神社探求伝   作:一日

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第五話 槵触神社編

 砂利道の上に立って、鳥居を見上げる。毎度のことながら、読み方は分からない。

 

 「ここ槵触(くしふる)神社は━━」

 

 鳥居の写真を撮っていた榊が例によって喋り出す。

 

 「古事記では久士布流多気(くじふるたけ)、日本書紀では槵触之峯(くじふるのたけ)などと記されていて、天孫の瓊々杵尊(ににぎのみこと)が降臨された地とされています」

 

 「ふうん……そんな古い由緒の割にはそんなに古そうに見えないんだけど」

 

 金属製の鳥居を見ての率直な飛鳥の発言に、天治は苦笑した。

 

 「元々ここは槵触山をご神体としてて本殿がなかったんですよね。それで江戸時代に造られたそうですから確かに建物としてはそんなに古くはないですね。この鳥居がいつ造られたものなのかまでは知らないですけど」

 

 一礼してから鳥居を潜り、脇にある由緒書きを見る。祭神は天児屋根命(あまのこやねのみこと)経津主命(ふつぬしのみこと)天津彦々火瓊々杵尊(あまつひこほににぎのみこと)天太玉命(あまのふとだまのみこと)武甕槌命(たけみかづちのみこと)と書かれている。よく見れば瓊々杵尊だけ太い文字で書かれていることからこの神様こそが主祭神なのだろう。

 

 「ここの祭神は随分と面白いですね」

 

 と言われても飛鳥にはよく分からなかった。

 

 手水舎で身を清めてから、天治と連れ添って参道を歩く。

 

 「ここの主祭神は遙か昔にここに降臨した瓊々杵尊です。彼は何柱かの神様と一緒に地上に降臨されました」

 

 「それがさっきの由緒書きに書かれた神様達のこと?」

 

 天治が首を横にふる。

 

 「普通に考えたらそうなんですけどね。一緒に降臨した神様と祭神が一部違うんですよね。そもそも数すら一致してないんですよね。天児屋根と天太玉は一致してるんですけど、記紀によれば残りは石凝姥命(いしこりどめのみこと)玉屋命(たまやのみこと)、そして天鈿女命(あまのうずめのみこと)です。まぁ鈿女以外は関わりが無いわけではないんですけどね。石凝姥は銅鏡にまつわる神ですから、いうなれば鍛冶の神です。武甕槌と経津主は戦神にして剣神ですからね。当然ながら鍛冶にも関わるでしょうし、武甕槌の鎚は鍛冶に欠かせないものでもあります。経津主も親の名前が磐筒男(いわつつお)磐筒女(いわつつめ)で、石鎚から生まれた神なんて説があります。最終的な役割が祭事なのか軍事なのかという違いはありますが、どう転んでも鍛冶に繋がるというわけです」

 

 辿り着いた本殿には、龍などの精緻な彫刻が施されていた。やはり、そこまで古いという印象は受けなかった。

 

 「祭事で思い出したんですが、記紀で瓊々杵と一緒に降臨した神様は皆祭事に関わる神なんですよね。鏡や玉は祭事の道具ですし、天児屋根や天太玉も岩戸隠れの際に祝詞を唱えたり鏡を掲げたりした神様なのでよほど祭事を重要視していたことが窺えるんですが……この神社では祭事だけでなく軍事も、いや軍事の方を重要視しているみたいですね。なんといってもこの神社は()()として信仰されていますからね。その証拠に拝殿に鹿が飾ってあったでしょう? 鹿は鹿島の神の神使━━鹿島の神は武甕槌の事ですからね。これは想像ですけど、彼らがこの地に降り立った時にきっと何かしらの争いがあったんだと思います。武甕槌と経津主は出雲の国譲りにも登場して、大国主たちから国を奪い取った神様ですからね」

 

 納得のいく話だった。だがそれでも疑問が残る。

 

 「でもなんで鈿女もいないのかしら?」

 

 「元々はいたはずですよ。ここは元々は二上神社(ふたがみじんじゃ)と言いまして、これはそのまま二柱の神様の事ですよね。後で行きますけど、ここの近くに別の二上神社があります。そこの祭神は伊弉諾(いざなぎ)伊弉冉(いざなみ)になっていますが、元々は土地柄的に猿田彦と鈿女であった可能性が高いですよね。となれば当然ここの祭神も同じだったはずです。きっと後から瓊々杵がやってきて猿田彦と鈿女を荒立神社に追いやったんだと思いますよ。そういえば、平家物語によればここの神様は蛇体なんですが、猿田彦は荒立神社で話した通り龍━━蛇ですからね。そう考えれば筋が通ります」

 

 ふむふむと大きく頷いてから飛鳥は尋ねた。

 

 「じゃあ槵触の意味は?」

 

 ぴたり、と天治の足が止まった。この反応には見覚えがあった。幣立神宮の時と同じだ。

 

 「……僕の知っている中では、瓊々杵の奇魂(くしみたま)が降臨した地だからという説があったはずです。ただ、僕はなんとなくですが違うんじゃないかなと思っています」

 

 残念なことに根拠はあまりないんですが、と前置きしてから天治は言葉をつづけた。

 

 「饒速日(にぎはやひ)という神様がいるんですが、この神様は天照(あまてらす)よりも古い太陽神だとする説があります。そして、初代天皇たる神武天皇より古い時代から大和付近を治めていた神様でもあります。この神様は別名で櫛玉饒速日とも言われているんです。この神様こそが降臨したから櫛降(くしふる)なんじゃないかと個人的には思っています」

 

 「そういえば猿田彦も天照より古い太陽神でもあるって言ってなかったかしら?」

 

 ふと思い出したことを口に出してみる。

 

 「よく覚えてましたね。猿田彦と饒速日を同一視する説は実際にあります。勉強不足なんで正しいかどうかはわからないですけど。ただ、猿田彦が古い太陽神であることは多分間違いないと思います。荒立神社で猿田彦は恵比寿(えびす)━━蛭子(ひるこ)と同一視されてましたからね」

 

 蛭子の名前ぐらいは飛鳥でも聞いたことがあるし、簡単ではあるが荒立神社で話を聞いている。その時の内容を思い出しつつ、天治の話へ耳を傾ける。

 

 「蛭子は海に流される話をしたと思いましたが、この時西()に流されてるんですよね。たどり着いたのが西の浦で祭られたのが西宮神社と西という漢字がついてまわりますからね。後大日孁(おおひるめ)が天照の別名ということは一度話したと思いますけど、これには日の巫女━━太陽の巫女という意味があります。そこから逆に考えれば蛭子は日の子、もしくは日の()なのではないかと僕は考えています。太陽が沈むのは西の方角ですからね」

 

 そう言って天治は飛鳥に向かってウィンクした。

 

 

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