太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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忘れられた世界(一)

エスペラント王国 北部城壁地区

 

 地鳴りのような怒号が、戦場に木霊(こだま)した。城壁からの無数の矢が押し寄せるゴブリンに突き刺さり、泥の上でのたうち回る。

 

 城壁には、革鎧を纏(まと)った衛兵の他、灰色の軍装の兵士の姿もあった。灰色の兵は小銃を構えてはいたが、その銃口が火を噴く様子は稀であった。

 

 やがて、千体ほどいたゴブリンの殆どが斃(たお)され、生き残った個体も同族の骸を踏み越えて敗走し始めた。

 

「はあ、はあ…勝ったか」

 

 エスペラント王国の騎士団長モルテスは城壁の外を見渡した。射手の間から安堵の声が上がる一方、灰色の兵団は敵の退却を確認すると、城壁に据えた機関銃を覆い始めていた。

 

「今回は、相手がゴブリンで助かりました」

 

 副騎士団長が、折れた矢を足元から拾い上げた。

 

「また知将バハーラがオークやオーガを率いて来れば、この程度では済まんがな」

 

 北方の二つの街は、すでに持ちこたえられずに陥落していた。

 

「トゥーレ軍本体からの援軍は?」

 

「北の街道の守備隊は動かせないとのことです。装甲車は避難民の護衛に回しているそうです」

 

 モルテスは城壁の隅で、装備を確認する灰色の兵団に目を向けた。灰色の兵士―トゥーレの兵の武器は信じ難い威力を持っている。だが、その弾薬も、装甲車の燃料も枯渇し始めていた。

 

「最近の魔獣の大量発生は一体何だ。これまでも襲撃はあったが、ここのところ桁違いだ」

 

「大魔獣ダクシルドが現れてからです。以前、我々を悩ませていたマラストラスの姿は、すっかり見なくなりましたが」

 

 詳しい原因を知る者はいなかったが、魔王ノスグーラとその側近マラストラスが姿を消した後、別の魔物がその支配地域に入り込み、王国の周囲を荒らし始めたことだけは確かである。

 

 モルテスは城壁の石に背を預けて腰を下ろした。戦いには勝ったが、物資が不足する中で、次の襲撃に備えなければならなかった。

 

 

 エスペラント王国の人々は、自分たちの国を人類最後の砦と信じていた。

 

 王国の人々の先祖は、遥か昔、グラメウス大陸に送り込まれた魔王討伐軍である。

 太陽神の使いによって魔王軍が押し返された後、敵の大群に包囲された討伐軍は、肥沃な土地と水源を備えた天然の要塞に立て籠った。

 

 出立の時に交わした、一年で戻らなければ援軍を送るという約束は、幾年が過ぎても果たされなかった。やがて討伐軍は外の世界との繋がりを諦め、城塞を築き、魔物の軍勢と戦いながら歩み始めた。

 

【挿絵表示】

 

 

 その国に、突然、異国の軍隊が現れたのである。

 

 北方ローマ皇国トゥーレ軍団。

トゥーレ(グリーンランド)に駐屯していた、異世界から来たという五千の辺境警備軍である。

 

 だが、彼らは日本やイルメリアとは異なり、転移したのは兵士と装備だけで、基地や施設を伴っていなかった。

 エスペラント王国は、その軍団を受け入れた。王国は食料と居住地を提供し、軍団はその対価として、城塞の防衛に加わった。武器の整備や負傷者の治療を通じて、兵士と住民の間にも交流が生まれた。

 

 

イルメリア専制公領 領都マリポリ

領軍本部

 

「もう一度、再生してください」

 

 通信室の責任者が命じると、録音装置から激しい雑音が流れた。その奥に、途切れながらも人の声が聞こえていた。

 

『皇国軍本…こ…、トゥーレ軍……を求…』

 

 通信兵が顔を上げた。聞き慣れた北方ローマ軍団の呼出形式である。

 

『現在、エス……ント王国に駐屯…現地防衛……弾薬…』

 

 その先は雑音に埋もれた。通信士官は受信時刻と周波数を確かめ、記録を持って部屋を出た。

 

 

