ふかふかダンジョン in KOS-MOSもどき   作:葛城

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原作キャラ好きには注意やで


第五話: 死は平等に訪れる

 

 

 見慣れぬうえに、異様な風貌の人間……に見える、その女を前にした亜人の雄……白面金毛(はくめんこんもう)は。

 

 

(──ぬ、抜けない!? なんだ、この女は!?)

 

 

 想定外の事態に、仮面の奥でギョッと目を見開いていた。

 

 タイミングも、角度も、力の入れ具合も、全て完璧であった。

 

 刃が鞘から抜いた時の切れも、体重移動の切れも素晴らしく、確実に致命傷を与えられると確信していた。

 

 

 それが、一瞬で抑えられた。

 

 しかも、それだけではない。

 

 

 女の腕は細く、どう贔屓目に考えても容易くその指ごと首を落とせると踏んでいた──それが──っ!? 

 

 

『うぉっ!?』

 

 

 それは、戦いを知る白面ですらも、自分の身に起こった事だというのに、受けたその瞬間は信じられなかった。

 

 ありのままを語るならば、投げ飛ばされたのだ。

 

 装備込みで数十キロはある己の身体を、刀を摘まんだ指先の力で持って、真上の方へとぶん投げたのだ。

 

 

 ──バキン、と。

 

 

 捕まれている部分から、剣が折れる。

 

 そのまま反動で宙を舞った白面は、ガツンと音を立てて着地をすると──ドッと、仮面の奥で冷や汗を流しながら、女を睨みつけた。

 

 

 ……一般的に、物を投げるというのは非常に力の居る作業である。

 

 

 それは、この地上に生きる者、いや、生きていなくとも、この星に存在する以上は例外なく掛けられている圧力……重力のせいだ。

 

 日常生活を送るうえでそこまで気にされない重力だが、実はみんなが考えているよりも、重力というのは相当に強い。

 

 まあ、詳しく分けると『重力』は弱い部類に入るが、それでも、重力というのはけして軽く見るものではない。

 

 そして、その特徴の一つとして、重力は質量に応じて影響が変わるというものがある。

 

 説明すると長くなるので省くが、要は重ければ重いほど、重力の影響を強く受けるのだ。

 

 例えば、ピンポン玉と、ボウリングの玉を想像してみるといい。

 

 ピンポン玉は中が空洞で質量が少ないので重力の影響が軽く、天井まで軽い力で投げ付けられる。

 

 対して、ボウリングの玉は中身が詰まっているので重力の影響が強く、相当な力持ちでなければ、天井に当てることは難しいだろう。

 

 これは、生物が対象でも同じである。

 

 重さ10kgと、重さ50kg。

 

 質量が違えば、同じ高さまで上げるために必要となる力もまた、違う。そして、それは倍では利かない。

 

 

(──撤退しましょう)

 

 

 数式など分からなくとも、経験則から、その異常性にいち早く気付いた白面は──ジリジリッと、目線を離さないままに後ずさる。

 

 

 何故なら──今の一手で、女の腕力が己をはるかに凌駕しているのが分かったから。

 

 

 そう、持ち上げるだけならばともかく、そこから真上に……それも、数メートル以上上空へぶん投げるともなれば、己ですら不可能だ。

 

 加えて、腕力だけではない。

 

 刃を止めた速さからして、瞬発力も向こうが上。そのうえ、微動すらしなかった辺り、体幹の強さも半端ではない。

 

 そう、受け止めるだけなら、己でも出来る。

 

 しかしそれは、受け止めるよう構えて、踏ん張った末での話。眼前の女のように、あのように無造作に放り投げるなんてのは、出来ない。

 

 あの握力……摘まむ力。

 

 あんな不安定な姿勢で、刀を指先の力だけで折る時点でヤバい。万が一、あの握力で身体を掴まれたら……己の身体は容易く千切り取られてしまうだろう。

 

 

(幸いにも、相手は丸腰……勝つ事はリスクが高過ぎますが、囮となって逃がすぐらいは……)

