現行63%、改名37%で、今まで通りイルメリア専制公国の名称を使用します。
■神聖ミリシアル帝国
第零式魔導艦隊
「北方上空の反応、さらに増加。おおよそ二〇機。後続も接近しています」
魔導レーダー員の報告を受け、艦隊司令バティスタは艦橋の窓から北の空を見上げた。
肉眼ではまだ何も見えない。しかし、表示盤には多数の小さな魔力反応が広い範囲に散らばりながら南下している。無人の誘導弾と違い、航空機には操縦員が乗っているため、接近すれば魔導レーダーでも捉えることができた。
「群島航空隊は」
「エルペシオⅢ、十一機がこちらに向かっています。あと数分で接触します」
インフィールの返答に、バティスタは小さく息を吐いた。
「十一機か。ずいぶん心細いな」
「この辺りは訓練海域です。群島に置かれている航空戦力そのものが多くありません」
クロムウェルはそう答え、損傷報告に目を落とした。
先の対艦誘導弾攻撃によって、コールブランドは前部に損傷を受け、ガラティーンも砲戦で中破している。シルバー級とカッパー級も少なくない損害を出しており、第零式魔導艦隊はすでに万全の状態ではなかった。
「戦艦二隻を中心に対空陣形を取る。シルバー級、カッパー級は外周を警戒。航空隊は敵攻撃隊の阻止を優先させろ」
バティスタの命令が各艦に伝えられ、第零式魔導艦隊は陣形を組み直した。
■西方群島上空
群島航空隊のエルペシオⅢ十一機は、海上を北へ進んでいた。
その姿は通常の航空機とは大きく異なっている。胴体前方の斜め上に操縦席が突き出し、その下に大きな機関部を重ねたような構造を持ち、左右に伸びる主翼も機体の大きさに比べて小さい。
主翼によって揚力を得るというより、大出力の魔導機関で機体を押し進めることを前提とした設計である。最高速度は七八〇キロに達するものの、旋回すれば急速に速度を失い、再加速にも時間がかかるため、長時間の格闘戦よりも高速で接近して攻撃し、そのまま離脱する迎撃任務に適していた。
「前方に敵編隊。数、多数」
迎撃隊長は正面を見た。
遠方に小さな点が浮かび、それらは急速に大きくなって銀灰色の機影へ変わっていった。
グラ・バルカス帝国のアンタレス艦上戦闘機である。
「敵の一部が上昇」
大編隊から十機ほどが離れ、高度を取り始めた。
迎撃隊長は、その動きから敵の意図を察した。前に出た機体でこちらを拘束し、その間に残りを艦隊へ向かわせるつもりなのだろう。
「前の十機とは長く戦うな。対空ロケットを撃った後、後続の攻撃隊を狙う。艦隊へ向かう機体を一機でも減らせ」
十一機のエルペシオⅢが上昇を始め、機体両側の二十連装対空ロケットランチャーを接近するアンタレスへ向けた。
距離が縮まると、速度と上昇力の差が明らかになった。アンタレスはエルペシオⅢより速く、進路変更後の加速でも大きく上回っている。
「発射!」
四百発近い対空ロケットが一斉に放たれ、細い煙を残しながら敵編隊の前方に広がった。
アンタレスは編隊を開いて散布域を避けたが、一機が至近で炸裂したロケットを受けて姿勢を崩した。
両編隊が高速ですれ違う。その直後、無傷のアンタレス数機が翼を翻した。降下に移ったエルペシオⅢの排気を捉え、翼下の赤外線誘導式
「散開!」
警告と同時にエルペシオⅢが左右へ急旋回した。一機は追尾してきた誘導弾を機関部に受け、尾部から炎を噴いた。別の一機も至近を通過した弾頭の炸裂で翼端を失い、高度を落としていく。
それでも残る機体はアンタレスとの空中戦には応じなかった。追撃を振り切るように降下を続け、そのまま敵主力編隊へ向かった。
