■ロウリア王国王都 ジン・ハーク
中央歴1639年7月26日
クワ・トイネ国境とロウリア沖での敗北は、士気低下を招く懸念から、一部の高級幹部を除いて情報を遮蔽されていた。
そんな中、突如襲来した鋼鉄の荒鷲たちに、民衆は混乱に陥っていた。
7月26日早朝、王都ジン・ハーク近郊の竜騎兵隊本部に迫る機影があった。
ギム郊外に設けられた野戦飛行場から飛来した、零戦五二型20機。
緩降下と共に投下された零戦隊の60kg陸用爆弾が飛竜滑走路に投下され、轟音と共に起こる連続した爆発。
夜目の利かないワイバーンでは、空襲に対して成す手段もなかった。
だが・・
「滑走路が広すぎる!6番(60kg爆弾)では威力が足りん!」
60kg爆弾では、滑走路を使用不能にするには少々火力が足りなかった。
とはいえ、制空戦闘機である零戦には、元々これ以上の爆弾は搭載できなかった。
「隊長、4時方向に機影、陸軍機です!」
零戦隊の山田飛曹から報告が上がった。
現れたのは、一式戦闘機三型「隼」20機、四式戦闘機「疾風」8機。
旧陸軍航空隊は翼下の250kg爆弾を、仕上げとばかりに滑走路に投下した。
後に残ったのは、もはや滑走路としては使い物にならない、穴だらけの荒地であった。
ロウリア軍の航空戦力を無力化した後、轟音と共に飛来したのは、輸送機に改装された一式陸攻20機。
旧挺進第1連隊出身者400名がパラシュートで草原に降下。
ロウリア軍は早朝の空襲と突如降下した敵兵に混乱しており、障害なく橋頭保が確保された。
続いて飛来したのは、緒戦でお馴染みとなった垂直離着陸輸送機、V-33コリダロス。
ピストン輸送された歩兵と工兵が次々に降り立つ。
最後に護衛部隊を随伴したカーゴトラックを中心とした輸送隊が到着し、陸送した一式中戦車や九七式中戦車チハ改、九五式軽戦車、一式自走砲といった旧陸軍の戦闘車両を次々と降ろしていく。
これらジン・ハークに現れた軍勢、ロウリア遠征軍は約1万5千。
クワ・トイネの兵力は動員可能なほぼすべて1万、うち1割は小銃や擲弾で武装した精兵。
日本は約2000の歩兵連隊に加え、戦車1個中隊21両、機動砲兵(自走砲)1個中隊8両と、厳しい台所事情の中から戦力を結集していた。
対して、ロウリア軍の王都近郊での戦力は、守備に残った二線級の兵力が約10万。
確かにクワ・トイネ侵攻でのロウリア軍の動員兵力は50万、うち攻勢に40万を充てる計画であったが、そのような大軍を、彼らのインフラと輸送能力で滞りなく動かすことは不可能であった。
当初の計画では、各諸侯に率いられた戦力を、順次戦場近くに移動し合流させる予定だった。
さて、今まで守勢に回っていたクワ・トイネー日本連合軍が、ロウリア王都への侵攻を決断した理由は単純である。
ロウリア諸侯軍の散発的な侵攻と、野盗と化した敗残兵による略奪に手を焼いていたからである。
いくら撃退可能とは言え、だらだらと国境を脅かされ続けては堪らない。
その打開策が、今回の王都攻撃であった。
部隊移動や兵站の確立といった作戦準備に約2か月。
輸送や補給の大半は、イルメリアのPMC(民間軍事会社)「ブケラリ」が担当。
実質はイルメリア陸兵旅団の装甲歩兵、工兵、航空、支援の各大隊と、警備艦隊の支援部隊が一時的に軍籍を離れ、これに当たっていた。
彼らの法で、他国への軍事力の行使は、自国または同盟国が損害を受けた場合に限られていたからである。
クワ・トイネ軍陣地
「ノウ大将、日本軍の指揮官がお見えです」
政府に命じられたものの、彼は寡兵で敵王都を攻撃する今回の作戦に懐疑的だった。
そして、その作戦が日本の提案だというのも気に入らない。
将軍ノウが立ち上がり、彼らを迎える。
「失礼します」
一礼し、室内に入る人間が3名
「日本保安部陸上隊、第11旅団長、海野大佐、入ります」
現れたのは、クワ・トイネ将校の豪華な軍服と異なり、簡素な枯れ葉色の詰襟を纏った人物であった。
このような地味な装束の人間が日本の派遣軍の指揮官というのが、ノウには信じられなかった。
「よく来られた。本職はロウリア遠征軍騎士団長、ノウだ」
「海野指揮官、王都に籠るロウリア軍は二線級の部隊とはいえ、我々は寡兵。対して、王都ジン・ハークを囲む城壁はロデニウス大陸一と言われる堅固なものである」
ノウは続けた。
「いかに貴国の助力があるとはいえ、簡単には行かぬものと思われるのだが・・」
ノウは日本の戦力を信用していないと、暗に発言した。もちろん、無礼は承知の上である。
「承知しました。我々が先鋒を引き受けましょう」
海野が退室した後、ノウは小声で副官に伝えた。
「いいか、いつでも撤退できるよう準備しておけ。日本の航空戦力は大したものだが、陸上でも同様にいくとは限らん」
いかに机上で作戦を伝えられてはいても、彼は日本の戦力を信用してはいなかった。