■イルメリア沿岸第1警備隊所属
海防艦スパティオン
幾つものパネルやモニターが、照明を落とした室内に青白く浮かび上がっている。
戦闘艦の中枢、CICである。
「機雷戦用意、目標パーパルディア艦隊」
エギルソン艦長が命じた。
「機雷戦用意、目標パーパルディア艦隊!」
復唱、各員が速やかに作業を開始した。
訓練通りの、ムダのない動きである。
「データリンク完了!」
レーダー、戦域上空の無人機「コリウス」と、衛星からの情報が入力される。
「1番から5番、発射準備!」
「MFT、1番から5番、発射準備完了!」
スパティオン艦橋後方にある中部VLS(垂直発射装置)が開いた。
「機雷、1番から5番、連続発射!」
命令一下、盛大な炎とともに、数本の白煙が西の空に伸びて行った。
(もはや個の武が通用する時代ではないのやも知れぬ・・)
その様子を見詰めていたシハン王は、頼もしく思うとともに、一抹の寂しさを抱いていた。
―同刻、海防艦八雲
八雲艦長寺崗は、何度目かの問いを発していた。
「攻撃許可はまだ出んのか!?」
「それが、審議中とばかり・・」
「まどろっこしい、フェンを見捨てろととでも言うのか!?」
ガン!
ガコン!
「左舷後部に被弾2、損傷なし・・もとい、内火艇大破!」
八雲はその船体を活かしてフェン水軍の盾に、その他の艦は、走り回ってパーパルディアを撹乱していた。
重巡洋艦を上回る装甲に砲撃が通るはずもなかったが、それでも細かな損傷は増えていた。
「埒があきませんな・・」
電子音が鳴る。
通信が入った。
「スパティオンより入電!」
「読め」
「はっ、”フェン国の要請により、本艦は海賊船団に対して攻撃を行う。指定範囲より退避されたし”」
通信員が、自動解読された暗号通信を読み上げる。
「この距離で攻撃を?」
「対艦誘導弾というやつでしょうか?」
「おおっ、近代戦の一端が見られますな!」
艦橋やCICに詰めていた幹部たちが騒めきだった。
彼らの多くは、イルメリア派遣組が主催する未来戦研究会の参加者だった。
そこで近代戦の概要は学んではいたものの、誘導兵器による攻撃を実際に見るのは初めてだった。
「貴様ら、いい歳をしてはしゃぐな!」
寺崗艦長にたしなめられ、場が静かになった。
「まあ、良いじゃないか。学習意欲の高さ、大いに結構!」
士村が言う。
この場で一番はしゃいでいたのは、隊の最高責任者であった。
―パーパルディア艦隊 50門艦ジーロ
海面ぎりぎりを飛ぶ、何かが見えたような気がした。
「見張り兵、何が見える?」
傍らの士官が尋ねた。
次の瞬間、パーパルディア艦隊の遥か先で、多数の水飛沫が上がった。
ほとんど目に見えないくらいの速さで、何かが海面に突入した。
「・・何だ、一体?」
訝し気に海面を見詰めていた見張り兵だったが、そこにはもはや何もなかった。
―数分後
悲劇は突然訪れた。
艦隊最前列を航行していた74門艦パロスが爆発した。
中央から折れ、沈んでゆくパロス。
その後方にいた戦列艦ガリアスも、瞬く間に波間に消えていった。
「戦列艦パロス沈没!」
「ガリアス轟沈!」
「ど・・どこからの攻撃だ!?」
狼狽える将校。
いかに大きかろうと、軍艦からの砲撃であれば理解はできる。
だが目の前で起こっている事象は、理解の範疇を越えていた。
スパティオンから発射された誘導弾。
制式名称シルルスβ型。
トマホーク巡航ミサイルと同サイズのMFT、機動飛行魚雷(Maneuverable Flying Torpedo)、通称「機雷」である。
21世紀中頃、防御技術が進んだ結果、対艦ミサイルの有効性は低下していた。
それ故に考案されたのが、ローマの変態ミサイルこと「機雷」であった。
これはASROCのようなパラシュート降下ではなく、海面に突入する方式を採った。
そのため、試作品は衝撃で誤爆を繰り返したため、各国から珍兵器と嘲笑われた。
だが、数年かけて完成形に達した「機雷」は、非常に嫌らしい対艦/対潜兵器に生まれ変わった。
まあ、それが対艦ミサイルの定義に当て嵌るかどうかは、また別の話ではあるが。
悲劇は続く。
ドン!
戦列艦マーズが真っ二つに折れた。
ドン!!
戦列艦クーマの後ろ半分が砕け散った。
まさかの事態が眼前で起きていた。
得体のしれない攻撃を受け、パーパルディア艦隊は恐怖した。
どこからの攻撃かも判らず、第三文明圏最強の戦列艦が次々と沈んでいった。
まさに悪夢であった。
さらに1隻が沈んだところで、攻撃が止んだ。
「全滅させる気はないということか・・」
さらに攻撃を受ければ、全滅することは想像に難くない。
だが彼は、有利な状況で攻撃が止んだことで、意図は判らないものの、殲滅が目的ではないと考えた。
(本作戦は、失敗であるな・・)
漂流する兵を見捨てるわけにはいかない。
ポクトアールは意を決した。
「・・撤退! 兵の救助の後、速やかに撤退」
アマノキ沖海戦と呼ばれるこの戦闘は、両国の撤退によって終了した。
痛み分けに終わった本海戦は、戦略的な観点からは、フェンの大勝である。
他国の助力があったとはいえ、文明圏外国が列強を退けたのである。
フェン、パーパルディアともに多数の死傷者を出していた。
日本とイルメリアの負傷者は、甲板で滑った、ラッタルから落ちた等、軽症数名であった。
次回予告
驚きと思惑、世界が揺れる。
Toto orbe terrarum civitates attonitae et confusae.
Homines toto orbe terrarum attoniti sunt.
次回 「嵐~Tempestas」