神社探求伝   作:一日

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第九話 霜宮神社編

 国造神社を出てしばらく車を走らせる。国道から脇道へと入り田んぼの中の道を進んでいくと、石造りの鳥居が見えた。車を止める場所を探すが、駐車場の表記が見当たらない。しばし周りを見渡した後、仕方なく道の脇へ止めた。狭い道ではあるが、これならどうにか通行可能なはずだ。

 

 車を降りて、鳥居の前で一礼してから境内へと入る。参道の奥に社があるだけで、他には人の姿すら見えなかった。

 

 「ここが鬼八を祀る霜宮神社━━別名、霜神社です。鬼八がバラバラにされた話はしましたよね? その後鬼八は霜を降らして恨みを晴らそうとしたらしいです。要は作物を取れないようにしたという事でしょうね。高千穂で鬼八を退治した三毛入野命(みけぬのみこと)は食物にまつわる神だとされていますから。まぁ、単純にここは阿蘇神社の下宮(げくう)━━『しもみや』ですからそちらの意味もあるんですしょうけど。そういった経緯で出来たのがここの神社なんですが……なぜか主祭神は天津神、もしくは北斗七星の神であると言われているんですよね」

 

 天治曰く、三毛入野命の『み』は尊称で『け』は食物を指す言葉とのことだ。

 

 お参りを済ませてから、周りを見渡す。まず目に入ったのは、文字が書かれた石碑だった。しかし、ほとんどの文字が薄れてしまっていて、判読することは出来なかったが、何となく文字数から歌碑のように思えた。次に目に入ったのは、霜宮神社に関する立札だった。そこに書かれている内容のほとんどは天治からすでに聞いていたが、一部はまだ聞いていない内容だった。

 

 「ねぇ、これによると近くに『御手洗社(みたらいしゃ)』っていうのがあるみたいよ」

 

 「御手洗社、ですか……。そうですね、ぜひ行ってみましょう」

 

 立札にはしばらく歩くと書かれていたが、実際にはほんの数十メートルほど離れた場所だった。入口には、しめ縄と鳥居があったため、すぐに発見することができた。

 

 「飛鳥さんは御手洗社と聞いて何か思い出しませんか?」

 

 「……幣立神宮?」

 

 「ええ、正解です。健磐龍命(たけいわたつのみこと)が高千穂から阿蘇に移る途中に立ち寄ったというあの神社です。高千穂には八大竜王水神社があり、途中には幣立の東御手洗社、そして阿蘇と似たような社があるのは偶然なのでしょうか?」

 

 そう聞かれたが飛鳥には判断はつかなかった。だが、きっと偶然ではないと漠然と思っていた。

 

 御手洗社に参拝した後、横にあった立札を読む。それによると、ここで湧き出している水で目を洗うと眼病が治る、と伝えられているらしい。

 

 「北斗七星……眼病……なるほど、そういうことか」

 

 天治の方を伺うと、同じ立札を読みながらなにやらぶつぶつと呟いていた。

 

 「霜宮神社の祭神が北斗七星の神だというのは、どうやらこの伝説が元のようですね。たぶん最初は北斗七星━━七という数字が重要だったはずです。七は怨霊封じの数字だと言われていますからね。その後、仏教が入ってきて七仏薬師の伝承が混じったのでしょう。細かくは省きますけど、七仏薬師は北斗七星の本地とされていて、かつ万病、ことに眼病にご利益のある神様とされていますから。それに、阿蘇神社に山王社(さんのうしゃ)がありましたけど、山王信仰の中心となる神様は薬師如来ですからほぼ間違いないでしょう」

 

 その後御手洗社の背後にある、火焚き殿へと向かう。ここでは鬼八が霜を降らせないよう八月から十月にかけて、火を焚き続ける祭事が行われる場所とのことだ。こちらにも賽銭箱があったため、お参りをする。

 

 祭神は、天御中主命(あめのみなかぬしのみこと)高皇産霊命(たかみむすみのみこと)国狭土命(くにさつちのみこと)罔象女神(みずはのめのみこと)軻遇突智命(かぐつちのみこと)句句廼馳(くくのちのみこと)金山彦命(かなやまひこのみこと)速秋津日命(はやあきつひめのみこと)垣山彦命(かきやまひこのみこと)と書かれている。天御中主命と高皇産霊命は神像を、他の七柱は御幣を神体としているようだ。

 

 「あれ、あのお面は……天狗?」

 

