太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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カルトアルパス沖海空戦(上)

■神聖ミリシアル帝国

 港湾都市カルトアルパス

 

 港に近い酒場では、いつもの酔客が取り留めのない話を続けていた。

 

「おい、聞いたか。先進十一ヵ国会議の最中に、グラ・バルカス帝国が世界中を相手に、事実上の宣戦布告をしたらしいぞ」

 

 口髭を蓄えた小太りの商人がそう切り出すと、周囲の酔っ払いが顔を向けた。

 

「第二区文明圏の西じゃ、あいつらが次々と国を潰しているそうじゃないか。そこまでやるからには相当な自信があるんだろうが、まさか神聖ミリシアル帝国までどうにか出来るとは思えん」

 

 向かいにいた男が鼻で笑う。

 

「いくらグラ・バルカス帝国が強くても、ここは中央世界だ。レイフォルを倒したからといって、ムーや神聖ミリシアル帝国まで同じようにいくものか」

 

「だが、港に来た戦艦は見ただろう。〈グレートアトラクター〉とかいう、あの馬鹿でかい艦だ。ムーの〈ラ・カサミ級〉より一回り以上大きかった。あれだけ見れば、帝国の新鋭戦艦にも劣らんように見える」

 

「そのグラ・バルカス艦隊が、今度はここへ向かっているという話だぞ。先進各国の護衛艦隊も迎え撃つ準備をしているらしいし、神聖ミリシアル帝国の艦隊と空軍もいる。ここまで戦力が集まっている海域は、世界中を探してもそうはないだろう」

 

 髭面の商人は、窓の外の港を顎で示した。

 

「ムーの艦隊もいるし、パーパルディア皇国を叩き潰した日本の黒い大型艦もいる。これだけ揃っていて、そう簡単にカルトアルパスまで攻め込まれるものか」

 

「違いない」

 

 誰かが笑うと、酒場には再びいつもの喧噪が戻った。

 

 

■カルトアルパス沖

 

 ムー艦隊を率いるブレンダスは、旗艦〈ラ・カサミ〉の艦橋から前方を見つめていた。

 

 神聖ミリシアル帝国に次ぐ大国ムーは、長らく本格的な侵攻を受けていなかった。グラ・バルカス帝国についても警戒はしていたが、未知の敵を必要以上に大きく見るつもりはなかった。

 

「敵の規模は、まだ分からんか」

 

 ブレンダスが尋ねると、艦長ミニラルは手元の資料を見ながら答えた。

 

「正確な数は不明です。ただ、本国からこれほど離れた海域に大艦隊を送り込むのは容易ではありますまい。目的も、カルトアルパスを占領することより、各国艦隊を攻撃して神聖ミリシアル帝国の威信を損なうことにあると考えます」

 

 こちらは混成とはいえ数が多い。ミニラルは、敵が少数であれば正面から押し切れると見ていた。

 

「例の大型戦艦も、あれほどの大きさなら速力は限られるでしょう。各国艦隊を前面に置き、こちらの射程に入ってから確実に叩けばよいかと」

 

 ブレンダスが答える前に、通信員が振り返った。

 

「神聖ミリシアル帝国より緊急連絡。南西方向から多数の航空機が接近中。距離百三十キロ、確認数およそ百機とのことです。カルトアルパス空軍基地から〈エルペシオⅢ〉四十二機が迎撃に発進しました」

 

 想定より大きな数字に、艦橋の空気が変わった。

 

「百機か。空母の位置は?」

 

「依然不明です」

 

 ブレンダスは少し考え、艦隊防空を優先することにした。

 

「〈ラ・ヴァニア〉〈ラ・トゥエン〉に通信。発艦可能な〈マリン〉をすべて直掩に上げさせろ。追撃のために艦隊上空を空けることは禁ずる」

 

 命令を受け、二隻の〈ラ・ヴァニア級〉は直ちに発艦作業を始めた。アクセラレーター(カタパルト)が作動し、発進台に載せられた《マリン》が一気に加速する。

 

 銀色の先尾翼機は、軽やかに甲板を離れた。

 

 

 

■神聖ミリシアル帝国

 第七制空戦闘団

 

 カルトアルパス空軍基地を離陸した第七制空戦闘団の〈エルペシオⅢ〉四十二機は、南西に向かって高度を上げていた。

 

 飛行隊長シルバーは、五千五百メートルまで上昇したところで編隊を整えさせた。

 

「全機、下方と太陽方向の警戒を怠るな。敵の性能は不明だ。初撃を受けてから判断するような真似はするな」

 

 これまで主な仮想敵とされてきたのは、ムーの航空機とエモール王国の風竜であった。相手によって戦い方は異なるが、いずれに対しても高度と速度の優位を確保し、一撃離脱を基本とする訓練を重ねている。

 

 グラ・バルカス帝国の航空機にも、その原則は通用するとシルバーは考えていた。

 

 基地司令部から魔信が入った。

 

「第七制空戦闘団各機へ。接近中の敵航空部隊は約百機。諸君は数で劣るが、帝国最新鋭の〈エルペシオⅢ〉に搭乗する精鋭である。敵航空戦力の能力を見極め、本土への侵入を阻止せよ」

 

 簡潔な訓示が終わる頃、先頭の機体から報告が入った。

 

「敵編隊を視認。左前方下方、距離およそ十五キロ」

 

 シルバーも目を凝らす。

 

