――2042年
一度踏み出してしたら、もう後は流れのままであった。
大規模ノイズ災害に巻き込まれた娘が、どういう因果によってか世間からの迫害の目にあった。
『きっと誰かを犠牲に生き残った』
『悲鳴を無視して我先に逃げ出したに違いない』
『お前があの人を殺した』
人殺し人殺し・・・。
始めは娘だけに向けられていた声は父である自身のみならず妻に義母にまで及んだ。
耐える事などできなかった。
いかないで欲しいと送られる娘からの無言の訴えを振り切り、自らは
己だけで。
「仕方ないじゃないか・・・」
毎日どこかで、この一言がこぼれ落ちる。
きっとそれは負い目から来るものに違いない。
故に彼は何処ともしれぬ森の中に居た。
何の為にここに来たのか、それは何処までも苦しめてくるこの現実から逃げるためだった。
現実から逃げる、それは即ち彼岸へと行くと言うこと。
だが彼には覚悟が今ひとつ足りなかった。
「無理だ・・・。結局俺には何もできない。我ながら中途半端だな・・・」
何も為すことがなどできずに、守るべき家族を捨てこんな蟲の声一つしない森の奥に居る自身を嘲る。
静かすぎると彼は今更ながらに思い至る。
「なんだ?」
生命の息吹が途絶えた、代わりに流れてくるのはじめついた空気と何かの気配。
人知を超えた何かが近くに居るとはっきりと肌で感じた瞬間にそれは現われた。
人の身の丈を遙かに超えた大きさの蜘蛛。
即ち魔化魍ツチグモ。
先ほど死のうとしていたにも関わらずに身体はツチグモに背を向けて逃げ出す。
「お、俺は何してるんだ!!」
奇声をあげながらツチグモは徐々に距離を詰めてくる。
『キィィィィイン』
前触れ無く清涼な音が響き渡るとツチグモが大地を転がり樹木をへし折る。
「お、鬼?」
「アンタも運が悪いな。いや俺が間に合ったんだそうでもないか。とっとと逃げな」
この時が彼、立花洸が桐矢京介に出会い。
鬼の弟子になる切っ掛けであった。
◎
――2043年
洸が京介もとい響鬼の弟子となり1年ほどがたった頃。
洸は自身が未だに鬼へと変身できないことに頭を悩ませていた。
「洸、お前を弟子に取っているのはお前がどうしてもと言ったからだ。お前は家族を守れるようになりたいから鬼になると言っていたが、鬼にならずとも家族を守る方法なんて幾らでもあると俺は思う」
「俺にはもう・・・。鬼になるしかない。音撃の力なら魔化魍だけじゃないノイズも倒せるって京介さん。貴方が示してくれたんだ」
「俺達鬼の本業は魔化魍退治だ。鬼と言っても人間だ。ノイズの炭素転換にはある程度しか対抗できない」
「それでもなんだ」
「そうか・・・」
この男には鬼としての才能は無いかもしれないと京介は思いつつも洸に修行をつけていた。
そんなある日だった。
洸の前にその男が現われたのは。
「立花洸。このままいけばお前は何もなせずに全てを失う」
「なんだアンタ」
「俺はスォルツ。これは気まぐれな慈悲だ。故にお前の意見は求めん。愚者は愚者らしく慈悲を受け取ると良い」
修行を行う洸の前に現われたスォルツが彼にアナザーウォッチを埋め込む。
「うっ!!ぐぁぁあああ!!」
「洸!?お前、俺の弟子に何をした!!」
「伸び悩んでいたようでな、少しアドバイスをしてやったまでだ」
にやりと笑うスォルツの横で洸の肉体が燃え上がりアナザー響鬼へと変貌する。
『響鬼・・・!』
「今日から貴様が仮面ライダー響鬼だ」
「これが・・・!」
「なに?」
溢れる力にアナザー響鬼は拳を握りしめる。
「ギュウキ・・・!いや違う」
「これで、俺は守れるッ!」
家族を守れると確信したアナザー響鬼が駆け出す。
「待て洸!それは何も守れない!!」
見て分かる禍々しい姿に変じた洸へと制止をかけながら自身も駆け出す京介の前にスォルツが立ち塞がる。
「ここで倒されてはつまらんからな、相手をしてやろう」
『ディケイド・・・!』
「お前もか・・・!」
スォルツがアナザーディケイドに変身した事に応するようにして、京介は響鬼へと変身する。
「貴様如きでは俺を倒すことは不可能だ」
「俺は響鬼だ。一度取った弟子の面倒は最後まで見る」
両者が激突するかと思われた直前にどこからか虹の波が押し寄せる。
「これは・・・」
「なんだ!?」
アナザーディケイドはオーロラカーテンにより波に呑まれる事を回避したが響鬼はそのまま呑まれてしまった。