隊長機は一機のアンタレスを照準器に捉え、一二・七ミリ魔光砲を撃った。細い光線が相手機の胴体を横切り、銀灰色の機体から破片が飛び散る。
しかし、攻撃を終えたエルペシオⅢが再び加速するより早く、別のアンタレスが上方から射撃位置に入った。後方から機関砲弾を受けた一機が爆発し、さらに二機が
十一機の迎撃隊は敵の隊形を乱したものの、攻撃隊そのものを阻止するには数が足りなかった。
■グラ・バルカス帝国
空母航空隊
発進した四十機のうち、三十機が対艦攻撃に向かっていた。
攻撃機はそれぞれ、赤外線誘導式の二五〇キロ爆弾を三発搭載している。従来の通常爆弾に誘導装置と操舵翼を加えたもので、投下後は目標艦の機関排熱や煙突、火災など強い赤外線源を捉えながら落下経路を修正する。対艦専用兵器ではなかったが、海面を背景にした大型艦は目標として捉えやすかった。
眼下には、すでに黒煙を上げている艦がいくつも見えている。ミリシアル艦隊は、砲戦と
「第一攻撃隊、目標確認。戦艦と巡洋艦の対空火器を優先する」
攻撃隊三十機は十機ずつ三群に分かれ、時間差を置いて異なる方向から接近した。
最初の十機が高度を落とすと、第零式魔導艦隊から魔光砲と拡散魔導粒子砲が撃ち上げられた。細い光線が一機のアンタレスを貫き、別の一機も機体後部から煙を引き始める。
それでも編隊は攻撃を続けた。
「投下」
三十発の二五〇キロ誘導爆弾が機体から離れた。
爆弾は落下しながら進路を修正し、海上の敵艦に向かっていった。
■神聖ミリシアル帝国
第零式魔導艦隊
「敵機、爆弾投下!」
見張員が叫んだ。
魔導レーダーは投下された爆弾までは捉えられない。
「各艦、対空射撃を継続。飛来する爆弾も迎撃せよ!」
艦隊上空に多数の光が走った。
魔光砲がアンタレスを追い、拡散魔導粒子砲が飛来する爆弾の進路を塞ぐ。何発かは途中で破壊されたものの、通常の自由落下爆弾とは違い、残った爆弾は艦の回避に合わせて落下方向を変えてきた。
一発がシルバー級の上部構造へ命中し、続いてカッパー級一隻の艦尾で爆発が起きた。
コールブランドにも三発が投下された。
「装甲強化。前方区画に魔力を集中!」
クロムウェルの命令とともに装甲表面に魔力が流れ、命中の瞬間、青白い閃光が走った。
一発は右舷前部に命中し、二発目は至近の海面へ落下した。残る一発は前部上構へ飛び込み、魔光砲とその周囲を爆炎に包んだ。
「右舷魔光砲二基使用不能。前部区画で火災、浸水は軽微!」
「装甲強化を解除。対空兵装へ魔力を戻せ!」
クロムウェルが命じた。
装甲強化を続ければ被害を軽減できるが、その間は主兵装へ回す魔力が不足し、機関出力も低下する。航空攻撃の最中にそれを続ければ、回避も迎撃も難しくなる。
シルバー級二隻で対空火器が損傷し、カッパー級にも大破艦が出た。ガラティーンでは上部構造に二発が命中し、対空魔光砲の一部と通信設備を失っていた。
「第一波、離脱」
報告を受けた時には、すでに別方向から第二波の十機が接近していた。
■グラ・バルカス帝国
攻撃隊第二波
第二波の攻撃目標は、コールブランドとガラティーンであった。
第一波によって両戦艦の防空火器は減り、周囲を固めていた巡洋艦と高速艦にも損害が出ている。二隻が装甲強化を行うたびに速度を落とすことも、先の攻撃から確認されていた。
「戦艦二隻へ集中。左右から入る」
十機のアンタレスが二群に分かれ、両側から攻撃に入った。
魔光砲が一機を撃墜したものの、残る機体は次々と誘導爆弾を投下した。
「右舷前方、爆弾多数!」
