太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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接触

 文明の発達した三大文明圏から遠く離れた、大東洋と呼ばれる海域にあるロデニウス大陸。

 オーストラリアの半分ほどの大陸に、三つの国家が存在していた。

 肥沃で広大な穀倉地帯を持つクワ・トイネ公国、砂漠が多く耕作に向かないクイラ王国 、人間以外の種族を迫害する覇権国家ロウリア王国。

 クイラ王国、クワ・トイネ公国ともに、住民の三分の一は人間以外のエルフ、ドワーフ、獣人などであった。

 そのため、亜人の殲滅を国是とするロウリアとはどうやっても友好を保てず、クイラ、クワ・トイネの両国は互いに助け合い、補い合ってロウリア王国の脅威に対抗してきた。

 

 

■中央暦1638年1月24日

 クワ・トイネ公国軍 第6飛竜隊  

 

 

 その日、海の上には透き通るような空が広がっていた。

 

 クワ・トイネ公国の竜騎士マールパティマは、『ワイバーン』と呼ばれる飛竜を操り、公国北東方向海域の警戒に就いていた。

 

 公国の北東方向には、国はもとより、大きな島もない。東に行っても、海が広がるばかりであり、何もないのだ。

 かつて多くの冒険家が新天地を求めて東へ旅立っていったが、帰ってきた者はいないと言われている。

 だが、現在はロウリア王国と緊張状態が続いている。

 迂回、奇襲が行われた場合は北東方向からの奇襲も想定されたため、彼は相棒とともに公国北東の哨戒飛行に当たっていた 。

 

 

「―!?」

 

 水平線の向こうに何かが見えた。

 

「煙? 何だあれは?」

 

 

 水平線上にたなびく、黒い煙が見えた。

 この海域で行動中の軍船はいないうえ、通常、商船はこの航路を採らない。

 

 彼はかすかに見える煙に向けて、ワイバーンを飛ばした。

 近づくにつれ、それが味方の軍船では無いことが確認できた。

 

 

「灰色の、鉄の船?」

 

 それは、全長100メートルを超える巨大な鉄の船だった。

 3本の煙突からもうもうと黒い煙を吐き出し、クワトイネ公国方面にゆっくり向かっている。

 船体の所どころには錆や塗装が剥げた部分が見られ、造られてからかなりの年月が経過しているのが分かる。

 船の甲板には枯草色の服を着た大勢の人間が見え、その大半がぽかんと空を見上げていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 彼は、すぐに魔信(魔力通信機)呼ばれる通信で司令部に報告した。

 

「我、未確認大型船を確認、これより確認を行う。現在、マイハーク北西60キロ」

 

 

 報告を受けた司令部は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 所属不明の大型船がクワトイネ公国の経済の中枢都市マイハークに向かっていると言う。

 街に攻撃を受けでもしたら、軍の威信に関わる。

 

 

 基地内に魔信が流れた。

 

「第6飛竜隊は全騎出撃! 未確認船がマイハークへ接近中、領海へ進入したと思われる。敵対の意志あらば撃沈せよ、繰り返す、敵対の意志あらば撃沈せよ」

 

 

 滑走路を、複数のワイバーンが一斉に駆けていた。

 その数12騎、それがマイハーク駐屯部隊の全力出撃であった。

 彼らは透き通るような青い空を一列になって飛翔していった。

 

 

(・・一隻で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。目的は偵察と思われるが、果たしてそうだろうか?)

 

 第6飛竜隊長イーネは、空を睨んでいた。

 

 

■クワ・トイネ公国 

 第2海軍司令室

 

「ノウカ司令! 第6飛竜隊から報告です!」

 

「読め!」

 

「大型船の臨検の結果、敵対意思なし。なお、日本という国の調査隊が乗り込んでおり、陸地を発見して近づいたところ、領海を侵犯してしまい深く謝罪するとのことです。船は列強クラスの大型船で、全長約130メートル、幅約20メートル、帆やオールのようなものは確認できず。もうもうと黒い煙を上げているため機械船と思われる、とのことです。」

 

 ノウカは絶句した。

 大型船とは聞いていたが、列強クラスの大型船とは。

 

「列強クラスの船というのもなかなかに荒唐無稽ですが、実際に確認された事実ですので、報告しないのはまずいかと愚考します。また、クワトイネ公国に特使を派遣し、国交を視野に入れた会談を希望しているとのことで、まずは外務担当への取次ぎを要請している、とのことです」

 

 通信員は冷静に答えた。

 

「ぐっ・・とんでもないことになったな ・・そうだ」

 

「どうされましたか?」

 

「今、未確認船について政治部会が開催されているはずだ。早急に報告を入れてくれ」

 

「了解しました」

 

