太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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ジン・ハークの役(後)

 男は、全天候型ドライドックで最終艤装を施される船を前に、言葉を失っていた。

 

 装甲は錆びひとつなく。

 天を睨む片舷4門の速射砲。

 後甲板の格納庫。

 そして高々と聳えるトラスマスト。

 

 

(まさか、これ程までとは・・ )

 

 彼が絶句したのも無理はなかった。

 

 

 

■ロウリア王都ジン・ハーク沖

 

 ロウリア王の乗る魔導帆船レモーラは、「風神の涙」と呼ばれる推進装置を全開にして、正体不明の敵から逃れようとしていた。

 

 だが、彼らの必死の操船も虚しく、敵との距離は目に見えて近づいていた。

 

 

「船長、もっと速度を上げられぬのか!?」

 船長に問うロウリア王。

 

 

「陛下、無理です!これ以上は風神の涙が砕け散ってしまいます!」

 船長も必死の形相である。

 

 その間にも船の周囲には、マストの高さを越えるほどの水柱が立ち上り、彼らの乗る船は大きく揺さぶられる。

 

 

 やがて、正体不明の敵船は、その姿がはっきり見える距離まで接近してきた。

 

 

 黒い船体に、白く塗られた構造物、高々とした2本のマスト。

 甲板上で火を噴き続ける、2本の太い筒。

 その大きさは、ロウリア王がかつて見た、列強パーパルディア皇国最大の100門艦を遥かに超えていた。

 

(これほどの軍船、パーパルディアでも造れぬ・・まさか裏に5大列強国でも付いているというのか?)

 

 

「船長、潮時だ! 帆をたため!」

 

 意を決し、ロウリア王は船長に命じた。

 

 

「しかし、それでは・・」

 

 ためらう船長に、王ははっきり言い切った。

 

「最初から奴らに沈める気はない。その気があるなら、とうの昔に沈んでおるわ」

 

 

 ロデニウス大陸統一の野望に駆られているとはいえ、ロウリア王は愚鈍ではなかった。

 

 彼の治める国は人口こそ多いが、貧しい。

 土地の大半は痩せ、鉱物資源にも乏しい。

 豊かなクワ・トイネの大地を欲したのは、そのためであった。

 

 また、地方には諸侯領が乱立し、境界を巡っての小競り合いが絶えない。

 だからこそ、大陸統一の旗印によって、諸侯の意思を統一する必要があった。

 「亜人」という、共通の敵を作る必要があった。

 

 そのための戦だったのだが、予想外に相手が強すぎた。

 常識がひっくり返るくらいに。

 

 彼我の力の差くらい、はっきりと判っていたのだ。

 

 

 

 

■日本保安隊陸上部 戦車第11中隊

 

「沖で砲炎が上がっているが・・ 見えんな・・」

 

 池田末郎少佐は愛用の双眼鏡を手に、宵闇が迫る沖合を見つめていた。

 しかしながら、陸上からは数秒ごとの砲炎と水柱が辛うじて見えたものの、その詳細を把握するのは難しかった。

 

 彼の指揮する戦車第11中隊は、混線した中から王城からの無線を受信し、港に急行したが、ロウリア王の船は既に出航した後だった。

 

 

「だが、この音、重砲? いや、海式ならば巡洋艦か? 」

 

 沖合から断続的に聞こえる重い砲声は、明らかに彼らが帯同していた機動砲兵(自走砲)の砲を凌駕していた。

 

 

 

■海防艦「八雲」

 

「いいか、よく狙え、絶対に当てるなよ、至近弾も出すな! 相手は木造船ということを忘れるな!」

 

 改装成った海防艦「八雲」のCICで、艦長寺崗正雄大佐は再度に厳命した。

 

 敵船を沈めず、近弾を以て脅し続けるのは、ある意味では沈めるよりも難しい。

 それが脆い木造船なら尚のことであった。

 

 

 イルメリアでの半年に亘る改装で、「八雲」は生まれ変わっていた。

 

 外装の全てと各種設備が更新され、新型のレーダーとCICを増設。

 信頼性の高いディーゼル機関は28ノットを発揮し、主砲はかつての「コンタキオン」が使用していた20cm砲。

 戦闘能力は旧海軍の重巡以上。

 