 

 

 カツン、と。

 

 意図的に足音を立てれば、意図を察した女たち。

 

 クリムちゃん、ローズちゃん、ワインちゃんの3人と、オークのトンドンさんが……ゆっくりと、後ずさり始める。

 

 時間も、場所も、悪い。

 

 相手が他の人間たちと同じであるならば、状況は圧倒的にこちらが有利であった。

 

 たとえパワーやスピードが負けていたとしても、この暗闇の中では、まともに夜目が利かないはずの人間など、なぶり殺しに出来た。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 何故なら、相手はどういうわけか、夜目が……もしかしたら、自分たち以上に夜目が利いている可能性すらある。

 

 こちらで夜目が利くのは、自分たち4人だけ。

 

 本来ならば、近接戦闘でははるかに有利を取れるトンドンさんは、夜目が利かないから戦えない。

 

 そのうえ、クリムちゃんたち3人は女であるがゆえに、非力。

 

 下手に前に出られるより、トンドンさんを連れて逃げてくれた方が戦いやすい。

 

 

「戦う前に、質問をいいかい?」

 

 

 そう、判断した白面は──対話にて、時間を稼ぐことを選んだ。

 

 有無を言わさず攻撃してくる可能性もあるが、先ほどの応対からして、まず情報収集から入るだろうという計算もあった。

 

 

「……はい、なんでしょうか?」

(──良し!)

 

 

 そして、その計算は当たった。

 

 少しばかり間が空いたのでヒヤッとしたが、とにかく時間は稼げるかもしれない……内心の緊張を抑えながら、白面は率直に尋ねた。

 

 

「君は、人間なのかい?」

「いいえ、違います」

 

 

 けれども、そこから話を広げようと思ったが、一言で会話が終わってしまった。

 

 

「……隠さないんだね」

「隠す理由がありません。では、殲滅します」

「いや、そのまえに、君は亜人なのかな?」

「いいえ、亜人ではありません。では、殲滅します」

「いやいや、待って。それでは、なんなんだい?」

「対グノーシス用人形掃討兵器KP-X シリアルNo.000000001、です。では、殲滅します」

「いやいやいや、待って。対ぐの……なんだって?」

「名前は、モッコス、です。では、殲滅します」

「いや、他にも効きたい事が──」

「仲間を逃がす時間稼ぎですか? これ以上の質問への返答は、無意味と判断します」

「……そうか」

 

 

 そこから、なんとか会話を繋げようと頑張ったが、駄目だった。

 

 かつん、かつん、とまっすぐ距離を詰めて来る女を前に、やはりハッキリとこちらの位置を捉えているのを認識した白面は──最後に、問うた。

 

 

「人間ではない君が、どうして人間の味方をするのか、最後にそれだけは教えてくれないか?」

「それは、私の心が人間だからでしょう」

「君が? 人間ではないのに?」

「はい」

「君は、人間が何百年も前から、どれだけ亜人たちを一方的に殺して来たか、知っていてそう言うのかい?」

 

 

 ──ピタリ、と。

 

 

 初めて、足を止めた女を見て、白面は──着実に離れていく仲間たちの気配を確認しつつ、意識して柔らかい声を出す。

 

 

「君は知らないかもしれないけど、僕たち亜人を最初に襲ってきたのは、君が味方をする人間──」

「対話は、不要です。今ので、確信を得ました」

「──なに?」

 

 

 それすらも女からは一言で切り捨てられた白面は、さすがに怒りを覚えて声を低くした。

 

 

「質問を返します。どちらが先に始めたのか、それは現在の私たちには知る術がありません。ただ、信じたい方を選ぶだけであり、それ以上でもそれ以下でもありません」

「なんだと……」

「そして、貴方の言う一方的という話、私はそう捉えません。むしろ、そうせざるを得ない状況だと気付いたからこそだと推察します」

 

 

 けれども、それ以上に女の声は無機質で……殺意を覚えるほどに、どこまでも平坦で独善的な言い分を吐き始めた。

 

 

 

 

 

 ──ああ、駄目だな、これは。

 

 

 仮面を被ったファンタジー生物……いや、亜人を前にした彼女は、内心にて溜息を零した。

 

 それは、失望とは少し違う。かといって、絶望ともちょっと違う。

 

 そう、強いて挙げるならば、諦めた、といった感じだろうか。

 

 もうこれは、どうしようもない事なのだなと心底納得させるには十分過ぎた。

 

 

 いったい、なにをって? 

