太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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お待たせしております。
多忙のためなかなか進みませんが、しばらくぶりに更新できました。


避難民

■ギムの東、約20km。

 

 

 緑の草原が広がる大地に小鳥が舞い、野牛の群れが草を食んでいた。

 その中を、名も無い小さな村の住人たちが、長い列をなして東に向かっていた。

 

 ギムへの避難民、約200人である。

 

 ロウリアの先遣隊3万を撃退したとはいえ、山賊と化した敗残兵が徘徊していたため、国境周辺の村々には避難勧告が出されていたのだ。

 

 

 

 避難民の一人、パルンという少年は、妹の手を引いて列に加わっていた。

 彼は病気で早くに母を亡くし、父と3人暮らしだったが、父はロウリア軍の侵攻に備え、予備役として招集された。

 

 

「パルン、アーシャを頼んだぞ。お兄ちゃんなんだからな」

 

 そう言うと、父は笑って家を出て行った。

 

 

 あと20km東へ進めば、クワ・トイネ軍が集結するギムの街がある。

 だが女性や老人、子どもが大多数を占める避難民の足取りは、遅々として進まなかった。

 

 

 突然、集団の後方にいた誰かが叫んだ。

 

「ロウリアの騎兵だ!来るぞ!」

 

 

 少年が振り返ると、馬に乗った薄汚れた装束の集団100人程、後方から村人たちの列に向かってきていた。

 亜人を人間と認めないロウリア王国、その敗残兵である。

 村人たちは、悲鳴を上げ必死に東へ走った。

 しかし、騎乗した敗残兵の群れからは逃れられる訳もなかった。

 

 

 

 元ロウリア王国ホーク騎士団、第15騎兵隊長だった赤目のジョーヴは、目の前の獲物に舌なめずりをした。

 

「獲物を見つけたぞ!」

 

 

 女、子どもを中心とした200人程の集団が、3kmほど先の草原を東へ向かって進んでいた。

 遮蔽物の無い草原では、余裕で見通せる距離である。

 

 

 

 赤目のジョーヴは獲物を見て、期待にほくそ笑んだ。

 ギム侵攻の際に、飽きるほど亜人を嬲り殺せると思っていたのが、結果はまさかの惨敗。

 久々に行き場のないどす黒い感情を満たせると思うと、嬉しくてたまらなかったのだ。

 

 

「さて、狩るか」

 

「おい、獲物だ! あの亜人どもを皆殺しにするぞ! 突撃!」

 

「「ひゃっはーー!」」

 

 山賊と化した騎兵隊は雄叫びを上げ、避難民の列に向かって走り出した。

 

 

 

 赤目のジョーヴ率いる第15騎兵隊は、精鋭ホーク騎士団の中でも荒くれ者の集まりと言われていた。

 ロウリア王国東部諸侯団自体が王国拡大期に山賊や海賊が爵位を賜り、諸侯となった者たちであった。

 お世辞にも真っ当な集団とは言えないが、その中でも、赤目のジョーヴは気に入らない部下を適当な理由で嬲り殺しにする残虐さで知られていた。

 

 

 

 パルンは、妹アーシャの手を引いて必死に走った。

 

「大丈夫、お兄ちゃんが必ず守るよ! 心配ないよ!」

 

「うん」

 

 自分たちを殺しにくる悪魔の集団。

 

 神様・・

 せめて、アーシャだけでも・・

 

 

 

 彼が思い出したのは、幼い頃に母から聞いたおとぎ話。

 

 遥か遠い昔、エルフが魔族と戦っていた時代に、魔族はエルフの神が住む神森の殲滅に乗り出した。

 多くのエルフが殺され、歴戦の戦士たちが散っていった。

 エルフの神は、最高神である太陽神に祈った。

 太陽神は、エルフの神にの祈りに応え、太陽の戦士たちをこの世に呼び寄せた。

 

 太陽の戦士たちは、火を噴く鉄の杖や鋼鉄の剣、雷を撃ちだす青銅の筒「サンポー」を携え、犠牲を出しながらも魔族の軍勢と戦った。

 そして、激しい戦いの末、主力を失った魔族の軍勢は敗走した。

 

 エルフたちは金銀財宝を戦士たちに渡そうとしたが、彼らは慰霊碑として石の柱を立ててくれるよう頼み去っていった。

 数多くあった青銅の筒の一つは、激戦地であったこの地に残された。

 

 その青銅の筒は、石の柱と共に時空遅延式保管魔法をかけられ、クワ・トイネ公国の聖地、リーン・ノウの森の祠の中に安置されているという。

 

 

 パルンは走りながら祈った。

 

 神様、太陽の神様!

 助けてください!

