太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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ジン・ハークの役(中)

(終わってなければ良いのだがな・・)

 

 淡いモニターの光に照らされた薄暗い室内で、灰色の艦内服の男は呟いた。

 

 改装完了からわずか3か月、急な辞令が下った時は遥か北方、慣熟訓練の真っ最中であった。

 

 補給もそこそこに急行しているものの、既に戦端は開かれてしまっている。

 

 間に合うかどうかは運次第だろう。

 

 

 

「電探に陸影、ロデニウス大陸北岸と思われる」

 

 

 電探手の言葉を受け、彼は命じた。

 

「合戦準備、両舷最大戦速!」

 

 

 

 

■ ロウリア王国王都ジン・ハーク

 

 ハーク城

 

「どうしてこうなったのだ・・」

 

 列強パーパルディア皇国からの支援を受け、ようやく実現したロデニウス大陸を最強の軍隊。

 

 国力の限界まで資源を投じ、数十年先までの借款によってようやく作り上げた軍隊。

 

 兵の錬度も列強の方式を取り入れることで向上させた。

 

 圧倒的な勝利のはずであった。

 

 それが、日本とかいう国によって、正面戦力のほぼ全てを失った。

 

 ロウリア軍が壊滅的被害を受けたのに対して、相手は損害は微々たるものであった。

 

 

 四角い鉄の魔獣が、王都の大通りを走っている。

 

 敵はもうそこまで来ていた。

 

 

 

 タンタン・・タタン・・

 

 破裂するような聞きなれない音が聞こえる。

 

 遠くで上がる悲鳴。

 

 

 

 もう、打つ手はないのか・・

 

 

 

「大王様、この城はもう保ちません、脱出を!」

 

 宰相マオスの声に、ロウリア王ハーク・ロウリア34世は我に返った。

 

 

 

 

 

 

 ドン!

 

 ハーク城の謁見の間の大扉が乱暴に開かれ、兵士がなだれ込んだ。

 

 動きやすい革鎧に身を包んだクワ・トイネ兵と、褐色の服装で統一された兵士。

 

 それぞれが鉄の杖のような物を手にしていた。

 

 彼の脳裏に、古の魔法帝国、魔帝軍のおとぎ話が浮かんだ。

 

 

 茶褐色の兵士が鉄の杖先を向けた。

 

 

「日本保安隊曹長、舟坂だ。抵抗は無意味である。武器を捨てて投降せよ!」

 

 

「抵抗はせん。だが一足遅かったな」

 

 窓の向こうに視線を向けて、宰相マオスは不敵に笑った。

 

 

 マオスに銃先を向けたまま、舟坂は窓の外に視線を向けた。

 

 窓の向こうにはジン・ハークの港。

 

 そして、今まさに港を出て行く大型帆船が見えた。

 

 

 

「通信兵、至急本部に連絡、目標逃亡!」

 

「・・ダメです、無線圏外のようです」

 

 素早く部下に命じた舟坂だったが、民間用の小型無線機では、王城の奥からの通信は困難だったようだ。

 

「予算をケチるからだ・・」

 

 

 今回の遠征では、本部や車両には、民間用とはいえグレードの高い無線機が配備されていたのだが、歩兵分隊には小型のトランシーバーが1基渡されているだけだった。

 

 当時の日本にとって、民間用とはいえど、イルメリア製無線機は高級品であった。

 

 

 日本とクワ・トイネの兵は、夕暮れの港を悠々と出て行く船を、悔しげな表情を浮かべて睨んでいた。

 

 

 

 

■ロウリア王国帆船「レモーラ」

 

 パーパルディア皇国で建造された帆船「レモーラ」は、船尾に「風神の涙」と呼ばれる装置を備えていた。

 

 通常の帆走に加え、この装置で後方に風を吹き出すことで、高速が出せるのがパーパルディアの軍用帆船である。

 

 まあ、高速とはいっても15ノット未満なのであるが・・

 

 

 ジン・ハーク港外に出た帆船レモーラは、大陸西方に向けて徐々にその速度を上げていった。

 

 

 

(王都が落ちても、まだ王国西方は健在。そこで再起を図れば・・)

 

 船尾楼に備えられたキャビン、豪華なソファーに沈み込んだハーク・ロウリア王は考え耽っていた。

 

(だが、再起を図った所で勝てるものか・・ 加えてパーパルディアへの膨大な借款が・・)

 

 考えるものの、先ほどからその思考は堂々巡りを繰り返していた。

 

 想定よりも強化されていたクワ・トイネ軍と、得体のしれない日本を相手にする案が浮かばないのだ。

 

 彼が思考を放棄しようとしたその矢先、

 

 

 

 ドォン!

 

 大きな音とともに、帆船レモーラが大きく揺れた。

 

 途端に甲板が騒がしくなる。

 

 ドォン!

 

 再び揺れるレモーラ。

 

 

「何事か?」

 

 傍に控える従兵に問いただすも要領を得ない。

 

 

 従兵の制止を払い除け、甲板に出たロウリア王は、そこで信じられないものを見た。

 

 

 数秒ごとに激しい音を立てて上がる高い水柱。

 

 その度に甲板に降り注ぐ海水と、大きく揺れるレモーラ。

 

 

 

「これは何事か!?」

 

 ロウリア王は船材に掴まりながらも、甲板にいた士官に尋ねた。

 

 

「判りません、ただ・・」

 

 士官は水平線の先を指さし、こう告げた。

 

「遥か先の何者かの仕業かと思われます」

 

 

 彼が指した先には、薄暮の水平線に、時折明滅する炎が見えた。

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