神社探求伝   作:一日

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勢いで書いた。後悔しかしていない。


第一話 幣立神社編

 神谷天治(かみやてんじ)。十九歳独身。身長は一五〇センチ後半と小柄。女顔で制服を着せれば女子高校生にしか見えない。仕事の内容は知らないが、とある会社に勤めているとのこと。

 

 私が知っている彼の情報はこの程度のものでしかない。先日たまたま知り合っただけの知り合い、よくて友人といった関係だ。

 

 そんな彼から送られてきたメール。

 

 『車を買ったので近々ドライブに行きたいと考えています。ご一緒にどうですか?』

 

 ……いわゆるデートのお誘いというやつだ。数回会っただけの人物からの誘いだけにどう返答したものか悩ましい。

 

 「暇だから行ってみようかしら」

 

 五分ほど考えた後、そう結論付けて簡潔に返答を送った。

 

 

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 「なんていうか……似合わない車ね」

 

 助手席へと乗り込みながら、思わず呟く。

 

 待ち合わせ場所へ天治が乗ってきた車はマツダのアテンザという車だ。少々ごついその見た目は、とても天治の趣味とは思えない。

 

 「よく言われます。ほんとは別の車を買う予定だったんですけどね、会社の同僚からこれを売りたいって言われたんで格安で譲ってもらったんですよ」

 

 苦笑しながら、天治が答える。

 

 「道理で。ちなみに買う予定だった車っていうのは?」

 

 「マツダのデミオですよ」

 

 「それなら納得だわ」

 

 シートベルトをつけたところでふと思い出す。

 

 「そういえば聞いてなかったけど、今日の目的地はどこなの?」

 

 こちらに振り向いた天治はにっこりと笑った。

 

 「秘密です。ヒントは……九州のへそです」

 

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 「つきましたよ」

 

 休憩もいれて二時間かからない程度。他愛もない話をしていたため、そこまで時間がかかったてはいないように感じた。しかし、それでも彼女は思わずため息をついた。

 

 「あんたねぇ……女の子連れてくる先がどうして神社なのよ!」

 

 心からの叫びが周囲に響き渡る。それを聞いた天治は完全にフリーズしてしまった。

 

 ジト目で天治を見続けるが、まともな反応は返ってきそうになかったため再度ため息をついた。

 

 「まぁいいわ、せっかくだから参拝していきましょ」

 

 その言葉でようやく天治が活動を再開する。

 

 鳥居の前で一礼し、階段の端を歩いて登る。どちらも天治に言われて取った行動だ。この男、やたらと参拝作法について詳しいようだ。

 

 「ここの神社、何て名前なの?」

 

 鳥居に書いてあったが、読みが分からなかったため天治へと問いかける。

 

 「幣立(へいたて)神宮です。幣というは神様への供物のことですね。阿蘇の開拓神である健磐龍命(たけいわたつのみこと)が阿蘇へ向かう途中に幣帛(へいはく)を立てたのこがこの地だとされています」

 

 「詳しいのねあんた。神社好きなの?」

 

 「ええ、僕の数少ない趣味ですから」

 

 天治の顔は好奇心に満ち溢れた少年のそれになっていた。息を荒げながらも足を止めることなく階段を上っていく。

 

 樹木に囲まれているせいか、昇り始める前よりも明らかに気温が下がっていた。初詣程度しかしない一般的な日本人である彼女にも厳かな雰囲気を感じ取ることが出来た。

 

 階段を昇りきり、参拝を済ませる。何の御利益があるのか分からなかったため、とりあえず今回のドライブが安全に終わるように祈願する。

 

 その後、天治はどこからか本のようなものを取り出して、神職の方へと渡していた。御朱印(ごしゅいん)というもので、簡単に言えばお守りのようなものらしい。御朱印を押してもらっている間に、天治へと問いかける。

 

 「ここはどんな神様を祀っているの?」

 

 「それは由緒書きに書いてありましたよ。えっと、こっちですね」

 

 由緒が書かれた板の前まで歩く。

 

