■フェン王国
中央暦1639年9月25日
王都アマノキ
フェンの軍祭―
フェン王国の王都アマノキで、5年に1度行われるこの行事は、文明圏外の各国が武技を競い、互いの軍事力を見せることで他国を牽制する目的で行われていた。
文明圏内の国にも参加を呼び掛けていたのだが、毎回、色良い返事はなかった。
興味が無いばかりか、蛮族の催しに参加するのは恥であるという考えもあったようである。
各国の軍船が王都アマノキの港に集う中に、ひときわ目立つ船があった。
周りの倍以上の大きさの船が2隻、それよりも小さな船が2隻。
大型船の片方は白一色で統一され、他の船は上部が白く、船体は黒に塗られていた。
いずれも帆を持たない鉄の船である。
今回初参加となる、日本とイルメリアの艦艇であった。
日本から派遣されたのは、巡洋艦八雲、海防艦竹、桐。
竹と桐は、どこからか調達してきた2基の九六式25ミリ連装機銃と、九三式13ミリ機銃を数丁増設しており、見た目だけはどうにか様になっていた。
イルメリアからの参加は、海防艦スパティオン。
パーパルディアに来航したパラメリオンの姉妹艦である。
「尉国の船はスパティオン? またナントカオンか・・ いい加減覚えられんな・・」
八雲の艦橋で愚痴をこぼすのは寺崗正雄艦長。
「確かにそうだ。言葉というのは意味を知らなければ、区別をつけにくいものだな」
苦笑して同意したのは、見事なカイゼル髭を生やした士村昌福海将。
士村は本来海上部の副総監なのだが、今回の軍祭参加部隊の指揮官を任されていた。
フェン王国が武人の国であるとの情報から、高位の武官を派遣した方が良いとの判断が理由の一つ。
もう一つは、彼が江東区の保安隊庁舎で無聊を託っていたためである。
「では艦長、何かあったら呼んでくれ。俺はこのあたりの海域を調査してくる」
士村はそういうと、愛用の釣竿を手に立ち上がった。
「ああ、そうだ。親善訪問とはいえ、見張りは通常通りにな」
そういうと、士官服のまま甲板に出て行った。
イルメリアの主力艦、具体的には大型海防艦、空母、揚陸艦の艦名は、いずれも語尾が共通していた。
『両刃剣』を意味するスパティオンも、やはりナントカオンである。
これらの紛らわしい艦名は、敵対勢力に対しての欺瞞を目的としていた。
実際、哨戒部隊からの報告でナントカオンばかりが上げられ、敵軍の参謀本部がキレたという逸話を残している。
もっとも、友軍にも同様に不評だったが。
同刻、アマノキ上空―
風竜騎士団長スサノウは、部下を率いてアマノキの上空を飛行していた。
今日の軍祭のため、彼らは隣国ガハラ神国から親善のため派遣されていた。
スサノウは、上空から港を見降ろした。
大小さまざまな船に混じって、常軌を逸した大きさの船が2隻と、それよりも小さいが、整備の行き届いた船2隻が見える。
大型の2隻は後部が平坦に作られており、着艦できそうな構造である。
事前に、東にある日本と、北のイルメリアという新興の国のものだと聞かされている。
風竜が呟いた。
「目が眩みそうだ」
風竜は高い知能を持ち、鳥類程度の飛竜とは異なり人語を解する。
「確かに、今日は日差しが強い」
スサノウが返す。
空は眩いばかりの快晴である。
「いや、違う。あの巨大な2隻の船が、周囲に向けて強い光を放っているのだ」
「船から光? 何も見えないが」
スサノウは目を凝らしてみるが、何も見えない。
「人間には見えない光だ。我ら竜同士が会話する際に使う。光で周囲の様子が確認できる。その光に似ているのだ」
「周囲の様子が判るのか?どの程度まで?」
「竜にもよるが、儂は100キロ程度先まで判る。特にあの白い船は、我ら竜よりも遥かに強い光を出している」
相棒の話を聞いたスサノウは、はっと思い当たった。
「まさか、あの船は遠くの船と光で交信したり、遥か先にある物が見えるのか?」
「あそこにいる船すべてがそのようだな」
「凄い国だ・・ あんな船が造れるとは・・」
上空でこのような会話が行われていた頃、スパティオンのCICでは、風竜が出す電波の解析が行われたいた。
CICを統括する戦務長は、まだ信じられないと言った表情を浮かべていた。
「信じられん・・」
生物がレーダー波を出すなど、地球の常識では考えられない。
「しかし、間違いありません。波長としてはメートル波、精度と探知距離は大戦後期の連合軍の哨戒機と同程度と思われます」
電子戦システムの操作担当が断言した。
上空の風竜と呼ばれる竜から、レーダー波に似た電波が照射されている。
つまり、この世界には、このような生物を大量に保有した国が存在している可能性がある。
この報を機に、日本、イルメリアの両国で、国防体制の見直しが迅速に行われていった。