人間では一寸先すら見えない暗闇の中でも正確に獲物を見極めるばかりか、枝葉などで光源を隠した状態でも、1,2km先から捉える事が可能である。

 

 それゆえに、夜にレッドキャップと遭遇すれば、相手が見逃さない限りは確実に殺されるとすら言われているのであった。

 

 

「──警告します。ただちに武器から手を放し、両手を上に挙げたままうつ伏せになりなさい」

 

 

 とはいえ、そんな事情など知らない彼女からしたら、眼前のファンタジー生物は、ただの『要警戒対象』でしかなかった。

 

 そう、夜であろうと、宇宙空間を自在に行き来する世界にて作られたKOS-MOSの前では関係ない。

 

 暗視機能の付いた機械の瞳は、暗闇の中に紛れて迫るレッドキャップたちの姿を正確に捉えていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そして、当のレッドキャップたちも、その事に気付いていた。

 

 

 そう、信じ難いことに、この奇妙な恰好をした女は、夜だというのに正確に自分たちの居場所を特定している。

 

 音だけを頼りにしているのではない。自分たちと同じく、視覚でこちらを捉えている。

 

 

 最初は、気のせいだと思った。

 

 

 しかし、幾度となく視線が合ったのを感じ取ってからは、レッドキャップたちの誰もが……この女を普通ではないと判断した。

 

 だからこそ、レッドキャップたちは何時ものように速攻を行わず、距離を詰めつつも、何時でも離脱出来る状態を維持していた。

 

 いったいどうして……それは、未知の存在を、未知のまま放置せず、なにかしらの情報を得ておきたいから。

 

 なにせ、この女……動きからして、明らかに素人ではない。

 

 足取りからして、道に迷っている可能性は極大。それは、確定と判断して良いだろう。

 

 しかし、その動きには疲労と緊張の色が全く見られず、汗の臭いもなければ、呼吸の乱れも感じ取れない。

 

 それは、あまりに不自然過ぎる。

 

 夜目が利く自分たちとは違い、そうではない人間にとって、夜の森を1人で行動するというのは、とてつもない緊張と疲労を伴う行為である。

 

 たまに、人間の中にも夜目が利く者が居ると聞いた覚えはあるが、あくまでも、人間の基準の話。自分たちに比べたら、ほとんど利かないと言っても過言ではないだろう。

 

 

 だからこそ、レッドキャップたちは迷っていた。

 

 

 眼前の女が人間なのか、人間ではないのか、分からなかったからだ。

 

 人間ならば、それでいい。

 

 リスクを天秤に掛けて、小リスクならば殺せば良いだけ。高リスクであるならば、情報収集を行ってから撤退すれば良いだけ。

 

 しかし、万が一コレが亜人であるならば、少し話が変わる。

 

 この世界には人間に近しい姿をした亜人がそれなりに居る。

 

 そして、自分たちが知らない亜人が居るという可能性も、レッドキャップたちは分かっている。

 

 この女が実は亜人で、『人間と間違えて攻撃してしまった』場合。万が一、この女の種族にそれがバレてしまった場合……最悪、種族間の戦争を引き起こす可能性がある。

 

 

『──っ、──っ』

 

 

 それゆえに、その可能性を失くすために、レッドキャップたちは……危険を承知で語りかけた。

 

 『おまえは、人間なのか?』と。

 

 それは、亜人たちに共通する言語。

 

 もちろん、全ての亜人がコレを使っているわけではないが、それでも、可能性を絞り込むことは可能である。

 

 

「──警告します。指示に従わない場合、敵対対象として殲滅を選択肢に入れます」

 

 

 そして、当たり前だが、そんな言語など知らない彼女からすれば、(……なんか、鳴いている?)という認識しかなかった。

 

 なので、彼女とレッドキャップたちの間に流れる空気はどんどん張り詰め、今にも破裂せんばかりに緊張感が高まり続け──その時であった。

 

 

(……ん? アレは……っ!?)

