太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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第三章 Κεφάλαιο 3
レイフォルの落日


■グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 中央歴1639年9月1日

 情報局技術部

 

 並べられた通信機器に、電子音が連続して鳴り響いていた。

 モールス信号のようなそれは、内容を秘匿された暗号通信であった。

 

「バミダル技術部長、ロデニウス大陸の情報について、現地から報告が届きました」

 

 実用一点張りの武骨な濃緑の制服を着た男が報告を始めた。

 

 

「概要は?」

 

「はっ!ロウリア王国のクワ・トイネ公国並びにクイラ王国への侵攻は、クワ・トイネと日本の反攻により失敗に終わり、王家は失脚、共和制に移行したとの事です」

 

「何!?」

 

 普段は仕事は部下に任せ、報告を聞くだけの、技術部長と呼ばれた男の片眉がつり上がった。

 

「我々の分析では、ロウリア王国の圧勝で、ロデニウス全域がロウリア領になるはずだったが・・ 日本という国は聞いたことが無い・・ 詳細は?」

 

「日本の参戦により戦局は一変しました。ロウリア王国の4400隻の軍用帆船は、日本の駆逐艦に一方的に撃破されたそうです。地上戦でも同様に日本に敗れています。他にもイルメリアという小国が絡んでいるとの情報もありますが、詳細不明です」

 

 報告は続く。

 

「なお、日本の軍備ですが、ロウリア王都ジン・ハークでの目撃情報を分析するに、1万トン級の巡洋艦、1500トン級の駆逐艦、および小型空母の目撃情報があります。巡洋艦は旧式の装甲巡洋艦で、駆逐艦には高角砲が1門しかないようです。また、小型空母の艦載機は双発の回転翼機とのことです」

 

 双発の回転翼機とされたものは、イルメリアのティルトローター機V-33なのだが、それは彼らの与り知らないところであった。

 

「固定翼機は確認されていないのか?」

 

「固定翼機は、陸上基地から飛び立つレシプロ戦闘機が目撃されたそうです」

 

「しかし高角砲1門とは、随分と歪な発展をした軍だな。今まではそれで十分だったのだろう。レシプロ戦闘機はともかく、回転翼機は未だ開発中だから、部分的には帝国の技術を超えているのか。しかし、兵装から考えると、随分と平和な世界に住んでいた国のようだな」

 

 

 バミダルは少し考えた。

 

「だが、この世界の国と比べれば技術が隔絶している。日本も我が国のように転移国家だろうが・・ だが豆鉄砲1門の駆逐艦とレシプロ機では恐れるに足りんな。戦えば多少損害が出るかもしれんが、国家戦略に影響は無いだろう」

 

 彼はその話題に興味を無くした。

 

 

「そういえば、レイフォルはどうなっている?」

 

「国家監査軍が、すでにレイフォル艦隊を捕捉しています。間もなく戦闘に入る予定です」

 

「ふむ、我々の力を思い知らせてやるには丁度良いだろうな」

 

 

 

■ムー大陸西方海上

 第2文明圏列強国レイフォル

 

 レイフォル王の命を受けた43隻の艦隊は、西へ進んでいた。

 

 第2文明圏の西に、グラ・バルカス帝国を名乗る国家が突如として現れた。

 その国は周辺国を制圧しただけでなく、第2文明圏全てに宣戦を布告した野蛮な国であった。

 

 そしてあろうことか、レイフォルの西にあるパガンダ王国を制圧した。

 パガンダは小さな島国とはいえ、レイフォルの被保護国であった。

 これまではグラ・バルカスを蛮族の国として放置していたレイフォルであったが、この暴挙は到底看過できるものではなかった。

 

 レイフォル王は飛竜母艦や100門級戦列艦を含む主力艦隊を差し向け、パガンダ王国沖合いに展開する敵艦隊の殲滅を命じた。

 

 艦隊は帆に風を受け、風神の涙と呼ばれる魔法具を併用して、12ノットの全速で南進していた。

 

 

 魔信手は海風に負けないよう大声を出した。

 

「提督! 偵察中の竜騎士から報告、敵艦発見!」

 

 竜母から飛び立った、偵察中のワイバーンロードから報告があったのだ。

 