「装甲強化!」
コールブランドの装甲が淡く発光した。
最初の爆弾は左舷中央部で炸裂し、強化された装甲を破って艦内へ爆圧を吹き込んだ。続く一発は後部甲板に命中し、通信設備と対空魔光砲をまとめて損傷させた。
「左舷中央部に破口。機関区画で火災!」
「消火班を送れ。浸水区画を閉鎖!」
クロムウェルが指示を出す間にも、装甲強化へ魔力を回した影響で艦の速力は落ち、残る対空火器の発射速度も低下していた。
一方のガラティーンには、さらに多くの爆弾が集中していた。金色の装甲表面に青白い閃光が何度も走り、その上から爆炎が重なる。一発が後部機関区画付近へ命中し、別の一発が火災を起こしていた上部構造に飛び込んだ。
「ガラティーン、機関出力低下。火災拡大!」
インフィールが通信を受け取る。
「アルテマ艦長より、装甲強化を解除して消火と機関出力の回復を優先するとのことです」
しかし、装甲強化を解除した直後、誘導爆弾が後部甲板に命中した。爆発は機関部に新たな損傷を与え、ガラティーンの速力はさらに低下した。
「ガラティーン、後部機関停止。消火作業継続中」
「シルバー級一隻が航行不能。別の一隻も速力低下」
バティスタは戦況図を見た。多数の艦が損傷し、陣形はすでに崩れている。
「残存艦に通達。退却準備。動ける艦は損傷艦を援護しろ」
だが、命令が行き渡るより早く、攻撃隊の第三波が接近してきた。
■グラ・バルカス帝国
第三攻撃隊
最後の十機が見たのは、炎上しながら速力を落とした戦艦、停止した巡洋艦、陣形から離れて回避する高速艦だった。
「損傷艦を優先。戦闘可能な艦は残すな」
各機は目標を分担した。大型艦には複数機が向かい、巡洋艦と高速艦には一機ないし二機ずつが割り当てられた。すでに複数の艦で火災が発生しており、赤外線誘導装置の識別は容易になっている。
攻撃隊は、残った艦艇に誘導爆弾三十発を投下した。
■神聖ミリシアル帝国
第零式魔導艦隊
「第三波、接近!」
クロムウェルは損傷した艦橋から空を見た。
コールブランドの速力は半分以下に落ち、左舷では浸水が続いている。使用可能な対空火器も半数を下回っていた。
「装甲強化を維持しますか」
インフィールが尋ねた。
「維持する。これ以上まともに受ければ持たん」
船体表面へ青白い光が広がった直後、三発の誘導爆弾が相次いで命中した。一発は艦首で爆発し、二発目は左舷中央部のすでに損傷していた区画を破った。三発目は後部甲板へ飛び込み、内部で火災を広げる。
「後部区画、大火災。魔力伝導路、複数箇所で分断!」
「艦内魔力供給、不安定です!」
装甲へ流す魔力そのものが安定しなくなり、船体表面の光が明滅した。さらに一発が左舷水線付近へ落ちた。装甲が破れ、大量の海水が流れ込む。
「左舷浸水急増。傾斜七度、なお増加!」
「右舷注水を開始。火災区画を封鎖!」
クロムウェルが命じたが、復元は不可能だった。砲と
「ガラティーン、さらに被弾!」
インフィールが窓の外へ目を向けた。
金色の戦艦から大きな火柱が上がり、艦中央部も黒煙に包まれている。
「アルテマ艦長より通信。機関停止。総員退艦を開始するとのことです」
直後、ガラティーンの中央部で大きな爆発が起こった。
火災が魔法回路と魔導弾庫に達し、誘爆を起こしたのである。船体は次第に傾き、乗員が退艦する中で右舷から沈み始めた。
周囲でも被害が続いていた。シルバー級の一隻は機関を失って停止し、別の一隻は大火災によって放棄された。さらに一隻は艦首を沈めつつあった。