 ムーの航空機とは明らか異なる機体が、大編隊でカルトアルパス方向へ進んでいる。

 

「噴進式か…」

 

 機種までは判別できないが、従来想定していた航空機とは違う。

 

 シルバーは先頭集団への攻撃を命じた。

 

「高度を維持したまま接近。第一撃後は敵編隊の後方に抜け、再上昇して編隊を再編。乱戦に入るな」

 

 直後、僚機の声が魔信に割り込んだ。

 

「隊長、上です。太陽方向に機影!」

 

 シルバーが見上げたときには、すでに黒い点が急速に大きくなっていた。

 グラ・バルカス帝国の別動隊が、太陽を背に第七制空戦闘団に急降下した。

 

「敵機上方!」

 

 警告とほぼ同時に、急降下する〈アンタレス〉から細長い物体発射され、数秒後、編隊後方の一機が爆発した。

 

「何だ、今のは!?」

 

 グラ・バルカス帝国の〈アンタレス〉が搭載する赤外線誘導ミサイル(短AAM)である。

 

 さらに二本の誘導弾(短AAM)が〈エルペシオⅢ〉に接近した。一発は〈エルペシオⅢ〉の一機に直撃。もう一発は急旋回で辛うじて回避されたが、狙われた〈エルペシオⅢ〉は、編隊から外れていった。

 

 ミリシアルの編隊が誘導弾(短AAM)の攻撃で崩れたタイミングで、正面の〈アンタレス〉編隊が高速で接近する。二三ミリ機関砲が火を噴き、主翼を砕かれた一機が炎を引いて落ちていった。別の一機も魔導エンジンから黒煙を噴き出した。

 

 最初の一撃で五機が戦列を離れた。グラ・バルカス側は下方に抜けると、再び機首を上げて高度を取った。

 

「追うな。編隊を立て直せ!」

 

 シルバーが命じたが、すでに編隊は崩れ、各機の間隔は大きく開いていた。

 

 〈アンタレス〉は最高速度で〈エルペシオⅢ〉を上回るだけでなく、短距離ながら誘導兵器を備えている。ミリシアル機が機関砲の射線を外しても、速度を失ったところで後方から誘導弾を撃ち込まれる危険があった。

 

 一機の〈エルペシオⅢ〉が敵機を追って上昇した。

 

『捕らえた、このまま――』

 

 魔信が途中で途切れた。追われていた〈アンタレス〉は速度を維持したまま上昇し、僚機がその後方へ回り込む。翼下から離れた誘導弾(短AAM)が。上昇によって速度を失った〈エルペシオⅢ〉に叩き込まれた。

 

「単機で追うな! 敵は二機以上で組んでいる!」

 

 シルバー自身も敵機を追ったが、射撃位置に入る前に敵機は加速して離脱した。

 

「隊長、後方!」

 

 シルバーは反射的に機体を振った。

 

 直後、視界の端を白煙が通過したが、速度を失ったところに別の〈アンタレス〉が高速で迫っていた。

 

 魔導エンジンに機関砲を受け急激に出力が落ち、さらに数発が主翼を穿った。〈エルペシオⅢ〉は姿勢を失った。

 

 シルバー機は制御を失い、黒煙を引きながら雲の下に消えていった。

 

 

■日本国防軍海上隊

 海防艦〈八雲〉

 

 グラ・バルカス帝国の航空部隊を確認した日本艦隊が、カルトアルパス港から出撃した。

 

 〈八雲〉は各国艦隊の進路から外れた海域に向かい、後続する〈鳳翔〉と改松型海防艦四隻がこれに続いた。旧式艦の群れは射界を塞ぐだけでなく、回避運動や対空射撃の妨げにもなりかねない。そのため、艦隊を指揮する福島栄吉将補は、列強艦隊から距離を置き、独立して行動できる海域を確保することにした。

 

【挿絵表示】

 

 〈八雲〉艦橋では、福島栄吉将補と艦長の寺崗正雄大佐が、戦闘指揮所(CIC)からの戦況を確認していた。

 

「第七制空戦闘団は壊滅。敵航空隊は各国艦隊への攻撃に移行」

 

 報告を聞いた寺崗は、前方に広がる戦場に目を向けた。

 

「思った以上に早く抜かれましたな」

 

「こちらまで来る敵機を落とすぞ。前方の乱戦は放っておけ」

 

 福島は表示を確認しながら続ける。

 

「〈鳳翔〉に発艦を急がせろ。〈八雲〉は対空戦闘に適した位置を確保する」

 

「了解」

 

 命令が後続艦に送られる。〈八雲〉後方では、航空海防艦〈鳳翔〉と改松型海防艦四隻が輪形陣を維持しながら、上空と海面の警戒を続けている。

 

 〈鳳翔〉の飛行甲板には、すでに対空兵装を終えた〈六花〉の姿があった。

 

 電磁カタパルトが作動し、〈六花〉は飛行甲板上で急速に加速し、機首を上げながら高度を取っていく。一番機が上昇に移る頃には、すでに次の機体が発進位置に進む。

 

 八機すべてが発艦すると、〈六花〉隊は二個編隊に分かれ、日本艦隊の上空を覆うように高度を上げた。

 

 福島は〈八雲〉艦橋から、その様子を双眼鏡で追った。

 

「第二〇一飛行隊、全機発艦。直掩に入ります」

 

 

 報告を受け、福島は双眼鏡を下ろした。

 

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