太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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ル・ブリアス陥落

 半壊した城壁の前に、拷問の跡も生々しい男たちが並ばされていた。

 一人、また一人、斧を構えた兵士の前に引きずられて行く。

 そして、背中から蹴飛ばされ、赤く塗れた斬首台に転がされた。

 

「Gloria Romae !(ローマに栄光を!)」

 

 自らの運命を恐れもせず、そう叫んだ男の首が舞った。

 

 

 パーパルディア皇国は、以前からアルタラスにある、世界有数の魔石鉱山を狙っていた。

 挑発的な外交文書がターラ14世に手渡される以前から、秘かにアルタラス攻略の準備がなされていたのであった。

 しかも周到なことに、複数の港に集結させた艦隊を個別に出撃させ、アルタラス王国の沖合で合流させることで、戦略目標を悟られないよう図っていた。

 

 日本とイルメリアの対応の遅れは、これに惑わされ、あくまでも戦略目標はフェン王国であると信じてしまったことにあった。

 

 

 アルタラス王国は、十分な準備が整わない中で奮戦したものの、守備隊の抵抗も空しく、王都ル・ブリアスは陥落した。

 王都の住民の大半は強制労働のため生かされたが、王族や有力貴族は一族郎党、親戚縁者全てが斬首され、その首はかつて王城だった廃墟の前に晒された。

 地方でも状況は変わらず、都市ごとの守備隊を中心とした防衛を行ったものの、敵軍一万に各個撃破された。

 

 パーパルディアの兵が装備するマスケット銃や牽引砲、兵士数人で運用可能な歩兵砲に対して、アルタラス軍はあくまでも弓矢と投石機の旧来の軍隊。

 加えて、パーパルディアは、地竜と呼ばれる32頭の大型亜竜を帯同していた。

 これら装備の差と火力の差を考えると、兵の招集が間に合っていたとしても、滅びに至るまでの時間が少し伸びる程度の影響しかしなかったと思われる。

 

 

 一方、内陸に逃れたルミエス王女は、アルタラス島南部の山岳地帯ある、鉱山都市シルウトラスに落ち延びていた。

 シルウトラスは世界有数の魔石鉱山で知られており、パーパルディア皇国が喉から手が出るほど欲していた街でもあった。

 

 

 

■パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 第3外務局

 

 第3外務局はアルタラス侵攻の際、イルメリア船籍のフェリーを拿捕し、本国に持ち帰っていた。

 調査したところ、詳細は判らなかったものの、機械動力船であることが判ったため、第2文明圏列強、ムー国の関与を疑った。

 今まで決して行わなかった、自国の機械科学兵器の供与を開始したのかもしれないと。

 

 ムーのある第2文明圏から、最果ての地である日本やイルメリアに供与すれば、多大な利益が見込めるほか、自国が被害を受けることなく兵器の性能試験が行え、我が国への牽制にもなる。

 そして文明圏外国家では、技術差がありすぎて兵器の複製や技術習得は困難だろう。

 万が一、第3文明圏が両国の手に落ちたとしても、ムーとの間には神聖ミリシアル帝国があるため、ミリシアルと協同して牽制が行える。

 

 

 そう考え、カイオスはムー大使館を訪問した。

 応対した大使は、カイオスが持ち込んだ簡単な図面と魔導写真を見ると顔を顰めた。

 

(・・やはり図星か)

 と彼は思ったものの、大使の答えは意外なものだった。

 

「私は船舶や兵器に関しては専門外なのですが・・」

 大使はそう前置きし、

「少なくとも、写真や図面を見た印象としては、この船には、我が国よりも高い技術が用いられているように思います」

 言いにくそうにそう言った。

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「全体的に非常に洗練されています。エンジンなどの機械類は油汚れ一つなく、操作機器も綺麗にまとまっています。何より、見たことのない装置が多数見受けられることでしょうか」

 

 カイオスには機械技術の優劣は判らなかったが、そう言われてみると、確かにそう見えてきた。

 

「では、大使は、この船を建造した国が、貴国よりも高い技術を持っているとお考えでしょうか?」

 

「端的に言うとそうなります、残念ながら」

 

 カイオスの顔から、さっと血の気が引いた。

 理由は判らないが、日本やイルメリアは、列強ムーよりも高い技術を持っている可能性がある。

 本格的な戦争ともなれば、皇国が不利となる危険も考えれらる。

 皇帝陛下に、この可能性を上奏しなければならない。

 

 慌てて退室しようとするカイオスを、大使が引き留めた。

 

「もし良ければ、言い値で構いませんので、あの船を我が国に売却して頂けないでしょうか?」

 

 

 大使の申し出を曖昧に断ったカイオスは、急ぎ第3外務局に戻り、上奏文を書き上げたのだった。

 

 

 

■中央暦1639年11月15日

 神聖ミリシアル帝国

 

 港町カルトアルパス

 

