ビルドと翼の二人からロックオンされている事で二対一を強いられた響はこの状況をどう打破すべきかと思考を巡らせる。
「勝ち筋が見えない・・・」
「お困りのようだね。では一つ良いことを教えてあげよう。君のシンフォギアは特別なチューンアップを施してある」
「特別?」
自身よりも戦闘経験値の高い二人を相手している事で手詰まりになりつつある響にウォズはそう言うとビルドを指さす。
「そう特別だ。あのカッシーン同様我が戦姫、君もライドウォッチを手にすることができれば使用できる」
「ライドウォッチ?・・・あの丸いのか」
この状況下においてはカッシーンがビルドへの変身に用いたあの物体それしか思い至らない。
そうとくれば必然的にビルドからライドウォッチを奪取する必要が発生する。
(取るって言ってもどうやって)
だがどう奪えば良いのかと響が考えているとビルドが大量のダイアモンドを殴り飛ばし響を翼ごと戦闘不能に陥らせようとする。
「やばいッ!」
「石礫如きで私が倒れるとでもッ!」
防御態勢を取る響とは違い翼は両手に刀を構えるとダイアモンドを次々と斬り払い自身への被弾をゼロにする。
ダイアモンドは確か世界で一番硬い筈と思いながらも響はウォズはともかく少女は無事かと背後を見ると少女はウォズによって守られていると事で一応の安堵を得る。
(あっちはアイツが居るから大丈夫。それよりもあのロボット、確かカッシーンだっけ。どうやったらウォッチを取れる・・・)
翼と今この状況で仲良く手を取り合って共にビルドへと立ち向かうのは不可能。
仮に響の側が今歩み寄った所で翼自身がそれを拒絶する。
そこまでを考えた所で響は先ほど翼が壁をぶち抜いて現われた事を思い出す。
(あれをアイツにぶつければ勝てる)
やることは決まった。故に今からはどれだけ巧みに翼を誘導できるかが勝敗を分ける。
パワーでは押し切れぬと悟ったビルドは再びラビットタンクへとビルドアップするとドリルクラッシャーにタカボトルを装填すると振るうとタカの形をしたエネルギーブレードが二人目がけて飛来する。
羽ばたく翼が触れた場所が鮮やかに切り裂かれ滑らかな断面を晒していく中で響は飛翔してくるタカを殴り落とし翼はさきのダイアモンドのように斬り捨てる。
『ボルテックフィニッシュ!!』
攻撃が止んだ瞬間に響は放物線グラフに拘束される。
「グラフッ!?」
「ふんッ!」
腰の辺りで拘束されている為にその場から動けない響に対してビルドのライダーキックがもろに直撃する。
かと思われたが響は拳を振り抜きライダーキックを相殺しようとする。
「ぐぅぅぅぅうううッ!」
「馬鹿な!!」
ベキ、と嫌な音が響の耳にだけ届いた瞬間に爆発が起こりビルドと響が真反対の方向へと吹き飛ぶ。
地面をバウンドし転がるビルドが態勢を整えようとするが吹き飛んだ方向に運が悪く、いや響の計算通りに翼が居たことでビルドは胸部を大剣に貫かれる。
「人で無いと言うのならば躊躇う必要など微塵も存在しない」
「有り得ないッ!主に創造された私がたかだか聖遺物の欠片如きにッ!」
自身の敗北を認められない状態で変身が解除されたカッシーンが大爆発を起こすと爆炎の中から放物線を描いてビルドウォッチが飛び出す。
飛び出したビルドウォッチは運の良い事に響の目の前に落下すると彼女はそれを即座に拾い上げる。
このまま翼との戦闘を継続すべきかどうかを考えたが先ほどライダーキックに拳を撃ち放った側の腕が激痛を訴えっている為響は背を向け翼から逃走した。
「・・・確かに引き際も大事なことだ」
祝う準備を整えていたウォズは肩透かしを食らった事で肩を落とす。
「あの人に着いていくと良い。きっと君を安全な場所に連れて行ってくれるだろう」
瞬く間に流れる状況に置いてけぼりを食らっていた少女にウォズはそう言うと自身はストールで身体を覆うとその場から姿を消した。
カッシーンの爆発によって生じた炎が落ち着いた事で翼は響に投降を促そうとするが既に姿が無かった為に納刀する。
「・・・ガングニールは奏だけの物だ」
口の端を噛む翼は少し離れている場所にポツンと立っている少女を見つけるとそう言えば民間人が二人居た事を思い出す。
「貴女、もう一人居たはずだけれど」
「どっか言っちゃったの。マフラーがばさーってなったらもう居なかったの」
「そう。手を繋ぎましょうか。安全な場所に一緒に行きましょう?」
「うん」
少女の言葉が正しいのならばウォズもまた異端技術を持つものであると言うこと。
つまりは要警戒対象であると翼は考えるのだった。
◎
一連の戦いを見ていた者達が居た。
どこか近寄りがたい雰囲気を放つ二人の内片方が夜空を見上げる。
「良いな・・・あの子お祝いされてた」