 「ここに書いてある通り、神漏岐命(かむろぎのみこと)神漏美命(かむろみのみこと)大宇宙大和神(おおとのちおおかみ)天御中主大神(あめのみなかぬしおおかみ)天照大御神(あまてらすおおみかみ)です。」

 

 流石の彼女も天照の名前ぐらいは聞いたことがある。だが、他の四柱については聞いたこともなかった。疑問符が浮かんだ顔から読み取ったのだろう。天治が解説を続ける。

 

 「天照を除いた四柱は天照よりも古い神様になります。天御中主大神は高天原(たかまがはら)に最初に降臨した神様とされていますが、ここがその高天原だと言われています。天孫降臨で有名な宮崎県は高千穂もまた高天原と言われることがありますがここから近い場所ですね」

 

 ふむふむと頷き、目で続きを催促する。なんとなくしか分からないが、日本人として知っておいて損はないだろう。得もないかもしれないが。

 

 しかし、天治は苦笑いを浮かべて続きを語ろうとしなかった。

 

 「天治?」

 

 「大宇宙大和神はここにしか祀られていない神様で僕もよくは知らないんですよね。神漏岐命と神漏美命は天津祝詞に出てくるほど有名な神様です。伊弉諾(いざなぎ)伊弉冉(いざなみ)と同じくギが男を、ミが女であることを示していると言われています」

 

 天治の顔を見れば汗が浮き出していた。決して、階段を昇ったからではないだろう。彼女は直感でこれが冷や汗なのだと見抜いた。

 

 「……もしかして詳しくは知らないの?」

 

 天治が唐突に咳き込む。どうやら図星のようだ。

 

 「ほとんど資料が残ってないんですよ……だから、僕もよくは知らないんです。正式に勉強したわけでもないですし」

 

 そこまで落ち込まなくてもいいのに、と思わず言いたくなるほど凹んでいる天治。仕方なく、話題を変えるために、再び由緒書きへと視線を向ける。そこには知保(ちほ)筑紫の屋根(つくしのやね)など聞きなれない言葉が並んでいる。

 

 「難しい言葉ばっかり並んでるわね。特にこの神籬(ひもろぎ)? 読みが書いてなかったら絶対読めない自身があるわ」

 

 うつむいていた天治が顔をあげる。

 

 「漢字はあくまで当て字ですからね。そもそもの意味はひが神様を、もろは天下るといういものあもるの変化、ぎは木で天から降りてきた神様が宿る木で━━」

 

 突然、天治が黙り込む。そしてぶつぶつと何事かを呟きだす。落ち込んでいたのはどこへやら、とても真剣な表情へと変化している。

 

 「よし、それじゃあっちに行ってみましょうか」

 

 突然元気を取り戻した天治が歩き出す。向かうのは社殿の横。樹齢一万五千年と伝えられる天神木と呼ばれる御神木の前だ。

 

 「これにかつて神霊が宿ったといわれています。先ほど由緒にあった神籬ですね。さて、そしてもう一つこの神社にはいくべきところがあるんですよ」

 

 目で天治へと問いかけるが、にっこりとほほ笑むだけで答えようとせずに歩き出す。ついてこい、ということだろう。

 

 本殿の左にある小道を降りていく。ヒールを履いてこなかった自分をほめたくなるような道だ。その道を天治は半ば駆けるように降っていく。よほど興奮しているのだろう。

 

 道を降り切ったところには小さな社があった。東御手洗社(ひがしみたらいしゃ)という場所のようだ。

 

 天治に続いて、参拝する。祈願する内容はさきほどと同じ、今回の旅の安全である。

 

 「それじゃ、喉も乾きましたから水を飲みましょうか」

 

 彼の視線の先には、二つの竹筒から流れでる清水があった。水とはこれのことだろう。

 

 「この水は長寿の効果があるらしいですよ。それに右と左で味が少し違うとのことです」

 

 天治に倣って左右の水を飲み比べてみる。確かに味が違うことが感じ取れた。

 

 「どうです? おいしい水でしょう?」

 

 「ええ、来たかいがあるぐらいには」

 

