■フェン沖海戦後
フェン王都アマノキ
ワイバーン部隊が撃退される様子を見ていた人々は、半ば放心状態となっていた。
「な・・何だ、あの凄まじい魔導船は・・」
「なんという力だ! 常軌を逸している!」
「列強のワイバーンロードをあっさり撃退した・・ 一体、何なのだ、あの船は!?」
「どうやら新興国の船らしいぞ・・」
「まさか・・魔帝の流れを汲む国では!?」
文明圏外国の政府関係者は、常識とかけ離れた力を持つ国に畏怖の念を抱いた。
そして、あわよくば味方にできないかと考えた。
あの船の所有国には、列強に匹敵する力がある。
国交を結べば、パーパルディア皇国の属国から脱し、奴隷の供出や、領土の割譲を防げるかも知れない。
軍祭の後、日本とイルメリアに、旧式の帆船で多数の使節が来訪した。
両国が国交を結んだ国は22カ国に及んだ。
文明圏外各国は国力増強を目指して各種民生品を購入し、また、自国防衛用として小火器や小艦艇を求めた。
日本からは、民生品としては鉄鋼板、農具や漁具、繊維や衣料、自転車、軍事関連では小銃、駆潜艇を簡略化した警備艇、そして八九式中戦車や九五式軽戦車を改造した輸送車両。
イルメリア製では医薬品のほか、宝飾品、通信機器、軽量で強靭な防具類、機銃を搭載した150トン級警備艇が人気を集めた。
どれもが飛ぶように売れた。
各国とも、パーパルディア皇国から自国を護れる戦力と国力を欲していたのである。
もちろん、購入国同士の戦闘は厳禁とされたが、それでも少数ながら反故にする国は存在した。
そういった国に対しては、消耗品や補修部品の輸出停止措置が取られたが、それでも改まらない場合は、詳細は不明ながら、深夜に基地ごと吹き飛ばされたといわれている。
-パーパルディア皇国 第3外務局
局長カイオスは、海戦の報告を聞いて激怒していた。
フェン王都襲撃に向かったワイバーンロード部隊は、魔信を入れる間も無く消息を絶った。
どうなったのかは不明だが、おそらく全滅したものと思われる。
これについては、当初ガハラ神国の関与が疑われた。
しかし、ガハラの風竜は数が少なく、通信する間も無かったとは考えにくい。
続報も問題である。
フェン水軍と東洋艦隊が会敵し、敵を一方的に撃破する寸前に未知の艦隊が乱入。
結果、監査軍東洋艦隊敗北。
提督は海戦で少々常軌を逸したらしく、たった数隻に敗れたなどと、ありえない報告を行っている。
要約すると、
・黒い巨大船を擁した未知の艦隊と遭遇。
・敵船は速く、我が方より優速であった。
・敵船は10キロの距離から威嚇射撃を行った。備砲は我が方よりも高威力であった。
・我が方も砲撃を行ったが、魔導砲が全て弾かれた。
・未知の攻撃で、我が方の半数が突然撃沈された。
ここまででも、疑わしいところは多々ある。
まず、敵船が我が方より速いという部分。
皇国の風神の涙の性能は世界一であり、敵が我が方よりも速い訳がないのである。
そして、10キロもの距離からの威嚇射撃。
我が国の魔導砲の射程は2キロ程度が限界である。
それを遥かに超える砲など、文明圏外国で造れるはずが無い。
さらに、提督が錯乱したと判断される決定的な報告。
未知の攻撃で味方の半数が撃沈された。
敵は我が方の残存艦を沈めず撤退した。
未知の攻撃とは、大変便利な言葉である。
よくもこのような報告書を出せたものだ。
しかも・・いや、もう良い。
文明圏外の蛮族にそんな高度な兵器があるはずは無い。
提督麾下の将兵は、口を噤んでいるという。
緘口令を敷いているのかも知れないが、報酬で釣るなりして、詳細な調査を行いたいところである。
