■フェン王国 アマノキの港
巡洋艦八雲
(この海域、ソーナー感なし・・)
巡洋艦八雲の船べりから釣り糸を垂れていた士村が呟いた。
釣りを始めてこの方、ウキはピクリとも動かない。
海軍士官としてのキャリアと釣りの腕前は、必ずしも比例するとは言えなかった。
(・・ん?)
士村は空を見上げた。
妙に静かなのだ。
アマノキの港に入港して以来、ギャアギャア騒いでいた海猫の声がしないのだ。
空には、鳥の影一つ見えなかった。
それに何か、空気がピリピリするような感覚があった。
(こりゃあ、来るぞ・・)
士村は釣り道具を適当にまとめると、急ぎ足で艦橋に向かった。
「ん?」
八雲の電探員が、王都に接近する飛行物体に気付いた。
西から20の光点が近づいてくる。
「艦橋、CIC、対空電探に新たな目標、270度50海里(90キロ)、飛行物体20」
艦橋に報告が上がる。
「目標の的針的速知らせ」
ややあって、CICから返答があった。
「的針的速90度、100ノット(時速180キロ)、30分後に真艦首を交差」
と同時に、通信員からも報告が入った。
「イルメリア艦より通信、”西方より未確認目標接近、情報連結されたし”、です!」
「情報連結? 確かレギオンとかいうのがあったな。よし、起動してくれ」
レギオンは北方ローマで開発された、米軍で言うところのC4Iに相当する戦術データリンクである。
大改装を終えた八雲にも端末が配備されていたのだが、今までデータを共有する状況が無かったのである。
レギオンから送られた、周辺の地形との友軍の状況、探知した目標などの情報が、以前よりも広くなった艦橋に据えられた大型モニターに、リアルタイムで表示された。
もちろんCICにも、より精緻な情報が送られている。
「これは・・周囲の状況が手に取るように判るな・・」
そう呟いたのは、艦橋に戻っていた士村であった。
「流石に優れた装置が付いてますな」
「西といえば、パーパルディアという国があったな」
士村が艦長に確認した。
「はい、この世界での列強の一つだとか・・」
寺崗艦長は海図を見ながら返答する。
「今回の軍祭に招かれているのではないでしょうか?」
そう言ったのは、近くにいた当直士官であった。
「まさかとは思うが、一応確認を取ってくれ」
「はっ、至急確認します」
当直士官は、艦橋に新たに設置された無線電話を取った。
「それと、各艦に通達、念のため機関始動用意!」
■フェン王国
アマノキ城
「御屋形様の御成りー!」
直垂姿の剣王が板張りの大広間に現れると、居並ぶ者は一斉に頭を垂れて敬礼した。
「そなた達が、日本の使者か」
剣王は外務省から派遣された公使に話しかけた。
一部の隙も無い所作から、その強さはおそらく達人の域を超えている。
外務省職員の1人、大日本武徳会の錬士として剣道を修めた島田は、それを感じ取った。
「はい、貴国と国交を開設したく参りました。ご挨拶として、日本の品々をご覧下さい」
剣王の前に、様々な日本の品が並べられた。
打刀、着物、真珠のネックレス、ラジオ、そして小銃。
剣王は、その内から刀を手に取ると、白木の鞘から静かに抜いた。
(ほう・・)
島田が感嘆の声を漏らした。
わずかな鞘走りの音すらしない、見事な所作である。
太陽に刃を翳し、その鋭さを見分、波紋の乱れを見つめた。
「ほう・・これは良い。我が国の刀匠も、これ程の業物はなかなかに打てぬわ」
気を良くした剣王の話が始まる。
事前に聞いた日本からの提示条件と、日本からの書類に間違いが無いかを確認する。
「儂はそなた達の国、日本を良くは知らぬが・・」
剣王は続けた。
「そなた達の言が真なら、日本とは良き関係が築けよう。夢としか思えぬ技も得られよう。フェンとしては申し分のない事である」
「それでは、我が国と・・」
公使がそう言ったとき、
『プルルル・・プルルル・・』
公使の懐の電話が鳴った。
「剣王様、失礼いたします。おそらく緊急連絡です」
公使は慌てて剣王に断りを入れた。
「良い、待とう」
公使は外の廊下に移動し、電話を取った。
最近普及し始めた、イルメリア製のアナログ方式携帯電話である。
未だ固定電話の普及すら十分でない日本では、一部高級官僚にのみ支給される高価な機材であった。
「私ですが、緊急の案件ですか? ええ、はい・・」
公使は、話しながら何度も頷いた。
「はい、それでは至急確認して折り返します」
公使はため息を一つ尽き、急ぎ足で広間に戻ると、剣王に尋ねた。
「剣王様、失礼いたしました。港に停泊する日本の船から緊急の問い合わせがありました」
剣王は頷き、続きを促す。
「現在、王都の西方を飛行する、20騎の竜騎士に心当たりは御座いますか?」
・戦術情報処理装置・レギオン
米軍のC4Iシステムに相当する情報処理システム。
ローマ軍団の整然とした陣形と、統率された戦闘から採られた。