 

 

 それは──どう足掻いても、どんなにお膳立てされていたとしても、だ。

 

 人間と亜人とでは絶対に共存出来ない事を、被害者だと訴える眼前の彼が理解していないことに気付いたからだ。

 

 実は、彼女は『ウ・ドゥ』より、この世界のファンタジー生物について、フワッと大まかな説明を受けている。

 

 あくまでも、フワッと。

 

 『ゴブリン=人の雌を攫って子供産ませるよ』といった、そんなコテコテのファンタジーってあるのかって感じのフワッと感。

 

 あとは、この大陸へと向かう道中、立ち寄った町やら何やらで出会った人たちからも、フワッと……で、だ。

 

 それらの説明を聞いた時、彼女は率直に思ったのだ。

 

 

 ──え? それ、人類ヤバくね? と。

 

 ──人類が滅びていないの、偶々じゃね? と。

 

 ──ちょっとでも状況が変われば、終わりじゃね? と。

 

 

 そして、実際にこれまで戦闘することになったファンタジー生物たちを振り返りつつ、眼前のファンタジー生物と応対して、それが確信となった。

 

 

 

 ……この世界の人類は、弱者なのだ、と。

 

 

 

 今しがた相手の剣を止めて、それがよく分かった。

 

 単純に、筋力の質が違い過ぎる。瞬発力とか持久力とか、そういう問題ではなく、純粋に亜人の筋力は人間より強い。

 

 そう、総合的に見れば、亜人の方が強いのだ。

 

 また、眼前の亜人の反応(会話を含めて)からして、知性もある。それも、人間と同等レベルに……それに、眼前の亜人は剣を持っていた。

 

 つまり、亜人は武器を作り出し、あるいは作り出せる者たちと交流があり、協力を得る事が出来るというわけだ。

 

 もしも、この大陸との間に『海』という広大な障壁が無かったら……おそらく、その何百年も前に人類はこの地上から姿を消しているだろう……そう、彼女は思った。

 

 

(恨みは無い──けど、まだ何もしていない私に、これまで一方的に襲い掛かって来たのはそちらも同じなんだよな……)

 

 

 だからこそ彼女は、根本的に人間とは相容れない存在だと結論を下し──話を打ち切り、全ターゲットの殲滅を開始した。

 

 

「『F-MSHOT』」

 

 

 彼女の背中より連続して放たれる、マイクロミサイル。

 

 見るのは、初めてなのだろう。

 

 ギクッと一瞬ばかり眼前の亜人は動きを止めたが、それは本当に一瞬のことで──すぐさま、とんでもない身のこなしで全てのミサイルをスルスルと避けた。

 

 それを見て、やはりな、と彼女は納得する。

 

 この亜人が、種族の中で優れている可能性は大いにある。だが、人間という種族の中で同等の事が出来る存在は、まず居ない。

 

 そりゃあ、人類は危惧するだろうよ……そう、内心にて苦笑を零した彼女は──チラリと、亜人の背後へと視線を向けた。

 

 

「──っ!?」

 

 

 直後、亜人は気付く。だが、気付いた時にはもう、遅かった。

 

 

 ──瞬間、閃光が空間を照らし、ほぼ同時に、爆音と衝撃波が反響した。

 

 

 そう、マイクロミサイルは、この世界の常識的な飛び道具である弓矢ではない。

 

 着弾すれば爆発し、熱と衝撃波によって直撃を避けても致命傷を負いかねない、盾殺し&鎧殺しといっても過言ではないミサイル兵器なのだ。

 