 知らせを受けたユリアは、第一軍団長グンナル・ニャール少将とともに録音を聞いた。机の上には、転移前の皇国軍の資料も開かれていた。

 

「間違いなくトゥーレ軍団の識別コードです。歩兵と装甲大隊が中心の軽装部隊で、広域展開能力は持っていません」

 

「兵士と装備だけが、こちらに来たのですか?」

 

「そのようです。交信を重ねて確認しました。転移時期も、我われとほぼ同時期です」

 

 ユリアは録音の続きを聞いた。魔獣の襲撃が増え、現地にも被害が出ているという内容である。部隊の所在と概略は受信できたものの、通信は幾度も途絶え、十分な情報を得るには至らなかった。

 

 トゥーレ軍団からの通信には、電波を阻害する現象についての報告が含まれていた。高濃度の魔素の影響で、エスペラント王国周辺では無線やレーダーが妨害されるという。魔素は周期的に薄れるものの、安定した通信は確保できなかった。

 

 今回は広範囲で魔素濃度が低下したため、偶然マリポリまで通信が届いたのである。

 

「こちらの応答は届いたのですか?」

 

「イルメリア軍団が健在であることを伝えました。先方も驚いていましたが、その後、また通信が切れました」

 

「では、先遣部隊を送りましょう。トゥーレの軍団長に、救援準備を行っていると伝えてください」

 

 ニャールは輸送部隊の予定を確認した。

 

「ハイカラで一個小隊を送ります。現地の状況を調査し、軍団との連絡を確立したうえで、後続の受け入れを準備させます」

 

「エスペラント王国にも、ご挨拶が必要ですわね。軍団を受け入れて下さっているのなら、今後のことも相談しなければなりません」

 

「先遣部隊に指示しておきます」

 

「航空隊に影響は?」

 

「電波を用いる機器は使用できなくなる可能性があります。機内の制御機器や有線の回路には異常がなく、慣性航法は問題ないとの報告です。航空隊には通達済みです」

 

 ユリアは送られてきた王国の略図を見た。ノイズだらけの地図には城壁地区と街道が書き込まれ、その幾つかには、すでに放棄したという印が付けられていた。

 

「物資は十分に。到着後、向こうに頼ることのないように」

 

 ニャールは命令をまとめ、輸送部隊に連絡した。

 

 この情報は日本にも伝えられ、日本の部隊も未知の地域の調査に同行することが決まった。

 

 

領都マリポリ東部 マリポリ空港

 

 マリポリの軍民共同空港では、大型輸送機C-88ハイカラが出発の準備を整えていた。機体に吊るされた輸送コンテナには、部隊の個人装備と補給品、医療資材、調査機材が積み込まれていた。

 

 搭乗するイルメリアの小隊は百二十人、さらに日本の調査分隊が同乗した。

 

 日本隊を率いる舟坂(ふなさか)弘(ひろし)曹長は、部下たちの装備を確かめると、指定された座席に腰を下ろした。隣に座った岡(おか)真司(しんじ)伍長は、貨物コンテナの奥を眺めていた。

 

「こんな大きな機体に乗るのは、初めてです」

 

「俺もだ。だが、今のうちに休んでおけ。着いてからは忙しくなるぞ」

 

 舟坂はそう言って、身体を座席の背に預けた。

 

 小隊長のカッリオ中尉は、飛行経路と、軍団から届いた略図を最後まで見比べていた。現地に着けば、まず軍団司令部を訪ね、王国側にも事情を説明しなければならなかった。

 

「ハイカラ、発進します」

 

 機内通話が告げた。太い固定脚に組み込まれた補助ローターが回転を始め、機体が動き出した。ハイカラは勢いよく滑走を始め、巨体にそぐわない短い滑走で路面を離れた。そのまま上昇に移ると、軍管区の施設が窓の下に遠ざかっていった。

 

 

 海岸線をたどり、内陸に入ったころから、通信の状態が悪くなり始めた。

 

「領軍本部との交信、不安定です」

 

 通信士が周波数を変えたが、応答は雑音に紛れていた。続いてレーダー画像が乱れ、ゴースト(虚像)が幾つも現れた。

 