「敵は1隻のみ、ですが全長が300メートル近い巨艦で、信じられないくらいの巨砲を搭載、との事です!」

 

 レイフォル艦隊提督、バルは眉間に皺を寄せた。

 

「艦隊護衛の3騎を残し、残りの竜騎士で敵艦を攻撃、本艦隊も敵艦に向け変針」

 

「はっ!」

 

 

 レイフォル艦隊は敵艦に針路を向けた。

 乱れのない艦隊運動から、錬度の高さが伺えた。

 

 竜母ー飛竜母艦と呼ばれる母船からは、飛竜部隊が飛び立った。

 ワイバーンを駆る竜騎士たちは、編隊を組んで西へと向かう。

 

 

 

■戦艦グレート・アトラクター

 

 グラ・バルカス帝国監査軍所属の戦艦グレート・アトラクターは単艦で東に向かっていた。

 

 3連装40センチ砲を3基、計9門の巨砲が誇らしげに水平線を向く。

 中央部にそびえる城のような艦橋を護るように、連装速射砲と機関砲群が天を睨む。

 

 主砲は45キロの射程を誇り、レーダー連動射撃により、命中精度、威力とも、この世界のどの砲よりも高い。

 この世界においても、グレート・アトラクターは最大最強の戦艦であった。

 

 

 戦艦グレート・アトラクターの艦長、ラクスタルは前方に広がる海を眺めていた。

 

「レーダーに反応、艦長、レイフォル艦隊から多数の飛行物体が接近」

 

 通信士から報告が入った。

 

 飛行物体はレイフォルの竜騎兵であった。

 

 

 パガンダ王国との戦闘で、グラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機とパガンダ近衛竜騎士団のワイバーン隊が交戦した際は、アンタレス型艦上戦闘機の圧勝であった。

 

 アンタレス型艦上戦闘機は、高い速度と優れた航続距離を誇る新鋭機である。

 武装も固定武装の機関砲と、任務に合わせた兵装によって汎用性も高い。

 

 パガンダ王国のワイバーンは火の弾を吐いてきたが、単発で弾速が遅く、あんなものに当たる者はいない。

 速度も230キロと遅く、アンタレス戦闘機のパイロットから見れば演習用の的であった。

 

 

「目標的針的速、310度、350キロ」

 

 レーダー員の報告では、レイフォルのワイバーンはパガンダ王国のそれよりも多少は速い。

 

 

「あと3分で戦闘機隊と接敵」

 

 レーダー上に多数の光点が見え始めていた。

 

 

 

■レイフォル軍竜母機動部隊 ワイバーン攻撃隊40騎

 

 彼らは敵の巨艦に攻撃を加えるべく、40騎が2段の横隊となって飛行していた。

 

 

「・・!?」

 

 空に多数の黒い点が見えた。

 

 

 そして、轟音と爆発。

 

 一瞬のうちに、編隊の半数が何かの直撃を受けて爆散した。

 

「敵襲!全騎、散開!」

 

 慌てて隊長が命じたが、

 

「何だ? 量が・・多すぎる!」

 

 先程の黒い点がさらに多数。

 

 残ったワイバーンも、何かに当たって次々と爆散していった。

 

 

 数分の後には、その空域を飛ぶ者はなかった。

 

 

 

■レイフォル艦隊

 

 旗艦、戦列艦ホーリーの魔信手は、それまで混乱を伝えていた通信が沈黙したことに気付いた。

 

「つ、通信途絶、おそらくワイバーン攻撃隊は全滅!」

 

 

「何だと!?」

 

 魔信手の報告を受け、提督バルは憤った。

 

 友軍の精鋭竜騎兵、それも貴重なワイバーンロードが蛮族ごときに全滅させられたのだ。

 

 彼にとってそれは、列強第五位の文明国、レイフォルのプライドを踏みにじる行為だった。

 

 

「文明圏外の蛮族風情が! 海の藻屑にしてくれるわ!」

 

 

 

■グレート・アトラクター艦橋

 

「レイフォル艦隊、間もなく射程距離圏内」

 

 レーダー員が報告した。

 