 そして……そんな兵器をまともに、あるいは直感的に気付いて避けようとしたところで、防げるものではない。

 

 何故なら、KOS-MOSのマイクロミサイルは追尾をするからだ。

 

 弓矢とは違い、推進剤によって進行方向を変えながら加速が可能なミサイル兵器は……射線上より飛んで避けた者ほど、逃げ場がなかった。

 

 結果──今の一瞬にて、逃げようとしていた亜人たちは全滅した。

 

 屈強な身体のオークだろうと、関係ない。

 

 1発で致命傷を受けた亜人たちは、続けられた2発目、3発目によって……その身体は散り散りとなり、肉片となった。

 

 

『──っ!? ──っ!?』

 

 

 眼前の亜人が、大地を震わさんばかりに雄叫びをあげる。

 

 点々と飛び散った炎が、暗闇の中を僅かばかり照らす。

 

 その炎の燃料となってしまった肉片たちを察した、亜人の悲鳴であり、怒号でもあった。

 

 

 ──が、しかし、それは悪手でしかなかった。それも、致命的な悪手であった。

 

 

 時間にして、弓に矢をつがえて放つ時間──の、半分以下にも満たない一瞬。

 

 武器が弓矢であったならば、それでもなお逃げられるだけの猶予であったが……亜人にとっては不幸なことに、彼女の武器は弓矢ではない。

 

 名称は、『BLASTER』。凡庸性の高い、ハンドガン。

 

 ハッと我に返った亜人が、彼女へと視線を戻した──と、同時に、その身体に銃弾が3発着弾した。

 

 

『──っ』

 

 

 そして、その瞬間、勝敗は完全に決した。

 

 何故なら、弓矢とは違い、放たれた銃弾が持つエネルギーは桁違いに大きいのだ。

 

 漫画やアニメなどで、銃弾を受けても構わず直進するといった表現が成されたりするが、アレはフィクションだ。

 

 実際に銃弾が当たれば、まず動けなくなる。

 

 それは、身体の防衛反応として筋肉が収縮し、出血を止めるため。ガチガチに全身の筋肉を硬直させた状態でいつも通りに動けるか……そう考えれば、想像しやすいだろうか。

 

 骨だけでなく、筋肉や内臓や血管に当たって減速する際、グネグネと軌道が変わってしまうことによって、よりダメージが増す場合も珍しくはない。

 

 実際、腹に当たった弾丸がグネグネと体内の柔らかい場所に移動して、内蔵を広範囲に渡って傷付けたなんて話も報告されていたりするのだ。

 

 

「ターゲットの心音を確認──追撃します」

 

 

 ただし、そんな威力の銃弾でも、やはり心臓や脳などの重要臓器に当たっていなければ、早々に即死するものではない。

 

 ゆえに、彼女は──距離を保ったまま、ハンドガンを連射する。

 

 それに合わせて、びくん、びくん、と亜人の身体がケイレンする。まともに身動きが取れなくなった身体では、身をよじることすらまともにできない。

 

 ……銃弾の一番のメリットは、身体のどこに当たっても非常に高い効果を発揮すること。

 

 足に当たれば、足を動けなくさせる。

 

 腕に当たれば、腕を動けなくさせる。

 

 こちらへ突進しているといった状態ならば、運動エネルギーに任せてそのまま突っ込めるが、倒れた状態で狙い撃ちされたら……いかなタフな生き物とて耐えられない。

 

 

「──ターゲットの死亡を確認。これより、戦闘モードを解除します」

 

 

 なので、弾数にして22発も撃ち込まれた後にはもう……その身体から流れ出る鮮血ですら、緩やかになっていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………彼女は知らないから無理もないことだけど、いま、この瞬間。

 

 

 数多の人間たちを恐れさせたレッドキャップたちの中でも、ひと際その名を轟かせていた、『白面金毛』が……仕留められた瞬間でもあった。

 

 

 

 

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