太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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離脱

エストシラント港の岸壁を離れる船があった。

イルメリア近衛艦隊である。

 

「おおっ!」

「その場で回っているぞ!?」

 

 商船の甲板で見物していた水夫たちから歓声が上がった。

 周囲に停泊する大型帆船と比べても、なお大きいその三隻は、警笛を鳴らしながら、曳船も使わずその場で一斉に向きを変えた。

 当然ではあるが、パーパルディアの水夫たちは、サイドスラスターを使った離岸など見たことがなかったのだ。

 

 

 

―コンタキオン艦橋

 コンタキオン艦長、ワルデン大佐が報告する。

「姫様、全艦エストシラント港より離脱、落伍艦なし!」

 

「ご苦労さま、ワルデン。パーパルディアのお土産を買う時間がなかったのが残念ですわ」

 心底残念そうに言うユリア。

 今回の"外遊"の意味を分かっているのかどうなのか、非常に疑わしいところである。

 

「お土産と仰いましても、あまり良いものはないかと‥」

 返答するワルデン。

 コンタキオンを任されるということは、名誉であると同時に、皇女殿下に振り回されるのと同意義である。

 もっとも、生真面目が軍服を着たようなワルデン大佐には、そのような認識はなかった。

 彼が何年も艦長を務めているのは、単に鈍いだけというのもあった。

 

 

 

「‥!」

 ワルデンがインカムに耳を当てた。

「‥そうか、間違いないな?」

 

「どうしまして?」

 

 彼はユリアの問いに報告した。

「姫様、本艦に接近する飛行物体30、距離20海里、速力180ノットで接近中です」

 

「こちらまで約10分ですわね。ワルデン、対空戦闘用意を」

 

「はっ、対空戦闘用意!随伴艦は射線より退避!」

 

 

―5分後

 エストシラント近郊を発った飛行物体との距離が、20キロを切ろうとしていた。

 目標は、飛行速度と離陸した位置から、十中八九パーパルディア皇国のワイバーンロード隊と考えられた。

 

「さて、そろそろお客様をお招きする時間かしら?」

 

「姫様、副砲を使用致しますか?」

 

「いえ、近接防御で充分でしょう」

 

「了解致しました、対空光砲で迎撃します」

 

「光学センサーで確認、目標はやはりパーパルディア皇国のワイバーンです!」

 オペレーターが告げた。

 

 

「対空光砲、撃て!」

 司令席からユリアが命じた。

 

 前部と後部の艦橋にそれぞれ設置された、近接防空システムが動き出した。

 その短い砲身には、砲口に代わってガラスが埋め込まれていた。

 レーザー対空システム「アルラ」(ARLA:Armorum Radius Lasericus Antiaeria)である。

 

 

「ARLA、射撃開始します」

 

 対空光砲がそれぞれ別々の目標を追尾し旋回する。

 そして刹那の間、目標のワイバーンロードの頭部に、赤熱したスポットがいくつも現れた。

 

 対空光砲はCIWSの箇体を転用した300キロワット級パルスレーザーである。

 レーザー故に、発射から着弾までのタイムラグは殆どなく、目視も不可能。

 ワイバーンロードの頭部は、着弾による高圧衝撃波によって吹き飛ばされ、制御不能となった乗り手と共に次々と落ちて行った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

―パーパルディア皇国竜騎士レクマイア

 彼はイルメリア艦隊への攻撃を簡単な仕事だと思っていた。

 

 栄えあるワイバーンロード部隊にかかれば、蛮族の船など自分1騎で沈められる。

 パーパルディアに反抗すると、どういう事になるかを解らせてやる。

 

 そう思っていた。

 

 だが、その水平線上にその船が見えた時、すぐ目の前で何かが爆ぜた。

 矢をも跳ね返すワイバーンの頭が、突然爆ぜたのである。

 

 海へ落ちた彼は、仲間の様子が気になり、空を見上げた。

 幸い彼の乗るワイバーンが翼を拡げたまま落下したため、彼自身はほとんど怪我を負うことなく、海に浮かんでいた。

 

 空では、未だ悲劇が続いていた。 

 彼の頭上で、精強を誇るワイバーンロードが次々に爆ぜていった。

 

 目を凝らしてみても、どのような手段で攻撃されているのかさえ、全く分からなかった。

 

 

 漂流していたレクマイアは、その後、自分が攻撃するつもりだった船に救助された。

 彼の乗騎が浮力を保っていたため、溺死せずに済んだのである。

 

 ボートに引き上げられた彼は、敵の兵士が奇妙な仕草をしていることに気付いた。

 兵士は彼の相棒だったワイバーンに向かって、何やら呟きながら、合わせた三本の指で自分の額、胸、右肩、左肩の順に触れていた。

 

「何をしているのだ?」

 彼は兵士に問いかけた。

 

「このワイバーンは、最後まであなたに忠実だったのでしょう。

 永遠の記憶を」

 

 イルメリア人を蛮族と見下していたレクマイアは、亡き相棒のために祈る彼らに、強い関心を抱いた。

 

 

 

 ワイバーン隊との戦闘後、ユリアは何やら思い出して不機嫌になっていた。

 こんなときのユリアに捉まると碌なことはない、そう思ったのか、周囲の兵士は目を合わせないように努めていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 と、ついに不運な士官が捉まった

「そこの准海尉(少尉)さん、あの立体映像を作ったのはどなたかご存じありません?」

 

「‥り‥立体映像‥?」

 もちろん彼は立体映像と何ら関係ないのだが、至近距離に迫られて、しどろもどろであった。

 今回の作戦で使用した立体映像がどうしたというのか?

 

「やり直しを要求致しますわ!

 わたくしの内臓は、もっと綺麗ですわ!」

 何を言い出すかと思えば、やはりどうでもよい事であった。

 

 

 ユリアはふと思い出した。

「そういえば、あのローマ軍団兵はよくできておりましたわね。本物かと見間違うばかりの迫力でしたわ」

 

 准海尉は首を傾げた。

「ローマ軍団兵、ですか?そんな映像は見なかったような気がしますが‥」

 

 艦内の誰に聞いても、ローマ兵を見た者はいなかった。

 

 

(‥まあ、よく判りませんわね)

 

 ユリアは、よく判らないことは考えないことにした。




・コンタキオン
 NDI Kontakion (Navis despóti Irmeriae Kontakion)
 イルメリア皇女の軍艦コンタキオン。
 帆船を思わせる二本マストと、舷側に並んだ艦砲が特徴。
 船体には白地に金のラインが入った、非常に目立つ船である。
 見た目は古臭いが、イルメリアの技術力を注ぎ込んだ機密の塊である。
 ‥であるが、港が凍る冬季には、発電所代わりにされている。
・防護巡洋艦/ロイヤルヨット/臨時発電所
・基準排水量:5,500t
・満載排水量:6,550t
・全長:115m
・全幅:18m
・速力:公称25kt、最大40kt(30kt巡航可能)
・乗員:55名
・装甲:複合装甲
・武装:電磁投射砲×2、凝集光砲×6、対空光砲×2、25mm実体弾CIWS×2、他
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