■パーパルディア皇国 第三外務局
何なのだ、この放送は・・
何なのだ、イルメリアというのは・・
午前の執務を終え、室内の魔導テレビを見ていたカイオスは衝撃を受けていた。
何らかの手段で魔導放送に割り込み、ニュースを流した。
それは判る。
だが、ごく近距離から撮影された戦列艦や、臨場感あふれる砲撃戦を、どうやって撮影したかは不明である。
内容も簡潔で分かり易く、素人が見ても理解できる。
が、その内容が問題である。
フェン沖海戦の顛末は、秘匿情報なのである。
そして、監査軍の敗北も。
パーパルディアで放送されている魔導放送は、神聖ミリシアル帝国で制作されたものである。
自国でテレビ放送を行う技術がまだないのが現状であった。
一番の問題は、これが一般の放送で流されたことである。
高価な魔導テレビは、まだ庶民に手が届かないものであるが、公共機関のロビーには設置されている。
また、上流階級や裕福な家庭にも普及し始めている。
カイオスは、情報戦の恐ろしさを初めて知った。
-皇都エスシラント 皇宮
第3文明圏唯一の列強国、パーパルディア皇国。
皇都を訪れた者は思うことだろう。
なんと凄まじい国力だろうか、と。
第3文明圏で最も繁栄する都市、皇都。
この世の富を集めたかのような宮殿。
何と豪奢な宮殿なのだろうと。
何と麗しい都市なのだろうと。
何と国民が豊かなのだろうと。
近侍が玉座の前に跪く姿の男に告げた。
「面をあげよ」
カイオスは青ざめながらも顔を上げた。
その視線の先には、若く威厳ある皇帝ルディアスの姿があった。
「フェン王国への監査軍の派遣、予への報告はどうした?」
「ははっ!!監査軍派遣の報告を行わず、真に申し訳ございません」
視線を落としたままカイオスは答える。
「たわけ!!」
「・・!」
「派遣の報告を行わなかった事など、どうでも良い。それは予が認めた第3外務局の権限である。いちいち蛮国への侵攻報告なぞ聞いて居ったら、一日が終わってしまうわ。それは良いとして、問題は・・敗北した事だ。」
カイオスはさらに青ざめた。
「皇宮でも噂になっておる。いや、聞くところによると、皇国中に知れ渡っておるぞ」
「はっ! 目下全力で対象国の調査を行っております。現在までの調査では詳細がはっきり判らぬため、まだご報告する段階にないと判断致しました」
「まだ解らぬというのか・・」
皇帝の顔が紅潮する。
「各国は、皇国が文明圏外国に敗れたと見るだろう。詳細が判明したならば、本国艦隊を派遣し、国民もろとも滅ぼしてくれよう」
「ははっ!」
カイオスは、さらに深く頭を下げた。
-東京江東区 保安隊庁舎
士村はフェン沖海戦の詳報と危惧を、海上部総監、大澤治三郎に報告していた。
「以上から、武器使用に関しての早急な整備が必要です」
日本国保安隊は、フェンでの戦闘の結果、交戦規定の見直しに迫られていた。
現在の規定では、明確な攻撃意図を持ったワイバーン隊は反撃の対象と見なされたが、戦列艦に対しての砲撃は判断が難しいところだった。
船体に傷一つ付けられない旧式帆船の大砲が、果たして脅威と判断されるか否かが問題だった。
加えて、パールバディア皇国は交戦国ではなかった。
だが、あのまま反撃できないままでは、フェン王国の水軍が全滅していたのも事実。
それを指を咥えて見ていたとしたら、ようやく馴染み始めたこの世界で、日本の名声は地に落ちたことだろう。
「まだまだ整備が必要か・・ 報告は上げておくが、我々にできるのは結果を待つことだけだな」
以前の世界とは勝手が違う上に、次々と舞い込む厄介事。
