太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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傭兵団

■アルーニ

 

 アルーニ陥落の知らせは、旧属領諸国に瞬く間に広がった。

 当初はカース大会議の決定に背いた急進派の暴走に過ぎなかったが、今回の勝利は彼らの行動を正当化したように見えた。

 各地の兵士や傭兵がアルーニに集まり始めていたが、急進派軍の将ミーゴは、それを快く思ってはいなかった。

 

「カルマ卿、これ以上兵を増やす必要があるのか?」

 

「こちらから呼んでいるわけではありません」

 

 カルマは薄ら笑いを浮かべ、穏やかに答えた。

 

 カルマという男は、言葉遣いこそ丁寧だが、その態度は尊大だった。

 

「勝ったと知って、自ら集まって来るのですよ」

 

「同じことだ。我々はアルーニを取った。それで十分ではないか?」

 

「果たして十分でしょうか?」

 

「我々が求めていたのは、パーパルディアを下し、もはや属領ではないと世界に示すことだ」

 

「もちろん知っています」

 

 カルマは薄笑いを浮かべた。

 

「ですが、アルーニを捨てる必要もありますまい」

 

「何?」

 

「ここを押さえておくだけで、パーパルディアは北方に兵を集めねばならない。それだけでも、今の奴らにとっては大きな負担でしょう」

 

「そのために将兵が死んでもよいと言うのか?」

 

「何を今さら。戦争とはそういうものでしょう」

 

 

 カルマが言い放つ。

 

 アルーニを拠点に勝利に勢いづいた急進派を受け入れ、周辺の街道や砦を少しずつ押さえる。

 彼に与えられた役目は、パーパルディアの力を可能な限り削ぐことであった。

 

 

■パーパルディア王国 王城

 

「アルーニが落ちたか」

 

 ルディアスが唸った。

 

「守備隊の状況はどうか?」

 

「はっ、五百()が戻っております」

 

 アルデが答える。

 

「なお小部隊が帰還中です。最終的には六百前後になるかと存じます」

 

「敵の戦術は解ったか?」

 

「概ね分かりましてございます」

 

「ところで陛下、敵軍が用いた弓でありますが」

 

 マータルは、机に上下非対称の弓を置いた。

 

「この弓は、日本の長弓に類似しております」

 

「日本で作られたものか?」

 

「日本の弓は複数の素材を貼り合わせた複合弓、対してこちらは単弓。おそらくは書籍などを参考にして作ったものかと存じます」

 

「…書籍?」

 

「日本の古い戦争について書いた歴史書が出版されております。それを見て真似たのかと考えます」

 

「本を見ただけで、余の軍を破ったとでもいうのか?」

 

「はっ、おそらくは歴史書にある戦術を参考にしたものかと」

 

 マータルは黒板に図を描きながら続けた。

 

「敵は鉄の盾を備えた荷車で銃弾を防ぎつつ、弓兵を近距離まで前進させました。その距離なら、細かく狙えずとも数を揃えれば当てられましょう」

 

「アルデよ、次の手は考えておるな?」

 

「はっ、もちろんでございます」

 

「述べてみよ」

 

「盾車を砲で優先して破壊いたします。さすれば敵の弓兵も近づけませぬ」

 

「敵のワイバーンはいかがする?」

 

「そちらが問題であります」

 

 アルデが答える。

 

「ロードは王都から動かせません(ゆえ)、現状、敵のワイバーンを防ぐ手立てがございません」

 

 そこで、重々しく扉が開き、会議の間に官吏が滑り込んできた。

 その手には、厳重に封印された書簡が握られている。

 

 カイオスは書簡を受け取ると、封蝋を検分し、王に向き直った。

 

「イルメリアからの返答でございますな」

 

「やっとであるか」

 

 その言葉を合図に、カイオスはすぐさま書簡を読み上げた。

 

「これには、イルメリアは百人規模の傭兵団を派遣すると記されております」

 

「…傭兵?」

 

 ルディアスは椅子にもたれた。

 

「イルメリアは軍を出さぬ、と」

 

「神聖ミリシアル帝国の使節が日本に入っております。フィルアデス大陸でこれ以上軍を動かせば、列強を刺激する。そういう判断でありましょう」

 

「理屈は解るが、百人程度の傭兵で何をしろというのだ」

 

 アルデも苦々しげに笑う。

 

「それと、日本からも支援がございます」

 

「日本は何と申しておる?」

 

「旧ロウリア王国の竜騎兵五十騎を派遣すると」

 

「ロウリアの竜騎兵とな?」

 

「敗戦後、職を失った竜騎兵を雇い、装備を整え派遣するとのこと」

 

「日本の兵ではないのか?」

 

「…そちらも傭兵でございます」

 

 カイオスは逡巡しつつ言った。

 

