車一台がようやく通れるような細い道を進んだ先の駐車場へと車を止める。先ほど行った阿蘇神社と違い、天治達以外に人影は見当たらない。目に入るのは、静謐な雰囲気を漂わせる参道だけだ。
「先ほども少し話しましたけど、ここは阿蘇国造神社━━阿蘇神社の北の方角に当たるので別名を北宮といいます」
実際には少しだけ東にずれてるんですけどね、とニコニコしながら語りかけられる。
「この神社は全国的に見てもとても珍しいものがあるんですけど、それは置いておいて先にここの祭神について話すとしましょう」
とても気になることを言いつつ、こちらが何か反応を返す前に話を続けられる。普段はオドオドしているというのに、こういう時だけイキイキしている。それも慣れてしまったが。
「この神社の祭神は、
天治の解説を聞きながら、境内を見渡す。
「もしかしてこれがさっき言ってた珍しいもの?」
飛鳥が見つけたのは、巨大な
『白蛇の桧』とタイトルのつけられた立札にはこう書いてった。
古くよりこの桧には白蛇が宿り時々姿を表すが、この白蛇を拝んだ(見た)者は運が開けると伝えられている、とのことだ。
「確かにその桧は特殊な種類でここまで大きいのはとても珍しいみたいですけど、白蛇の信仰自体はそう珍しいというわけでもないです。弁財天や諏訪大社の神使とされていますから」
何となく悔しさを感じながら、お参りを済ませる。ふと、本殿の隣に小さな社を見つけた。
「それこそが全国的にも珍しいものです」
「これが?」
社の見た目は特段変わっているわけではなかった。
「━━ということは何か珍しい神様が祀ってあるの?」
「ええ。その通りです。その社の下に見えませんか?」
言われてみて、改めて社を観察する。社のちょうど真ん中ぐらいにスペースが空いており、そこに石が置いてある。その石の上には、魚のような置物があった。
「鰻……にしては太くて短いわね。もしかして鯰?」
「正解です。よくわかりましたね」
天治の指し示す先にを見ると立札があった。
『鯰宮
祭神 大鯰の霊
由緒 往古 阿蘇大神 国土草創、阿蘇谷の湖水干拓のとき 湖の精と称する大鯰居て涸死す。因ってその霊
をここに祀つられた。
古来より
祭典 三月二十八日』
「癜瘋肌というのは別名シロナマズ━━
不意に問われて慌てて記憶を探る。確かどこかの神社で━━
「大鯰を封じるために使われていた」
「ええ。高千穂神社から贈られたという鹿島神宮の
説明を聞きながら境内を見回すと、もう一つ鯰宮に関する立札があった。そちらでは、鯰は自ら阿蘇を去ったと書かれていた。だが、どちらにせよ健磐龍に追いやられたことに変わりはない。
「ああ、そういえば鬼八がバラバラにされた話はしたと思いますけど、実はそのあと復活しないよう岩の下敷きにしたという伝説も残ってるんですよね」
「それってつまり……鯰と同じってこと?」
「ええ。どちらも天津神の系譜に追いやられ、恐らくはバラバラにされて岩の下へと閉じ込められていますから。僕はきっと同じか、非常に近しい存在だったとにらんでいます」
「ちょっと待って。鯰がバラバラにされたなんて、さっきの立札には書いてなかったわよ」
「確かに明記はされていないですね。でも鯰という名前自体がバラバラにされたことを暗示しているんですよ」
しばらく考えてみるが、天治の言っていることがよく理解できなかったため、今日何度目かわからないお手上げのジェスチャーをとってみる。
「飛鳥さんは
「え? あの、大根と人参の? 確かに鯰と音は似てるけど何の関係があるのよ?」
「あれは元々細く切った生肉や生魚の事を指す言葉なんですよ。つまり、切り刻むとほぼ同義というわけです。鯰という名前にはそういう意味あるんですよ、きっと」
ついに本格的に鯰の話がでてきましたね。これで阿蘇・高千穂の神話にまつわるキーワードはほぼ全て出そろいました。次の話で阿蘇・高千穂編は最後となります。阿蘇神社なんかに比べると非常にマイナーですが、そこの話で阿蘇・高千穂の神話はすべて収束します。ご期待いただければと幸いです