太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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カルトアルパス沖海空戦(中)

「第七制空戦闘団の反応消失。残存機との交信途絶」

 

 報告を受けた上官がレーダーを確認する。

 

「故障ではないのか」

 

「装置に異常はありません。敵反応は引き続き接近中です」

 

「待機中の戦闘機をすべて上げろ。エモール王国の風竜騎士団にも迎撃を要請する。市街に近づけるな」

 

 

■神聖ミリシアル帝国

 港湾都市カルトアルパス南方海峡 上空

 

 エモール王国の風竜騎士団は、グラ・バルカス帝国の〈アンタレス〉艦上戦闘機と交戦を続けていた。

 

 ワイバーンやワイバーンロードより一回り大きな風竜は、細身の流線形をした体と高い知能を持ち、翼にまとった魔力によってかなりの高速を発揮する。竜人の騎士は常人なら耐え難い運動に耐え、航空機では困難な急旋回や急上昇を自在に繰り返していた。

 

「ぐっ、小癪な!」

 

 竜騎士団長ウージは、また一騎が高度を落としていくのを見て吐き捨てた。

 

 人口の少ないエモール王国では、騎士も風竜も質を重視して育成されている。他国との模擬空戦で遅れを取ったことはなく、ウージ自身、機械の力で飛ぶ航空機が風竜に勝るとは考えていなかった。

 

 だが、〈アンタレス〉は速かった。旋回や急上昇は風竜に分があったが、直線では敵機が上回る。不利になればそのまま離脱して再び攻撃してくるため、風竜側は追撃を続けられなかった。

 

 さらに〈アンタレス〉は、機首に捜索用レーダーを備えていた。有効範囲は限定的で、低空では地表や海面の反射に妨げられるものの、中高度以上では有効に利用できたが、風竜の反応は航空機ほど明瞭ではないため、有視界戦闘を強いられていた。 

 

 翼下の赤外線誘導弾(短AAM)も風竜には使えない。生物の体温では感知器が反応しないのである。

 

 結局、風竜を仕留めるには二三ミリ機関砲の射程まで踏み込むしかない。

 

「また来るぞ!」

 

 ウージは正面上方から降下してくる敵機を認めると、風竜を急激に引き起こした。

 

 直後、〈アンタレス〉の機首が閃き、二三ミリ弾の列が腹の下を抜けていく。風竜はそのまま急上昇しながら翼を捻り、追従しようとした敵機を前方へ押し出した。

 

「今だ!」

 

 ウージが風竜を反転させると、口腔内へ魔力が集中し、橙色の光が膨らんだ。ワイバーンロードとは比較にならない魔力を一点へ集めて放つ火炎弾は、高速で飛翔する航空機にも十分な弾速を持っている。

 

 しかし、発射の寸前に僚騎から警告が飛んだ。

 

『団長、後方上空!』

 

 ウージが風竜を横転させると。ほとんど同時に、別の敵機が放った二三ミリ弾が先ほどまでいた空間を切り裂く。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 

 一機を追い詰めれば、別の一機が上空から降ってくる。速度と数の差によって、風竜騎士団は思うように攻撃へ移れなかった。

 

 もっとも、〈アンタレス〉隊を率いるサルトにとっても、風竜は楽な相手ではなかった。

 

 神聖ミリシアル帝国の〈エルペシオⅢ〉であれば赤外線誘導弾も使える。ところが風竜は、照準を合わせた途端に翼を畳むように減速し、航空機なら失速するような角度で上昇する。誘導弾が使えない以上、どうしても近距離の機関砲戦へ入り、風竜の高機動に付き合わされることになる。

 

『二番機、追うな! 上がるな!』

 

 サルトが怒鳴ったときには、僚機は風竜を追って機首を上げていた。

 

 風竜がさらに急角度で上昇すると、追従した僚機はたちまち減速する。追跡を諦めて機首を下げたときには、風竜はすでに反転していた。

 

 放たれた火炎弾が胴体後部を直撃し、僚機は黒煙と破片を撒き散らして落ちていった。

 