「どこも似たようなものか」

 

 ルディアスは肩を落とした。

 

 

■数日後 

 

 エストシラント港

 

「…あれが傭兵団の船か?」

 

 港で待っていた海軍士官ハルデは、沖を見やった。

 

 エストシラントの港に二隻の帆船が入港する。

 細長い船体に三角帆を張った、大型の快速船である。

 

【挿絵表示】

 

「やけに立派な船だな」

 

「船名はビブル、クロヌとありますが…」

 

「いや…まあいい」

 

 二隻は曳船(ひきぶね)に曳かれて接岸すると、舷梯(げんてい)を下ろした。

 

 最初に船から降り立ったのは、暗緑色の革の上着に軽い鎧を重ねた男である。

 灰色の毛皮を肩に掛け、腰には北方風の大きな短刀を挿している。

 続いて、同じような姿の兵が次々と降りてきた。

 

 先頭の男が海軍士官の前で止まった。

 

「アルニ・ヨーティ。このラティ戦士団を預かっている」

 

「出迎えの任を務める、王国海軍のハルデ中佐である」

 

 握手を交わすと、アルニは革筒から封書を取り出した。

 

 そして、ハルデだけに聞こえるよう、小声で言う。

 

「我が主君から、ルディアス陛下に」

 

「我が主君?」

 

 アルニは、それに答えず封書を押し付ける。

 

「これを王城に届ければよいのか?」

 

是非(ぜひ)に」

 

 

 その間にも、船から多数の積み荷が降ろされていた。

 中でもひときわ目立つのは、大きな荷車だった。

 

「ずいぶん妙な荷車だな」

 

「これで兵と荷を運ぶ予定だ」

 

「馬が見当たらないが?」

 

 アルニが指さしたのは、第三文明圏でも見かけるようになった、ごく普通の民生用スクーターである。

 スクーターは目立たない色に塗られていたが、各国に輸出されているものと大差ないように見えた。

 

【挿絵表示】

 

 「…それで荷を曳くというのか?」

 

 ハルデは、それを戦場に持ち込む意味が理解できなかった。

 

 

■パーパルディア王国 王城

 

「イルメリアからの書簡です」

 

 カイオスが書簡を差し出した。

 

「傭兵団の隊長が持参したそうです」

 

 ルディアスは封を切った。

 短い文面である。

 

 『イルメリアは、貴国の要請により、傭兵百名を派遣する。

  傭兵料及びその他の経費はイルメリアが支払うものとする』

 

 ルディアスは最後まで読むと、そこで止まった。

 

「…ふっ」

 

「陛下?」

 

「はは」

 

 ルディアスの肩が震える。

 

「はははははは!」

 

 突然笑い出した王を、カイオスが怪訝そうに見た。

 

「何が書かれているのです?」

 

「ここを見ろ」

 

 ルディアスが書簡を指した。

 そこには描かれているのは門と城壁、トーパ王国の紋である。

 

「イルメリアが斡旋した、ただの傭兵団か」

 

 ルディアスは笑いながら書簡を卓上に置いた。

 

「それに、トーパ王が自分の紋を付けて寄越した」

 

「…なるほど」

 

「隠す気があるのか、ないのか」

 

 アルデが書簡を覗き込んだ。

 

「エストシラント港からの報告では、北方の兵のようだったと」

 

「おそらくはトーパの兵だろう」

 

 ルディアスが言った。

 

「なぜそう思われます?」

 

「イルメリアが、百人だけ送ってくると言ったのだ」

 

 王は笑いを収めた。

 

「奴らの事だ、百人で足りる連中を選んだに決まっている」

 

 

■パーパルディア王国

 王都南方 

 

 日本が用意した援軍、旧ロウリア王国軍の竜騎兵からなる傭兵隊もまた、現地に到着していた。

 ロウリア戦後に職を失った者たちを日本が雇い入れ、部隊として再編したものである。

 

「ロウリアの傭兵か」

 

 アルデは草地に並んだ小柄なワイバーンを見やった。

 

 騎手たちの肩には、日本製の後装式単発銃、村田式猟銃が掛けられている。

 一発ごとに装填が必要な旧式銃だが、魔導マスケットに比べれば遥かに先進的である。

 

「日本では、猟師すらも斯様(かよう)な銃を持っておるのか…」

 

 ルディアスは手元の報告書から目を離さずに呟いた。

 

「軍の武器ではない(ゆえ)、持ち出しも容易であると聞いております」

 

 ロデニウス大陸のワイバーンの能力は、フィルアデス大陸のワイバーンに比べても劣っていた。

 だが、小柄なため、わずかな平地からでも、わずかな助走で飛び立てるという利点があった。

 何より、乗り手はその竜を熟知する者たちだった。

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