 神聖ミリシアル帝国では、日々のニュースを集約した情報番組、「週刊世界のニュース」が人気を集めていた。

 番組を心待ちにしている酔客たちは、酒場に置かれた魔導モニターに注目していた。

 

 音楽が流れ、ニュースが始まる。

 

「こんにちは、世界のニュースの時間です。

 今日も皆様に、世界の信じられないニュースをお届けします。

 

 それでは、最初のニュースです。

 今月5日、周辺国に対し繰り返し侵略を行ってきた第3文明圏の列強、パーパルディア皇国が、アルタラス王国に侵攻しました。

 

 この戦闘でアルタラス王国は敗北、王族や貴族の主だったものは公開処刑となりました。

 我が国を含め、王都ル・ブリアスに滞在していた外国人は、戦闘終了後に一部を除いて無事が確認されました。

 文明圏外の国である日本国、およびイルメリア専制公国籍の滞在者は、敵対国家の人間と見なされ、全員が公開処刑されました。

 これを受けて、両国が所属する文明圏外国の連盟、通称ペンテフィラは厳重抗議を行い、執行者の引き渡しを要求しましたが、パーパルディア皇国はこれに応じず、外交使節団を強制退去させた模様です。

 

 なお、特派員が処刑の様子を撮影しておりますが、あまりにも衝撃的な映像のため、公開は見合わせさせて頂きます」

 

「次のニュースです。

 

 グラ・バルカス帝国は我が国に対して、2年に1度開催される、先進11カ国会議に招聘するよう要求しました。

 これに対して政府は、検討する旨を回答しているとのことです。

 グラ・バルカス帝国は、列強レイフォルとの戦争で圧勝したため、自らを列強と考えてのことか、このような要求を行ったものと思われます」

 

 酔客たちは食い入るように画面を見つめた後、それぞれが勝手な持論を展開し始めた。

 

 喧騒に塗れた酒場は、今日も眠らない。

 

 

 

■パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 第1外務局

 

 第3外務局長カイオスは、第1外務局に呼び出されていた。

 

 元々組織間での人事交流はあったが、局長クラスを呼び出すなど、通常ではありえない事だった。

 だが今回は、カイオスの元に勅書を携えた第1外務局員がやってきたため、局長クラス出頭する異例の事態となっていた。

 

 会議は第1外務局長室で行われた。

 

 扉が開き、中へ案内される。

 室内には、第1外務局長のエルト、次長ハンス、下位列強担当部長シラン、そして20代と思しき美しい女性が1人座っていた。

 

 

 カイオスは面々に一礼した。

 

「勅令での第1外務局への出頭とは・・どういった御用件でしょうか?」

 

「解らぬのか?身に覚えがない訳ではなかろう」

 

 座っていた女性が棘のある言葉を発した。

 長い銀髪を巻き髪にした、魅力的な体型の令嬢然とした美女だが、その与える印象は冷たい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「失礼ですが・・どなた様でしょうか?」

 

 カイオスが問う。

 

「外務局監査室のレミールだ」

 

 外務局監査室は、各外務局の不正や、対象国への対応が困難な場合を考慮して設置された組織で、各外務局の監査を行い、状況によっては担当者を処分、もしくは外交案件について、監査室が担当することもあった。

 なお、皇国内でもエリート集団である外務局を監査するという重要性を鑑みて、監査室の構成員はすべて皇族である。

 すなわち、眼前のレミールと名乗る女性は皇族であった。

 

 

 カイオスはレミールに一礼した。

 

「して、いったい何の事でしょうか?」

 

 カイオスはゆっくりと尋ねた。

 

「日本とイルメリアの件だ。確かに文明圏外国の担当局長はカイオス、貴官だ。しかし、皇帝陛下への上奏はなんだ、あの弱腰は?

 たかが小国相手に慎重論を上奏するなど、列強たる皇国が・・

 カイオス、陛下の御意志も読み取れぬとは、情けないかぎりだ」

 

 カイオスは額に汗を浮かべた。

 先日上奏した報告書の内容を問われているのだ。

 

 

 レミールは続けた。

 

「カイオスよ、今後両国への対応は、第3外務局ではなく、第1外務局が行う事とする。

 外務局監査室から私が第1外務局へ出向するという形をとり、今後の外交は私が行う事とする。

 皇帝陛下のご意思が読み取れぬ愚か者は皇国にはいらぬ、処分されなかっただけでも有難く思え。

 今後、せいぜい気を付けよ」

 

 

(皇族とはいえ・・小娘が偉そうに!)

 

 カイオスは拳を握りしめていた。

 

「は・・承知いたしました」

 

 第1外務局の重役の前で、この屈辱的な仕打ちは、まるで晒し者である。

 第1外務局長エルトは顔を背けてはいたが、その他は僅かに笑みを浮かべていた。

 

 

 こうして、日本およびイルメリアを含む五国連盟への対応は、第1外務局の管轄となり、実質的に皇族レミールが担当する事となった

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