神社探求伝   作:一日

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第六話 高千穂神社編

 槵触神社のすぐ近くに大きな駐車場と鳥居を備えた神社がある。高千穂八十八社の総社として信仰を集める高千穂神社だ。

 

 「ここの神社の一之御殿(いちのごでん)には高千穂皇神(たかちほすめがみ)という名で、瓊々杵尊(ににぎのみこと)を始めとしてその息子と孫、そしてそれぞれの配偶神が祀られています。また、二之御殿(にのごでん)には十社大明神として三毛入野命(みけぬのみこと)とその妻子九柱が祀られています」

 

 石段を登りながら天治の話に耳を傾ける。

 

 「この三毛入野命は神武天皇の兄とされているんですが実は記紀では熊野へと行く途中で亡くなったとされていまるんですが、ここの伝承では高千穂に戻ってきたことになってるんですよね。そして高千穂に住んでいた鬼八(きはち)という鬼を退治したという伝説が残っています」

 

 「その名前、どこかで聞いた気がするわね」

 

 「鬼八は阿蘇にもいたという伝説がありますからね。その話を聞いたことがあるんじゃないですか?」

 

 飛鳥は生まれて以来ずっと熊本にいるため、ふとした時に話を耳にしたのだろう。詳しい事については全く知らないが。

 

 石段を昇りきった正面に拝殿が見えた。境内は中々に広く、人も多い。いつも通りお参りしてから、交通安全を祈願する。

 

 その後、一旦御朱印帖を作務所に預けてから境内を見て回る。まず、目についたのは大きな杉の木だった。看板によれば樹齢八百年になるという杉の木で、源頼朝の命を受けた畠山重忠によって植えられたものとのことだ。重忠公が秩父氏であったことに由来して秩父杉というそうだ。

 

 しばらく境内の周りを練り歩いていると不意に天治が足を止めた。その視線の先を見てみると、拝殿の一角に彫刻が刻まれていた。髭を生やした人物が足元の人間に剣を突きつけている。そんな彫刻だ。

 

 「あれが三毛入野命と鬼八の彫刻だとされています」

 

 服装からして剣を持っているのが三毛入野命なのだろう。となれば、足元で命乞いをしていると思しき人物が鬼八なのだろうが、筋骨隆々でもなければ角も生えていない。飛鳥のイメージする鬼とは全く違うものだった。

 

 「鬼八は岩窟に住まい、人々を襲っていたとされています。そして美しい姫を無理やりに嫁にしていたそうです。それを知った三毛入野命によって討たれます。。その後、姫は三毛入野命の妻となったそうです。怪物の元から女性を救い出してその後妻にするというのはペルセウス・アンドロメダ型神話と言って世界各地に伝わっています。同じ日本神話の中でも奇稲田姫(くしいなだひめ)素戔嗚(すさのお)八岐大蛇(やまたのおろち)の話がありますしね」

 

 「でもあの彫刻……とても鬼には見えないんだけど。角も無いし」

 

 「元々鬼の姿に決まりはないですからね。今の姿になったのは六世紀後半ぐらいとの事ですからよほどここの神話の方が古いはずですよ。伝説通りなら紀元前の話ですからね。ちなみに角は彫刻にないだけで鬼八の伝説ではちゃんとあったみたいですけどね」

 

 天治の話に関心しているうちに天治の視線は既に移っていた。彫刻のすぐ横に腰ほどの高さの柵に囲まれた小さな石が見えた。立て札によれば、鎮石(しずめいし)といい垂仁天王の勅命によて伊勢神宮と高千穂神社を創建した際に用いられた石とのことだ。また、関東は鹿島神宮の要石(かなめいし)はこの高千穂神社から贈られたものとも書かれている。

 

 「ちなみにですが、ここと鹿島神宮を直線でつなぐと富士山や()()()()がその直線状に存在しています。きちんと関係する箇所が出てくる辺り意味深ですね。それに鹿島神宮の要石の下には地震を起こす大鯰がいるとされていますが、この鯰はかつては龍であったといいます。高千穂の龍と言えば先ほど話した通り猿田彦を僕は連想します。猿田彦を石によって押さえつけると考えればこの土地にはとても合っているでしょう?」