 

 

 彼女の視線が、レッドキャップたちから外れた。

 

 警戒を解かれたのかと一瞬ばかり気を緩めたレッドキャップたち……しかし、そうではなかった。

 

 彼女の視線は、はるか後方……そこに、こそっと茂みの陰に隠されるようにして置かれていた、若い女の死体である。

 

 その様は、まさしく糧となった獲物。

 

 前と後ろに並んで棒を担いで運ぶようになっているようで、女の両腕と両脚が棒を挟む形になっており、その上からロープでがっちりと固定されているようだった。

 

 

「──質問です。貴方達が接近してきたと思われる方角に、木の棒に括りつけられた、女性の遺体と思わしき物を確認しました」

 

 

 それを見た彼女は──キュインと、カメラのフォーカスを動かしながら……レッドキャップたちへと視線を移した。

 

 

 ──その瞬間、レッドキャップたちは動いていた。

 

 

 そう、気付いたのだ。

 

 女の声色は落ち着いていて、感情は読み取れない。しかし、それでも、女から──強烈な敵意を向けられた事に。

 

 その時点で、レッドキャップたちは──眼前のこの女を、『人間』だと判断した。

 

 何故なら、人間は大半の亜人たちにとっては共通する敵であり、存在するだけ邪魔な害獣である……という認識しかない。

 

 人間を殺した際、『いちいち人間に構っているの?』みたいな態度を向けられるならまだしも、敵意を向けられる時点で──人間とカテゴライズするには十分すぎる理由であった。

 

 

『──死ね!』

 

 

 そして、人間だと判断した相手に、レッドキャップたちは一切の躊躇を失くした。

 

 人間は、敵である。殺せば殺すだけ、誰しもが喜ぶ害獣だ。

 

 一部の亜人は繁殖のために人間のメスを捉えるが、レッドキャップたちはそうではない。

 

 ゆえに、躊躇する理由はない。

 

 見たところ、信じ難いぐらいの軽装備。武器を携帯しているようには見えないが、隠しているだけかもしれない。

 

 反撃を想定しつつ、ある者は弓を構え、ある者は槍を構え、ある者は剣を構え──時速数十キロの速度で女へ──が、そうならなかった。

 

 

『ぎげっ!?』

 

 

 何をしたのか、見えなかった。

 

 ただ、女が片手をこちらへ向けた瞬間、音がした。同時に、先頭を走っていた仲間の身体から血飛沫が舞った。

 

 

 ──飛び道具か!? 

 

 

 そのままの勢いで転倒したのを横目に、女がナニカを持っているのを視認──残った二人が左右に別れ──同時に、迫る。

 

 ナニカを投げたのか、それとも矢を放ったのか、持っているナニカの正体が不明なので、それは分からない。

 

 だが、連続して二か所に放てないのが、飛び道具の弱点でもある。

 

 どちらを狙うにせよ、一瞬の迷い、その猶予さえ作り出せば、確実にその首に刃を突き立て──でも、結果はそうならない。

 

 

『ぐごっ!?』

 

 

 ナニカ、音がした。

 

 その瞬間、また1人、仲間が倒れた。

 

 勢いは完全に殺せなかったが、強い衝撃を受けたのか、方向は逸れて──そのまま転んで動かなくなった。

 

 

「『R・BLADE』」

 

 

 そして、その隙を突こうとしていたレッドキャップも、突如出現した、淡く光る刃によって──切りつけた剣ごと、その身体を両断され──絶命したのであった。

 

 

『あっ、あっ……!!!』

 

 

 後に残されたのは、万が一を想定して、後方に一人だけ待機する形で潜伏していたレッドキャップだけで。

 

 

「『R・CANNON』」

 

 

 急いで、この情報を伝えようと反転して逃げようとしたのだが──それよりも早く飛んできたナニカが、己の胴体に大きな風穴を開けたのを認識し──直後、絶命したのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、生きている者が誰も居なくなった、その場所には。

 

 

「……ファンタジー生物怖い、こいつらなんですぐに殺しに掛かってくるのか?」

 

 

 これから出会う度に殺しに掛かってくるのではという不安を抱えた、彼女の呟きがポツリと零れたのであった。

 

 

(……帰ろうかしら?)