「レーダーは当てにするな。慣性航法を維持」

 

 機長は指示し、前方を確かめた。低い雲が山の斜面にかかり、軍団から送られた略図と地形を照合するのは容易ではなかった。

 

 機内の機器に異常は見られず、エンジン出力も安定している。外部との通信とレーダーだけが、急速に使いものにならなくなっていた。

 

「雲の下で街道を確認する。高度を下げるぞ」

 

 雲の切れ間から畑が見えた。さらに先には、城壁らしいものもあった。

 

 そのとき、副操縦士が前方を見て声を上げた。

 

「鳥です!」

 

 大きな翼を持つ鳥の群れが、機体の進路を横切った。

 機長は回避を試みたが、数羽の鳥が主翼にぶつかりエンジンに吸い込まれた。左の二基で火災警報が鳴り、右側のエンジンにも激しい振動が生じた。

 

「左の二基を停止。消火装置作動。右のエンジンは出力を絞る」

 

 副操縦士の操作で機体の傾きは収まり、飛行は安定した。

 警報は止まったが、相変わらずエンジンは煙を引いていた。飛行を続けるだけの推力は残っていたが、損傷の程度がわからないまま飛行するのは避けたかった。

 

「脚部ローターの状態は?」

 

「三基とも正常です」

 

 前方には広い畑が続いていた。地面の傾斜と畝の向きを確かめ、着陸できる場所を探した。

 

「あの畑に降ろす。全員、不時着に備えろ」

 

 機体は畝に沿って進入した。速度を落とすにつれて三基の脚部ローターが回転を上げ、主翼の揚力を補いながら降下を抑えた。機長は前進を保ったまま、慎重に接地させた。

 

 不時着の衝撃を降着装置が受け止める。だが、荷重のかかった左の降着脚が畑の土に沈み、大きな揺れが貨物コンテナを襲った。機長はローターの回転を落とし、制動をかけた。土と作物を巻き上げながら、ハイカラは丘の手前で停止した。胴体に損傷はなかったが、左側の降着脚が破損し、後部ハッチには歪みが生じていた。

 

 

エスペラント王国 カルズ地区

 

「うーん、なかなかうまく描けたよ!」

 

 サフィーネは、描き終えた畑の絵を眺めていた。

 サフィーネの父バルサスは、この地区で医師をしていた。裕福な家庭に育った彼女は、こうして絵を描いて過ごすことを趣味にしていた。

 

「今日も上手に描けたかい?あんたの絵を見ると、私しゃ心が温かくなるんだよ」

 

 農家の老婆が声をかけたとき、遠くから重低音が響いてきた。サフィーネが音のする方を見ると、翼の大きな物体が、煙を吐きながら畑の上を飛んでいた。

 

「え? 何、あれ!」

 

 それはやがて地面に触れ、盛大に土煙を上げた。

 

 サフィーネは立ち上がった。村外れの畑で、それは動かなくなっていた。

 

「行ってみよう!」

 

「ちょっと、やめなされ!魔獣かもしれんよ!」

 

 老婆が止める間もなく、少女は走り出していた。

 

 

 ハイカラの貨物コンテナでは、カッリオ中尉が負傷者を確認していた。衛生兵は動けない者のそばで応急手当てに当たっていた。

 

「後部ハッチ、開閉不能です」

 

 兵士が操作装置を確かめたが、衝撃で歪んだハッチは動かなかった。

 

「下がっていろ」

 

 舟坂はベルトを外し、ハッチの縁に手をかけた。足を踏ん張ると、金属の軋む音が貨物コンテナに響いた。歪んだ部分が無理矢理広げられると、人が通れるだけの隙間ができた。

 

 舟坂はそこから外に出ると、機内に手を伸ばした。

 

「負傷者から出せ。動ける者は、手を貸せ」

 

 兵士たちは協力して怪我人を順に運び出した。足を傷めていた岡も、医療兵と舟坂に支えられて地面に降りた。

 

 駆けつけたサフィーネは、その様子を見て足を止めた。

 

「人が…乗っていたの?」

 