 

 思わず頷きそうになる程度には納得の行く話だった。猿田彦が送られた先である伊勢も出てくるため、実際に正鵠を得ているのかもしれない。

 

 その後、御朱印帖を受け取った後に石段を降りる。丁度降り切ったところで天治から質問された。

 

 「鬼八ってどういう意味だと思います?」

 

 「え? ……八人いたって訳じゃないわよね。さっきの彫刻は一人だったし」

 

 「折角ですからそれを確認しに行きましょうか」

 

 そういって車を置いて神社の外へと歩いていく。

 

 「八、という数字には特別な意味があります。よく言われるのが八百万(やおよろず)のように多くの、という意味ですね」

 

 「つまり鬼八は、多くの鬼って意味なの?」

 

 「その意味もあるかもですね」

 

 ウィンクと共に意味深な返答をされる。その後しばらく歩くと、三叉路の真ん中に石碑が立っているのを見つけた。

 

 「八にはもう一つ意味がありまして、㭭と書くように分ける、バラバラにするという意味があります。分けるという漢字も刀に八ですしね。さて、これは鬼八塚のうち首を埋めた場所だとされています」

 

 「首をって……」

 

 脳裏に浮かんだスプラッターな光景に思わず眉をしかめた。

 

 「ええ、鬼八は一度退治された後に蘇ったがために首と胴体と手足をそれぞれバラバラにされてるんですよ。つまり鬼八はバラバラにされた鬼、という意味なんでしょうね」

 

 石碑の方は文字が掠れてしまっていて文字が判読できないが、その隣に立て札がありそちらの方は普通に読むことが出来る。

 

 その中で飛鳥の目を引いたのは、鬼八に毎年十六歳の少女が人身御供として捧げられていた、と書かれた部分だった。視線からどこを見ているのか察した天治が頼んでもないのに解説を始める。

 

 「安土桃山時代からは少女の代わりとして猪━━シシ━━四四(しし)で十六という事です━━を捧げているそうなんですがこの話を聞く限り、十六であることに意味があるみたいですね。この十六という数字、何か思いつきませんか?」

 

 「……鬼八の八から八足す八とか?」

 

 「ええ。もしくは六足す十とか」

 

 しばらく考えてみたが、思いつくものはなかった。仕方なく、お手上げのポーズをとる。

 

 「高千穂神社の祭神ですよ。一之御殿には六柱、二之御殿には十柱。ほら、ちょうど十六柱じゃないですか」

 

 「いくらなんでも偶然なんじゃ……」

 

 「そうですか? ここの祭神と鬼八は不倶戴天ですからね。鬼八を鎮めるために捧げる対象としては適切じゃないですか。それにここは高千穂八十八社の総社ですからね。ほら、やっぱり八足す八で十六だ」

 

 絶句する飛鳥をよそに、天治は勝手に話を続ける。

 

 「そういえば、鬼八は霜の神様だとされているんですが八十八夜の泣き霜なんて言葉があります。八十八はやっぱり鬼八と繋がりのある言葉なんでしょうね」

 

 何気ない言葉の意味を探ってみると、深い所で繋がっている。それは今まで天治の話でさんざん思い知らされたことだ。過去の人々が本当にそこまで考えていたのかは分からないが、本当に天治の言う通りだとしたらとても面白い話だと飛鳥は思った。

 




ようやく鯰の話がちらっとですが出ましたね。次の次で詳しい話になる予定です。

夫婦杉についてはとりあえず省略。秩父杉は何となく思うところがあったので一応描写した。この伏線を回収することはあるのだろうか……。

追記 

 当初は高千穂皇神だけを祀っていたがのちに十社大明神が追加されたとのことである。意図的に十六にしたのではと勘ぐってます

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