 サルトが舌打ちする。風竜騎士団にも損害は与えているが、数で上回る側としては割に合わない。

 

「竜を追うな。正面から撃って回避させろ。そこを別の機が狙え」

 

 風竜側もその意図へ気づき、上空に別の〈アンタレス〉が待ち構えていることを警戒し始めた。空戦はすでに一対一の旋回戦ではなく、互いに僚機の位置を利用して相手を追い込む集団戦に変わっていた。

 

 

 サルトのレーダーに新たな反応が現れた。

 

「右前方、未確認機複数接近」

 

 風竜の不安定な反応とは異なり、明瞭な反応がまとまって接近している。やがて肉眼でも航空機三十機が確認できた。

 

 ムーの艦上戦闘機〈マリン〉である。

 

 先尾翼と後部推進式プロペラを備えた独特の機体は、最高速度こそ〈アンタレス〉に遠く及ばないものの、低速域での優れた運動性を持つ。武装も四〇ミリ機関砲一門と二〇ミリ機関砲二門という重武装である。

 

 〈マリン〉は風竜とは違って赤外線誘導弾の目標にはなり得たが、プロペラ機の排熱はジェット機ほど強くない。確実に捕捉するには、後方からかなり近づく必要がある。

 

 それでも、本来なら速度差を利用して主導権を握れる相手である。

 

 ところが、風竜を追って旋回戦へ入り込んでいた機体には、その余裕がなかった。

 

 一機の〈マリン〉が〈アンタレス〉の内側へ滑り込み、敵機がさらに旋回を深めたところへ機首を向ける。四〇ミリ機関砲が〈アンタレス〉の主翼付け根へ命中し、続いて二〇ミリ弾が胴体を走る。破片を撒き散らした機体は姿勢を崩し、そのまま錐揉みしながら落ちていった。

 

「何だ、あの旋回は!」

 

 別の〈アンタレス〉も〈マリン〉を振り切ろうと旋廻したが、その速度域では〈マリン〉の機動性が勝っていた。

 

「曲がるな。加速して離れろ!」

 

 サルトの指示を受けた一機が旋回を打ち切り、機首を下げて離脱する。〈マリン〉も後を追い、二機はそのまま高度を下げていった。

 

 海面が近づくにつれ、今度は〈アンタレス〉のレーダー画面に無数の反射が広がった。画面が海面のノイズに塗(まみ)れる。

 

「ちっ、低空では使えんか」

 

 別の〈アンタレス〉が〈マリン〉を捉え、後方に回り込んだ。

 

 赤外線誘導弾の感知器を作動させると、捕捉音が短く鳴って途切れた。距離を詰めると再び反応したが、まだ安定しない。

 

『くそ…』

 

 操縦士は発射を諦め、二三ミリ機関砲に切り替えた。

 

 火線が〈マリン〉に伸びたが、敵機は左に鋭く身を翻してかわす。〈アンタレス〉も無理に追わず、そのまま高速で通過して再び上昇した。

 

 三者が入り乱れた空戦では、それぞれの長所は単純な優劣にはならなかった。

 

 〈アンタレス〉は速度で優位に立つ一方、風竜には誘導弾を使えず、風竜は航空機には真似のできない運動で近距離戦を有利に進められるが、速度では追いつけない。〈マリン〉も巴戦には強いものの、離脱する〈アンタレス〉を追うほどの速力はない。

 

 互いに相手の不得手な領域に引き込もうとしながら、海峡上空で入り乱れた。

 

 ところが、ムー側では性能とは別の問題が起こり始めた。

 

 低空で〈アンタレス〉を追っていた一機の〈マリン〉が急旋回した瞬間、脱出装置が突然作動した。機首の下半分が口のように大きく開き、操縦士が前方へ放り出される。無人になった〈マリン〉はしばらく惰性で飛んだ後、そのまま海面へ突っ込んだ。

 

「…何だ、今のは」

 

 サルトが眉をひそめる。

 

 別の〈マリン〉でも同じことが起きた。〈アンタレス〉の射撃を避けて急旋回した直後に機首が開き、緩い弧を描いて落ちていく。

 