 機体のそばに兵士が集まっていた。兵士が身につけている装備や軍服は、時折この地区を訪れるトゥーレの兵士に似ていた。

 

 外周の警戒に当たっていた兵士が、少女に声をかけた。

 

「この近くに、医者はいますか?」

 

「父が医者です。家は、あちらです!」

 

 サフィーネは村の方を示した。カッリオはサフィーネから村の名と、近隣の様子について聞いた。

 

「トゥーレ軍団を知っているのですか?」

 

「はい。異国の兵隊さんでしょう? あなたたちも同じ国の方なのですか?」

 

「我われは北方ローマ皇国、イルメリア第一軍団です。トゥーレ軍団の救援に来ました」

 

 サフィーネはイルメリアという言葉は知らなかったが、目の前の兵士がトゥーレの兵士を知っていることはわかった。

 

「村の人に知らせてきます。父にも!」

 

 少女は家に駆け戻った。間もなく、バルサスと村人たちが担架を持って戻ってきた。

 

 

 衛生兵はバルサスと相談し、動かすことのできる負傷者を医師の家に運んだ。軽傷者は機体のそばで手当てを受け、残りの兵士は警戒と荷物の搬出に取りかかった。

 

 村人たちは、畑に横たわる巨大な機体を見上げていた。トゥーレ軍団の車両は見たことがあっても、これほど大きなものが空を飛ぶとは、考えたこともなかった。

 

「これも軍団の兵器なのかね?」

 

 バルサスが尋ねると、医療兵は、怪我人から目を離さずに答えた。

 

「イルメリア軍団の輸送機です。部隊と物資を運んでいました。トゥーレの方に連絡できますか?」

 

「村から伝令を出させよう。無線とかいうのは使えんのだろう?」

 

「はい。今のところは」

 

「トゥーレの兵隊さんも、ここではいつも苦労しているよ」

 

 バルサスは事情を心得ていた。王国の街道を、皇国兵の伝令が行き来する姿は、すでに見慣れた光景だった。

 

 

 岡は医師の家に運ばれ、寝台に横たわった。医療兵が足を固定し、バルサスが必要な道具を用意していた。

 

「ほかの者は、どうなりましたか?」

 

「皆、機体から出ている。君も、しばらく動かないことだ」

 

 医師の返事を聞くと、岡は大きなため息をついた。身体を起こしかけたが、足に痛みが走り、すぐに寝台に戻った。

 

「まだ動いては駄目よ!」

 

 サフィーネが、医療兵に頼まれた水を持ってきていた。岡は礼を言い、その顔を見てから、少し気恥ずかしくなった。

 

「助けていただいて、ありがとうございます。岡真司といいます」

 

「サフィーネです。父がこの地区の医者なの」

 

「君も軍団の兵士なのかい?」

 

 バルサスが尋ねた。

 

「いえ、日本国防軍の者です。イルメリアの部隊と一緒に調査に来ました」

 

「日本という国もあるのかね?」

 

「はい。イルメリアとは友好関係にあります」

 

 バルサスは、寝台の傍らに椅子を置いた。

 

「軍団の兵士たちも喜ぶだろう。自分たちのほかにも、故国の者がいるのだから」

 

 岡には、村に着いてからの人々の反応が、少しずつ理解できてきた。村人たちにとって、トゥーレ軍団は、ここ以外にも人の暮らす世界があると教えてくれた者たちだった。その軍団自身が、ずっと故国からの音信を絶たれたままだったことを、岡はこの時初めて実感した。

 

 

エスペラント王国 カルズ地区

 

 伝令が戻ってきたのは、日が傾き始めたころだった。後ろにはトゥーレ軍団の装甲兵員輸送車が続き、村人たちが通り道を空けた。

 

 車両から降りてきたのは、トゥーレ軍団長エリクソン准将であった。通信でイルメリアの名を聞いて以来、何度も交信を試みていたが、確かな返答は得られなかった。その相手の部隊が近くに降りたと聞き、司令部から駆けつけてきたのである。

 

 カッリオ中尉が敬礼した。

 

「イルメリア軍団先遣小隊長、カッリオ中尉であります。専制公殿下の命を受け、軍団の調査と救援のために参りました」

 