 

 

 そんな考えすら思考の片隅を過るが、ここからまた泳いで帰るのは大変である。ぶっちゃけると、二度としたくない。

 

 ただ、彼女がそう思ってしまうのも致し方ない。

 

 なにせ、この大陸に来てから接触したファンタジー生物……みんな殺意が高すぎて、なんか悪い事をしたのかと思ってしまったぐらいだ。

 

 正直、KOS-MOSボディ無しでここに来ていたら、とっくの昔にやつらの腹の中に納まっていただろうなあ……と、彼女は思ったのであった。

 

 それから……少しばかり、時間が経過した後で。

 

 

 ──やっぱり、城壁都市『アイギス』へ向かおう。

 

 

 そう、考えを改めた彼女は、アイギスがあると思われる方角へ、歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

 ──で、約1日後。

 

 休む必要は無いし、こんな場所で休みたくないと思った彼女は、それからずーっと歩きっぱなしでアイギスへと向かう最中。

 

 

「──ドラゴンからの攻撃を確認。警告します、これ以上の敵対行動を取った場合、反撃します」

 

 

 なんだか、ファンタジーにおける代名詞といっても過言ではない、ファンタジー生物と遭遇した

 

 そう──ドラゴンである! 

 

 全身が鱗(っぽい)で覆われた、立ち並ぶ木々よりも大きな身体に、樹木が細く見える程にふっとい四足。

 

 翼は無いっぽいが、一目でこの大陸の食物連鎖の頂点(あるいは、それに近い)に立つ生き物だということが分かる威圧感。

 

 若干、恐竜っぽいというか、どデカい蜥蜴に見えなくもないが、十分にドラゴンとしてカウントして良いと思える程度には、ドラゴンであった。

 

 

 ……で、そんなドラゴンと接触した彼女だが……なんか、滅茶苦茶注目されていた。

 

 

 いちおう先に言っておくが、彼女からは何もしていない。

 

 なんか遠くから物音がするぞと思って寄り道してみれば、ぬうっと存在感を露わに、木々の向こうからのそっと姿を見せたのだ。

 

 これには、なんだかファンタジー生物に対してちょっと興味が薄れかけていた彼女のテンションも爆上がりである。

 

 

 ……そう、それだけである。

 

 

 間違っても、彼女の方から攻撃なんてしていないし、威嚇なんてしていない。ただ、「うわぁ、ドラゴンだぁ……」と、感動していただけである。

 

 それなのに──どういうわけか、ドラゴンの方は違ったようだ。

 

 グルル……っと唸ったかと思えば、プクッと喉の当たりを膨らませて──ごうっと、炎を吐いたのである。

 

 これには、さすがの彼女も一瞬ばかり呆気に取られた。まあ、直撃する前に影響範囲外へと脱出したが……とにかく、だ。

 

 

 ──グゥアアア!!! 

 

 

 周囲の木々を震わせんばかりの雄叫びを受けた彼女は──速やかに、迎撃行動に移る。

 

 ふわり、と。

 

 少しばかり彼女の身体が宙に浮く。両手を広げるに合わせて、上・左・右に、半透明に輝く魔法陣が現れたかと思えば。

 

 

「『S・CHAIN』」

 

 

 彼女のその声と共に、魔法陣との間に光線が繋がり──放たれたΔ形の光線が、ドラゴンに直撃した。

 

 

 ──グゥオ!? 

 

 

 途端、ドラゴンは目を見開き……次いで、ぐらりと体勢が崩れた。転倒こそしなかったものの、傍目にも分かるぐらいに、混乱しているのが見て取れた。

 

 いったい、何をしたのか。

 

 それは、KOS-MOSが持つ機能の一つ。相手に対して多数のステータス異常を引き起こす、『S・CHAIN』である。

 

 

 ──それってどういう事? 

 

 ──そんなの、彼女が知るわけがない。

 

 

 知らないけど、なんか使い方が分かっていたし、どういう効果なのかも分かっている。

 

 デカくて強そうなボスキャラには、まずデバフ。

 

 本来のKOS-MOSであれば違ったのかもしれないが、中身がアレな彼女は、とりあえずデバフを掛ける。そう、いつまでも脳みそ筋肉でゴリ押しする彼女ではないのだ。

 

 

「『モードA7(ラ・セルトゥ・エタール……)』」

 

 

 いや、ごめん、やっぱり、脳筋なのかもしれない。

 

 だって、『モードA7』というのは、己の物理攻撃力をUPさせるバフである。その代わり、生命力というか、体力を消耗するけど、そんな事は今はいい。

 

 とにかく、先手必勝である。

 

 未だ状況が掴めず、その場を動けないでいるドラゴンに向かって、彼女は両手にガトリングガンを一丁ずつ転送召喚すると。

 

 

「『F・GSHOT』──フル・バースト!!!」

 

 

 一切の躊躇をせず、引き金を引いたのであった。

 

 

 




ラ・セルトゥ・エタール

↑ なお、公式でも詳細不明なままである
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