 その言葉に天治はにっこりとほほ笑んだ。

 

 「そうでしょうね、なんといってもその水は神様そのものですから」

 

 その言葉に彼女は思わずキョトンとした。

 

 「ここは八大竜王の鎮まる所であるとされていますが、それだけじゃない。その水こそが神漏美命そのものなんですよ」

 

 思考が追いつかず、天治の言っていることが理解できない。

 

 「気づいたのはついさっき。神籬について話しているときでした。神籬のひをかむと置き換えてみましょう」

 

 言われた通りに口の中で呟いてみる。

 

 「かむもろぎ……それがなまって神漏岐と言いたいの?」

 

 「その通りです。そう考えれば自然と神漏美の正体も見えてきますから。先ほどみは女を示すと言いましたが、もうひとつ、()を示す言葉でもあります。神の宿る木━━これはさきほど見た天神木。そして竜王の宿る水。これこそが神漏岐・神漏美の正体です。なにせこの神社は幣帛が立った地、幣帛は神の宿る依り代でもあるのですから」

 

 正直、来たときは神社なんて、と思っていた。また来たいかと聞かれたらきっと言葉を濁していたはずだ。でも今は、天治のこのキラキラした顔が見られるならまた来てもいいかな、と思えた。

 

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 預けておいた御朱印帖を回収し、階段を降りて車へと戻る。丁度天治が車の鍵を開けたところで声をかける。

 

 「疲れたでしょ? 運転代わるわよ」

 

 意表を突かれたのか、天治が慌てふためく。

 

 「それに、あんたの運転安全だけどちょっとゆっくりで暇なのよね。お姉さんがお手本みせてあげるわ」

 

 そういって半ば強引に鍵をもぎ取って、運転席へと乗り込む。そうすると天治はおとなしく助手席へと移動した。彼女の思った通り、強引な行動に弱いようだ。

 

 人の車なのでできるだけ、安全に運転していく。三十分ほど運転したところで、目的地が見えた。

 

 「ちょっと疲れたから休憩するわよ」

 

 「え、でも車どこに止めます? コンビニとかは近くにはないですよ?」

 

 「あら、ちゃんと休憩するところならあるじゃない」

 

 言われていることに気づいた天治の顔が真っ赤に染まる。

 

 「え、いや、でも━━」

 

 隣で何か言っているが、気にせずに駐車場へと止める。この期に及んでもまだ天治の覚悟は決まらないようだ。

 

 「ああ、ごめんなさい。順番がちがったわね」

 

 先ほどまでとは役割が変わり、今度は天治の顔に疑問符が浮かぶ。

 

 「好きよ。付き合いなさい」

 

 天治は顔を真っ赤にしたまま、蚊の鳴くような声ではい、と答えた。

 

 それに彼女は大きく頷き、車を降りる。

 

 「あ、あの一之瀬さん!」

 

 まだ、助手席に座ったままの天治に呼び止められたため窓から手をいれて頭を掴む。

 

 「名前」

 

 「……え?」

 

 「名前で呼びなさい」

 

 恥ずかしいのか天治は視線をそらそうとしたが、頭を掴んだ手に力を入れて阻止する。

 

 「えーっと、……飛鳥(あすか)、さん」

 

 「よし、さあ行くわよ」

 

 助手席のドアを開けて、天治を引っ張って建物へと入る。

 

 「ちょ、ちょっと待って━━」

 

 「男ならさっさと覚悟を決める!」

 

 そういって、飛鳥は勝手に受付を始めるのであった。

 

 

 

 




 「なにキョロキョロしてんのよ? もしかして……初めて?」

 やたらと落ち着きがない天治を見て、ふと問いかける。その表情からして図星のようだ。いや、もしかするとそもそも……

 「あんた、もしかしてするの自体初めてだったりするの?」

 「うぐっ!?」

 天治が妙なうめき声を漏らす。その反応を見た、飛鳥はにやりと肉食獣の笑顔を浮かべた。





 天治爆発しろ。いやマジで 

 ※紅顔の美少年は神谷の法則
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