今年最後の投稿、間に合いました。
■戦闘海域北西三百キロ
航空支援海防艦「ビザンティオン」
「ビザンティオン」の哨戒ヘリは、すでに「それ」を捕らえていた。
転送された情報には、所属不明の光点が三百以上示されており、敵の戦意の高さが実感された。
「少しまずいか……たかが飛竜とはいえ、数が多い」
イスランディア(アイスランド)出身の偉丈夫、艦長のアーリ・エギルソン大佐は、すぐさま指示を出した。
「零戦隊に連絡。それと日本艦隊にも状況を教えてやれ!」
■クワ・トイネ派遣隊「竹」
「杉より入電。我、残弾なし」
分派した「杉」から通信が入った。
搭載された主砲弾を使い切ったのだ。
同時に、分艦隊が艦砲から機関砲に切り替えたのが見えた。
判りきっていたことだが、四千四百隻を相手取れても、それをすべて沈めるだけの砲弾はなかった。
木造船が相手なら、搭載する二十ミリ機関砲のバースト射撃でも十分なのではあるが、機関砲弾とて無限ではないのだ。
「戦場は何が起こるか判らんのだ。無駄撃ちするなと伝えてくれ」
第一海上隊司令、福島栄吉将補が苦笑しつつ命じた時、通信員が緊迫した声で報告を上げた。
「イルメリア艦『ビザンティオン』より入電。『貴艦南西、所属不明の飛行物体三百五十あり』」
「本艦の電探にも感あり! 二三〇度、六十海里に小型目標多数、百ノットで接近!」
電探員がそう報告した後、「あっ」と声を上げた。
「反対からも小型目標二十が接近! 識別、友軍の航空隊、零戦です!」
「竹」艦橋の通信機が鳴った。
「司令、航空隊より入電。『これより貴艦隊を援護する』」
「支援感謝すると送れ。味方に当てるな、撃ち方止め! 一時離脱!」
「そろそろ、ワイバーン部隊がこの海域に到達する。全軍突撃!」
海将シャークンが命じた、その時だった。
「見張りより報告! 北東の空に何か見えます!」
北東の空に、ゴマ粒のような影が見えた。
「飛竜? 敵のワイバーンか?」
ゴマ粒のようだった影は、次第に翼を広げた鳥のような姿となり、なおも近づく。
鉄の鳥は船団の上を飛び越え、竜騎兵隊に迫った。
「いいか、無理はするな。全員生きて帰れよ!」
零戦隊を指揮する志賀良夫少佐が、無線越しに命じた。
「……トカゲの相手なんて、ガキでもできるわ」
この新型の無線機は、今までのノイズだらけのものとは違い、非常に明瞭に聞こえる。
もちろん、部下の独り言さえも。
「聞こえとるぞ、山田! 行くぞ、全員、褌締め直せ!」
四機ずつの小隊に分かれた航空隊は、眼下の目標に向けて降下した。
その距離が二百メートルを切った時、タタタタ……と乾いた音が響いた。
竜騎兵隊に悲劇が襲いかかった。
鉄の鳥の鼻先で火花が弾けるのが見えた瞬間、数頭のワイバーンが体のあちこちから血を噴き出して落ちていった。
大戦を生き延びた零戦パイロットの技量は高い。
竜騎兵十騎が七・七ミリの九七式機銃の火線を受け、何が起こったのか判らないまま、次々に落ちていった。
「燃料がギリギリだ。あと十分で離脱する!」
零戦隊は一度竜騎兵隊を通り越し、三機ずつに分散して反転すると、再び竜騎兵隊の後方から襲いかかった。
「なんて機動力だ! 振り切れない!」
「こいつら、速すぎる! 火炎が当たらない!」
「後ろに付かせるな! ……うわっ!」
「化け物どもめ、あんなのに勝てるはずが……ぐあぁ!」
竜騎兵のうち、ある者は振り切ろうと加速し、またある者は後方に食らいついて火炎弾を浴びせようと試みたが、速度、旋回性ともに零戦の敵ではなかった。
彼らの不幸は、機動性に優れた零戦に巴戦を挑んだことであった。
やがて、鉄の鳥は来た時と同様に、ワイバーンの手の届かない高空へ飛び去っていった。
わずか十分余りの戦闘で、ロウリア竜騎兵隊はその数を半分近くまで減らしていた。
「……」
誰もが、目の前で起こったことを信じられなかった。
わずかな間に百騎以上の竜騎兵が、あちこちから血を噴き出して墜ちていった。
それも、相手は格下と舐めてかかっていたクワ・トイネの援軍である。
「将軍、竜騎兵隊から魔信! 『態勢を立て直すため、一度帰投する』。奴ら、怖気づいたみたいですぜ!」