 通信員は、臨検の状況をクワ・トイネ公国公都に魔信で送信した。

 

 

  

■クワトイネ公国

 緊急政治部会

 

 国の代表が集まるこの会議で、首相カナタは悩んでいた。

 クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務郷から、正体不明の鉄の船がマイハークに近海に現れ、なおも接近しているとの報告が上がっていた。

 

 国籍は不明、赤い丸の旗が揚げられていたとの事だが、赤い丸だけの国旗を持つ国は、この世界には存在しなかった。

 

 

 カナタは発言した。

 

「皆の者、この報告について、どう思う、どう解釈する」

 

 

 情報分析部長が手を挙げ、発言する

 

「当情報分析部によれば、同船は、三大文明圏の一つ、西方第二文明圏の大国、ムーの装甲巡洋艦に似ているとのことです。しかし、ムーの軍艦は、他国には供与されていません。ムーが我が国に侵攻する理由も見当たりません。ただ・・」

 

「ただ?」

 

「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに自らを第八帝国と名乗る新興国家が出現、圧倒的な軍事力で付近の国家を侵略し猛威を振るっているとの情報があります。第二文明圏の大陸国家群連合に対して宣戦を布告したと、昨日諜報部から報告がありました。第八帝国の使用兵器については、まったく不明です」

 

 会場にいる数人から失笑が漏れた。

 文明圏から外れた新興国家が、三大文明圏の5つの列強国のうちの2国がある第二文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したというのは、無謀にも程がある。

 

 

「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事、ムーまでの距離でさえ、我が国から2万キロ以上離れています。今回の船が、第八帝国のものとは考えにくいのです」

 

 

 会議は振り出しに戻った。

 結局分からないことには変わりないのだ。

 

 

 隣国ロウリアとの緊張が続く状況で起こった今回の事案に、首脳部を悩ませていた。

 友好的に接触すれば良いだけの話を、わざわざ領海侵犯を行う時点で、警戒せざるを得ないのだ。

 

 場が膠着したそのとき、外交部の若手幹部が息を切らして会場に飛び込んできた。

 通常は政治部会に飛び込むなど考えられないため、明らかに緊急事態であった。

 

 

「何事か!」

 

 外務卿が大声で問うた。

 

 

「報告します!!」

 

 若手幹部が報告は、下記の内容であった。

 

 本日朝、クワトイネ公国の北西海上に現れた全長100メートルを超える巨大船を海軍が臨検をしたところ、日本という国の調査隊が乗っており、敵対の意思は無い旨を伝えてきた。

 

 

 臨検の結果、下記の事項が判明した。なお、発言は日本側の申し立てである。

 

・日本という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

 

・元の世界との全てが断絶されたため、船舶や航空機により、付近の調査を行っていた。

 

・陸地発見して近づいたところ貴国の領海を侵犯した。

 

・領海侵犯については深く謝罪する。

 

・クワトイネ公国に使節を派遣し、会談を行いたい。

 

 

 国ごとの転移などは、魔帝やムーの神話にはあっても、現実にはまずありえない。

 

 あまりに突拍子もない話であり、政治部会の誰もが、信じられない思いだった。

 国ごとの転移などは、ムーの神話に登場することはあるが、現実にはまずありえない。

 

 しかし、大型船の乗員は礼節を弁えており、このような船を建造できる日本国にも興味が沸いた。

 そこで、まずは日本国の出方を見るためにも、使節団を受け入れることが決定した。

 

 

 

1か月後・・

 

クワ・トイネ公国と日本国の会談が開かれ、以下が決められた。

 

・クワ・トイネ公国は、日本に食料輸出を行う。

 

・日本はクワ・トイネ公国のマイハーク港の拡充、マイハークから穀倉地帯への鉄道整備などの技術援助を行う。

 

・日本国及びクワ・トイネ公国は、国交樹立に向けた話し合いを継続する。

 

・早急に為替レートを整備する。

 

・日本はクワ・トイネ公国からの食料購入の対価として、公国の防衛に協力し必要物品と交換する。為替レート決定後は、購入量に応じた対応を行う。

 

・日本、クワ・トイネ公国は、不可侵条約締結に向けた話し合いを継続する。

 

 国内の余剰武器を食料と交換することに関しては一悶着あったのだが、背に腹は代えられず、「廃棄」の名目で提供することが決められた。

 

 

 

 会談の結果、日本国とクワ・トイネは良好な関係を構築し、以後、運命共同体として、世界の奔流に挑んでいくこととなる。

 

 そこに多少のイレギュラーが加わるのは、もう少し先の話である。




※復員船時代の八雲は整備状況が悪かったようで、9ノットが「いっぱいいっぱい」であったとの回想があるそうですが、今回の調査航海では多少整備されています。
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