 三機目は機首が途中まで開いたところで止まった。操縦士は辛うじて機内に残ったものの、半開きになった機首が空気抵抗を生み、もはや空戦を続けられる状態ではなかった。

 

 グラ・バルカス側は、何が起きているのか理解できなかった。

 

『隊長、今の二機は我々が落としたのですか?』

 

「知らん、俺に聞くな」

 

 カルトアルパス南方の空では、速度や旋回性能、火力や数だけでなく、それぞれの兵器が持つ癖までが戦況を左右し始めていた。

 

 

■カルトアルパス南方海峡

 

 〈アンタレス〉の別働隊は上空の乱戦を避け、そのまま列強艦隊への攻撃に移った。

 

 対艦攻撃に入った機体は高高度から艦隊を捉えると、搭載した二五〇キロ誘導爆弾三発を投下した。

 

 ムー艦隊をはじめとする各国艦艇は対空砲火を集中したが、マッハ一・一五に達する〈アンタレス〉は攻撃後すぐに速度を上げて離脱する。多数の艦艇が入り乱れた空域では迎撃も容易ではなかった。

 

 『アガルタ法国魔法船団、艦隊級極大閃光魔法の充填を開始、友軍機は離脱せよ』

 

 六芒星を描くような陣形のアガルタ法国船が徐々に光り始め、次第に輝きを増す。次の瞬間、船団中央に魔力が収束し、強い閃光となって上空に伸びた。魔素の位相変化によって周囲を薙ぐ光に、二機の〈アンタレス〉が捉えられ、炎を曳いて墜落した。

 

『アガルタ法国魔法船団、魔力枯渇。再充填まで三六八秒』

 

 アガルタ法国の攻撃は決定打にはなり得ず、依然、誘導爆弾が投下され続ける。

 

『神聖ミリシアル帝国巡洋艦、中破!』

 

『ニグラート連合、戦列艦一隻轟沈!』

 

 列強艦隊は爆発と水柱の渦に包まれていた。

 

 

■海防艦 八雲

 

 日本艦隊は前方の乱戦に加わらず、カルトアルパスに近い海域に陣取っていた。

 

「前方上空、敵機四。距離四万八千」

 

 八雲の戦闘指揮所(CIC)から報告が上がる。

 

「二〇・三センチ砲、対空榴散弾。射撃開始」

 

 寺崗正雄大佐の命令を受け、二〇・三センチ連装速射砲が上空を指向した。毎分十二発の発射速度を持つ主砲から、対空榴散弾が次々と撃ち出される。

 

 砲弾は敵編隊の進路上で炸裂し、広範囲に破片を撒いた。一機の〈アンタレス〉が主翼と胴体を損傷して編隊から脱落し、別の一機も機体後部から白煙を引いて離脱する。

 

 残った敵機は直ちに進路を変えたが、その時にはすでに〈八雲〉との距離が縮まっていた。

 

「七・六センチ、射撃開始。五・七センチも続け」

 

 舷側の七・六センチ速射砲が一斉に火を噴き、そこに五・七センチ速射砲が加わった。

 

 今度は敵機の未来位置に高密度の弾幕が集中する。一機が被弾して炎を上げ、もう一機も攻撃進路を外れて離脱した。

 

 上空では〈鳳翔〉から発艦した〈六花〉が直掩に当たっていた。

 翼端と翼下に十発誘導弾(短AAM)を搭載した重兵装である。

 

『目標四。攻撃開始』

 

 〈六花〉隊は対艦攻撃に移ろうとする〈アンタレス〉の正面から誘導弾(短AAM)を放った。

 

 誘導弾(短AAM)が敵機のエンジンに命中する。別の一機はコクピットを直撃されて墜落する。

 

 〈六花〉が搭載する小型誘導弾(AAM)は、〈アンタレス〉搭載の誘導弾(短AAM)の、実に五倍以上の射程を誇る。もちろん、その命中率は言うまでもない。

 

『二機撃墜、深追いするな』

 

 〈六花〉隊は速度を保ったまま上昇し、次の迎撃位置に移った。

 