 ロウリアの山賊から、僕たちを救ってください。

 僕が犠牲になっても、どうか、妹を助けてください。

 

 

 

 声が聞こえるまでの距離に山賊が迫っていた。 

 戦って死ぬか、無抵抗のまま殺されるか。

 だが、戦うにしても、武器は狩猟弓くらいで、他に武器になりそうなものは農具だけであった。

 村人の中には、諦めてへたり込む者たちも出てきた。

 

 

 パルンは天を仰いで叫んだ。

 

「神様ぁー!!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 カーキ色の軍服を着た東洋系の顔立ちの男が、鋼鉄の車体から身を乗り出して双眼鏡を覗いていた。

 

「!?」

 

 何かを見つけ、男は車内の人物に声を掛けた。

 

「車長、前方500mに民間人を襲う騎兵が見える、助けられるか?」

 

 

 車長 ―グレーの軍装に身を包んだ地中海系の男は、素早く決断した。

 

「よし、民間人を支援。斎藤中尉、誘導してくれ」

 

 

「承知した。20mmは使わない方がいいだろう、巻き込むぞ」

 

 

 草原を走る数台の鉄の箱は、日本が搭乗員ごと借り受けたイルメリアの装甲兵員輸送車、スクタトスAPCである。

 

 この兵員6名の運搬が可能な車両は、主兵装の対ドローン用を兼ねた自動制御の20mm機関砲のほか、帝政ロシアで開発されたフェドロフM1916を原型とする6.5mm汎用機関銃を備えている。

 

 本来は戦闘向きの車両ではないのだが、この時ばかりは明らかな過剰戦力であるといえた。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 これから始まる饗宴を想像して、赤目のジョーヴは下卑た笑みを浮かべていた。

 避難民どもとの距離が500mを切った。

 奴らの顔は恐怖に引きつり、必死に逃げ回っている。

 

 これより殺戮の宴が始まるのだ。

 

 

「突撃ぃ!」

 

 

「「うおぉぉぉぉぉぉ」」

 

 

 敗残兵の群れは雄叫びをあげ、大量の土埃を撒き上げ、避難民めがけて駆け寄った。

 

 

 だが、

 

「・・?」

 

 隊で一番目の良い部下が、平原の東を指差して叫んだ。

 

「隊長!何かが向かってきます!!!」

 

 

 

 

 ジョーヴは部下が指さした方向を見た。

 

「な、何だ!ありゃ?」

 

 

 土埃を巻き上げ、高速で迫る鉄の箱のような、四角い何か。

 

 馬よりも大きな鉄の怪物。

 

 

 

 トトトトン、トトトン、トトン・・

 

 

 そして、怪物からの攻撃なのか、弾けるような音とともに何かが高速で通り過ぎると、近くにいた部下が次々と斃れていった。

 

 

「化け物だ、逃げろ!!」

 

 

 彼らが言う化け物から音速を越えて飛来する鉛の雨。

 

 音が止んだ時、元ホーク騎士団第15騎兵隊は、文字通り殲滅されていた。

 

 

 

 パルンは夢を見ているようだった。

 

 恐ろしかった山賊が、バタバタと倒れていく。

 

 

 どのような魔導なのか想像もつかないが、無数の何かに突き刺され、山賊どもは馬もろとも斃れていく。

 

 

 やがて東の方向から、大きな音を立てる箱のような物が数台走ってきた。

 

 

 山賊どもを殲滅したそれは、砂埃を上げて避難民たちに近づいてきた。

 

 

 

 パルンはそれを見つめていた。

 鉄でできた箱馬車のような物に描かれたシンボルを見つめていたのだった。

 

 白地に赤い丸。

 

 

「太陽、太陽の紋章が描いてある! 太陽の使いが来てくれたんだ!」

 

 

 やがて、村人の前に鉄の箱が停まった。

 箱の上部が開き、中から茶褐色の服を着た人間が出てきて声を張り上げた。

 斉藤中尉である。

 

「我々は敵ではない! 一団の中に傷病者は居るか?」

 

 

 避難民たちは、恐怖で何も言えなかった。

 相手はロウリア騎兵を一瞬で壊滅させるほどの魔導を扱う者たちである。

 対応を誤れば、自分たちも同じ運命を辿るかもしれない。

 

 もちろん斎藤の物言いが、高圧的に聞こえたのもあるが。

 

 

 

 やや置いて、ためらう避難民の中からパルンが進み出た。

 

 

「ありがとう、おじさん。おじさんたちは太陽の使いなの?」

 

 

(太陽の使い? 我々の所属を聞いとるのか?)

 

「そうだ、我々は太陽の旗を戴く国、日本の者だ」

 

 

 

 場がどよめいた。

 そして突然、避難民たちが一斉に大地にひれ伏した。

 

 大抵の事には動じない斎藤も、彼らの様子に戸惑うばかりだった。




・スクタトスAPC(装甲兵員輸送車)
 装甲兵員輸送車として兵員6名と装備が運搬可能。積極的な戦闘には向いていない。軍用の他、降雪地域の輸送手段として重宝されている。物資輸送に用いた際の積載量は1トン程度。
 形状は米軍のM113に似た、オーソドックスな箱型。
 基本型の他、防空用、自走砲、対戦車用などのベースとしても用いられている。
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