空を見上げれば、大幅に数を減らしたワイバーンの群れが、ロウリア王国の方角へ飛び去っていくのが見えた。
「……奴らは、何と手を組んだのだ?」
海将シャークンは絶望していた。
どうやっても勝てない。
このままでは、部下を徒に死なせるだけである。
しかし、降伏などできない。
彼らの国では捕虜の権利などなかったため、相手も同様だと思っていたからである。
だとすれば、撤退するしかない。
ロデニウス大陸史上最大の水軍の、三割近くを失っての大敗である。
国許に帰還しても、おそらく死刑は免れぬ。
無能の将軍として、歴史に名を残すことにもなるだろう。
だが、部下を無駄死にさせる訳にもいかなかった。
「これ以上損害を出す訳にはいかん! 我々も一度帰投する!」
魔信が各艦に流れた。
「全軍撤退。繰り返す、全軍撤退」
空戦に巻き込まれないよう退避していた「竹」の艦橋からも、ロウリア船団が撤退する様子が見えた。
「司令、敵艦隊、撤退を開始しました。追いますか?」
「竹」艦長の楠部伸清中佐が、傍らの福島司令に尋ねた。
「いや、良い。戦闘用具収め。艦長、海に浮かんでいる敵兵を拾ってやれ」
「了解。溺者は救助艇で揚収する。短艇降ろせ!」
後にロデニウス沖海戦と呼ばれる、歴史に残る海戦が終わった。
■クワ・トイネ公国観戦武官 ブルーアイ
「竹」に同乗していたブルーアイは、艦橋でのやり取りを聞いてはいたが、いまひとつ実感が持てなかった。
遠距離からの一方的な砲撃と、それに続く零戦隊の戦闘は、彼の常識から掛け離れすぎていたのだ。
だが、海を覆いつくさんばかりの船の残骸や、海上を漂うロウリア兵の様子から、戦闘に勝ったことだけは理解できた。
■パーパルディア皇国観戦武官 ヴァルハル
幸運にも彼の乗艦は撃沈を免れていたが、ヴァルハルはその船橋で震えていた。
ロウリア軍船団四千四百隻と、そこに乗り込んだ兵士が、どのようにクワ・トイネ公国を滅亡させるのかを記録するのが彼の任務だった。
これだけの軍船で、蛮族にふさわしい時代遅れの海戦を行ったらどうなるのかという興味もあった。
しかし、現れた船は、彼の常識を遥かに超えたものだった。
帆も櫂もない敵の船は、帆に風を送り込む「風神の涙」を使うパーパルディアの軍艦よりも速かった。
長さは百門級戦列艦以上の大型船だというのに、大砲は一門しか積んでいない。
だが、その一門の大砲を、十キロ近く離れた船に次々と命中させる。
しかも何の冗談か、一発被弾しただけで頑丈な軍船が轟沈する。
彼の知っているパーパルディア軍の大砲は、命中率に期待できるものではなかった。
その命中率の悪さを数で補うため、多数の大砲を積んだ戦列艦を運用しているのだ。
もちろん、よほどの幸運に恵まれない限り、一発で船を沈めるのは難しい。
さらに驚くべきは、ワイバーンを撃退したことである。
ワイバーンにはワイバーンで対抗するのが常識だった。
だが、戦場の空に現れた鉄の鳥は、パーパルディアで改良されたワイバーンよりも速く、ロウリア側を圧倒していた。
これらがクワ・トイネ公国の実力だとすれば、パーパルディア皇国さえも脅かすかもしれない。
ヴァルハルは、見聞きしたことをありのまま本国に報告した。
――翌日
海戦が行われた海の上を、翼に紅い円が描かれた飛行機が飛んでいた。
飛行機は、まだ残骸が浮かぶ海上を一周すると、速度を落として風防を開けた。
機上から、何か白いものが投げ落とされた。
飛行機は翼を振ると、そのまま飛び去っていった。
海面に浮かんだそれは、白い百合の花束だった。
花束はしばらく波間を漂うと、やがて静かに海へ沈んでいった。
「イルメリア専制公国」の国号を「北方ローマ専制公国」に変更することについて、皆さんはどう思われますか?改称した場合も「イルメリア」の名称は地名などで継続使用します。
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現行 今のまま。
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改称 第九話で北方ローマ専制公国に改称