確実に言えることは、栄えある皇国に盾突いた者がいるということである。
どこかの列強が蛮族どもの背後にいる可能性も高い。
蛮族に武器を供給し、皇国のテリトリーを撹乱する算段かも知れない。
何れにせよ、今回の敗戦は皇帝陛下の御耳にも入ることだろう。
次に何かあれば、監査軍ではなく、新鋭艦を揃えた本国艦隊が動くことになるだろう。
第3外務局は、皇国に泥を塗った勢力に関して、情報収集を開始した。
彼らの努力はすぐに報いられた。
思わぬ形で。
-第3外務局食堂
昼休憩中の職員たちが食事をしながら雑談を行っていた。
「最近蛮族共が、やけに反抗的だと思わないか?」
「確かに、ここのところ特に顕著だな」
「ああ、以前なら全ての要件を呑んでいたのに、昨日なんか、我々は日本国と国交を結んでいる、と拒否された。たかがシオス王国ごときに」
「俺もトーパ王国大使から似たような事を言われた。トーパ王国なんて、技術がいらないとまで言っていた。イルメリアとの同盟があるから必要ないと。なあ、イルメリアって知ってるか?」
「知らん」
「俺も」
「私も知らない」
「あっ!」
窓口勤務員のライタが、食堂に置かれた神聖ミリシアル製の魔導テレビを指さした。
魔導テレビに映る正午のニュースには、いつものキャスターではなく、豪華絢爛な深緋の衣装を纏った女性が映っていた。
「ご機嫌よう皆さま、ユリア・テオドラでございます」
「あれ、いつの間にキャスター変わったんだ?」
「綺麗な人だなあ・・」
「あの衣装の豪華さ、皇族並みじゃないか?」
吞気に感想を言い合う局員たちを前に、彼女はとんでもないことを言い出した。
「この時間のヌーティ・ロマーニは、先日行われたフェン沖海戦の詳報をお届けいたします」
驚く局員たち。
「まだ機密のはずだぞ!」
「ヌーティ・ロマーニ?神聖ミリシアル国営放送じゃないのか!?」
誰かがそう指摘した。
ヌーティ・ロマーニなど聞いたこともない。
先程までは、確かに神聖ミリシアル国営放送の番組が流れていたのである。
「先週、フェン王国の都アマノキ沖合で、パーパルディア皇国監査軍を名乗る艦隊と、フェン王国水軍の間で戦闘が勃発いたしました。その折、我が国の艦艇と日本国保安部海上隊が加勢、パーパルディアを名乗る艦隊の半数を撃沈し、敵艦隊は撤退いたしました」
「我が国の艦艇、及び日本の部隊に損害はございませんでした」
「ニュースは以上です。ここからは、当時の映像を解説付きでお送りいたします。では、ごゆるりとご覧くださいませ」
場面が変わり、今度は見たこともない巨大な軍艦が映し出された。
「お、おい、誰かメモを取ってるか?」
「局長、局長に知らせなければ!」
騒然となる局員たち。
穏やかなはずの休憩時間は、嵐の渦中と化した。
ヌーティ・ロマーニ-ローマ人のニュースは、イルメリア本国と日本に向けたニュース放送で、本国では主にWEB配信、日本では普及し始めた街頭テレビで放送されていた。
時々ユリア本人が出演することもあってか、人気の高いコンテンツであった。
パーパルディア国内の電波を乗っ取って、その映像を流したのである。
よりにもよって、フェン沖海戦の詳報を、である。
それは、この世界初の電波ジャックであった。
このニュースは、パーパルディア皇国のみならず、第三文明圏中に広く放送された。
断りもなく、であったが。
次回予告
突如流れた放送に、騒然となるパーパルディア、そして第三文明圏。
一方、日本とイルメリアは、今後に向けての準備を進めていた。
次回、第三調終結部「黎明~diluculo」