領都マリポリ東部、軍管区。
凍結した幹線道路の一部が、簡易滑走路として使用されていた。
除雪は最低限。舗装の継ぎ目が白く浮き、雪煙が舞う。
冷たい海を思わせるペイルブルーの機体が、
車線いっぱいに広がる即席滑走路に並んでいた。
FA-4R ハウッカ。
かつてA-4 スカイホークと呼ばれた機体である。
再設計と電磁流体制御エンジンへの換装が行われており、
搭載量以外は一線級とまで言われていた。
第201飛行隊。
各小隊、二機編成。
エンジンが唸りを上げ、
アンモニア混合燃料特有の低く乾いた振動が、機体を震わせた。
「——アルファ小隊、発進する」
先頭が加速した。
短距離離陸仕様の主翼が揚力を掴み、白い空に滑り上がった。
続けて、二番機。
間を置いて、小隊ごとに次々と飛び立っていった。
最後の小隊が、白い空に溶けていった。
その余韻が消えないうちに、
滑走路の奥で、別種の存在が動き出した。
大型輸送機C-88 ハイカラ。
胴体は太く、短い。
ペイロードは、約二百トン。
長大な主翼は、低速での揚力を最優先した設計がなされ、
下がった翼端は、まるで地面を抱え込むような形をしていた。
太い固定脚に組み込まれた回転式ローターが、
氷結路面での加速と制動を補助するため、低い唸りを上げて回転していた。
「——ハイカラ一番機、離陸許可」
無線が告げた。
エンジン出力が上がる。
重く、低く、地面を押し潰すような振動が、滑走路全体に伝わる。
ローター付き降着装置が回転数を上げ、
機体はゆっくりと、だが確実に動き始めた。
加速は鈍い。
だが、止まらない。
氷の上を滑るのではなく、
噛みしめるように前進する。
速度が上がっても、機体は浮かない。
ハイカラの飛翔は重い。
滑走路の終端が近づいた。
誰かが、無意識に拳を握った。
その瞬間、
長大な主翼が、ゆっくりと空気を掴んだ。
荷重が抜け、ローターの回転音が変わった。
機体は、持ち上がるのではなく、離れる。
道路から、数メートル。
そのまま、低空を這うように進み、
やがて高度を得ていく。
二番機、三番機が続く。
白い大地の上を、
重たい影が、ゆっくりと遠ざかっていった。
ハウッカが時間を稼ぐ刃なら、
ハイカラは戦線を支える質量だった。
彼らは、速さと重さを、使い分ける術を知っていた。
第201飛行隊は地形に沿って、低空を飛んだ。
城壁から後退する地上部隊の上空を越え、
追撃してくる敵集団の先頭に向けて、攻撃が行われた。
無誘導の通常爆弾。
だが、集団行動を前提とした敵には十分効果的だった。
爆風と破片が、敵の前進を削いだ。
大型のオークやオーガが倒れ、隊列が乱れた。
「第一波、作戦終了」
離脱。
次の小隊が、別角度から侵入する。
敵を叩くのではなく、遅らせる。
それが彼らの任務だった。
地上では、イルメリアと友軍の歩兵が、
航空支援を利用して後退を続けていた。
要所要所で敵を引き留め、小競り合いを演じる。
準備が整うまでの、遅滞戦術であった。
目標は、二〇キロ後方。
そこには、6機のハイカラが運び込んだ部隊が、野戦陣地を構築しているはずだった。
掘り下げ途中の塹壕。
未完成の火点。
どこまで整うかは、誰にも分らない。
それでも、近代的な陣地は、城壁よりも遥かに頼れる場所だった。