今回から、AIでの推敲を入れています。
GPTは、とても優秀な編集者ですね。
海嘯
中央暦一六三九年、十二月。
日本国とトーパ王国、そしてイルメリアとのあいだに国交が結ばれて、半年が過ぎていた。
振り返れば、この年は穏やかさとは縁遠い一年であった。
グラ・バルガス帝国による列強レイフォル占領。
フェン王国、アルタラス王国で相次いだ騒乱。
世界は、あたかも長く溜め込んだ鬱屈を吐き出すかのように、軋みながら動いていた。
しかし、喧騒の中心であったフィルアデス大陸から遠く離れた北方――
トーパとイルメリアの国境地帯だけは、その動乱から取り残されたかのように、比較的平穏な時を過ごしていた。
散発的に小規模な魔物の侵攻はあったが、いずれも深刻なものではない。
人々はそれを「北方には付き物の厄介事」として受け流し、日々の暮らしを続けていた。
この間、両国のあいだでは、五国連盟とは別に、二国間同盟が結ばれている。
それは単なる軍事協定ではなく、いかなる場合においても、相互の領内では自国民と同様に扱う――
言葉にすれば簡単だが、国家というものの根幹に踏み込む、重い約束であった。
通称、ラテン同盟。
名付けたのはイルメリア側である。
古きローマの精神になぞらえ、「約束を守ることそのものを誇りとする盟約」という意味が込められていた。
北方の十二月。
この時期、平均気温は氷点下五度を下回る。
冬至を前に、日は短くなり、朝は遅く、午後三時を過ぎれば、空はもう夕暮れの色を帯び始める。
日本国との交易によって、トーパ王国の人々は、ようやく薪の不足から解放されつつあった。
凍える夜に、炎を惜しまず囲めるというだけで、暮らしは見違えるほど穏やかになる。
一方、イルメリアでは、この世界に来て初めて迎える降誕祭の準備が進められていた。
家々の窓辺に灯りがともされ、街路の木々や建物は、慎ましくも温かな飾りで彩られていく。
異郷の空の下で祝う祭りは、彼らにとって故郷を思い出す、静かな祈りの時間でもあった。
そんな穏やかな冬の日々のなかで、人々の口に、ある噂が上り始める。
曰く、
漁に出ても、網にかかる魚が、目に見えて減ったという。
曰く、
子どもたちが、夜ごと悪夢にうなされるようになったという。
曰く、
北の空から、鳥の大群が、まるで何かに追われるかのように南へ飛び去ったという。
古来、大きな災いの前には、必ずと言っていいほど、こうした兆しが現れると語られてきた。
それが本当に起きた出来事なのか、あるいは後になって誰かが言い添えた話なのか。
当事者でない我々には、知る術はない。
ただ、人々が不安を覚え始めていたことだけは、確かである。
十二月十五日。
トーパ王国北東部――世界の扉。
トーパ王国の北端と、その先の地峡を隔てる巨大な城壁。
グラメウス大陸に跋扈する凶暴な魔物の侵入を防ぐため、幾世代にもわたって築き上げられたその壁は、畏敬とともに、こう呼ばれていた。
――世界の扉。
この要衝を守るのは、トーパ王国の兵五百名と、イルメリアから派遣された陸兵中隊百五十名。
国も文化も異なる者たちが、今は同じ壁の上に立ち、同じ北風を受けていた。
朝十時。
霜に覆われた白い草原を、ようやく朝日が暖め始めたころ。
地峡の向こう、グラメウス側の彼方が、かすかに揺らいで見えた。
最初は、風にあおられた霜が舞っているのだろうと思われた。
「……あと十日で、降誕祭か」
中隊を預かるライッコラ少佐は、白一色の光景を見渡しながら、独り言のように呟いた。
その声は、冷たい空気に吸い込まれて消える。
――その時だった。
「中隊長、緊急報告です!」
耳元のインカムが、鋭く鳴った。
地峡部を監視していた無人偵察車との通信が、突如途絶えたという。
そして、端末に送られてきた最後の映像。
そこに映っていたのは、
擦り切れた鎧、錆びた槍。
そして、醜悪な緑色の小人たちが、地平線を埋め尽くして進軍する姿だった。
それは、もはや「軍勢」と呼ぶよりも、
押し寄せる濁流――海嘯、津波と形容するほかなかった。
(……ゴブリン、か)
ライッコラは、短く息を吐いた。
躊躇はなかった。
即座にトーパ守備隊長へ連絡を入れ、迎撃態勢を指示する。
同時に、両軍の司令部へ、簡潔かつ正確な報告が送られた。
世界の扉に、冬が来た。