太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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エストシラント港の騒動

中央暦1639年11月24日

パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 第3文明圏の最大の都市、エストシラント。

 周辺の国々から搾取した富で潤う、美しく優雅な都である。

 近年では拡張の限界に達したため、街はさらなる繁栄を求めて空に伸び、数階建ての建物がひしめくようになっていた。

 属国からの搾取で成り立つ繁栄、華やかさの裏側に拡がる階級差、増え続ける戦災孤児。

 

 それは、近世の欧州の都市と多くの点で類似していた。

 

 

 

―エストシラント港

”こちらイルメリア船団、先の事件について会談を求める故、入港許可を求む”

 

 いつものように業務を行っていた入港管理局員は、その魔導伝文を何度も読み返した。

 

 イルメリア?

 文明圏外国でありながら、一方的に要請書を送りつけて外務局を怒らせた国が、確かそんな名前ではなかったか。

 しかも、生意気にも会談を求めるだと?

 

 

 慌てた彼は、上司の元へ走って行った。

 

 

 台帳をしたためながら微睡んでいた管理局長は、駆け込んできた部下の一声で現実に戻された。

 

「一大事です! イルメリアを名乗る大型船から入港申請です!」

 

 不機嫌な様子で望遠鏡を覗いた局長が目を見開いた。

 

 二本マストの大型船と、その左右に付き従うやや小ぶりの2隻。

 そのどちらも、皇国の軍船より一回り以上も大きく、先進的に見えた。

 

 一瞬で眠気の覚めた彼は、部下に命じた。

 

「管理局の権限では判断できんな・・上層部の判断を仰げ!」

 

 

 

”皇国は敵性国家の軍船の入港を拒否する。速やかに退去せよ”

 イルメリア船団現るの報を受けた第1外務局と軍務局は、入港申請を拒否した。

 

 当然である。

 イルメリアは、海賊討伐の名のもとに、皇国の私掠船やそれに類する海賊船を片っ端から沈めた挙句、皇国の外征までも妨害している。

 その上今回は、明らかに武装した船団での入港申請。

 皇国を舐めているとしか思えない行動であった。

 

 

 皇国からの魔導通信に、コンタキオンを任されるワルデンは返信した。

”当コンタキオンおよび随伴船は軍船に非ず。専制公家のヨット(遊行船)である故、速やかな入港許可を求む”

 

 ユリアの乗るコンタキオンは、戦時は領軍に編入されるが、平時には私有船として扱われていた。

 随伴するビブリオン、クロニコンも、同様に法の制限を受けない。

 

 とんでもない詭弁である。

 

 

中央暦1639年11月30日

皇都エストシラント 皇城

 

 パーラスは、イルメリア船団への対応をもらうため、皇帝の下に訪れていた。

 

 彼が長官を務める臣民統治機構は、臣民および属領を統括する、行政府と警察組織を兼ねる機関である。

 戦前の日本で例えると、内務省と総督府を併せたようなものである。

 だが、その内実は、巨大な権限ゆえに、皇国の負の象徴とも言えるほどに、汚職と腐敗の温床となっていた。

 

 

「すでに報告書を御覧になったと伺っておりますが・・」

 

 パーラスは改めて状況を説明した。

 

「・・入港を拒否して6日、未だ船団は港外に居座っております。

 それもあろうことか、エスシラント港の入り口を塞ぐ形で。

 港を塞ぐ大型船に、臣民の間にも不安が広がっております。

 このままでは入港の妨げになるどころか、皇都への物資の搬入もままなりません。

 よって、ここは速やかに排除するのが宜しいかと具申致します」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 皇帝ルディアスは、不機嫌な表情で話始めた。

 

「其方の言わんとすることは判った。

 たかが文明圏外の蛮族に・・列強たる皇国がこれほどまでに舐められるとは・・

 

 余は不快である。

 やはり、皇国を愚弄した者がどうなるかを、世界に知らしめねばならぬ。

 方法は其方に任せる、思い上がったイルメリア人どもを排除せよ」

 

 

 皇帝ルディアスは、そう命じた。




・ビブリオン、クロニコン:主に式典の際などに、コンタキオンに随伴する。外観は明治期の航洋砲艦をモデルにしている。全長約60メートル、2600トン。
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