 〈八雲〉と〈六花〉は、列強艦隊を抜けてきた敵を確実に叩くことで、カルトアルパスの空を守っていた。

 

 その最中、〈八雲〉艦橋の見張員が右舷後方を指した。

 

「戦闘海域に〈コンタキオン〉確認!」

 

 寺崗が双眼鏡を向けた。

 

 いつの間に出港したのか、白い軍艦が姿を現していた。上空で敵味方が入り乱れ、各国艦艇の周囲には幾つもの炎が上がっていたが、〈コンタキオン〉は混乱する海域を悠然と抜けていった。

 

「〈コンタキオン〉、速力二〇ノットで南下」

 

「見れば分かる」

 

 寺崗は双眼鏡を下ろした。

 

 

■神聖ミリシアル帝国

 カルトアルパス地方隊 

 

 旗艦〈アルミス〉

 

 列強各国の艦隊が航空攻撃によって戦闘力を失っていく中、ミリシアルとムーの艦隊は隊列を離れ、フォーク海峡へ接近するグラ・バルカス帝国艦隊の迎撃に向かっていた。

 

 神聖ミリシアル帝国南方地方隊の旗艦〈アルミス〉では、艦隊司令パテスが次々と届く被害報告に目を通していた。

 

「ニウム艦長、戦況をどう見る」

 

「敵航空戦力は予想を大きく上回っています。ただし、日本国の航空隊が乱戦を抜けた敵機を相当数排除しています。上空は先ほどより落ち着いています」

 

「問題は海上か」

 

「はい。海峡へ進む敵艦隊を排除しなければ、こちらがフォーク海峡へ入れません」

 

 その間にも、僚艦から被害報告が続いていた。

 

『ニグラート連合、竜母二隻沈没。戦列艦一隻沈没』

 

『ムー王国戦艦、一隻被弾。速力低下』

 

 損害は小さくなかったが、各国艦艇は隊形を組み直しながら南下を続けていた。南方地方隊も前衛へ進出しようとしていた、そのときだった。

 

『ケイル島南側から超巨大戦艦出現!! 艦影確認! グラ・バルカス帝国〈グレートアトラクター〉と判明!!』

 

 艦橋の空気が変わった。

 

『同艦はケイル島南側から、海峡入口に向かい進行中!!』

 

「何だと…」

 

 パテスは前方海面へ目を向けた。

 

 ミリシアルもムーも、〈グレートアトラクター〉はすでに戦場を離れたものと考えていた。その巨艦がケイル島の陰から再び姿を現し、海峡入口へ向かっている。

 

 やがて水平線近くに、周囲の艦艇とは明らかに異なる巨大な艦影が浮かび上がった。

 

「〈グレートアトラクター〉、距離二五キロ!」

 

「南方地方隊、前へ出る。対艦戦闘用意、最大戦速」

 

 〈アルミス〉以下六隻の魔導巡洋艦が三〇ノットまで増速し、列強艦隊から抜け出した。ムー王国艦隊も続こうとしたものの、主力は〈ラ・カサミ級〉に速力を合わせているため、次第に間隔が開いていく。

 

「距離二四・五キロ。ムー艦隊、後方へ離れます」

 

「構わん。我々が止める」

 

 六隻はそのまま巨艦へ向けて前進した。

 

「魔導粒子砲、対艦射撃用意。射撃可能な艦から順次攻撃開始」

 

 各艦の砲塔が〈グレートアトラクター〉へ向き、粒子加速機構への魔力供給が始まった。

 

「照準諸元入力。粒子収束率、規定値到達」

 

「主砲、射撃準備完了」

 

「撃て」

 

 〈アルミス〉の砲口から鋭い閃光が迸り、ほとんど間を置かず〈グレートアトラクター〉の舷側で白い光が弾けた。続いて僚艦の粒子砲も命中し、巨艦の各所を淡い発光が走る。

 

「命中!」

 

 しかし、〈グレートアトラクター〉に目立った損傷はなかった。

 

