■神聖ミリシアル帝国
帝都ルーンポリス 情報局
第一文明圏、かつてミリシエント大陸と呼ばれた中央世界にある、神聖ミリシアル帝国。
中央世界の南半分を統治下に置く、世界最大、最古の列強国である。
その帝都、ルーンポリス。
帝国北西部、セントラリス海に面した、眠らない魔都の異名を持つ世界最大の都市。
摩天楼が建ち並び、戦間期のニューヨークを思わせるこの都市には、世界中の富が集まるとされている。
魔導機関を搭載した魔導船に、光魔法による街灯、初期の、高い技術が所々に見受けられる。また、魔法を動力とする航空機やカラー液晶テレビを実用化するなど、一部の技術は1980~90年代に匹敵する高度な文明を築いている。
ミリシアル情報局長アルネウスは、初期のノートパソコン―IBM PS/55によく似た端末を睨んでいた。
極秘とされる、部下がまとめた国際情勢である。
神聖ミリシアル帝国は、情報の重要性を良く理解していた。
情報を制する者は世界を制するといった考えのもと、情報収集と分析に力を入れていた。
しかし最近、理解しがたい事が起こっていた。
1つは、西方海上、文明圏外とされる海域に出現したグラ・バルカス帝国である。
グラ・バルカス帝国は、周辺の文明圏外の蛮国を瞬く間に制圧した後、第2文明圏に対して交渉を行った。
その際、第2文明圏のパルス王国は、列強レイフォルを窓口にしてくれと伝えた。
しかし、レイフォルに交渉に出向いた際、文明圏外国は、まずパガンダを通せと言われ追い返されている。
そして彼らは第2文明圏の列強レイフォルの保護国、パガンダ王国を来訪した。
交渉に応じたのはパガンダの王族だった。
パガンダ側は、グラ・バルカスが直接レイフォル赴いたことを、礼を知らない文明圏外の蛮族と罵しり、さらに仲介料として莫大な賄賂を要求した。
それを受けたグラ・バルカス側は激高した。
文明の進んだ帝国が、散々たらい回しにされたうえ、未開人風情に下手に出ているのに、その言い分は何だ、と。
パガンダは、文明圏外の蛮族の外交官ごときが、レイフォルの被保護国であるパガンダの王族に対して無礼であるとし、不敬罪の名の元に全員を処刑。
この出来事でグラ・バルカス帝国は激高、第2文明圏に宣戦布告し、パガンダ王国を強襲制圧、列強レイフォルとの戦争も圧勝した。
今までは、文明圏外の国々が文明圏に攻め入ることはあっても、成功する事は無かったのだが、グラ・バルカス帝国がその常識を塗り替えてしまったのである。
情報局長のアルネウスは、傍らの部下、ライドルカに話しかけた。
「グラ・バルカス帝国について、その後新たに情報はあるか?」
「今のところ、グラ・バルカスは本国の位置さえ不明。戦艦グレート・アトラクターは、レイフォルとの戦闘を分析した結果、我が国の最新鋭艦と同等かそれ以上と思われます。信じられない事ですが、分析結果はそのようになっています。」
その報告に、情報局長は顔をしかめた。
もう一つは、文明圏外国のフェン王国に、列強パーパルディア皇国の艦隊が侵攻した際に起こった出来事であった。
その際、日本およびイルメリアと呼ばれる文明圏外の2国が、フェン王国に加勢し、パーパルディアの魔導戦列艦隊を撃退した。
秘かに取られた魔導写真を見ると、海戦で両国が使用した艦艇は、神聖ミリシアル帝国や列強第2位のムーの艦艇に近似していた。
加えて、現地の噂によると、フェン王都を襲ったワイバーン撃退の際、対空型の誘導魔光弾のような兵器が使用されたそうである。
誘導魔光弾は、大型の対艦誘導魔光弾が未だ開発中であり、対空用に至っては設計段階で頓挫していた。
報告が本当なら、両国は神聖ミリシアル帝国の技術力を上回ることになる。
さすがに、この報告は信憑性に乏しく、局内でも信じる者は少なかったのだが。
「とにかく情報が足らん。可能な限りの情報を集めてくれ」
情報局長アルネウスは、両国について、さらなる情報収集を指示した。
■第2文明圏 列強国ムー
統括軍所属 情報部
