太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

29 / 77
疑念

■パーパルディア皇国

 皇都エストシラント

 

 

「ふぅ・・」

 

 第3外務局の局長室に、このところフェン王国関連の事柄に忙殺されていた部屋の主が、ようやく帰還した。

 口髭を貯えた壮年の男性、第3外務局長のカイオスである。

 

(どれ、不在中の出来事を確認するか・・)

 カイオスは机に積まれた書類に一つ一つ目を通し、その重要性を判断して区分けしていった。

 

(・・ん?)

 手早く書類をより分けていた彼は、一枚の報告書を見て手を止めた。

 それは、彼の不在中に訪れたイルメリア外交団に関したものであった。

 

(イルメリア? 確かそんな名前がロウリアからの情報にあったような・・)

 

 報告書には最低限の情報しか記載されていなかったため、彼は部下を呼んで、直接報告を聞くことにした。

 

「呼び出してすまない。この報告についてなのだが、応対した君の口から、その時の状況を直接聞きたい」

 

「はい、局長の不在中、イルメリアとかいう小国の連中が、事もあろうに、我が皇国に海賊を取り締まれだのと、対等の要求をしてきたため追い返しました」

 

「そうか、他には?」

 

「連中が置いていった文書と、それと贈呈品だそうで、この箱を受け取りました」

 

「贈呈品? まあ、まずは文書を見せてくれ給え」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 差し出された文書を読んだカイオスは、ふと違和感を感じた。

 内容は、確かにパーパルディア皇国への協力要請なのだが、何かが引っかかるのだ。

 

 海賊への対応を共有したいというのは判るが、海賊船の撃沈や拠点の占拠など、あえて書くまでもなく、勝手にやれば良いのである。

 

(・・これは、要請の体を成した一方的な宣言か?)

 

 

「贈呈品の方はどのようなものだ?」

 

 カイオスは贈呈品だという箱を受け取り、丁寧に蓋を開けた。

 

(なる程、贈呈品というだけあって、見事な装丁だ。中は・・)

 

 中には、見事な彫金が施された、大ぶりの黄金のフォークが一本。

 それと、上質の紙が用いられたメッセージカード。

 

(これ程の宝飾は、我が国でも不可能だな。だが、意味が分からん・・ カードの方は・・) 

 

『これはフォークという、食物を口に運ぶ道具である。

 我々ローマの民は、未だ食物を手掴みで食す、未開の民にこれを授ける』

 

 

「こ、これは!」

 

 大陸共通語で書かれた文面を見て、カイオスは絶句した。

 

「明らかな挑発ではないか! 文明圏外の小国が、大国パーパルディアにこのような品を!」

 

 顔を真っ赤にして憤るカイオス。

 

 しかし、冷静になってみると疑問を感じる。

 文明圏外の小国がパーパルディアを挑発するなど、怒りを通り越して呆れかえる程である。

 挑発的な内容もさることながら、それをわざわざ高価な金細工に添えて渡すなど、明らかにパーパルディアを揶揄っている。

 

 何の目的で?

 

 部下に問う。

「この献上品の事は、外部に知られているのか?」

 

「いえ、局長殿に判断を頂こうと、お帰りになるまで保管しておりました」

 上司の怒りを目の当たりにした局員が、青い顔で答えた。

 

 カイオスは少し考えてから、局員に命じた。

「このような物を贈りつけられたことは腹立たしいが、奴らの意図がわからん。できる限りイルメリアに関する情報を集めてくれ」

 

「はっ」

 

「・・それと、気軽に公文書や贈呈品を受け取るな! 相手の言い分を認めた事になり兼ねん」

 

「はっ、申し訳ありません」

 局員はひと通り平身低頭したあと、慌てて出て行った。

 

 

(全く、少しは考えて行動してほしいものだ。まあ、文明圏外国を脅すだけなら配慮はいらんのだが・・)

 

 

 翌日―

 カイオスは、海軍からだと言う資料を受け取った。

 資料には、イルメリアの船に関しての報告と、船を撮影した魔写(魔道具を使用した魔導写真)が添えられている。

 

 資料には、船の全長約150m、武装は旋回式の小口径砲が1門とあった。 

 

(全長150mの、おそらく機械船? 皇国の戦列艦よりも大きいだと? それに1門だけとはいえ、旋回砲とは・・)

 

 パーパルディアの戦列艦も魔導砲と呼ばれる大砲を備えていたが、それは多数を船べりに固定して使用する、地球で言う帆船時代の物であった。

 

(文明圏外国が、このような船を建造したとは思えん。奴ら、まさかムーから購入したのか?)

 

 ムーは5列強国のひとつで、この世界では珍しく機械文明が発達した国である。

 永世中立を謳うムーが、他国に軍船を提供するとは考えにくい。

 とはいえ、権謀術数が支配する外交の世界では、疑ってかかるのが常識である。

 

 

(・・イルメリアの意図が判らん以上、門前払いしたのは早計だったのかも知れん)

 

 嫌な予感がする。

 長らく外交の世界に身を置いてきた勘が、そう告げていた。

 

 だが、現時点でできることは少ない。

 彼は、引き続きイルメリアに関する情報を集めるよう、部下に命じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。