「ユリア殿下は、ご無事なのか?」

 

「はい。マリポリにおいでです」

 

 准将は、返答を聞いてから、もう一度機体を見た。

 

「マリポリというのは…こちらで新しく築いた街か?」

 

「いえ。転移したのは専制公領そのものです。領都マリポリもペラも、住民とともにこの世界に来ています」

 

 エリクソンは言葉を失った。中尉の説明を確かめるように、幾つか尋ねた。

 

「港も、工廠もあるのだな?」

 

「はい。造船所も工場も稼働しています」

 

「では、装備の補給も…」

 

「現地の状況を確認し、必要なものを本部に報告するよう命じられています。後続部隊の派遣準備も始まっています」

 

 准将は静かに十字を描いた。

 自分たちと同じように孤立した部隊がいるかもしれないとは考えたことはあったが、専制公領そのものが転移してきたとは思ってもみなかったのである。

 

 トゥーレ軍団には近代的な病院での治療が必要な兵士もいた。銃弾を補うため倉庫の隅まで調べる苦労もなくなるかもしれない。

 

「そうか。よく来てくれた」

 

 エリクソンは、中尉と、その後ろに並ぶ兵士たちを見た。故国で見慣れていた装備を身につけた者たちが、自分の前に立っていた。

 

 カッリオは日本隊を紹介し、舟坂も所属と任務を告げた。

 

「日本国防軍から、調査のために同行しております。負傷者は出ましたが、分隊は任務を続けられます」

 

「日本の方々にも、世話になったようだな」

 

「こちらこそ、現地のことを教えていただかなければ動けません。よろしくお願いいたします」

 

 エリクソンは、医師の家に運ばれた者と、機体の被害について報告を受けた。機長によれば、エンジンと降着装置の修理が必要で、すぐには飛び立てないという。

 

「今も通信は駄目か?」

 

「試みていますが、外部からの応答はありません」

 

「この土地では珍しいことではない。無線が通じるときもあるが、長くは続かん。各地区との連絡は有線と伝令が中心だ」

 

 准将は軍用車から地図を運ばせた。ハイカラのそばに置かれた作業台に、王国の街と軍団の配置を示した図が広げられた。

 

「軍団としては、イルメリアとの合流を希望する。隊員たちにも、故国につながる場所があると伝えてやりたい」

 

 カッリオは、報告を受け取るために手帳を開いた。

 

「ただ、今すぐこの国を離れることはできない」

 

 エリクソンは、北部の街道に沿って並ぶ城壁地区を示した。

 

「ここに来たのは兵士と装備だけで、それを支える基地や設備はなかった。この国は食料と住まいを与えてくれた。その恩に報いるため、我々は防衛を引き受けた」

 

 地図には、すでに陥落した二つの街も書き込まれていた。街道の途中には、避難民を収容している場所が幾つもあった。

 

「魔獣の動きが変わってから、戦力が足りなくなった。部隊を一か所に集めれば戦えるが、その間に別の街が襲われる。弾薬と燃料の制約もある。まず、この危機を乗り切らなければならん」

 

「殿下には、そのままお伝えします」

 

 カッリオは報告を書き留めた。

 

「先遣小隊も、軍団と王国の防衛に協力します。後続部隊が到着するまでに、輸送路と受け入れ場所も調べなければなりません」

 

 舟坂は地図を見て、日本隊が加われる任務を尋ねた。

 

「負傷者の搬送でも、警戒でも、こちらで受け持てることがあれば申しつけてください。調査は、軍団の方々と一緒に進めます」

 

「助かる。まず、小隊の状態を整えてくれ。王国側との話も必要だ。陛下と騎士団長には、私から連絡する」




北方ローマ皇国の軍団:旅団規模の部隊、一個軍団は約五千人、少将または准将が軍団長を務めます。本国は駐屯十個軍団、領邦はその規模で駐屯軍団数が決まっています。
イルメリア駐屯は二個軍団と少ないものの、北方ローマ本国艦隊(Basilikon Ploïmon:ローマ帝国中央艦隊)の主力を担う艦隊を保有しています。
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