 二十数キロの大気中を進んだ粒子流は減衰し、装甲表面を灼く程度の威力しか残していない。続けて放った斉射も結果は変わらなかった。

 

「有効打になりません。接近する必要があります」

 

「このまま前進する」

 

 パテスが命じた直後、水平線上の巨艦に巨大な発砲炎が膨らんだ。

 

「敵主砲発砲!」

 

「取舵、最大!」

 

 六隻が一斉に回避へ入る。

 

 やがて前方の海面が爆発したように盛り上がり、四〇・六センチ砲弾による巨大な水柱が次々と巡洋艦隊を挟み込んだ。

 

「夾叉!」

 

 初弾から捉えられていた。

 

 至近弾の衝撃に揺さぶられながら、ミリシアル側も魔導粒子砲を撃ち返す。光条は正確に巨艦を捉えたが、表面に白い発光を残すだけだった。

 

 やがて〈グレートアトラクター〉の三基の主砲塔が照準を修正し、再び火を噴いた。

 

 今度は水柱の間に炎が混じった。

 

『〈セリオン〉被弾! 中央部に直撃!』

 

 四〇・六センチ砲弾が船体中央を貫き、内部で炸裂した。〈セリオン〉は機関部から黒煙を噴き上げ、大きく傾きながら隊列を外れていく。

 

「隊形を崩すな。前進を続けろ!」

 

 残る五隻は砲撃を続けた。

 

 しかし、距離は容易に縮まらない。

 

 次の斉射では〈ティリオン〉の艦尾が吹き飛び、〈バルガス〉にも巨弾が命中した。前部で大爆発を起こした〈バルガス〉は炎に包まれ、その場で速力を失っていく。

 

『〈ティリオン〉、浸水拡大!』

 

『〈バルガス〉航行不能!』

 

 パテスは前方の巨艦を見据えた。

 

「距離は」

 

「二二キロです」

 

 わずか三キロ。

 

 だが、その三キロを詰める間に、すでに半数の艦が戦列から消えていた。

 

 〈グレートアトラクター〉の主砲が再び轟いた。

 

 巨大な水柱が〈アルミス〉の右舷前方に立ち上がり、その向こうで二つの閃光が続いた。

 

『〈ネリウス〉被弾!』

 

『〈カルディア〉にも直撃!』

 

 一隻は艦橋付近を吹き飛ばされ、もう一隻は船体中央から炎を噴き上げた。二隻とも隊列を外れ、前進を続ける艦は〈アルミス〉だけとなった。

 

 ニウム艦長が周囲を見渡した。

 

「…我々だけになりましたな」

 

「主砲は」

 

「射撃可能です」

 

「撃て。前進を続ける」

 

 魔導粒子砲が再び閃き、〈グレートアトラクター〉の前部装甲を白く染めた。

 

 それでも巨艦は止まらない。

 

 パテスはしばらくその姿を見つめていた。

 

「遠すぎるか…」

 

 その言葉に重なるように、見張り員が叫んだ。

 

「敵主砲発砲!」

 

 水平線上に発砲炎が膨らむ。

 

「回避!」

 

 〈アルミス〉が舵を切った。

 

 第一弾は左舷へ外れ、続く巨弾が艦尾の向こうへ落ちる。直後、艦首で凄まじい閃光が弾けた。

 

 四〇・六センチ砲弾が前部へ直撃した。

 

 轟音とともに艦橋が激しく揺れ、パテスは壁際へ叩きつけられた。前部主砲塔の周囲は炎と煙に覆われ、艦内の照明が消える。

 

「被害報告!」

 

「艦首大破! 前部主砲使用不能! 水線下にも破孔、浸水拡大!」

 

 前部区画は広範囲に破壊され、応急班が隔壁を閉鎖しても浸水を止められなかった。〈アルミス〉は急速に艦首を沈め、前進する力を失っていく。

 

 ニウム艦長が損害報告を確認し、パテスを見た。

 

「総員退艦」

 

 ほどなく命令が艦内へ伝えられた。

 

 乗員が脱出を始める中、〈アルミス〉は艦首から深く沈み、ゆっくりと傾斜を増していった。

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