パーパルディア皇国軍は、王都ル・ブリアスの占領後、アルタラス島内陸に兵を進めていた。
各地の諸侯は守備隊を中心に激しい抵抗を行ったが、剣と弓ではマスケット兵や砲兵、地竜には抗えなかった。
また、空においても、パーパルディア皇国が誇るワイバーンロードに対抗する術はなかった。
他の都市が次々と陥落する中、最後に残ったのは、世界有数の魔石鉱山を抱えるシルウトラス。
だが、王都から最も離れたこの都市も風前の灯火であった。
中央暦1639年12月
旧アルタラス王国 鉱山都市シルウトラス
ル・ブリアス陥落後、シルウトラスに辿り着いたルミエス王女は、この地を仮の王都として領土奪還の機会を伺っていた。
ルミエスは軍の指揮など執ったことはなかったが、逃避行に付き従った第1騎士団長のライアルと、専属護衛を務める騎士リルセイドが、彼女の代わりを務めていた。
しかし、パーパルディア皇国との戦力差はやはり大きかった。
当初は魔石を利用した炸裂弾である"風神の矢"を用いて攻勢を跳ね返せてはいたが、それも最早尽きようとしていた。
ルミエスはリルセイドを伴って、都市を囲む城壁に立っていた。
南国アルタラスといえど12月である。
城壁に吹き付ける風は冷たく、気持ちまでも冷え込むように感じた。
(そのように思うのは状況ゆえでしょうか‥)
戦況は芳しくない。
幸い、雨の多い冬季に差し掛かり敵は兵を引いているが、二度に亘る戦いで少なくない守備兵が斃れ、堅牢だった城壁は、砲撃によって破損が目立つようになっていた。
ルミエスの立つ城壁に、急ぎ駆け寄る者があった。
シルウトラス守備隊の兵士である。
「何事か、無礼であるぞ!?」
主人に駆け寄る騎士の行く手をリルセイドが遮る。
「良い、リルセイド。ここは王宮ではないのですよ」
ルミエスは彼女を下がらせ、何事かと尋ねた。
「それが、王女殿下、火急の知らせに御座います」
「・・またパーパルディアの攻勢でしょうか?」
「いえ、殿下、イルメリアを名乗る者から魔信が入っております」
3日後。
シルウトラスの郊外の平原に、守備隊の兵士が集まっていた。
その一人が東の空を指して声を上げた。
「何か見える、あれじゃないか?」
東の空に見えた影が徐々に大きさを増す。
そしてそれが高度を落として近いてくると、皆が一様に驚く。
「翼の生えた船!?」
「あんなものが空を飛ぶというのか!?」
多くの兵が見守る中、巨大な翼が、猛烈な砂塵を巻き上げて舞い降りた。
強靭な緩衝装置付きの堅牢な降着脚と、長大な翼による揚力が成す不整地着陸。
その全長は45メートル、全幅に至っては67メートル。
イルメリアの大型輸送機、C-88ハイカラである。
イルメリアからの魔信は、アルタラス王国への物資援助の申し出であった。
大量の保存食に、セメントを中心とした建築資材。
倉庫から引っ張り出された、かつての主力歩兵銃、VKT6.5ミリライフル。
現行のVKT6.5ミリ分隊支援機関銃、タンペラ81ミリ迫撃砲、ヴェルクバーナM95回転式拳銃。
そして、その指導に当たる、歩兵と工兵の混成中隊200人。
彼らの指導によって、シルウトラスに残る守備兵は、近代的な軽歩兵に生まれ変わろうとしていた。
ルミエスは、物見からその様子を眺めていた。
(春になれば援軍も来る。シルウトラスの灯は、まだ消えない・・)