魔法技術に重点が置かれるこの世界で、独力で科学文明を築きあげた国、ムー。
戦後の欧州の都市を思わせる首都マイカル。
その一角、海に注ぐ河川に面して、マヤ文明の神殿を近代化したようなビルがあった。
ひと際異彩を放つこのビルに、ムーの情報部があった。
一般の軍人からは、何をやっているのか解らない部署と認識されており、情報部に対する理解は十分とは言えなかったが。
情報分析官であり、技術士官のマイラスはレイフォルとの戦闘の際に撮影された、グラ・バルカス帝国の戦艦グレート・アトラクターの写真を分析して、冷や汗をかいていた。
「まずいな・・・。」
グラ・バルカス帝国は我が国よりも科学文明が進んでいるかもしれない。
頭の固い軍人や政治家は信じないだろうし、臆病風に吹かれた、などと言われるかも知れない。
分析も報告も胃が痛い。
ムーの最新鋭戦艦「カサミ級」
基準排水量 33000トン
全長 216メートル
全幅 32メートル
機関 45000馬力
最大速力 23ノット
兵装 主砲40センチ3連装砲3基9門、副砲15センチ連装速射砲6門、他
主砲は攻撃力を最大限に活かすため、艦の前部に集中配置。
大火力を艦首に集中させ、艦を覆う装甲も、重要区画の防御を重視した集中防御方式。
従来の戦艦を凌駕する設計。
列強ミリシアルの魔導戦艦とも渡り合える性能である。
レイフォルや、パーパルディア皇国の戦列艦に圧勝するのは言うまでもない。
機械文明最先進国ムーは、彼らとは別格であり、神聖ミリシアル帝国に迫る国である。
しかし・・
マイラスは頭を掻き毟った。
グラ・バルカス帝国のグレート・アトラクターは、情報によれば30ノットくらいの速力が出ていたらしい。
おそらく排水量は6万トン、砲も40センチ、もしかしたらそれ以上ではなかろうか?
そんな大型艦を、30ノットの高速で移動させるには、いったいどれほどの機関が必要になのか・・
砲数では互角だが、カサミ級の砲配置は汎用性に劣る。
ムーが建艦技術で後れを取っているとしたら、相手の砲撃精度は相応に高いと考えられる。
つまり、この戦艦を相手にした場合、カサミ級では撃ち負ける危険性があった。
「写真を見ただけで負ける事が判るとは・・これは・・技術レベルが20年くらい開いていないか!?」
技術士官マイラスは、ムーの行く末を案じていた。
そして、ムーとは離れているため、直接影響は無いであろう国の艦艇の写真もあった。
東方の文明圏外国家、フェン王国とパーパルディア皇国の海戦に参加した国の軍艦らしい。
撮影した局員の情報では、イルメリアという国の船とのことだ。
船体は5000トン程度と大きいが、その上に乗っているのは、およそ軍艦とは思えない、客船のような長い構造物。
武装は貧弱で、8センチ砲を2門と機銃程度。
哨戒艦か何かかも知れないが、それにしては大きすぎる。
理解できない装備も所々見受けられる。
「そもそも軍艦なのか、これは?」
もう一つは日本という国の、八雲という名前の船らしいが・・
「見た目は装甲巡洋艦だが・・意味が解らん」
まず、外観は相当な旧式、装甲巡洋艦なのだが、なぜかレーダー等の近代的な装備が備わっている。
そして、装甲巡洋艦ながら後部砲塔を持たず、前部主砲しか搭載していない。
さらに、後部砲塔の代わりに、明らかにヘリコプター格納庫と思われる構造物が見受けられる。
ヘリコプターを運用できる技術レベルなら、あえて旧式艦を改装しなくても、新造した方が早いと思うのだが・・
単に貧乏で新造艦が作れないのか・・
この艦に関しても、用途が全く理解できない。
「訳の解らない国が、突然出てきたな・・」
マイラスは気を紛らわせるため、冷めてしまった紅茶を飲み干した。
その色は、彼の好みに合わせて、スプーンが立つほど濃かった。
本作ではミリシアル、ムーの設定を一部変えています。
グラ・バルカス帝国の艦名についても同様です。
ご指摘ありがとうございました。
また、原作では海域名がほとんど出ないため、独自に名称を付けています。