太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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前話から少し前の出来事です。


海賊

 クワ・トイネ公国や日本を含むロデニウス大陸周辺では、以前から海賊の跳梁が問題となっていた。

 

 その被害は、ロウリア王国との戦役の頃から急増していた。

 中でも問題だったのが、マスケット銃や前装魔導砲による海賊船の重武装化であった。

 

 水軍戦力に乏しいクワ・トイネ公国やクイラ王国では、討伐部隊が返り討ちに遭うことが増えていた。

 

 一方、近代的な警備艇が配備されていた日本やトーパ王国周辺では、被害こそ少なかったものの、航路の維持が負担となっていた。

 

 

■パーパルディア皇国

 中央暦1639年9月20日

 皇都エストシラント

 

 皇都の官庁街にある第3外務局から出てきたのは、初老のスーツ姿の男と、グレーの軍服を着た一団でだった。

 カール・ハンマルフェルド外務官を中心とした、イルメリアの外交団である。

 

 彼らは関係部署をたらい回しにされ、ようやく行きついた第3外務局でも冷遇され、帰途に就くところであった。

 イルメリアは名を知られていない上に、文明圏外に位置するため、辺境の蛮族として扱われたのだ。

 

 

「外務官、相手のあの態度は如何なものでしょう?」

 一団の中の若い武官が、ハンマルフェルド外務官に尋ねた。

 

「いえ、これはこれで良いのですよ」

 それに対して、外務官は涼しい顔で答えた。

 

「とは言いましても、あそこまで見下されていては、交渉以前の問題だと思うのですが」

 

「姫様から受けた命は、パーパルディアの公的機関に文書を渡すこと。外交交渉を命じられてはいません」

 

「?」

 武官は怪訝な表情を浮かべた。

 

 外務官はフッと笑って言った。

「今回は我が国の意思を伝えられれば良いのです」

 

「パーパルディアは文書を受け取りました。この場合、外交上、こちらの意思は伝わったと判断できます」

 

 

 外交団がパーパルディアに渡した文書は、ロデニウス大陸沿岸を荒らす海賊討伐への協力依頼だった。

 

 第3外務局の担当官は、文明圏外の国が列強国に対して、対等の立場で依頼してきたことに立腹し、文書だけ受け取って彼らを追い出したのだった。

 

 この文書が、パーパルディア皇国にとって後々問題になる事は、この時点では誰も気付いていなかった。

 

 文書には協力要請の他に、海賊への対応を共有したいという旨も記されていた。

 海賊を非合法集団と見なし、発見次第の撃沈、根拠地も同様に根絶、必要に応じて占拠する、などである。

 

 

 

 エスシラントの港―

 

 交易に用いられる2本マストのケッチやブリッグ、大きなものでは100門の大砲を備えた戦列艦など、数多の船が帆を畳み憩う、パーパルディア皇国最大の港である。

 

 そんな色とりどりの船の中に、帆を持たない船があった。

 

 大型戦列艦を上回る船体を持つ、白い優美な軍艦。

 イルメリア領海軍のアルマ級海防艦、パラメリオンである。

 

 外交団を運んできたこの船は、6000トン弱の船体に、各種兵装と強力な電子装備を備えた、見た目に反して強力な戦闘艦である。

 

 パラメリオンは帰還した外交団を乗せ、岸壁を離れた。

 

 

 だが、ラッパの音もなく、周囲を威圧するかのように、連続した汽笛を響かせながらの出航。

 下された号令も「出港用意」ではなく、「出撃」であった。

 

 平時には艦尾ないし斜桁に掲揚する艦旗は、トップマストに掲揚されていた。

 トップマストに艦旗を掲揚する意味は、戦闘状態にあることを示す戦闘旗であった。

 

 

 

■イルメリア公国 領都マリポリ

 領主館

 

「ハンマルフェルド外務官から連絡がありました」

 執務室で報告書を睨むユリアに、領軍司令を務めるマグヌス総督が伝えた。

 

「何と言っておりましたか?」

 ユリアは顔を上げ、彼に尋ねた。

 

「任務完了、と」

 

「判りました。ご苦労、とお伝えなさい」

 

 

 ロデニウス大陸周辺の海賊に対して、当初イルメリアは積極的な討伐を考えておらず、静観する予定だった。

 自国やトーパ王国の位置する北方海域沿岸を襲う海賊は少なく、出没した場合も、哨戒艇や航空隊によって速やかに無力化されていたため、実質の被害がなかったからである。

 

 だが、ある日、日本―イルメリア航路の中間付近で、日本の貨物船が襲われた。

 少なくない乗組員が命を落とした他、積み荷の大半が奪われたのだ。

 両国の顔に泥を塗るかの如き蛮行であった。

 

 それに加え、奪われた積み荷の中にユリアが発注した品が含まれていたことが、彼女個人の怒りを買った。

 

 品は、東京の老舗に発注した水菓子だった。

 

 鮮度を保持したままイルメリアまで運ぶため、彼女が私財を投じて保存技術と冷凍設備一式を提供し、苦心の末に輸送できるようになった矢先のことであった。

 

 

「明朝8時を以て作戦を発動なさい」

 

 

 ロデニウス大陸の周辺で、魔導砲を実用化しているのはパーパルディアだけなのである。

 海賊が火器で武装しているということは、つまり、そういうことである。

 

 彼らは、虎の尾を踏んでしまったのかも知れない。

 

 イルメリアは、その文化の高さで忘れられがちではあるが、本質は共産圏と最前線で向き合っていた戦闘国家であった。

 

 

 とりあえず水菓子云々は置いておいて。




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