「うむ・・ 資料には敵の射程は2キロ程度とあったが、間違いないか?」

 

 ラクスタル艦長は傍らの参謀に尋ねた。

 

 

「はい、間違いありません。ただ、列強を名乗るだけあって、球形砲弾ではなく榴弾です。火薬と違う原理で炸裂するらしいのですが、詳細は良く解っていません。威力は黒色火薬レベルです」

 

 

(・・我々よりも100年以上は遅れているな。我々を蛮族と見下しているようだが・・)

 

「第3戦速で10キロまで接近し砲撃。対艦戦闘用意、必中させろ」

 

 グレート・アトラクターは21万馬力の機関を唸らせ、まだ見ぬ敵艦隊に向けてゆっくりと増速し始めた。

 

 

 

■レイフォル艦隊

 

 バル提督麾下のレイフォル艦隊43隻は、最大速力で戦艦グレート・アトラクターに向かっていた。

 

 艦隊はワイバーンロードの最後の通信からした予測位置に向けて進む。

 

 

「間もなく敵視認」

 

 バル提督は、目を見開いて水平線を睨んでいた。

 

 

「見えた・・ あれか!?」

 

 地球の2.5倍の大きさのこの星では、水平線までは17キロ。

 その水平線上の敵艦は、遠近感が狂うほどの大きさであった。

 報告よりもずいぶんと近くに見える。

 

 

 だが、300年の無敗を誇るレイフォル艦隊43隻が相手では、いかに大きかろうが、単艦ではどうにもならないだろう。

 

 

 レイフォル艦隊は砲艦を前面に押し出した2列の横陣で進む。

 

「我が国の精鋭が扱う、炸裂式魔法が付与された砲弾をしっかりと味わってもらおう」

 

 巨艦は距離約10キロで転舵して舷側を向け、3基の巨大な砲塔と艦橋横の複数の砲塔が旋廻した。

 数多の砲口がレイフォル艦隊を指向する。

 

 そして、巨艦は突然爆発したように激しい煙に包まれた。

 

 

「敵艦発砲!!」

 

「落ち着け、まだ届かん。子供だましだ」

 

 バル提督がそう言った矢先、レイフォル艦のうち5隻が突然爆散した。

 轟音とともに、マストの高さを遥かに超える水柱が上がる。

 

 

「な・・なんという威力か!」

 

 巨艦の砲から再度砲煙が上がった。

 

 

「戦列艦ガオフォース被弾!」

 

 80門級戦列艦ガオフォースに速射砲弾2発が着弾。

 着弾した速射砲弾は、戦列艦ガオフォースの対魔弾鉄鋼式装甲を易々と突き破り、弾薬庫に達した。

 

 

 激しい黒煙ともに吹き飛ぶ戦列艦。

 

「戦列艦ガオフォース轟沈!」

 

「何? たった1発で・・ 大砲の射程まで接近する。全艦は前進全速!」

 

 

 再び巨艦の主砲が火を噴くと、今度は3隻が爆散した。

 

「戦列艦トラント轟沈!・・戦列艦レイフォル轟沈・・」

 

 

 ー!!

 

 レイフォル陣営に衝撃が走った。

 

 戦列艦レイフォル。

 国名を頂いたこの艦は、レイフォルの象徴だった。

 

 最新式の対魔弾鉄鋼式装甲を持ち、国内では世界最強と謳われていた100門級戦列艦。

 それが、蛮族の巨大戦艦の1撃で轟沈したのだ。

 

 しかし、現実は絶望する時間さえも与えてはくれなかった。

 

 バル提督の座乗する100門級戦列艦ホーリーも、グレート・アトラクターの砲撃を受け爆散した。

 

 

 この一方的な戦闘は、後にムー大陸西方海域海戦と呼ばれることとなる。

 

 

 

 翌日、レイフォルの王都レイフォリアは、グレート・アトラクターの艦砲射撃によって壊滅した。

 

 レイフォル王は死亡し軍は降伏。

 グラ・バルカス帝国は、レイフォルを自国領に編入し植民地とした。

 

 

 グレート・アトラクターは、単艦で一国を滅ぼした最強の戦艦として、恐怖の代名詞となった。

 

 

 

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