 反面、外観はかつての姿を色濃く留めた、白と黒の優雅なヴィクトリアンモード。

 

 控えめに言っても、ほぼ新造艦であった。

 

 

 

 

「艦長、見張りより報告。目標、縮帆!」

 

 

「よーし、やっとか・・ 撃ち方止め!」

 

 寺崗は命じた。

 

 戦闘中の帆船が帆を畳むのは、降伏の印であった。

 帆船時代の古い流儀を、彼は熟知していた。

 

 寺崗大佐は大正7年の少尉任官以後、「第30潜水隊」司令、「長鯨」、「鈴谷」、「八雲」艦長を務めた熟練の海軍軍人であった。

 

 その彼でさえ、イルメリアで改装された「八雲」を、完全に理解しきれてはいなかった。

 

 特にその見た目が。

 

 

 

■クワ・トイネ公国

 中央歴1639年9月1日

 公都クワ・トイネ

 

 この日、公都クワ・トイネにある政治部会の会場「蓮の庭園」で、ロウリア王国の降伏式が行われた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 日本からは保安隊を統括する佐々森順三総裁、クワ・トイネ公国からは首相カナタが出席。

 クイラ王国は外交担当の貴族メツサルが、ロウリア側からは国王ハーク・ロウリア34世とマオス宰相が臨席した。

 

 降伏文書で取り決められたのは、以下の条項であった。

 

・ロウリア国王ハーク・ロウリア34世の退位

・ロウリア王国の解体と、東ロウリア、西ロウリア、北ロウリア、南ロウリアの各自治領の設立

・封建制から共和制への移行

・ロウリア王国内の亜人奴隷の解放と亜人差別の撤廃

・開戦前の1割を上限とした軍備制限

・クワ・トイネ、クイラ及び日本の域内往来の自由

・クワ・トイネ、クイラ及び日本の監察部隊の駐屯

・クワ・トイネ、クイラ及び日本への戦役での損害賠償と戦費の賠償

・イルメリアのPMC(民間軍事会社)「ブケラリ」への経費支払い

 

 

 ずいぶん甘い条項に感じられるかもしれないが、クワ・トイネ公国とクイラ王国は、亜人差別の強い旧ロウリア王国の領有には否定的であった。

 日本としても、土地は痩せ、鉱物資源も限られたこの地域への進出は、利点よりも欠点ばかりに目が向いてしまう。

 

 ロウリア王国はロデニウス大陸の中では面積と人口こそ秀でてはいたが、逆に言えばそれだけだったのだ。

 

 

 要約すると、「統治は任せるから迷惑かけるなよ」ということである。

 

 

 

 

■東ロウリア自治領 

 監察部隊ジン・ハーク駐屯地

 

 

(勝ってしまったな・・)

 

 クワ・トイネの総大将ノウ将軍は、瓦礫と化した城壁を見ながら思った。

 

 クワ・トイネー日本連合軍は、大きな損害を出さずに勝利した。

 

 

(勝ち目のない戦、死にに行くようなものと覚悟していたのだが・・)

 

 

 

 と、同時にこうも思う。

 

 日本の機械兵器は、その火力だけでなく、金属をすり合わせるような音を響かせ、戦う前から敵兵に恐怖を与えていた。

 対してイルメリアの機械兵器はとても静かだった。

 

 鎧でもそうだが、優秀な技術で造られた物は、可動部の軋みが少ない。

 機械兵器の事よくわからないが、根本は同じようなものだろう。

 恐らく日本のそれと比べ、イルメリアの機械の方が優れている。

 あのようなものが、我が国にもあれば・・

 

 この戦でノウは、機械兵器を使った戦術に魅入られてしまった。

 

 

 そして、この日を境に、彼はクワ・トイネ軍の近代化を推し進める、改革派に転向した。

 

 

 

 世界が変わった日。

 

 後に彼は、そう述懐した。




ロウリア編、やっと完結しました。
相変わらずの遅筆ですが、お付き合い有難うございます。
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