カッパー級は高速を生かして散開したものの、損傷した艦が多かった。一隻が誘導爆弾の直撃で船体中央部を破壊されて沈み、二隻が機関損傷によって停止した。残る艦も対空火器や推進機関に損害を受けていた。
「司令」
クロムウェルがバティスタを見た。
「艦隊としての戦闘継続は不可能です」
バティスタは周囲の海を見渡した。
先ほどまで十四隻で構成されていた第零式魔導艦隊は、すでに艦隊としての形を失っていた。
「全艦に通達。動ける艦は、可能な限り生存者を救助しつつ退避。航行不能艦は総員退艦」
「了解」
各艦に命令が伝えられ、退艦準備が始まった。
■旗艦コールブランド
艦の傾斜は急速に増大していた。
浸水によって左舷が沈み、壁につかまらなければ移動することも難しくなっていた。
「後部魔法回路区画で火災。魔導弾庫に延焼の恐れあり!」
報告を聞いたクロムウェルの表情が変わった。
「消火中止。周辺区画の者は直ちに退避させろ」
爆裂魔法を封入した魔導弾が火災に巻き込まれれば、艦内で連鎖的な爆発を起こす。
「司令、もうお移りください」
インフィールがバティスタへ声を掛けた。
「お前たちは先に行け」
「司令もです」
「艦隊司令が最後まで残る必要はない、と言いたいのだろう」
「はい」
インフィールが即答した。
バティスタは一瞬だけ彼を見て、苦笑した。
「もっと早く言ってくれれば、聞き入れたかもしれんな」
その時、艦尾側から低い爆発音が響いた。
甲板が大きく傾き、艦橋の全員が手近なものにつかまった。
「後部区画で爆発。傾斜二十度を超えました!」
「退艦急げ!」
クロムウェルが命じた。
乗員が次々と海に飛び込む中、コールブランドの傾斜はさらに増した。やがて後部から火柱が上がり、魔導弾が誘爆した。艦内で連続した爆発が起こり、巨大な船体が震えた。コールブランドは左舷に転覆し、炎と黒煙を上げて沈み始んでいった。
艦隊司令バティスタ、艦長クロムウェルは、艦と運命を共にした。
戦艦コールブランドとガラティーンは沈没し、シルバー級巡洋艦四隻も戦闘能力を喪失。カッパー級八隻についても、撃沈された艦のほか、機関損傷で漂流する艦、放棄された艦が相次いだ。
海上には大破した艦艇と漂流者が漂い、攻撃を終えたアンタレスが、その上空を飛び去っていった。
神聖ミリシアル帝国が世界最強と信じていた艦隊は、マグドラ沖で全滅した。
・エルペシオ3
ミリシアルの主力戦闘機。極めて特異なフォルムで、前方に突き出したコクピットが機関部の上に積み上げられた形状。
主翼は小さく、ほぼエンジンの推進力のみでする。
最高速度:780㎞/h、
12.7mm魔光砲×4、二十連対空ロケットランチャー×2
・ジグラント2
ミリシアルの重戦闘攻撃機。
四角形の本体に翼とコクピットを取り付けたような形状と、機体前面の八門の対地ロケット発射口が特徴。
長い航続距離と非常に優れたペイロードを有している。
また、VTOL機能を有している他、優れたペイロードを活かして輸送機としての運用も可能。
最高速度:480㎞/h
八連装大型ロケットランチャー、爆弾槽(5トン)
「イルメリア専制公国」の国号を「北方ローマ専制公国」に変更することについて、皆さんはどう思われますか?改称した場合も「イルメリア」の名称は地名などで継続使用します。
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現行 今のまま。
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改称 第九話で北方ローマ専制公国に改称