■ロデニウス大陸
中央暦一六三八年十一月
クワ・トイネ公国
日本やイルメリアとの国交は、クワ・トイネ公国、クイラ王国に大きな変革をもたらしていた。
日本、イルメリア両国への食料輸出はかなりの規模だったが、大地の神に祝福されたクワ・トイネ公国は、それらに余裕をもって応えることができた。
クイラ王国はもともと作物が育たない不毛の土地だったが、地下資源の宝庫であることが判明し、鉱物や原油といった大量の資源を有利な条件で両国に輸出。さらに技術供与を受け、採掘を開始していた。
一方、これらの代価として、両国は工業製品の輸出と技術支援、インフラ整備を行い、ディーゼル機関車による鉄道網や、先進的な港湾施設が築かれようとしていた。
これらが完成すれば国内外の流通が活発になり、今までとは比較にならない発展が遂げられる。
浄水設備を備えた水道、照明や様々な機器の基幹となる電気技術、薪や石炭などとは比較にならないほど便利なガス器具。
大規模に普及した暁には、国が根底から変わるだろう。
武器に関しても、日本が余剰としていた小銃や軽機関銃、イルメリアからは輸送車両や牽引可能な火砲、鋼鉄製の警備艇、優秀な無線機などが輸入され、それらを使いこなすための軍事顧問団が同時に派遣されていた。
「すごいものだな。特にイルメリアは、明らかに三大文明圏を超えている。この国の生活水準も、いずれ三大文明圏を超えられるぞ」
クワ・トイネ公国首相、カナタが秘書に語りかけた。
彼は国交開始以来、ずっと興奮冷めやらぬ様子であった。
「辺境国が大国を超える技術を手に入れるなど、今までは考えられなかったことです。いつかは文明圏を凌駕できると思います」
「まるで少年の頃のような気分だ。私が首相のときに国が劇的に変わる……これ以上の喜びは、他には考えられないな」
カナタと秘書は、この国の行く末を見据え、期待に胸を躍らせていた。
「しかし、両国が穏健で助かりました。……彼らが覇を唱えたらと思うと、ぞっとします」
「そうだな。しかし、彼らの基準で旧式とはいえ、武器まで輸出してくれるのはありがたい。これで少しはロウリアに対抗できそうだ」
地平線に沈む夕日が、穀倉地帯の広がる平野を照らしていた。
その彼方にあるのは、ロウリア王国。
かの国はクワ・トイネとクイラを併呑し、ロデニウス大陸統一を目論んでいた。
「やはり、ロウリアとの衝突は避け難いか……」
「ロウリアの兵力は我が国を凌駕しています。密偵からの情報では、大量の軍船を造っており、国境への兵の移動も始まっているようです。これが今までのような限定戦となるのか、総力戦なのか……。いずれにせよ、丸く収まるとは考えられません」
クワ・トイネとロウリアの国境の街ギムでは、すでに防衛戦力が増派され、軍事顧問団の指導のもと、野戦築城が開始されていた。
■日本国 某所
奥深い山林に、一つ目の鉄の巨人が数体。
閑静な渓谷に響き渡るのは、耳をつんざくような甲高い機械音。
巨大なチェーンソーや斧で、木々をなぎ倒す巨人。
別の一体は、大地に残った切り株を、斧刃の付いたツルハシで引き起こしていた。
人力の何十倍もの速さで森を切り開いていく、全高四メートルの鉄の巨人。
一つ目の怪物を思わせるカメラアイと、胴体に直付けされた頭部が特徴の武骨な巨人は、イルメリア工兵隊の「ドヴェルグ」。
陣地構築や塹壕掘削、果ては貨物運搬や道路工事にまで重宝される二足歩行機である。
装甲のないこの機体は、もともと作業用であったが、緊急時には重機関銃を抱えて戦闘を行うことも不可能ではない。
いまだインフラが不十分なこの時代の日本では、都市間や地域間を結ぶ輸送路の脆弱さが発展のネックとなっており、道路や鉄道網の敷設、改修が急務だった。
だが、山がちで急峻な地形がそれを阻んでいた。
これらイルメリアの二足歩行機は、通常の作業車両が入り込めず、人力に頼っていた山間部の開発を飛躍的に推し進めた。
山林伐採の部隊から少し離れたところには、先ほどの機体とよく似た三眼の機体が二体。
クラッグと呼ばれる湿地踏破用の足底板を展開し、木々が伐採された後のむき出しの地面を踏み固めている。
装甲歩兵隊の「グノーム」である。
本来は偵察、強襲用の機体なのだが、原型となった二足作業機と同様に土木作業もこなせるため、道路開削に駆り出されていた。
工兵隊だけでは人手が足りないため、同系統の機体を装備する装甲歩兵隊もまた、日本の復興支援と開発協力に充てられていたのだった。
「これじゃ、ただの土木工事じゃない!!」
機体の外部スピーカーから、ハスキーな声が響いた。
「いいかげん諦めてよ、エリン」
もう一機が、同じく外部スピーカーで言い返す。
「山奥で新種のポ〇モン見つけた、とか言って呼びつけてやる!!」
「ほんとに飛んでくるから、それはやめて……」
「……姫っちに騙された、また騙された!! 帰ったら絶対なにか奢らせてやる!!」
「はいはい。とりあえず、そこ踏み固めてからね」
「分かってるってば!」
騒ぎ立てながら地面を踏み固める二体の動きは、それでも他のどの機体よりも速かった。
黙っていれば誰もが美人と認めるエリン・アダ少尉と、黒髪そばかすのアリア・マリア軍曹。
エリンは装甲歩兵隊でも指折りのエースであり、アリアもまた長く彼女と組んできた腕利きである。
階級は違えど、実家が近所同士の腐れ縁。
ユリアもまた、彼女らの友人であった。
サンドベージュに塗装された二足歩行機、「グノーム」が手にするのは、本来の装備である二十ミリ携帯機関砲や二十五ミリ対物ライフルではなく、ルトルムと呼ばれる巨大なシャベルであった。
イルメリア工兵隊が取り組んでいたのは、史実では昭和三十三年に着工された箱根新道の建設。
彼らの活躍で、日本の交通網は、わずか三年で史実の十年分以上の進歩を遂げることとなった。
イルメリアが持ち込んだ重機や機材は、いまだ未舗装だった基幹国道や急峻な道路、鉄道網の改修、また港湾や都市の整備に大いに役立った。
工兵隊が帰国した後も、伝えられた技術は、その後の日本の発展にとってかけがえのない財産となった。
嵐の前の、静かなひと時であった。
・ドヴェルグ:ドワーフの意。イルメリアの二足作業機。
・グノーム:「地精」の名を持つ二足歩行戦闘車両。
ドヴェルグを基に設計された装甲歩兵。
三角形の頭部は胴体に直付けされ、3基のカメラアイを備える。
脚部には雪上・湿地帯走行板を兼ねた増加装甲を持つ。
標準色はサンドベージュ、冬季戦仕様はオフホワイト。
なお、構造上装甲が薄く、戦車との正面戦闘は自殺行為。むせる。
「イルメリア専制公国」の国号を「北方ローマ専制公国」に変更することについて、皆さんはどう思われますか?改称した場合も「イルメリア」の名称は地名などで継続使用します。
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現行 今のまま。
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改称 第九話で北方ローマ専制公国に改称