法律や運用規定の整備がなかなか追い付かない。
「しかし、イルメリアには借りを作りましたな」
苦笑する士村。
「もっともだ。あの誘導弾攻撃があったからこそ、我々の面子も保たれたようなものだ」
総監は続けた。
「それに、そのあとの煽りも見事だな」
「やはりとんでもないですな、あの国は」
大澤と士村は、イルメリアが友好的で良かったと、つくづく思った。
シオス王国
とある港町の酒場
シオス王国はフィルアデス大陸南方の文明圏外国で、北海道程度の大きさの島国である。
交易の中継地として栄えるこの国の酒場は、様々な国の商人が集まる、格好の情報交換の場になっていた。
「そういえば、フェン王国の話は聞いてるか?」
商人の一人が言った。
「あの変わった国か? あの国がどうした?」
ターバンを巻いたナハナート王国の商人が聞き返した。
「ああ、俺が交易に行った時、パーパルディア皇国の侵略を受けたんだよ」
「じゃあ、ひとたまりもないだろうな」
「それがな、日本がフェンに加勢して、皇国が負けたそうだ。皇国の戦列艦隊が、たった3隻の日本の軍船に負けて逃げ帰ったらしい」
「ロウリア王国を下したあの日本か?」
「皇国が負けるとは、とても信じられんな」
ナハナートの商人は、大げさな手振りをしながら返した。
「ちょっといいかい?」
二人の話に割って入ってのは、顔なじみのネーツ公国の商人だった。
「うちの国がトーパ王の臣下なのは知ってるだろう?」
「ああ、まあそれがどうした?」
「トーパの南のイルメリアって国に行ってきたんだが、そこが物凄く発展してるんだよ」
「イルメリア? 聞いたことがないな」
二人は口を揃えて言った。
「そのイルメリアの軍船も1隻、海戦に加わっていたそうだ」
「1隻じゃ話にならないんじゃないか?」
「いや、魔導テレビで見たんだが、はるか沖合の戦列艦を何隻も、火を噴く巨大な矢で沈めたそうだ」
「それこそ情報操作じゃないのか? 古の魔帝じゃあるまいし」
「一度イルメリアに行ってみろよ。港には巨大な船が何隻も停泊してるし、珍しい物も手に入るぞ」
「その話、詳しく聞かせてくれ」
聞き耳を立てていた、周囲の商人たちも話に加わる。
フェン沖海戦と、二つの転移国の噂は、伝聞という形で文明圏外国に拡がっていった。
■中央暦1639年10月10日
『7時になりました。ニュースをお伝えします。最初に、本日クワ・トイネ公国、日本国、クイラ王国、トーパ王国、イルメリア専制公国の間で、通商および防衛に関するの5か国間条約が締結されました』
条約は締結国の相互の発展を目的に、法制度の整備や領事館の設立、為替レートの取り決め、関税の廃止、相互防衛など多岐に渡っていた。
クワ・トイネのとある中流家庭では、夕食のテーブルを囲む家族の傍らで、最近普及し始めた日本製のラジオからニュースが流れていた。
同じころ、東京を始めとした日本各地では、雑踏の中で足を止めた人々が、駅や街頭に設置されたテレビの色のない映像を見ていた。
また、イルメリアに住むローマ市民たちは、手にした携帯端末でその情報を知った。
モニターに映されていたのは、青空を背景に翻る5色の旗。
赤は日本国を表す太陽。
青はクイラ王国の砂漠の空。
緑はクワ・トイネ公国の緑なす大地。
白は雪深いトーパ王国を。
金はイルメリアの象徴、正十字。
これら5つの国は、それぞれが突出した分野を持っていた。
文明圏外と呼ばれる地に夜明けを告げる、五国連盟、通称ペンテフィラの成立であった。
最後の挿絵、5色旗がうまく作れなかったので、止むを得ず五つ葉にしました。
葉っぱが五色になっていると思ってください。