「私たちが居る場所は地獄だ。地獄には呪いはあっても祝福なんて存在しない。そうでしょ相棒?」
「そうだったねごめん姉さん」
「分かれば良いのよ相棒」
二人の手首にはギアペンダントが腕輪のように装着されている。
そして両者共に手の内にアナザーウォッチが握られている。
「地獄に歌は響かない・・・」
「だからこそ私たちは地獄に相応しい姿を手にしたんだよね。姉さん」
ノイズ災害の後始末をするために特異災害対策機動部二課が集まり始めると二人はその場から離れる。
少しして白銀と紅のバイクが並んで夜の街へと走って行った。
◎
翌朝、痛み止めを使用したことで微かにマシになった腕の痛みを我慢しながら自身の通う学校であるリディアン音楽院へと響は向かう。
「おはよう我が戦姫」
「アンタは」
「私はウォズだ。気軽に呼んでくれて構わないさ」
狭い路地の中から唐突に現われたウォズに声を掛けられた事で響は足を止める。
片腕を無意識の内に庇うようにしている響を見てウォズは眉を顰める。
「昨夜のカッシーンとの戦闘で深手を負っているみたいだね。今日は病院に行った方が良い」
「このくらい直ぐに治るから。心配されるほどの事じゃない」
あの日以降自身の自然治癒力が遙かに上昇している為に響は仮に骨折していても明日、明後日辺りにはもう元通りに治っている為に痛め止めだけで済ませている。
故にウォズからのアドバイスを無視して再びリディアンへと向かって歩き出そうとするがウォズに行く手を阻まれる。
視線から邪魔だからどいてくれと言う思いを察しながらもウォズは気にもとめずに本を開き口を開く。
「仕方がない。なら私は君が今日という一日をつつがなく過ごせるようにアドバイスを送ろう。周知だとは思うが昨夜現われた風鳴翼はリディアンに在学している」
「だからなに?」
「今の君は突然現われた第二のシンフォギア装者。風鳴翼は必ず接触するとも。そしてこれは忘れ物だ」
自宅に置いてきていたはずのビルドウォッチを何故か持っているウォズに響が驚いている内に無事な方の手に握らされる。
「それは必ず君の役に立つ。では我が戦姫またお目にかかろう」
自らの背後に向かっていったウォズへと振り返るも響が振り返る頃にはウォズはもう居なかった。
釈然としないながらもビルドウォッチを懐にしまった響は今度こそリディアンへと向け歩いていった。
◎
して案の定に響がリディアンに在学していることは二課によって既に把握されているが為に人の少なくなった放課後になると翼が現われ自らに着いてくるようにと昨夜のように言われる。
「私がアンタに着いていく義理なんてない」
「そうね義理はないわ。だが、義務はある」
断りを入れ立ち去ろうとする響に対して翼は彼女の影に小石を放つと簡易的な影縫いを施す。
「無理に動かない方が良いわ。痛い目を見る事になるわ」
「忍者かアンタは・・・」
ギアを纏わずとも強い翼に対して悪態をつく響の腕に翼は手錠をかける。
「忍ではない剣だ」
「訳が分からない」
もう抵抗しても無駄と悟り響は大人しく翼に連れられていった。
その様子を物陰から見ていたウォズはふぅとため息をつく。
「大まかな歴史は人となりが多少変わろうとも似通うものらしい」
ウォズの持つ本には響がリディアン地下に存在する二課本部にて歓待を受けた後に身体検査を受けることなどが記されていた。
「だが我が戦姫はそんなに流されやすくはない」
警備員が人の気配を感じたことで自らの元に近寄ってきていることを察知したウォズはリディアンから消えた。
またこの後ウォズの本に記されている通りに響は二課に所属するように要請されたが彼女はそれを拒絶した。
◎
それなりに賑わっているラーメン屋中花にてラーメンを啜っている少女に酔っ払いがしつこく絡んでいた。
「アンタ飲み過ぎだって」
「うるせぇ!!」
「うるさいってなんだ!その子も困ってるでしょうが!」
酔っ払いを注意する店主であったが止まる様子を見せない酔っ払いに実力行使しかないかと店主が判断するがそれを少女の横に座って同じようにラーメンを啜っていた女が止める。
「手を出せば貴方も地獄に引きずり込まれる」
「は?」
女の言葉に店主が戸惑っている一瞬の隙に酔っ払いが少女に殴り飛ばされ宙を舞い床に倒れる。
「なにすんだぁ!!」
「・・・」
熱々のラーメンに反して酷く冷めた目をしている少女に酔っ払いは息を呑むと首根っこを掴まれて店外に放り出される。
「羨ましいよ。・・・呑気に楽しそうで」
『ファイズ・・・!!』
少女の姿がアナザーファイズへと変貌すると酔っ払いは突然現われた異形に失禁してしまう。
「・・・なんであれが」
喧嘩を止めるために店外へと飛び出して来た店主は酔っ払いを殺さない程度にいたぶっているアナザーファイズを見て今はもう居ない友人の事を思い出した。