 七本の御幣の横に赤ら顔の花の高い仮面が掛けてあった。

 

 「祭神には含まれてないですけど、たぶん天狗じゃなくて猿田彦でしょうね。猿田彦は天狗の祖とも言われていますから。ああ、あと天狗は元々流れ星の事だったんですよね。つまり、七柱の神と星の神、これが先にあって後に北斗七星に繋がっていったのでしょう」

 

 その後、火焚き殿の周りを見て回る。拝殿の裏側には小窓があり、ちょうどそこから火を焚いている様子がうかがえた。

 

 一通り見て回った後、車へと戻りつつ飛鳥は霜神社のパンフレットを見ていた。やはり、先ほどの石碑には和歌が書かれていたようで、『いまわとて霜のはふり子いとまあれや阿蘇のみ山に雪の積れる』と刻まれているようだった。

 

 「ねぇ、天治。この和歌の意味ってわかる?」

 

 「和歌ですか。えーと……霜のはふり子というのは火焚き神事を行う子供の事ですね。はふりは祝うと書いて神職の事ですから。それを踏まえると、今はもう霜のはふり子が暇そうにしていると阿蘇に雪が積もる時期に……なってしまっ……霜?」

 

 なにやら地雷を踏んでしまったようで、天治がトリップしてしまった。こうなってしまったら何をしても無駄だというのは今日十分に学んだので、とりあえず道の端に引っ張って行ってから現実に回帰するのを大人しく待つ。

 

 「そうか、そうだったんだ! 全部繋がってたんだ!」

 

 五分ほどたったころ、突然天治が大声を上げて、飛鳥の肩を両手でつかんだ。まるでこれから告白されるかのような態勢だ。

 

 「猿田彦も鬼八も八大竜王も鯰も全部繋がってたんですよ!」

 

 「……全然ついていけないから一から説明してくれる?」

 

 努めて冷静に告げると、はっとしたように天治が手を離した。いつまでも、脇に車を止めておくのも問題があるため天治に車に乗るよう促し家へと向かう。

 

 「実は霜は和歌では白髪を指す言葉としても使われます。万葉集にもそのような使い方をする例が載っています」

 

 助手席に座った天治が語りだす。

 

 「さて、猿田彦を祀る神社は数多くありますがその中に白鬚神社というのがあります。これは時に誤字などによって、白髪神社などとも書かれます。また、尋常性白斑は皮膚だけでなく髪も白くしてしまうそうです。なおかつ、この病気はまだ明確にはなってはいませんが、遺伝性を持つともされています。きっと、鬼八とその一族は尋常性白斑によって白髪の人が多い一族だったのではないでしょうか? それも踏まえて鬼八は霜の神となり、封印されては鯰へと変化したのでしょう。それに鬼八には別名が数多くあって、キハチボシやキンパチボシなどとも呼ばれています。この星は法師の訛りだと言われていますが、星の意味もあるのではないでしょうか?」

 

 「それで、八大竜王は? どう繋がるの?」

 

 「猿田彦が龍だというのは荒立神社で話しましたよね? それにさっきの白髪の話から猿田彦=鯰=鬼八=龍という図式が成り立ちます。そして、鬼八と鯰はバラバラに━━八つ裂きにされています。つまり、八大竜王の指すところは八つ裂きにされた偉大なる竜王というわけです。そういえば、龍の目は鬼だともされていましたね。それに猿田彦=饒速日(にぎはやひ)とすれば、八大竜王が十種神宝と関わりを持っていても何もおかしくはありません。」

 

 おおむね、これで確信が持てたことは説明し終えた。その後は他愛無い話をしながら、帰路をたどる。その裏で天治は一人考えて込んでいた。

 

 (猿田彦は八衢(やちまた)瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を迎えたとされている。つまり、八衢にいた龍とも取れるし、なおかつその龍は八つ裂きにされている)

 

 天治の脳裏には一柱の神の名前が浮かんでいた。日本神話における最も有名な怪物たる八岐大蛇(やまたのおろち)の名が。

 




 いかがだったでしょうか、高千穂から阿蘇にまつわる伝説は。この話で阿蘇・高千穂編は終わりになります。最後にちょっとだけ出てきた神様については眼の話とか海に沈む話とか共通点はまだまだありますが、いつかどこかで話す機会があるでしょう(たぶん)

 次のテーマはまだ未定です。鯰の話をしたんで、次は鰻の話でもしますかね~(たぶん)
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